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第七章 封じられた記憶
2 新たな役割を与えられた
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準成人の儀が終わるとテラスから引っ込み、すぐそばの控室に戻った。
緊張のために止まっていた汗も、再び滝のように流れ始めていた。肌に張り付く下着が不快感を増す。大声を張り上げたため、喉も少しヒリつく。
ラディムは傍机に置かれている水差しに手をやると、コップに冷水を注ぎ、一気に飲み干した。口いっぱいに広がる清涼感に、たかぶっていた気持ちもようやく落ち着いてきた。
「ラディムよ……。準成人を迎え、お前に新たな役割を与えることになる」
ベルナルドはラディムの顔を鋭く見据えた。
「心得ております、陛下」
ラディムは来た、と思った。
覚悟はしていたが、騎士団入団の件に違いなかった。ギーゼブレヒト男子の伝統。避けては通れない試練だった。
「最初は騎士団に入れて、軍務を覚えさせようとも思っていたのだが……」
珍しくベルナルドは言葉を濁した。なんだか話の流れがおかしい。
「騎士団入団ではない、と?」
ラディムは予想が外れ、心がざわめき立った。それではいったい、何をやらされることになるのだろう、と。
今までのギーゼブレヒトの準成人男子は、みな例外なく騎士団入団だった。前例がないのでラディムは全く想像がつかず、困惑の色を隠しきれなかった。
「お前はどうやらたぐいまれな『生命力』を持っていると聞く。であるならば、その能力を持って帝国に寄与すべきと、ザハリアーシュとも話し合って決めた」
「つまり、どういうことでしょうか?」
ラディムは首をひねった。
「成人までは、当面、魔術の研究に専念せよ。ただし、近々戦があるやもしれぬ。軍事にも役立ちそうな研究を優先してもらえると助かる」
思ってもいない指示だった。ラディムにとっては騎士団詰めよりもよほど理想的な展開だ。
身体能力的には騎士団でも十分に渡り合っていけるだけの能力を持っていると自負するラディムであったが、どちらかといえば頭脳労働のほうが好きであった。ザハリアーシュらの教育の成果もあり、ラディムは決して脳筋ではない。
軍事にも役立ちそうという条件は、マリエの作っていた毛糸の拘束玉のようなものを作ればよいだろう。マリエがフェイシア王国の王都へ旅立つまでに、いろいろと相談していいアイディアを出し合ってみよう、とラディムは思った。一人よりは二人で考えたほうが、きっと良い考えが浮かぶはずだ。
「研究はどちらで行えばよいのですか? 騎士団の詰所ですか? 世界再生教会ですか?」
ただ、マリエと一緒に研究するためには、世界再生教会での活動を許してもらわなければいけない。
「教会でいい。ザハリアーシュに聞いたが、毎週教会で魔術の研究をしているそうじゃないか。それを継続する形でいいぞ」
理想的な展開だった。今まで週一回のみだったマリエとの魔術談義を、これからは毎日、大手を振ってできる。これほどうれしい話はない。……だが、あとひと月でマリエが王都へ行ってしまう点が、大変に遺憾だったが。
「軍務にはつかなくてもよろしいのですか?」
ただ、皇族としていずれは前線の指揮官にならざるを得ない立場だった。まったく軍務の経験がないのもまずい。
ベルナルドがどのように思っているのかわからず、ラディムは戸惑いながら尋ねた。
「週一回休日に、騎士団の詰所で、基礎訓練と皇族として戦うための指揮の勉強はしてもらう。ただ、それ以外は基本、教会で魔術の研究に充ててくれ」
つまり、週末騎士団員という話だった。まったく軍務をやらないということではないようだ。
元々は、平日も休日も関係なしに騎士団の詰所で軍務につく、とラディムは覚悟をしていた。それが週にわずか一日だけで済むともなれば、もろ手を上げて喜びたくもなる。小躍りしたくなる衝動を、ラディムはぐっと抑えた。
「魔術の研究に専念できるのは、私にとっても歓迎すべきことです。謹んでお受けいたします」
ラディムは恭しく礼をする。……内心では、快哉を上げていた。
「うむ。鋭意研究に努めるように」
ベルナルドは最後にポンっと軽くラディムの頭を叩いた。
緊張のために止まっていた汗も、再び滝のように流れ始めていた。肌に張り付く下着が不快感を増す。大声を張り上げたため、喉も少しヒリつく。
ラディムは傍机に置かれている水差しに手をやると、コップに冷水を注ぎ、一気に飲み干した。口いっぱいに広がる清涼感に、たかぶっていた気持ちもようやく落ち着いてきた。
「ラディムよ……。準成人を迎え、お前に新たな役割を与えることになる」
ベルナルドはラディムの顔を鋭く見据えた。
「心得ております、陛下」
ラディムは来た、と思った。
覚悟はしていたが、騎士団入団の件に違いなかった。ギーゼブレヒト男子の伝統。避けては通れない試練だった。
「最初は騎士団に入れて、軍務を覚えさせようとも思っていたのだが……」
珍しくベルナルドは言葉を濁した。なんだか話の流れがおかしい。
「騎士団入団ではない、と?」
ラディムは予想が外れ、心がざわめき立った。それではいったい、何をやらされることになるのだろう、と。
今までのギーゼブレヒトの準成人男子は、みな例外なく騎士団入団だった。前例がないのでラディムは全く想像がつかず、困惑の色を隠しきれなかった。
「お前はどうやらたぐいまれな『生命力』を持っていると聞く。であるならば、その能力を持って帝国に寄与すべきと、ザハリアーシュとも話し合って決めた」
「つまり、どういうことでしょうか?」
ラディムは首をひねった。
「成人までは、当面、魔術の研究に専念せよ。ただし、近々戦があるやもしれぬ。軍事にも役立ちそうな研究を優先してもらえると助かる」
思ってもいない指示だった。ラディムにとっては騎士団詰めよりもよほど理想的な展開だ。
身体能力的には騎士団でも十分に渡り合っていけるだけの能力を持っていると自負するラディムであったが、どちらかといえば頭脳労働のほうが好きであった。ザハリアーシュらの教育の成果もあり、ラディムは決して脳筋ではない。
軍事にも役立ちそうという条件は、マリエの作っていた毛糸の拘束玉のようなものを作ればよいだろう。マリエがフェイシア王国の王都へ旅立つまでに、いろいろと相談していいアイディアを出し合ってみよう、とラディムは思った。一人よりは二人で考えたほうが、きっと良い考えが浮かぶはずだ。
「研究はどちらで行えばよいのですか? 騎士団の詰所ですか? 世界再生教会ですか?」
ただ、マリエと一緒に研究するためには、世界再生教会での活動を許してもらわなければいけない。
「教会でいい。ザハリアーシュに聞いたが、毎週教会で魔術の研究をしているそうじゃないか。それを継続する形でいいぞ」
理想的な展開だった。今まで週一回のみだったマリエとの魔術談義を、これからは毎日、大手を振ってできる。これほどうれしい話はない。……だが、あとひと月でマリエが王都へ行ってしまう点が、大変に遺憾だったが。
「軍務にはつかなくてもよろしいのですか?」
ただ、皇族としていずれは前線の指揮官にならざるを得ない立場だった。まったく軍務の経験がないのもまずい。
ベルナルドがどのように思っているのかわからず、ラディムは戸惑いながら尋ねた。
「週一回休日に、騎士団の詰所で、基礎訓練と皇族として戦うための指揮の勉強はしてもらう。ただ、それ以外は基本、教会で魔術の研究に充ててくれ」
つまり、週末騎士団員という話だった。まったく軍務をやらないということではないようだ。
元々は、平日も休日も関係なしに騎士団の詰所で軍務につく、とラディムは覚悟をしていた。それが週にわずか一日だけで済むともなれば、もろ手を上げて喜びたくもなる。小躍りしたくなる衝動を、ラディムはぐっと抑えた。
「魔術の研究に専念できるのは、私にとっても歓迎すべきことです。謹んでお受けいたします」
ラディムは恭しく礼をする。……内心では、快哉を上げていた。
「うむ。鋭意研究に努めるように」
ベルナルドは最後にポンっと軽くラディムの頭を叩いた。
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