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第三部 悪役令嬢と皇子と聖女と
第二部のあらすじ ※ネタバレ注意です
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第二部のあらすじです。端折っている部分も多いですが、大体の流れはわかるかと思います。
目新しい内容はありませんので、第二部読了済みの場合は特にお読みいただく必要はないものとなっております。
●第二部あらすじ
バイアー帝国第一皇子ラディム・ギーゼブレヒトは、教育係を務める世界再生教会の司教ザハリアーシュから、精霊教の崇める精霊は大地から生命力を奪い取り枯らしてしまう人類の敵だと教わった。叔父であり皇帝のベルナルドも、精霊教の排除を掲げて帝国の国教を世界再生教にし、帝国内の精霊教信者の追放措置を取った。
隣接する仮想敵国フェイシア王国とは、この宗教問題で対立をしており、特に国境を接するフェイシア王国のプリンツ辺境伯家とは関係が最悪だった。一時は帝国の皇女とプリンツ辺境伯との婚姻が結ばれ、関係改善が図られようとした。しかし、不幸にもプリンツ辺境伯の急死により、その子供ラディムの扱いをめぐり、再び対立が激化した。
ラディムは自身がプリンツ辺境伯家の血を引いている点に、深い負い目を感じていた。なので、人一倍精霊教に厳しい態度をとることで、ギーゼブレヒト皇家にふさわしい人間であろうと常に心掛けていた。
まもなく準成人を迎えようとしていた時期、ラディムは皇帝ベルナルドから、帝都ミュニホフの定期巡回の公務を与えられた。ザハリアーシュとラディム付きの侍女であるエリシュカを伴い、毎週一回ラディムはミュニホフの市場調査、治安調査に出かけた。
ある巡回の日、ラディム一行は行き倒れの少女を発見する。マリエと名乗った黒髪の少女は、ラディムと同い年で、魔術を扱うために必須の『生命力』を保持していた。『生命力』は今のところラディムと同世代の子供にしか発現しておらず、貴重だった。このため、ラディムはマリエを将来の側近にすることに決め、世界再生教会に預けて魔術を習わせた。
また、ラディムたちはミュニホフ巡回中に、不思議なトラ柄の子猫ミアを拾う。ベルナルドが動物嫌いだったため宮殿では飼えないので、エリシュカが実家のムシュカ伯爵家で飼い始めた。初めて会った時から、ミアは妙にラディムに懐き、ラディムもそんなミアが好きになった。
それからしばらく、毎週のミュニホフ定期巡回の後、世界再生教会に寄ってマリエと魔術談義をするのが、ラディムの息抜きになった。教えれば教えるほど、次々と知識を吸収して実演できるようになるマリエと会うのが、楽しみで仕方がなかった。
十二歳の誕生日を直前に控えると、ラディムは緊張のあまり弱気が顔をのぞかせるようになる。そんなラディムを、普段からラディムと接しているエリシュカやザハリアーシュは励まし、自信を持つように諭した。ラディムは深く自分のことを思ってくれる二人の言葉で、弱気を吹き飛ばせた。
マリエとの魔術研究も軌道に乗り、マリエは相手を拘束する高度なマジックアイテムも作れるようになっていた。ことマジックアイテムの制作に関しては、マリエはラディム以上の才能を見せていた。だが、そんなマリエとの魔術談義も、終わりの時が近づいていた。準成人を迎えると、ラディムは騎士団に入団が、マリエはフェイシア王国の王都の世界再生教会へ出向が、それぞれ決まっていたからだ。
やがて十二歳を迎え、ラディムは準成人となった。ギーゼブレヒト皇家の伝統で、ラディムはミュニホフ市民の前で誓いの言葉を述べた。ラディムは、必ずこの世界から精霊教を駆逐し、世界の崩壊を防ぐと宣言をする。儀式が終わった後、ラディムはベルナルドから、以後は魔術の研究に専念するよう指示された。ギーゼブレヒトの男子は、準成人を迎えたら騎士団に入るのが伝統だったが、ベルナルドはラディムの魔術の才を高く買い、例外措置を取った。
騎士団入りがなくなった結果、騎士団の寮に入らなくて済むことになったラディムは、マリエが準成人を迎えるまでの一か月、宮殿の自室からマリエの元へ通い、魔術の研究をすることになった。付きの侍女のエリシュカはラディムが寮に入らず王宮に留まると聞き、また世話ができると喜んだ。
その晩、ラディムは夢を見た。夢の中で優里菜と名乗る少女が現れ、優里菜はラディムの母であり、また、ラディム自身でもあるなどと意味不明の話をしだす。ラディムは優里菜に言われるがままに優里菜の記憶を覗いた結果、このラディムの体が優里菜の転生のための素体として作られたこと、テストプレイヤーや転生者とは何なのか、システム上、遺伝上の父にあたる精霊使いのカレル・プリンツやゲーム管理者ヴァーツラフの話など、色々な事実を知ることになった。
だが、その記憶のどれもが、精霊を善として見ており、ラディムは大いに戸惑った。今までのラディムの人生で、精霊は常に悪として教えられてきたからだ。また、ラディムは自身の出生に何か秘密があるのではないかと疑いを持った。システム上の父と、この世界での実際の父が、偶然かはたまた必然か、『カレル・プリンツ』という名で一致していた。それに加えて、ラディムは優里菜以外のもう一つの記憶の塊も見つけた。ただ、そちらの記憶とはアクセスができず、詳細がわからなかった。
翌日、ラディムは自身の父、カレル・プリンツ前辺境伯について詳しく話を聞こうと、母である帝国皇女ユリナ・ギーゼブレヒトの元を訪ねた。ラディムが優里菜の話すシステム上の父である精霊使いのカレル・プリンツについて見解を聞こうとするや、母ユリナは激怒し、それ以上の話を聞けなかった。
さらに翌日、母ユリナに呼び出されたラディムは、母から精神の疲れに効くという薬を飲まされた。薬を飲んだラディムは意識を失い、気づいたら自室のベッドの上で寝ていた。だが、薬のおかげか、頭の中に鳴り響いていた少女の声は聞こえなくなっていた。
薬を作った人物がマリエだと知ったラディムは、礼を言うためにマリエの元を訪れた。マリエから薬の詳細を聞く中で、マリエが頭の中にもう一つの人格を持っていた事実を知った。ただ、その人格は一部記憶喪失になっており、もうすでにマリエの人格に統合されてしまったとマリエは話した。ラディムの頭に響いていた少女の声もマリエのものと同じようなものだったのかと思ったが、マリエには単に疲れからの幻聴だろうと言われた。
精霊や父の件、また、頭の中の少女の声など、ラディムは悩むべき事案を多く抱えていた。ザハリアーシュに相談すると、教会で祈りを捧げれば、迷いも消えるのではと提案された。実際に教会で祈りをささげると、ラディムは体に何やら暖かな気配がまとわりついたかと思うと、意識が一気に鮮明になる感覚を得た。気づけば、ここ数日の悩みはきれいさっぱり消えていた。
ラディムが準成人を迎えた翌月、マリエも準成人を迎え、王都に旅立っていった。別れ際にラディムはマリエから頬に口づけをされ、改めてマリエを特別な女性だと認識した。
それからふた月が経ち、皇帝ベルナルドによるプリンツ辺境伯領への侵攻作戦が執り行われることとなった。この皇帝親征軍には、ラディムも同行し、魔術を役立てるよう皇帝から命じられた。出発前、ラディムは改めて母から父カレル・プリンツ前辺境伯の話を聞いた。今度は冷静に当時の状況を語ってくれ、母がいかに父を愛していたかを知った。また、母は父が持っていたものと同じ意匠だという金のメダルをラディムに授けた。
出発当日、エリシュカがミアを伴い見送りに来た。その時、突然ミアが暴れ、ラディムに強引についていこうとした。不思議な声がラディムの脳裏に響き、ミアを連れて行けば精霊術に対抗できると言う。信用はしきれなかったが、初陣の心細さもあり、保険の意味も込めて助言に従い、ミアを連れていくことにした。
帝国とプリンツ辺境伯領との国境付近で、ラディム一行は巨大な魔獣に遭遇した。付近を荒らしていたらしいその魔獣の大きさは、今まで見たどの魔獣よりも大きく、精強な騎士団の面々でも大きなダメージを与えられず、苦戦していた。だが、ラディムの魔術で魔獣のまとう霊素の保護を剥がすことで、騎士たちの攻撃がとおるようになり、どうにか魔獣を退治した。
魔獣討伐以後は順調な行軍が続き、ラディムたちはプリンツ辺境伯領内の国境の街へ到着した。さしたる抵抗もなく占領に成功したため、ラディムたちは辺境伯が領都オーミュッツに引きこもり、籠城をするのではないかと疑い出した。だが、街中の様子を巡回したラディムは驚いた。占領中のはずなのに、市民の様子は暗くなく、店も通常どおり営業している。何より、店の店主から聞いた話をラディムは到底信じることができなかった。なぜなら、魔獣を討伐した帝国軍の精強さを褒め讃えており、また、その帝国軍の中に前辺境伯カレルの息子のラディムがいると知っており、そのラディムに領民の期待が集まっているというのだから。
その晩、ラディムは夢の中で見知らぬ少女から声をかけられた。だが、見知らぬはずなのに、相手の少女はラディムを知っているという。よくよく話を聞くと、その少女は優里菜と名乗り、以前ラディムの準成人の頃に会話をしたという。優里菜はラディムが何らかの原因で優里菜の記憶を封じられたのではないかと言い、状況から見てラディムの母ユリナか、マリエが怪しいと疑った。ラディムは愛するものを疑うユリナに拒否感がこみあげた。
そんな折、突然の激痛に襲われ、気づいたらユリナとは別の人物の記憶が脳裏に浮かび上がってきた。優里菜は、ラディムのシステム上の父である精霊使いカレル・プリンツ――横見悠太の記憶だと言う。だが、その記憶は、優里菜の物とは違い人格がなかった。ラディムの体は優里菜の転生素体として作られたので、そもそも優里菜の記憶以外が入り込む余地はないはずと優里菜は不思議がる。
ラディムは優里菜と悠太の記憶に接することで、世界再生教の教義に疑問を覚え、精霊教の方が正しいのではないかと思い始めた。ラディムのなすべき役割は、精霊教の根絶ではなく、世界再生教の教義見直しではないかと悩み始める。
一方、優里菜はラディムの体について疑問を感じる。実は、ラディムの体はもともとは悠太のための転生素体で、何らかのイレギュラーで優里菜の人格があとから入り込み、悠太の人格を破壊してしまったのではないかと疑った。
その時、優里菜はラディムが持つ金のメダルに気が付いた。VRMMO『精霊たちの憂鬱』時代にユリナ・カタクラとして、精霊王を倒した際に入手した『精霊王の証』とまったく同じものだった。転生元である『精霊たちの憂鬱』のカレル・プリンツとユリナ・カタクラ、転生先であるこの世界のカレル・プリンツ前辺境伯とユリナ・ギーゼブレヒト、ラディムの両親にあたる以上の四人がまったく同じメダルを所持していたことに、ラディムたちはシステム上の何らかの意図を感じ、この金のメダルが転生元と転生先とをつなぐキーアイテムになっているのではないかと疑った。
出生の秘密をより詳しく知るためにも、辺境伯邸に侵入して調べるべきだとラディムは考え、帝国軍が辺境伯領の領都オーミュッツに着くや、闇夜に紛れて子猫のミアの助けを借り、辺境伯邸に侵入しようと試みた。だが、警備が厳しすぎ断念し、いったん軍の陣地へと戻ろうとした。
陣地への帰路、ラディムは見知らぬ二人組と出会った。アリツェと名乗る同年代の少女と、少し年上に見えるドミニクという名の青年だった。二人も辺境伯家に用があるらしく、はるばる王都からやってきたという。詳しく話を聞いていくうちに、アリツェもまた、ラディムと同じ転生者の転生素体で、アリツェの中には横見悠太がいると知った。ラディムの中では人格のない記憶のみの存在である横見悠太は、アリツェの中で人格を伴い転生をしていた。
旧知の中である悠太と優里菜の再会ということで、ラディムとアリツェは二人に人格の優先権を与えて会話を許可する。悠太と優里菜はこれまでの経緯を確認していく中で、ラディムとアリツェという二人の転生素体が、血のつながった兄弟、おそらくは双子だったのではないかと悟る。辺境伯家は帝国に対してはラディムの、また、プリンツ子爵家に対してはアリツェの一人っ子だと伝え、双子の事実は隠していた。ここに至り、ラディムとアリツェは、辺境伯家が二人の出生について何かを隠していると確信した。ラディムたちは協力して、辺境伯家から出生の秘密を聞き出すことを決め、アリツェの持つ精霊教大司教の辺境伯に対する紹介状を使って、辺境伯との面会を取り付けようとした。
目新しい内容はありませんので、第二部読了済みの場合は特にお読みいただく必要はないものとなっております。
●第二部あらすじ
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隣接する仮想敵国フェイシア王国とは、この宗教問題で対立をしており、特に国境を接するフェイシア王国のプリンツ辺境伯家とは関係が最悪だった。一時は帝国の皇女とプリンツ辺境伯との婚姻が結ばれ、関係改善が図られようとした。しかし、不幸にもプリンツ辺境伯の急死により、その子供ラディムの扱いをめぐり、再び対立が激化した。
ラディムは自身がプリンツ辺境伯家の血を引いている点に、深い負い目を感じていた。なので、人一倍精霊教に厳しい態度をとることで、ギーゼブレヒト皇家にふさわしい人間であろうと常に心掛けていた。
まもなく準成人を迎えようとしていた時期、ラディムは皇帝ベルナルドから、帝都ミュニホフの定期巡回の公務を与えられた。ザハリアーシュとラディム付きの侍女であるエリシュカを伴い、毎週一回ラディムはミュニホフの市場調査、治安調査に出かけた。
ある巡回の日、ラディム一行は行き倒れの少女を発見する。マリエと名乗った黒髪の少女は、ラディムと同い年で、魔術を扱うために必須の『生命力』を保持していた。『生命力』は今のところラディムと同世代の子供にしか発現しておらず、貴重だった。このため、ラディムはマリエを将来の側近にすることに決め、世界再生教会に預けて魔術を習わせた。
また、ラディムたちはミュニホフ巡回中に、不思議なトラ柄の子猫ミアを拾う。ベルナルドが動物嫌いだったため宮殿では飼えないので、エリシュカが実家のムシュカ伯爵家で飼い始めた。初めて会った時から、ミアは妙にラディムに懐き、ラディムもそんなミアが好きになった。
それからしばらく、毎週のミュニホフ定期巡回の後、世界再生教会に寄ってマリエと魔術談義をするのが、ラディムの息抜きになった。教えれば教えるほど、次々と知識を吸収して実演できるようになるマリエと会うのが、楽しみで仕方がなかった。
十二歳の誕生日を直前に控えると、ラディムは緊張のあまり弱気が顔をのぞかせるようになる。そんなラディムを、普段からラディムと接しているエリシュカやザハリアーシュは励まし、自信を持つように諭した。ラディムは深く自分のことを思ってくれる二人の言葉で、弱気を吹き飛ばせた。
マリエとの魔術研究も軌道に乗り、マリエは相手を拘束する高度なマジックアイテムも作れるようになっていた。ことマジックアイテムの制作に関しては、マリエはラディム以上の才能を見せていた。だが、そんなマリエとの魔術談義も、終わりの時が近づいていた。準成人を迎えると、ラディムは騎士団に入団が、マリエはフェイシア王国の王都の世界再生教会へ出向が、それぞれ決まっていたからだ。
やがて十二歳を迎え、ラディムは準成人となった。ギーゼブレヒト皇家の伝統で、ラディムはミュニホフ市民の前で誓いの言葉を述べた。ラディムは、必ずこの世界から精霊教を駆逐し、世界の崩壊を防ぐと宣言をする。儀式が終わった後、ラディムはベルナルドから、以後は魔術の研究に専念するよう指示された。ギーゼブレヒトの男子は、準成人を迎えたら騎士団に入るのが伝統だったが、ベルナルドはラディムの魔術の才を高く買い、例外措置を取った。
騎士団入りがなくなった結果、騎士団の寮に入らなくて済むことになったラディムは、マリエが準成人を迎えるまでの一か月、宮殿の自室からマリエの元へ通い、魔術の研究をすることになった。付きの侍女のエリシュカはラディムが寮に入らず王宮に留まると聞き、また世話ができると喜んだ。
その晩、ラディムは夢を見た。夢の中で優里菜と名乗る少女が現れ、優里菜はラディムの母であり、また、ラディム自身でもあるなどと意味不明の話をしだす。ラディムは優里菜に言われるがままに優里菜の記憶を覗いた結果、このラディムの体が優里菜の転生のための素体として作られたこと、テストプレイヤーや転生者とは何なのか、システム上、遺伝上の父にあたる精霊使いのカレル・プリンツやゲーム管理者ヴァーツラフの話など、色々な事実を知ることになった。
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薬を作った人物がマリエだと知ったラディムは、礼を言うためにマリエの元を訪れた。マリエから薬の詳細を聞く中で、マリエが頭の中にもう一つの人格を持っていた事実を知った。ただ、その人格は一部記憶喪失になっており、もうすでにマリエの人格に統合されてしまったとマリエは話した。ラディムの頭に響いていた少女の声もマリエのものと同じようなものだったのかと思ったが、マリエには単に疲れからの幻聴だろうと言われた。
精霊や父の件、また、頭の中の少女の声など、ラディムは悩むべき事案を多く抱えていた。ザハリアーシュに相談すると、教会で祈りを捧げれば、迷いも消えるのではと提案された。実際に教会で祈りをささげると、ラディムは体に何やら暖かな気配がまとわりついたかと思うと、意識が一気に鮮明になる感覚を得た。気づけば、ここ数日の悩みはきれいさっぱり消えていた。
ラディムが準成人を迎えた翌月、マリエも準成人を迎え、王都に旅立っていった。別れ際にラディムはマリエから頬に口づけをされ、改めてマリエを特別な女性だと認識した。
それからふた月が経ち、皇帝ベルナルドによるプリンツ辺境伯領への侵攻作戦が執り行われることとなった。この皇帝親征軍には、ラディムも同行し、魔術を役立てるよう皇帝から命じられた。出発前、ラディムは改めて母から父カレル・プリンツ前辺境伯の話を聞いた。今度は冷静に当時の状況を語ってくれ、母がいかに父を愛していたかを知った。また、母は父が持っていたものと同じ意匠だという金のメダルをラディムに授けた。
出発当日、エリシュカがミアを伴い見送りに来た。その時、突然ミアが暴れ、ラディムに強引についていこうとした。不思議な声がラディムの脳裏に響き、ミアを連れて行けば精霊術に対抗できると言う。信用はしきれなかったが、初陣の心細さもあり、保険の意味も込めて助言に従い、ミアを連れていくことにした。
帝国とプリンツ辺境伯領との国境付近で、ラディム一行は巨大な魔獣に遭遇した。付近を荒らしていたらしいその魔獣の大きさは、今まで見たどの魔獣よりも大きく、精強な騎士団の面々でも大きなダメージを与えられず、苦戦していた。だが、ラディムの魔術で魔獣のまとう霊素の保護を剥がすことで、騎士たちの攻撃がとおるようになり、どうにか魔獣を退治した。
魔獣討伐以後は順調な行軍が続き、ラディムたちはプリンツ辺境伯領内の国境の街へ到着した。さしたる抵抗もなく占領に成功したため、ラディムたちは辺境伯が領都オーミュッツに引きこもり、籠城をするのではないかと疑い出した。だが、街中の様子を巡回したラディムは驚いた。占領中のはずなのに、市民の様子は暗くなく、店も通常どおり営業している。何より、店の店主から聞いた話をラディムは到底信じることができなかった。なぜなら、魔獣を討伐した帝国軍の精強さを褒め讃えており、また、その帝国軍の中に前辺境伯カレルの息子のラディムがいると知っており、そのラディムに領民の期待が集まっているというのだから。
その晩、ラディムは夢の中で見知らぬ少女から声をかけられた。だが、見知らぬはずなのに、相手の少女はラディムを知っているという。よくよく話を聞くと、その少女は優里菜と名乗り、以前ラディムの準成人の頃に会話をしたという。優里菜はラディムが何らかの原因で優里菜の記憶を封じられたのではないかと言い、状況から見てラディムの母ユリナか、マリエが怪しいと疑った。ラディムは愛するものを疑うユリナに拒否感がこみあげた。
そんな折、突然の激痛に襲われ、気づいたらユリナとは別の人物の記憶が脳裏に浮かび上がってきた。優里菜は、ラディムのシステム上の父である精霊使いカレル・プリンツ――横見悠太の記憶だと言う。だが、その記憶は、優里菜の物とは違い人格がなかった。ラディムの体は優里菜の転生素体として作られたので、そもそも優里菜の記憶以外が入り込む余地はないはずと優里菜は不思議がる。
ラディムは優里菜と悠太の記憶に接することで、世界再生教の教義に疑問を覚え、精霊教の方が正しいのではないかと思い始めた。ラディムのなすべき役割は、精霊教の根絶ではなく、世界再生教の教義見直しではないかと悩み始める。
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その時、優里菜はラディムが持つ金のメダルに気が付いた。VRMMO『精霊たちの憂鬱』時代にユリナ・カタクラとして、精霊王を倒した際に入手した『精霊王の証』とまったく同じものだった。転生元である『精霊たちの憂鬱』のカレル・プリンツとユリナ・カタクラ、転生先であるこの世界のカレル・プリンツ前辺境伯とユリナ・ギーゼブレヒト、ラディムの両親にあたる以上の四人がまったく同じメダルを所持していたことに、ラディムたちはシステム上の何らかの意図を感じ、この金のメダルが転生元と転生先とをつなぐキーアイテムになっているのではないかと疑った。
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