わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第七章 封じられた記憶

9 薬を飲んで頭がすっきりした

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 その夜、自室のベッドにもぐりこんだラディムは、意識の中の優里菜を呼んだ。

「優里菜、母上の態度、どう見た?」

(取り付く島もなかったねー。確かにあの様子じゃ、精霊の話題は絶対に出せない)

 優里菜は、「あれじゃ、どうにもならないね」とつぶやいた。

「父上の話題も、結局は何もわからずじまいだったな。君の人格のことも完全否定されたし」

(まぁ私でも、夢で聞いたなんて言ったら、バカにしてるのかと怒るかもしれない。その点は仕方がなかったかも)

 優里菜の言うとおりではあった。優里菜同様に、ラディムも夢が云々だなんて話をされたとしても、正直、対応に困りそうだ。

 だが、あの場ではあくまで夢として話すしか、ラディムには手がなかったのも事実だった。

「とりあえず明日、冷静になっている状態でもう一度挑戦だな」

 母のほうから、もう一度来るようにと言ってきた。乗らない手はないだろう。

(そうだね。明日こそは、もう少しいい情報を引き出したいところだね)

 優里菜も同意する。

 本当に、何かちょっとした手掛かりでもいいから、情報が欲しかった。同姓同名の二人の父。いったい何の関係があるのかを。

「じゃ、明日に備えて英気を養うか。おやすみ優里菜」

(はい、おやすみラディム)

 挨拶を交わし、ラディムは眠りに落ちた――。






 翌日、約束通りラディムは母の私室を訪ねた。

 母の様子は、どうやらすっかり落ち着いているようだ。母に促され、昨日と同じ椅子に腰を下ろした。

「おはよう、よく来ましたね、ラディム」

 ラディムも母に挨拶を返した。母はにこやかに微笑んでいる……ように見える。

「まずは、昨日話した疲労に効く薬。これを飲みなさい。私の精神面を見てもらっている薬師に、処方してもらいました。ラディム、あなた、かなり疲れているように見えるわよ」

 ラディム自身はそこまで疲れているとは思っていなかった。だが、ここ数日、かなりのハードスケジュールだった点は間違いがなかった。知らずに表情に出ていたのかもしれない。

「お気遣い、痛み入ります」

 母の行為に、ラディムは素直に応じた。渡された粉末を口に含むと、水で一気に流し込んだ。

 そこで、ラディムは意識を失った――。






「……ん、あ、あれ? ……私はいったい」

 ラディムは体を起こした。

 わずかに感じる頭の鈍痛に、思わずこめかみを指で押さえた。痛みは幸い、すぐに治まった。

 ラディムは改めて周囲を見遣る。見飽きた景色だ。……いつの間にか、自室のベッドで寝ていたようだ。

「あ、殿下! 気づかれましたか?」

 ラディムが起き上がる様子に気づいたのか、エリシュカがパタパタとラディムの傍まで小走りでやってきた。エリシュカは少し顔を曇らせている。心配をかけたのだろう。

「エリシュカ……。私は、いったいどうしたのだ?」

 ラディムは状況がつかめていなかった。

「覚えていらっしゃいませんか? お母上のユリナ様の部屋で、殿下は突然倒れられたのですよ?」

 あいまいだった記憶がよみがえってきた。確か、呼ばれて母の私室に行ったのだ、と。

 だが、なぜだか、それ以上を思い出せなかった。

「ユリナ様がおっしゃるには、殿下は疲労回復のお薬をお飲みになり、すぐに卒倒されたそうです」

「ああ……、そういえば、母に薬をもらい、飲み込んだまでは覚えているが、そこから先が思い出せない。母の言うとおり、そこで倒れたのだろう」

 確かに、疲労に効く薬といって手渡された。その薬を飲んで以降のラディムの記憶は、途切れていた。

「よほど精神的に疲れていたのだろうって、ユリナ様はおっしゃっていました。殿下が飲んだお薬、マリエちゃんが処方した精神安定剤のようなものなんだそうですよ」

「精神安定剤?」

 疲労に効くとは言っていたが、精神面の疲労を取り除くものだったのか。それにしても、マリエの処方薬とは。いつの間に薬師のまねごとを……。

「殿下が精神的にお疲れのご様子だったから、ユリナ様がマリエちゃんに頼んで、心に作用をする魔術を込めたお薬を作ってもらったそうです」

 なるほど、純粋な薬というよりは、『生命力』を練りこんだマジックアイテムみたいなものか。

「即座に卒倒するほど効果てきめんだった、ということだな。確かに、何か頭に掛かっていたもやが晴れたような気がする。すごく、すっきりした気分だ」

 ここ数日の間、さんざん悩まされていた頭の中に響き渡る妙な女の声も、すっかり聞こえなくなっていた。精霊を善だとうそぶく、何やら妄想を垂れ流していたあの忌々しい声。結局は母の言うとおり、精神的な疲れからくる、単なる白昼夢だったのだろう。

「それはよかったです!」

 ラディムがにこやかに笑えば、エリシュカはぴょんと跳ねて喜んだ。

「明日、マリエにお礼をしに行くか」

 母にはもちろん、薬を作ったマリエにも感謝をしなければ、とラディムは思った。
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