わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

文字の大きさ
119 / 272
第十章 皇子救出作戦

9 皇宮から脱出いたしますわ

しおりを挟む
「ハァッ、ハァッ……。すまない、アリツェ、ドミニク。私のわがままに付き合わせてしまった」

 走りながらラディムは謝罪をした。

 ベルナルドへの説得を強行し、しかも失敗をした件に、大分責任を感じているようだ。

 だが、ラディムの意志に任せようと決めたのは悠太自身だったので、そこまで気に病んでもらいたくはなかった。

「構いませんわ。それよりも、今はとにかく逃げのびることだけを考えてくださいまし」

「どうにか伯爵の先遣部隊と合流したいな」

 ドミニクがそう口にしたとき、不意に聞き慣れた、しかし今は聞きたくはない声が耳に飛び込んできた。

「おや? ……ラディム殿下、いけませんなぁ。子供のお遊びも、そこまでですぞ!」

 目の前にザハリアーシュの姿を発見し、悠太たちは慌てて立ち止まった。

「ザハリアーシュ、貴様! 私を今までだましていたのか!」

 ラディムは血相を変え、ザハリアーシュを怒鳴りつけた。

「フム……、なぜ知っているのかは、今は問わないでおきましょうか。とりあえず、そこの賊と合わせて、捕縛させていただきましょうかね」

 ザハリアーシュは懐から何やら奇妙な形の笛を取り出し、口にくわえた。

「そうはいきませんわ!」

 笛から妙な霊素を感じた悠太は、何らかのマジックアイテムだと踏んで、慌ててペスに念話で指示を送った。

 ペスの体から細く鋭い光の筋が伸び、ザハリアーシュの手に持つ笛に命中し、笛は蒸発した。光の精霊術による熱線だ。高熱で笛を溶かした。

 消費霊素が多いうえに、外して壁などに当てると火災を起こしかねなかったので、室内ではあまり使いたくはなかった。だが、一瞬で光から風に切り替える余裕もなかったため、苦肉の策として行使をした。

 ただ、おかげでだいぶ霊素を消耗したために、しばらくの間は属性の変更ができない。

「チッ! 貴様、精霊使いか!」

 ペスが使い魔だと悟り、ザハリアーシュは慌てて距離を取った。

「今ですわ、さっさと階下に降りますわよ」

 ザハリアーシュが後退した隙にできた空間を、悠太たちは一気に駆け抜けた。

 最後にペスが振り向き、ザハリアーシュに向けて精霊術による目潰しを食らわせた。ベルナルドに仕掛けたものと同じ術だ。

 苦痛の声とともにうずくまるザハリアーシュを尻目に、悠太たちは階段を駆け下りて一階に戻った。

「どうにか一階に戻れたけれど、衛兵たちが騒ぎだしているな」

 ドミニクが周囲を見回し、警戒するように剣を抜いて身構える。

「ベルナルドかザハリアーシュから、指示が出たのだろう。……どこから逃げる? お前たちはどこから侵入してきたんだ?」

 ラディムもあたりをキョロキョロと確認している。

「裏の勝手口からですわ。……どうしましょう、ドミニク様。強引に正面を突破して、伯爵様と合流いたしますか? それとも、侵入経路と同様に裏手から逃げますか?」

 今取れる進路は二つ。宮殿入口側で陽動作戦を行っている伯爵と合流する道と、最初に入ってきた裏の勝手口から脱出する道。

「ちょっと待て、宮殿から出るだけでよければ、皇族専用の秘密の出口があるぞ」

 悠太の案に、横からラディムが口をはさんだ。

「それは好都合ですわ! お兄様、さっそく案内をお願いいたしますわ」

 ラディムの案が、一番敵の追撃の可能性を防げそうだった。ここは、一番宮殿に詳しいラディムに任せる方がよいだろう。

「こっちだ!」

 ラディムは手招きして正面入り口とは反対側に悠太たちを誘導した。

 一階のホールが騒がしくなってきた。多数の足音があたりに響き渡る。入口に引きつけられていた衛兵たちが迫っているのか。

(まずいな……)

 悠太は焦り、槍をぎゅっと握りしめた。

 ラディムは謁見の間に入り、玉座の裏手に回った。絨毯の下に隠された紐を強く引くと、床が開き階段が現れる。

「ここから地下に入るぞ」

 ラディムは口にすると、階下へと降りて行った。悠太たちも慌てて後に続く。

「これなら見つからず脱出できそうですわ」

 地下道は静まり返っていた。ドミニクの持つカンテラの明かりを頼りに、慎重に歩を進める。

「だといいんだけれど……。皇族専用ということは、当然ベルナルドも知っているんだよね。出口で待ち伏せがないか不安だ」

 ドミニクが不穏な予感を口にした。

「いや、先ほどアリツェが陛下の動きを止めたし、あの様子だとしばらくは行動不能だろう。陛下の指示が回るよりも先に、脱出できるはずだ」

 ラディムはドミニクの危惧を吹き飛ばすように、自身の考えを話した。

 ドミニクの予想が外れてほしいところだが、なかなかどうして、世の中そうは甘くないと思う。

「よし、あそこが出口だ。帝都の外れの井戸に出るはず」

 ラディムが出口に手をかけたところで、誰何の大声が響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...