わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第五章 帝国の皇子

7 いずれ辺境伯へ鉄槌を

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 ラディムの自室――。

 ラディムは今日も朝からザハリアーシュによる講義を受けていた。

 昼を過ぎ、今は『フェイシア王国関係史』という、帝国とフェイシア王国との間の過去の歴史について学んでいる。

 今日の範囲である皇家と辺境伯家との関係についてを説明し終えたザハリアーシュは、お茶を飲みつつ一息ついていた。

「プリンツ辺境伯家は、私を失って跡継ぎはどうなったんだ?」

 講義を聞いて疑問に思ったラディムは、さっそくザハリアーシュに尋ねた。

 当主のカレルに世継ぎがいなかった以上、辺境伯家にとってはラディムを失った結果は致命的だったろう。王国としても、辺境伯家は国境警備の要の重臣だ。そのまま捨て置けるような問題ではなかったはずだ。

「何度かラディム殿下を返すように要請はありました。フェイシア国王を通じての要請もあったと聞いていますな。だが、陛下はすべてを突っぱねております。最後にはあきらめ、カレル・プリンツの弟フェルディナント・プリンツが辺境伯を継いだようですぞ」

 実父カレルには弟がいたらしい。だったら、なぜ早々にフェルディナントを跡継ぎにしなかったのだろうか。帝国と無理に事を構えるよりも、よほど話が早い気もする。

 ラディムはその点についてもザハリアーシュに尋ねた。

「その当時はまだフェルディナントが成人しておりませんでした。また、軍人として育てようとしていたため、領主としての教育をまったく施しておらず、辺境伯として跡を継がせることに躊躇したということです。それで、正当性を持つラディム殿下を是が非でも確保したかった、と。殿下が成長するまでは、王都から派遣される代官に領を任せるつもりだったようですな」

「別に、さっさとフェルディナントが継いで、経験を積むまでは王都からの代官に政務をとらせる形でもよかったんじゃないか?」

 ラディムは首をかしげた。代官を置けるのなら、フェルディナントに領主教育を施している間だけ、代官を置けば済む話にも思えた。やはり、ラディムに固執する必要性を感じられない。

「それが、ですね。王国法で健康な成人の跡継ぎが就爵する場合、代官は派遣されないらしいのです。あくまで未成年の領主のための後見人という位置づけらしいですな。フェルディナントに関しては、未成年とはいえ翌年には成人を迎える年齢でした。さすがに一年に満たない間に領主教育を施し、成人したらすぐに政務につけ、とは言えなかったのでしょうな。言葉は悪いですが、脳筋に育ててたわけですし」

 大口を開けて「ガッハッハ」と笑うザハリアーシュ。

 脳筋ということは、おそらくはずっと軍務に関することしか教えられてこなかったのだろう。確かに、いきなり書類仕事をやれと言われても、戸惑うに違いない。

「ふーん。ま、でも、フェルディナントが無事に跡を継いだ以上、もう辺境伯家は私の奪還に固執はしていないということだな?」

「おそらくは」

 ザハリアーシュは頷いた。

 ラディムは既に身も心も帝国の人間だ。バイアー帝国を離れて王国側に下れと言われても困る。ラディムはホッと安堵した。

「逆に、いまさら殿下が辺境伯家へ戻っても、いたずらに継承問題を引き起こすだけでしょう。むしろ、帰ってくるなと思っているのではないですかな?」

 ザハリアーシュはまた、「ガッハッハ」と大声で派手に笑っている。

「確かにそうだな。私自身も、そんな面倒くさいところに戻れと言われても、戻りたくはない」

 泥沼の継承争いだなんて、ラディムもごめんだった。

 それに、辺境伯領は王国の中でも精霊教が強い地域だ。しかも、あろうことか辺境伯家自身が積極的に精霊教に帰依している。とんでもない話だった。そのような場所に行けるはずがあろうか。母も異能の一種である精霊を激しく恨んでいる。あり得ない。まったくあり得ない話だ。

「陛下とも約束したのだ。ギーゼブレヒト家の一員として、平穏な帝都の姿をずっと護るのだ、と」

 テラスで交わしたベルナルドとの約束。帝国の守護者として、民の平穏を守り抜く。たとえ自らの血を流してでも……。

 民を護るため、帝国を護るため、そして、世界を護るためならば、たとえ血縁があろうとも、プリンツ辺境伯を討つことにためらいなどない。プリンツ辺境伯家が邪教たる精霊教を妄信している以上は、いずれ帝国の安寧のために排除しなけばならない時が来る。その時にプリンツ辺境伯へ鉄槌を下すのは、血縁者である自分の役目ではないだろうか、とラディムは思った。

「素晴らしいお心掛けでございますな、殿下」

 ザハリアーシュは大げさにうなずくと、ラディムの言葉に満足したのか破顔した。

「私はラディム・プリンツではない。ラディム・ギーゼブレヒトなのだ」

 ラディムは改めて、自身がギーゼブレヒト皇家の人間なのだと心に刻んだ。いずれ帝国の敵となることが必至のプリンツ辺境伯家の人間では、決してない。
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