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第十章 皇子救出作戦
9 皇宮から脱出いたしますわ
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「ハァッ、ハァッ……。すまない、アリツェ、ドミニク。私のわがままに付き合わせてしまった」
走りながらラディムは謝罪をした。
ベルナルドへの説得を強行し、しかも失敗をした件に、大分責任を感じているようだ。
だが、ラディムの意志に任せようと決めたのは悠太自身だったので、そこまで気に病んでもらいたくはなかった。
「構いませんわ。それよりも、今はとにかく逃げのびることだけを考えてくださいまし」
「どうにか伯爵の先遣部隊と合流したいな」
ドミニクがそう口にしたとき、不意に聞き慣れた、しかし今は聞きたくはない声が耳に飛び込んできた。
「おや? ……ラディム殿下、いけませんなぁ。子供のお遊びも、そこまでですぞ!」
目の前にザハリアーシュの姿を発見し、悠太たちは慌てて立ち止まった。
「ザハリアーシュ、貴様! 私を今までだましていたのか!」
ラディムは血相を変え、ザハリアーシュを怒鳴りつけた。
「フム……、なぜ知っているのかは、今は問わないでおきましょうか。とりあえず、そこの賊と合わせて、捕縛させていただきましょうかね」
ザハリアーシュは懐から何やら奇妙な形の笛を取り出し、口にくわえた。
「そうはいきませんわ!」
笛から妙な霊素を感じた悠太は、何らかのマジックアイテムだと踏んで、慌ててペスに念話で指示を送った。
ペスの体から細く鋭い光の筋が伸び、ザハリアーシュの手に持つ笛に命中し、笛は蒸発した。光の精霊術による熱線だ。高熱で笛を溶かした。
消費霊素が多いうえに、外して壁などに当てると火災を起こしかねなかったので、室内ではあまり使いたくはなかった。だが、一瞬で光から風に切り替える余裕もなかったため、苦肉の策として行使をした。
ただ、おかげでだいぶ霊素を消耗したために、しばらくの間は属性の変更ができない。
「チッ! 貴様、精霊使いか!」
ペスが使い魔だと悟り、ザハリアーシュは慌てて距離を取った。
「今ですわ、さっさと階下に降りますわよ」
ザハリアーシュが後退した隙にできた空間を、悠太たちは一気に駆け抜けた。
最後にペスが振り向き、ザハリアーシュに向けて精霊術による目潰しを食らわせた。ベルナルドに仕掛けたものと同じ術だ。
苦痛の声とともにうずくまるザハリアーシュを尻目に、悠太たちは階段を駆け下りて一階に戻った。
「どうにか一階に戻れたけれど、衛兵たちが騒ぎだしているな」
ドミニクが周囲を見回し、警戒するように剣を抜いて身構える。
「ベルナルドかザハリアーシュから、指示が出たのだろう。……どこから逃げる? お前たちはどこから侵入してきたんだ?」
ラディムもあたりをキョロキョロと確認している。
「裏の勝手口からですわ。……どうしましょう、ドミニク様。強引に正面を突破して、伯爵様と合流いたしますか? それとも、侵入経路と同様に裏手から逃げますか?」
今取れる進路は二つ。宮殿入口側で陽動作戦を行っている伯爵と合流する道と、最初に入ってきた裏の勝手口から脱出する道。
「ちょっと待て、宮殿から出るだけでよければ、皇族専用の秘密の出口があるぞ」
悠太の案に、横からラディムが口をはさんだ。
「それは好都合ですわ! お兄様、さっそく案内をお願いいたしますわ」
ラディムの案が、一番敵の追撃の可能性を防げそうだった。ここは、一番宮殿に詳しいラディムに任せる方がよいだろう。
「こっちだ!」
ラディムは手招きして正面入り口とは反対側に悠太たちを誘導した。
一階のホールが騒がしくなってきた。多数の足音があたりに響き渡る。入口に引きつけられていた衛兵たちが迫っているのか。
(まずいな……)
悠太は焦り、槍をぎゅっと握りしめた。
ラディムは謁見の間に入り、玉座の裏手に回った。絨毯の下に隠された紐を強く引くと、床が開き階段が現れる。
「ここから地下に入るぞ」
ラディムは口にすると、階下へと降りて行った。悠太たちも慌てて後に続く。
「これなら見つからず脱出できそうですわ」
地下道は静まり返っていた。ドミニクの持つカンテラの明かりを頼りに、慎重に歩を進める。
「だといいんだけれど……。皇族専用ということは、当然ベルナルドも知っているんだよね。出口で待ち伏せがないか不安だ」
ドミニクが不穏な予感を口にした。
「いや、先ほどアリツェが陛下の動きを止めたし、あの様子だとしばらくは行動不能だろう。陛下の指示が回るよりも先に、脱出できるはずだ」
ラディムはドミニクの危惧を吹き飛ばすように、自身の考えを話した。
ドミニクの予想が外れてほしいところだが、なかなかどうして、世の中そうは甘くないと思う。
「よし、あそこが出口だ。帝都の外れの井戸に出るはず」
ラディムが出口に手をかけたところで、誰何の大声が響いた。
走りながらラディムは謝罪をした。
ベルナルドへの説得を強行し、しかも失敗をした件に、大分責任を感じているようだ。
だが、ラディムの意志に任せようと決めたのは悠太自身だったので、そこまで気に病んでもらいたくはなかった。
「構いませんわ。それよりも、今はとにかく逃げのびることだけを考えてくださいまし」
「どうにか伯爵の先遣部隊と合流したいな」
ドミニクがそう口にしたとき、不意に聞き慣れた、しかし今は聞きたくはない声が耳に飛び込んできた。
「おや? ……ラディム殿下、いけませんなぁ。子供のお遊びも、そこまでですぞ!」
目の前にザハリアーシュの姿を発見し、悠太たちは慌てて立ち止まった。
「ザハリアーシュ、貴様! 私を今までだましていたのか!」
ラディムは血相を変え、ザハリアーシュを怒鳴りつけた。
「フム……、なぜ知っているのかは、今は問わないでおきましょうか。とりあえず、そこの賊と合わせて、捕縛させていただきましょうかね」
ザハリアーシュは懐から何やら奇妙な形の笛を取り出し、口にくわえた。
「そうはいきませんわ!」
笛から妙な霊素を感じた悠太は、何らかのマジックアイテムだと踏んで、慌ててペスに念話で指示を送った。
ペスの体から細く鋭い光の筋が伸び、ザハリアーシュの手に持つ笛に命中し、笛は蒸発した。光の精霊術による熱線だ。高熱で笛を溶かした。
消費霊素が多いうえに、外して壁などに当てると火災を起こしかねなかったので、室内ではあまり使いたくはなかった。だが、一瞬で光から風に切り替える余裕もなかったため、苦肉の策として行使をした。
ただ、おかげでだいぶ霊素を消耗したために、しばらくの間は属性の変更ができない。
「チッ! 貴様、精霊使いか!」
ペスが使い魔だと悟り、ザハリアーシュは慌てて距離を取った。
「今ですわ、さっさと階下に降りますわよ」
ザハリアーシュが後退した隙にできた空間を、悠太たちは一気に駆け抜けた。
最後にペスが振り向き、ザハリアーシュに向けて精霊術による目潰しを食らわせた。ベルナルドに仕掛けたものと同じ術だ。
苦痛の声とともにうずくまるザハリアーシュを尻目に、悠太たちは階段を駆け下りて一階に戻った。
「どうにか一階に戻れたけれど、衛兵たちが騒ぎだしているな」
ドミニクが周囲を見回し、警戒するように剣を抜いて身構える。
「ベルナルドかザハリアーシュから、指示が出たのだろう。……どこから逃げる? お前たちはどこから侵入してきたんだ?」
ラディムもあたりをキョロキョロと確認している。
「裏の勝手口からですわ。……どうしましょう、ドミニク様。強引に正面を突破して、伯爵様と合流いたしますか? それとも、侵入経路と同様に裏手から逃げますか?」
今取れる進路は二つ。宮殿入口側で陽動作戦を行っている伯爵と合流する道と、最初に入ってきた裏の勝手口から脱出する道。
「ちょっと待て、宮殿から出るだけでよければ、皇族専用の秘密の出口があるぞ」
悠太の案に、横からラディムが口をはさんだ。
「それは好都合ですわ! お兄様、さっそく案内をお願いいたしますわ」
ラディムの案が、一番敵の追撃の可能性を防げそうだった。ここは、一番宮殿に詳しいラディムに任せる方がよいだろう。
「こっちだ!」
ラディムは手招きして正面入り口とは反対側に悠太たちを誘導した。
一階のホールが騒がしくなってきた。多数の足音があたりに響き渡る。入口に引きつけられていた衛兵たちが迫っているのか。
(まずいな……)
悠太は焦り、槍をぎゅっと握りしめた。
ラディムは謁見の間に入り、玉座の裏手に回った。絨毯の下に隠された紐を強く引くと、床が開き階段が現れる。
「ここから地下に入るぞ」
ラディムは口にすると、階下へと降りて行った。悠太たちも慌てて後に続く。
「これなら見つからず脱出できそうですわ」
地下道は静まり返っていた。ドミニクの持つカンテラの明かりを頼りに、慎重に歩を進める。
「だといいんだけれど……。皇族専用ということは、当然ベルナルドも知っているんだよね。出口で待ち伏せがないか不安だ」
ドミニクが不穏な予感を口にした。
「いや、先ほどアリツェが陛下の動きを止めたし、あの様子だとしばらくは行動不能だろう。陛下の指示が回るよりも先に、脱出できるはずだ」
ラディムはドミニクの危惧を吹き飛ばすように、自身の考えを話した。
ドミニクの予想が外れてほしいところだが、なかなかどうして、世の中そうは甘くないと思う。
「よし、あそこが出口だ。帝都の外れの井戸に出るはず」
ラディムが出口に手をかけたところで、誰何の大声が響いた。
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