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第零章 『精霊たちの憂鬱』
9 この管理者、いい性格してやがる
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「次は、ボーナスポイントを使って、技能才能と出自の設定だね」
パネルを操作し、ヴァーツラフは画面を切り替えた。
「持っているボーナスポイントは8。1ポイント消費すると一つ技能才能を取得でき、同じく1ポイント消費で出自のレベルを1つ上げられる。一般人のボーナスポイントは2から3が普通だから、君の持つ8ポイントは、破格だよ」
オレはパネルをのぞき込んだ。
残りボーナスポイント 8
技能才能:
なし
出自:E
「出自のレベルはEからAまであって、Eがスラム住人、Dが中、下流一般市民、Cが上流一般市民、Bが貴族などの支配層、Aは王族などの権威、権力の最上層に相当するよ。できればBまで上げることを勧めるけれど、悠太君次第だ」
スラムの孤児や下層市民に生まれて、貧乏暇なしなんて環境になっては、せっかくの高い才能を伸ばせないだろうし、人生を楽しむどころじゃない気がする。勧められたとおり、無難にBまで上げておこう。
「あぁ、そうだ。出自のレベルは、必ずしもその階層に生まれることを保証するものではない点に、注意してほしいな。出自自体はランダムで選ばれるんだ。出自レベルが高ければ高いほど、より高水準の家庭に生まれる確率が上がるっていうだけだよ」
おいおい、ここでもまた運試しか。せっかくポイントを消費して出自レベルを上げても、劣悪な環境に生まれる可能性があるってことか?
「なんだか、出自にポイントを振るのがもったいなく思えるぞ。せっかく振っても無駄になる可能性があるなら、その分技能才能を取ったほうがよくないか?」
「脅すようなことを言ったけれど、出自レベルどおりの階層に生まれないなんて事例はほとんどないから、遠慮なく振ってもらって大丈夫だよ。っていうか、まったく振らないと、ほんとに孤児で生まれることになるねぇ」
孤児はさすがにまずい。野垂れ死にの危険性が一気に高まる。安全を買うつもりで、やはりBまで上げておこう。
「さて、残り5ポイントだから、五個の技能才能を取れるね。一般人は技能才能まったくなしが普通だから、五個も取得すれば天才扱いされるだろうねぇ」
オレは技能才能一覧を眺め、じっくり吟味をしたうえで、五つ選んだ。
残りボーナスポイント 0
技能才能:
神童(十二歳まであらゆるステータスの成長に上昇補正がかかる)
ステータス表示(他者のステータスを確認できる――ただし現在値のみ)
読解(難解な書籍の内容理解を深める)
健啖(毒が含まれない限りたいていのものをおいしく食べられるようになる)
ショートスリーパー(睡眠時間が四時間を切っても疲労が残りにくくなる)
『神童』は、大人になれば無意味になるけれど、子供時代の経験がものすごく重要っぽいし、取って損はないと思う。
ヴァーツラフによると、『新・精霊たちの憂鬱』ではステータスの確認ができないというので、『ステータス表示』の才能も取った。才能限界値や技能才能はわからないようだけれども、現在値を知れるだけでも相手の能力を想像できるから、かなり有益だろう。
将来、精霊使いの第一人者として研究の方面へ進む可能性もあるし、小難しい本にも慣れ親しめるようにと読解も取った。
残りは、冒険者として生きる場合に役立つだろうものを選んだ。食べ物に困らないように『健啖』を、野営時の見張り番などに備え『ショートスリーパー』を取った。
「こんな感じかな」
ポイント振り分け後の画面をヴァーツラフに見せた。
「うん、まぁいいんじゃないかな。この赤子に、悠太君の記憶を乗せて、『新・精霊たちの憂鬱』の世界へと生れ落ちてもらうよ」
オレは頷いた。
「じゃ、確定だ」
ヴァーツラフはコントロールパネルをガラス柱の中へと戻した。すると、無色透明だったガラス柱がわずかに青く色づいた。
「これでこのガラス柱に、悠太君の転生体のデータが反映されたよ。どうやら君の固有色は青みたいだね。これから成長を重ねて、どんな色に変わっていくのか、楽しみにしているよ」
「このガラス柱の色に、何か意味はあるのか?」
「自分で作っておいてなんだけれど、実は、まったくわからない」
オレはずっこけた。
「キャラクターの思考や行動に合わせて、微妙に色合いを変えていくのはわかっているんだけれど、細かい理屈は不明なんだよねぇ。この色付きも、意図したものではなくて、偶然の産物なんだ」
わからないっていうのなら、これ以上追及しても無駄か。深くは考えないようにしておこう。
「最後に、君と同時期に生まれる全AIデータに、霊素保有の遺伝子情報を付加して、今回の介入は完結だ」
イントロンと呼ばれるDNA中の遺伝情報を持たない部分に、新たに組み込むらしい。
「悠太君の記憶情報も、同様に組み込んである。ただし、記憶がコードされている領域は、生まれた直後は非アクティブ状態になっているよ。十二歳を迎えた時に、脳に特殊なホルモンが分泌されるようになり、非アクティブになっている記憶領域がアクティブ化されるんだ。アクティブ化されれば、すぐにでも記憶がよみがえるはずだよ」
「え? じゃあ子供時代は、今のオレの記憶がないってことか?」
ヴァーツラフは頷いた。
導かれる結果は――前世知識を用いたチート育成ができないってことだ。せっかく高効率育成ができる幼少期なのに、なんともったいない。
「悠太君には、できる限りあの世界での一般人たちと、違和感なくまじりあえるようにしてもらいたくてね。多感な時期は、完全に現地人として生きてもらう」
なんでまた、こう余計な制限をかけるかね、こいつは……。オレは呆れた。
「十二歳までの人格と、よみがえった悠太君の人格とは、うまくまじりあうようになっているから安心してほしい。二重人格になったりはしないはずさ。まじりあうことで、幼少時を過ごした記憶も、今の悠太君の記憶と完全に同一化する。つまり、悠太君の人格自身が幼少時代を過ごしてきたと変わらなくなるんだ」
と言いながらも、二重人格になったりしそうだよなぁ。いまいち信用しきれない。
かといって、オレがこれ以上ああだこうだと言ったところで、結局はなるようにしかならないだろう。一生をシミュレートするという点も、幼少時の記憶が、オレ自身の記憶として違和感なくまじりあうっていう話を信じるならば、問題はないのだろう。
「これでキャラクターメイクは終わり。あとは君を転生させるだけなんだけれど、何か最後に言いたいことはあるかな? 転生してしまえば、ゲームプレイ中はもう二度と、悠太君とボクが直接話をする機会はないよ。世界への直接介入ができないからね」
今までのやり取りでいろいろと文句もあるけれど、もう一つの人生を送る機会をくれただけでも、そんな不平不満を吹き飛ばすほどの恩だ。感謝こそすれ、非難をする筋合いもない。
なら、一つだけ、現実世界に関して気になる点があったので、最後に聞いておこう。
「病室から『精霊たちの憂鬱』にログインしようとして、いきなりここに引っ張られてきたんだけれど、リアルのオレって、今どんな状態なの? 約束どおり、君たちの組織できちんと面倒を見てくれてるの?」
昨晩、両親と主治医の許可は取ったものの、いつからテストプレイを開始するとか、そういった細かい話は一切していなかった。オレも、翌日いきなりこんな状況に引きずり込まれるとは、思ってもいなかったし。
「安心してほしい。もうわが社の対策班が君の病院へ向かっている。電話でも、君の両親と主治医の先生からの許可は取り付けてあるから、病院に到着し次第、ご両親と契約を結び、身体保護の処置に入るよ」
安心した。これで心置きなく第二の人生を楽しめる。
「じゃあ、ボクはこれからもう一人のテストプレイヤーに説明をしに行くよ。悠太君はこのまま、通常のログアウト処理をしてほしい。ログアウト完了後、君の記憶データがこのガラス柱の中に転送され、転生処理は完結する」
ヴァーツラフは最後にオレににっこりと微笑みかけ、「それじゃ、バイバイ」と呟きながら手を振った。次第に体が背景に溶け込んでいき、消えた。
見送ったオレは、言われたとおりにログアウト処理をした――。したんだが……。
「――ごめんごめん、言い忘れてた。実はあの世界、崩壊の危機に瀕しているんだ」
……おいっ。
薄れつつあったオレの意識は、ヴァーツラフの突然の声に、一気に覚醒した。
ログアウト処理をしているため、すでに身体感覚はなく、意識のみで反応する。
「『地核エネルギー』って知っているよね。なんかこう、たまりすぎちゃってブワッと溢れ出しそうなんだ。このまま余剰地核エネルギーを放置すると、天変地異でドッカーンさ」
……はぁ?
「本来、科学技術の進歩で、石炭や石油を通じてその余剰エネルギーを消費する予定だったんだ。でも、その科学技術がさっぱり発展しなかったからねぇ。行き場のないエネルギーが、出口を求めて火山の火口をツンツンってしているところ」
なんだか、頭が痛い……。
「で、手っ取り早い代替手段として、精霊術を導入しようと考えたんだ。文明発展の起爆剤って理由ももちろんあるんだけれど、実はこの余剰エネルギーを消費させようって理由のほうが、大きかったりして」
あーあー、聞こえない聞こえない。
「悠太君たちが適切に精霊術を広め、行使してくれないと、たぶんあと四十年で世界は滅びるよ」
こいつ、人が反論できないのをいいことに、最後にとんだ爆弾を放り込んできたな。
ただ、一つ疑問があるぞ。精霊術と余剰地核エネルギーの消費と、何の関係があるんだ? 『精霊王』はその地核エネルギーを元に、精霊具現化を行っていたみたいだけれど、オレたち人間の精霊使いは、あくまで自分自身の霊素しか消費していないはずだ。
「それにね、悠太君は一つ、霊素に関して勘違いをしている」
……む、聞き捨てならないな。
「複数属性を同時に使えば使うほど、霊素効率が良くなるって思っているでしょ? それ、間違いだから」
なん、だと……。
「君の認識とは真逆で、霊素効率はどんどん落ち、膨大な霊素の消費が必要になるんだ。それも、同時行使した数が多ければ多いほど、指数関数的に消費量は増大する。その時、術者本人の不足する霊素を、余剰地核エネルギーから吸収して肩代わりさせているのが実態さ」
なんだそれ、そんな設定、プレイヤーの誰も知らないぞ。今までさんざん四属性同時展開なんてやっていたけれど、全部自分の霊素で賄っているものと思っていた。
まぁ確かに、利便性の割に、妙に霊素の消費コストが少ないなとは思っていたんだよな。同時行使をすればするほど、霊素の消費効率も劇的によくなっていくし。
実際は、コストが低いんじゃなくて、本人の不足する霊素分を、星の余剰地核エネルギーから引っ張ってきて、代替としていただけとはねぇ。
「だからね、四属性同時行使を当たり前のように使ってきた悠太君には、向こうの世界でもガンガン使ってもらって、余剰地核エネルギーを消費しまくってほしい。これはできればだけれど、精霊使いを極めてもらって、五属性同時行使を目指してもらいたいっていうのがボクの希望かな。ぜひとも世界を救うために頑張ってもらいたい!」
ハイハイ、ガンバリマスヨー
もう、投げやりだ。
「悠太君! 世界の命運は、君の双肩にかかっているんだ!」
ログアウトで遠のくオレの意識に、ヴァーツラフの不愉快な声がこだました。
パネルを操作し、ヴァーツラフは画面を切り替えた。
「持っているボーナスポイントは8。1ポイント消費すると一つ技能才能を取得でき、同じく1ポイント消費で出自のレベルを1つ上げられる。一般人のボーナスポイントは2から3が普通だから、君の持つ8ポイントは、破格だよ」
オレはパネルをのぞき込んだ。
残りボーナスポイント 8
技能才能:
なし
出自:E
「出自のレベルはEからAまであって、Eがスラム住人、Dが中、下流一般市民、Cが上流一般市民、Bが貴族などの支配層、Aは王族などの権威、権力の最上層に相当するよ。できればBまで上げることを勧めるけれど、悠太君次第だ」
スラムの孤児や下層市民に生まれて、貧乏暇なしなんて環境になっては、せっかくの高い才能を伸ばせないだろうし、人生を楽しむどころじゃない気がする。勧められたとおり、無難にBまで上げておこう。
「あぁ、そうだ。出自のレベルは、必ずしもその階層に生まれることを保証するものではない点に、注意してほしいな。出自自体はランダムで選ばれるんだ。出自レベルが高ければ高いほど、より高水準の家庭に生まれる確率が上がるっていうだけだよ」
おいおい、ここでもまた運試しか。せっかくポイントを消費して出自レベルを上げても、劣悪な環境に生まれる可能性があるってことか?
「なんだか、出自にポイントを振るのがもったいなく思えるぞ。せっかく振っても無駄になる可能性があるなら、その分技能才能を取ったほうがよくないか?」
「脅すようなことを言ったけれど、出自レベルどおりの階層に生まれないなんて事例はほとんどないから、遠慮なく振ってもらって大丈夫だよ。っていうか、まったく振らないと、ほんとに孤児で生まれることになるねぇ」
孤児はさすがにまずい。野垂れ死にの危険性が一気に高まる。安全を買うつもりで、やはりBまで上げておこう。
「さて、残り5ポイントだから、五個の技能才能を取れるね。一般人は技能才能まったくなしが普通だから、五個も取得すれば天才扱いされるだろうねぇ」
オレは技能才能一覧を眺め、じっくり吟味をしたうえで、五つ選んだ。
残りボーナスポイント 0
技能才能:
神童(十二歳まであらゆるステータスの成長に上昇補正がかかる)
ステータス表示(他者のステータスを確認できる――ただし現在値のみ)
読解(難解な書籍の内容理解を深める)
健啖(毒が含まれない限りたいていのものをおいしく食べられるようになる)
ショートスリーパー(睡眠時間が四時間を切っても疲労が残りにくくなる)
『神童』は、大人になれば無意味になるけれど、子供時代の経験がものすごく重要っぽいし、取って損はないと思う。
ヴァーツラフによると、『新・精霊たちの憂鬱』ではステータスの確認ができないというので、『ステータス表示』の才能も取った。才能限界値や技能才能はわからないようだけれども、現在値を知れるだけでも相手の能力を想像できるから、かなり有益だろう。
将来、精霊使いの第一人者として研究の方面へ進む可能性もあるし、小難しい本にも慣れ親しめるようにと読解も取った。
残りは、冒険者として生きる場合に役立つだろうものを選んだ。食べ物に困らないように『健啖』を、野営時の見張り番などに備え『ショートスリーパー』を取った。
「こんな感じかな」
ポイント振り分け後の画面をヴァーツラフに見せた。
「うん、まぁいいんじゃないかな。この赤子に、悠太君の記憶を乗せて、『新・精霊たちの憂鬱』の世界へと生れ落ちてもらうよ」
オレは頷いた。
「じゃ、確定だ」
ヴァーツラフはコントロールパネルをガラス柱の中へと戻した。すると、無色透明だったガラス柱がわずかに青く色づいた。
「これでこのガラス柱に、悠太君の転生体のデータが反映されたよ。どうやら君の固有色は青みたいだね。これから成長を重ねて、どんな色に変わっていくのか、楽しみにしているよ」
「このガラス柱の色に、何か意味はあるのか?」
「自分で作っておいてなんだけれど、実は、まったくわからない」
オレはずっこけた。
「キャラクターの思考や行動に合わせて、微妙に色合いを変えていくのはわかっているんだけれど、細かい理屈は不明なんだよねぇ。この色付きも、意図したものではなくて、偶然の産物なんだ」
わからないっていうのなら、これ以上追及しても無駄か。深くは考えないようにしておこう。
「最後に、君と同時期に生まれる全AIデータに、霊素保有の遺伝子情報を付加して、今回の介入は完結だ」
イントロンと呼ばれるDNA中の遺伝情報を持たない部分に、新たに組み込むらしい。
「悠太君の記憶情報も、同様に組み込んである。ただし、記憶がコードされている領域は、生まれた直後は非アクティブ状態になっているよ。十二歳を迎えた時に、脳に特殊なホルモンが分泌されるようになり、非アクティブになっている記憶領域がアクティブ化されるんだ。アクティブ化されれば、すぐにでも記憶がよみがえるはずだよ」
「え? じゃあ子供時代は、今のオレの記憶がないってことか?」
ヴァーツラフは頷いた。
導かれる結果は――前世知識を用いたチート育成ができないってことだ。せっかく高効率育成ができる幼少期なのに、なんともったいない。
「悠太君には、できる限りあの世界での一般人たちと、違和感なくまじりあえるようにしてもらいたくてね。多感な時期は、完全に現地人として生きてもらう」
なんでまた、こう余計な制限をかけるかね、こいつは……。オレは呆れた。
「十二歳までの人格と、よみがえった悠太君の人格とは、うまくまじりあうようになっているから安心してほしい。二重人格になったりはしないはずさ。まじりあうことで、幼少時を過ごした記憶も、今の悠太君の記憶と完全に同一化する。つまり、悠太君の人格自身が幼少時代を過ごしてきたと変わらなくなるんだ」
と言いながらも、二重人格になったりしそうだよなぁ。いまいち信用しきれない。
かといって、オレがこれ以上ああだこうだと言ったところで、結局はなるようにしかならないだろう。一生をシミュレートするという点も、幼少時の記憶が、オレ自身の記憶として違和感なくまじりあうっていう話を信じるならば、問題はないのだろう。
「これでキャラクターメイクは終わり。あとは君を転生させるだけなんだけれど、何か最後に言いたいことはあるかな? 転生してしまえば、ゲームプレイ中はもう二度と、悠太君とボクが直接話をする機会はないよ。世界への直接介入ができないからね」
今までのやり取りでいろいろと文句もあるけれど、もう一つの人生を送る機会をくれただけでも、そんな不平不満を吹き飛ばすほどの恩だ。感謝こそすれ、非難をする筋合いもない。
なら、一つだけ、現実世界に関して気になる点があったので、最後に聞いておこう。
「病室から『精霊たちの憂鬱』にログインしようとして、いきなりここに引っ張られてきたんだけれど、リアルのオレって、今どんな状態なの? 約束どおり、君たちの組織できちんと面倒を見てくれてるの?」
昨晩、両親と主治医の許可は取ったものの、いつからテストプレイを開始するとか、そういった細かい話は一切していなかった。オレも、翌日いきなりこんな状況に引きずり込まれるとは、思ってもいなかったし。
「安心してほしい。もうわが社の対策班が君の病院へ向かっている。電話でも、君の両親と主治医の先生からの許可は取り付けてあるから、病院に到着し次第、ご両親と契約を結び、身体保護の処置に入るよ」
安心した。これで心置きなく第二の人生を楽しめる。
「じゃあ、ボクはこれからもう一人のテストプレイヤーに説明をしに行くよ。悠太君はこのまま、通常のログアウト処理をしてほしい。ログアウト完了後、君の記憶データがこのガラス柱の中に転送され、転生処理は完結する」
ヴァーツラフは最後にオレににっこりと微笑みかけ、「それじゃ、バイバイ」と呟きながら手を振った。次第に体が背景に溶け込んでいき、消えた。
見送ったオレは、言われたとおりにログアウト処理をした――。したんだが……。
「――ごめんごめん、言い忘れてた。実はあの世界、崩壊の危機に瀕しているんだ」
……おいっ。
薄れつつあったオレの意識は、ヴァーツラフの突然の声に、一気に覚醒した。
ログアウト処理をしているため、すでに身体感覚はなく、意識のみで反応する。
「『地核エネルギー』って知っているよね。なんかこう、たまりすぎちゃってブワッと溢れ出しそうなんだ。このまま余剰地核エネルギーを放置すると、天変地異でドッカーンさ」
……はぁ?
「本来、科学技術の進歩で、石炭や石油を通じてその余剰エネルギーを消費する予定だったんだ。でも、その科学技術がさっぱり発展しなかったからねぇ。行き場のないエネルギーが、出口を求めて火山の火口をツンツンってしているところ」
なんだか、頭が痛い……。
「で、手っ取り早い代替手段として、精霊術を導入しようと考えたんだ。文明発展の起爆剤って理由ももちろんあるんだけれど、実はこの余剰エネルギーを消費させようって理由のほうが、大きかったりして」
あーあー、聞こえない聞こえない。
「悠太君たちが適切に精霊術を広め、行使してくれないと、たぶんあと四十年で世界は滅びるよ」
こいつ、人が反論できないのをいいことに、最後にとんだ爆弾を放り込んできたな。
ただ、一つ疑問があるぞ。精霊術と余剰地核エネルギーの消費と、何の関係があるんだ? 『精霊王』はその地核エネルギーを元に、精霊具現化を行っていたみたいだけれど、オレたち人間の精霊使いは、あくまで自分自身の霊素しか消費していないはずだ。
「それにね、悠太君は一つ、霊素に関して勘違いをしている」
……む、聞き捨てならないな。
「複数属性を同時に使えば使うほど、霊素効率が良くなるって思っているでしょ? それ、間違いだから」
なん、だと……。
「君の認識とは真逆で、霊素効率はどんどん落ち、膨大な霊素の消費が必要になるんだ。それも、同時行使した数が多ければ多いほど、指数関数的に消費量は増大する。その時、術者本人の不足する霊素を、余剰地核エネルギーから吸収して肩代わりさせているのが実態さ」
なんだそれ、そんな設定、プレイヤーの誰も知らないぞ。今までさんざん四属性同時展開なんてやっていたけれど、全部自分の霊素で賄っているものと思っていた。
まぁ確かに、利便性の割に、妙に霊素の消費コストが少ないなとは思っていたんだよな。同時行使をすればするほど、霊素の消費効率も劇的によくなっていくし。
実際は、コストが低いんじゃなくて、本人の不足する霊素分を、星の余剰地核エネルギーから引っ張ってきて、代替としていただけとはねぇ。
「だからね、四属性同時行使を当たり前のように使ってきた悠太君には、向こうの世界でもガンガン使ってもらって、余剰地核エネルギーを消費しまくってほしい。これはできればだけれど、精霊使いを極めてもらって、五属性同時行使を目指してもらいたいっていうのがボクの希望かな。ぜひとも世界を救うために頑張ってもらいたい!」
ハイハイ、ガンバリマスヨー
もう、投げやりだ。
「悠太君! 世界の命運は、君の双肩にかかっているんだ!」
ログアウトで遠のくオレの意識に、ヴァーツラフの不愉快な声がこだました。
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