42 / 42
42
しおりを挟む
「さあ全てを終わりに致しましょう。エセル様、今楽にさせて差し上げましてよ」
そうして私は左手に雷神の剣を顕現させる。
それを見たエセル様はとても恍惚とした笑みで以って私と剣を見つめておられます。
「ああ、早……くっ、一刻も早くそれを私の愛する貴女の手で以ってこの心臓を貫いて欲しい」
「はあ? 一体何を馬鹿な事を言っているのエセル!! 衛兵っ、衛兵はいないの!! ここに乱心者がいるわ!!」
ふ、それを一糸纏わぬ姿の貴女が言いますか。
一体どの口で、そして何故その様な事が仰られるのでしょう。
「一突きで貫いて差し上げますわ。私の愛するエセル様、もう貴方を苦しませはしません。そしてこれより先は何時も私と一緒でしてよ」
「ははは、真実ならばこれ程嬉しい事は……ない。わ、俺のこの身体は愛する貴女を裏切ってしまった。でも心はっ、心だけはエリザベス……永遠に愛しい貴女だけのもの――――っっ⁉」
私は貴方の望み通りに心の臓へ剣を一突き致しました。
同時に愛する貴方の為に私の魔力でこの世で与えられるだろう最期の痛みを取り除けば……。
「愛、して、いる……リズ。わた、しのゆい……い――――」
「嬉し、い……私もエセル様、貴方を誰よりも、永遠にお慕いしておりますわ」
こと切れ、徐々に身体が弛緩していくエセル様を抱き締めれば、私はこれでよかったのだと思い至りました。
ええ、エセル、貴方の死に顔はとても美しくまた幸せそうなのですもの。
「嘘、嘘嘘嘘裾嘘嘘よ――――っっ!! え、せる? 何故、どうしてっ、そんな女の何処がっっ!! この人殺しっ、化け物!!」
「――――煩い黙れ」
無詠唱のまま私はこの国の空一面に無数の、それこそ数え切れないサンダーソードを雨の様に降らせました。
貴族も平民も関係なく、件の両公爵邸もしっかりと攻撃対象に入っておれば当然の事ながらこの王宮もです。
私の刃を避け切れる者がいるとすれば、それは本当に心根の真っ直ぐな者しかおりません。
故にたった今この国は滅びを迎えるのです。
何故なら私のサンダーバードは別名審判の刃と申しまして自分で言うのも妙なものですが、これこそ我が公爵家の血脈を恐れる支配者達が畏怖すべきもの。
そうこれこそ一度放たれれば執行者である私が死した後のこの大地……最早永遠に国としては成り立ちませんものね。
最初は穢れのない心を持った者達でこの地はゆっくりと形成されるでしょう。
ですが少しでも邪心を抱けばサンダーソードはその度に雨……いえ嵐の様にこの地へと降り注ぐのです。
永遠に……。
ですがもう私にはどうでもよい事。
それよりも今は最期の時間を貴方と――――。
私は魔法でボロボロとなった寝台を整えればやはり魔法でエセル、愛しい貴方を静かに横たえさせました。
本当に安らかな、少し幼さが垣間見られる死に顔です。
部屋の隅には先程迄散々喚いていただろうキャサリン様が幾つもの剣に貫かれれば既に絶命しております。
サンダーソードは業の深き者にはそれなりの数で貫くのです。
パチン
指を軽く鳴らせば床?
いいえこの城を覆いつくす様に地中より極太の茨がフルスピードですっぽりと囲む様に生い茂り始めます。
そう、私の愛しい貴方を晒しものにはしたくありませんもの。
これは私の唯一の我儘なのです。
愛する貴方を永遠に私のものとする為の……。
「御機嫌ようそしてさようなら……かしら」
私は完璧且つ優雅なカーテシーを愛する貴方へと捧げれば、私は前へとゆっくり歩を進めます。
これより私の向かう先はバルコニー。
私の作り出したサンダーソードでは己が身を貫く事は出来ません。
また私の血で美しい貴方を穢す事はしたくないのです。
だから……私は手摺の向こう側へと踊るように身を投げ出しました。
きっと地上へ着くまでに私の茨達によって我が身は貫き引き裂かれるでしょう。
多少痛みはありますがそれでも、この先で貴方と再び出逢えますもの。
だから私にはこの痛みこそが甘美なものとなる。
Fin
何時も拙作を読んで下さり有難う御座います。
これで完結です。
切ない恋人達の様子が少しでも伝われば……と思います。
折を見て咲弥のその後なりとも書ければ……と思います。
母を亡くしもう直ぐ49日になります。
色々元気な頃は葛藤もありましたが、出血を伴う脳炎からの認知症となりあっと言う間に寝たきりの要介護5となって、介護生活満二年を前にしてあっと言う間に亡くなり、本当に今母ロスですよ。
元気な頃は一杯喧嘩もしたのにね。
親孝行も出来ないまま、駆け抜けるように亡くなった母へ私は親不孝な娘だと猛省しております。
そんな暗い気持ちのままで描いた作品なので、ダーク感がねぇ……と。
もう少しすれば明るい作品が書けるように、また皆様に読んで頂けるものを書いていきたいと思います。
どうかこれからも宜しくお願い致します。
Hinaki
そうして私は左手に雷神の剣を顕現させる。
それを見たエセル様はとても恍惚とした笑みで以って私と剣を見つめておられます。
「ああ、早……くっ、一刻も早くそれを私の愛する貴女の手で以ってこの心臓を貫いて欲しい」
「はあ? 一体何を馬鹿な事を言っているのエセル!! 衛兵っ、衛兵はいないの!! ここに乱心者がいるわ!!」
ふ、それを一糸纏わぬ姿の貴女が言いますか。
一体どの口で、そして何故その様な事が仰られるのでしょう。
「一突きで貫いて差し上げますわ。私の愛するエセル様、もう貴方を苦しませはしません。そしてこれより先は何時も私と一緒でしてよ」
「ははは、真実ならばこれ程嬉しい事は……ない。わ、俺のこの身体は愛する貴女を裏切ってしまった。でも心はっ、心だけはエリザベス……永遠に愛しい貴女だけのもの――――っっ⁉」
私は貴方の望み通りに心の臓へ剣を一突き致しました。
同時に愛する貴方の為に私の魔力でこの世で与えられるだろう最期の痛みを取り除けば……。
「愛、して、いる……リズ。わた、しのゆい……い――――」
「嬉し、い……私もエセル様、貴方を誰よりも、永遠にお慕いしておりますわ」
こと切れ、徐々に身体が弛緩していくエセル様を抱き締めれば、私はこれでよかったのだと思い至りました。
ええ、エセル、貴方の死に顔はとても美しくまた幸せそうなのですもの。
「嘘、嘘嘘嘘裾嘘嘘よ――――っっ!! え、せる? 何故、どうしてっ、そんな女の何処がっっ!! この人殺しっ、化け物!!」
「――――煩い黙れ」
無詠唱のまま私はこの国の空一面に無数の、それこそ数え切れないサンダーソードを雨の様に降らせました。
貴族も平民も関係なく、件の両公爵邸もしっかりと攻撃対象に入っておれば当然の事ながらこの王宮もです。
私の刃を避け切れる者がいるとすれば、それは本当に心根の真っ直ぐな者しかおりません。
故にたった今この国は滅びを迎えるのです。
何故なら私のサンダーバードは別名審判の刃と申しまして自分で言うのも妙なものですが、これこそ我が公爵家の血脈を恐れる支配者達が畏怖すべきもの。
そうこれこそ一度放たれれば執行者である私が死した後のこの大地……最早永遠に国としては成り立ちませんものね。
最初は穢れのない心を持った者達でこの地はゆっくりと形成されるでしょう。
ですが少しでも邪心を抱けばサンダーソードはその度に雨……いえ嵐の様にこの地へと降り注ぐのです。
永遠に……。
ですがもう私にはどうでもよい事。
それよりも今は最期の時間を貴方と――――。
私は魔法でボロボロとなった寝台を整えればやはり魔法でエセル、愛しい貴方を静かに横たえさせました。
本当に安らかな、少し幼さが垣間見られる死に顔です。
部屋の隅には先程迄散々喚いていただろうキャサリン様が幾つもの剣に貫かれれば既に絶命しております。
サンダーソードは業の深き者にはそれなりの数で貫くのです。
パチン
指を軽く鳴らせば床?
いいえこの城を覆いつくす様に地中より極太の茨がフルスピードですっぽりと囲む様に生い茂り始めます。
そう、私の愛しい貴方を晒しものにはしたくありませんもの。
これは私の唯一の我儘なのです。
愛する貴方を永遠に私のものとする為の……。
「御機嫌ようそしてさようなら……かしら」
私は完璧且つ優雅なカーテシーを愛する貴方へと捧げれば、私は前へとゆっくり歩を進めます。
これより私の向かう先はバルコニー。
私の作り出したサンダーソードでは己が身を貫く事は出来ません。
また私の血で美しい貴方を穢す事はしたくないのです。
だから……私は手摺の向こう側へと踊るように身を投げ出しました。
きっと地上へ着くまでに私の茨達によって我が身は貫き引き裂かれるでしょう。
多少痛みはありますがそれでも、この先で貴方と再び出逢えますもの。
だから私にはこの痛みこそが甘美なものとなる。
Fin
何時も拙作を読んで下さり有難う御座います。
これで完結です。
切ない恋人達の様子が少しでも伝われば……と思います。
折を見て咲弥のその後なりとも書ければ……と思います。
母を亡くしもう直ぐ49日になります。
色々元気な頃は葛藤もありましたが、出血を伴う脳炎からの認知症となりあっと言う間に寝たきりの要介護5となって、介護生活満二年を前にしてあっと言う間に亡くなり、本当に今母ロスですよ。
元気な頃は一杯喧嘩もしたのにね。
親孝行も出来ないまま、駆け抜けるように亡くなった母へ私は親不孝な娘だと猛省しております。
そんな暗い気持ちのままで描いた作品なので、ダーク感がねぇ……と。
もう少しすれば明るい作品が書けるように、また皆様に読んで頂けるものを書いていきたいと思います。
どうかこれからも宜しくお願い致します。
Hinaki
45
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました
あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。
自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。
その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる