わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

文字の大きさ
132 / 272
第十二章 悪役令嬢爆誕

3 ドミニクの愛が重いですわ(嬉しいですけれど!)

しおりを挟む
 翌日、アリツェはドミニクと話し合いを持った。悠太の提案を踏まえて、ドミニクがどのような反応をするかを知りたかったからだ。

「アリツェ、待っていたよ! 昨日のアリツェは、本当に美しかった。神話の女神もかくやといった雰囲気で、君が婚約者だなんて、ボクは本当に幸運だ」

 ドミニクはぱあっと笑顔を浮かべ、両手を広げてアリツェを部屋に迎えた。

(……どうしましょうか。本当に悠太様の提案の件、ドミニクに話すべきでしょうか……)

 アリツェはドミニクの屈託のない笑顔を見て躊躇した。

「どうしたんだい、アリツェ。なんだか浮かない表情をしているね。さすがに連日の準備で疲れが出たのかな?」

 押し黙るアリツェを見てドミニクは誤解したのか、気づかうような視線を向けた。

「あ、いえ……。そういうわけではないのです、ドミニク」

 アリツェは頭を振った。

「実はドミニクに、一つ聞いておきたい件がありまして」

 意を決して、アリツェはドミニクに問いかけようとした。

「なんだろう。可愛いアリツェからの質問なら、何だって答えるさ」

 ドミニクはさっとアリツェの傍により、アリツェの頭を軽くポンポンと叩いた。

「あ……、ドミニクったら、いけませんわ」

 アリツェはかっと顔が熱くなるのを感じる。せっかく抱いた決心が、鈍っていった。

「ふふふ、いいじゃないか」

 ドミニクは微笑を浮かべ、そのままアリツェの頭をなでる。

(あぁ、この甘美な気持ちに流されそうになりますわ……。でも、わたくしは辺境伯家令嬢なんですもの。悠太様のおっしゃるとおり、責任は果たさねばなりませんわ!)

「怒らないで聞いてくださる?」

 ドミニクになでられつつ、アリツェは上目遣いでドミニクを見つめた。

「ん? なんで怒る必要があるんだい?」

 ドミニクは首をかしげ、今度はアリツェを胸元まで引き寄せてギュッと抱いた。

「あっ……」

(ああ、もうっ! ドミニクったらいちいちわたくしを惑わせようとしないでくださいませ!)

 ドミニクの行動にアリツェの思考はたびたび乱され、一向に本題に入れなかった。だが、ここであきらめるわけにもいかない。

「あの……、クリスティーナ様の一件、お引き受けなさった方がよろしいのではと、わたくしが申しあげたら、ドミニクはどうされますか?」

 アリツェはどうにか言葉を絞り出した。

「はっはっは! アリツェも冗談がうまくなったね。そんな世迷言を言うなんて」

 ドミニクは豪快に笑い飛ばした。

「いえ、少し気になりまして……。フェイシア王国としては、ヤゲル王国とより親密になれるクリスティーナ様の提案をお受けした方が、いいのではないかとふと思いま――」

「アリツェ……、何をバカな話をするんだい。ボクが君以外の女性と一緒になるだなんて、ありえないよ!」

 アリツェの言葉を遮り、ドミニクは声を張り上げた。そして、抱きとめている腕の力をより一層強める。

「あっ、ドミニク、そんなに強く抱きしめないでくださいませ!」

 アリツェは身動きが取れず、抗議の声を上げた。

「いや、ダメだね。そんないけないことを口走るようなアリツェには、お仕置きだ!」

 ドミニクはいたずらっぽい笑みを浮かべ、アリツェの額や頬に口をつけだした。

(ああああああ! ドミニク、どうしてわたくしをこうも堕落させようとするのですか!)

 アリツェはもう、正常な思考ができなくなっていた。ドミニクのなすがままに流される。

「ボクは絶対に君との婚約は破棄しない。だから、そんなに不安に思うことはないよ。安心して」

「あぁ、ドミニむぅっ――」

 ドミニクはそのまま、これ以上アリツェにしゃべらすまいと、唇で唇をふさいだ。

(あわあわあわ、ドミニクと口づけをしてしまいましたわ!)

 それからの記憶が、アリツェはあいまいだった。気づいたら自室に戻り、ベッドに横たわっていた。






(こりゃ駄目だな、アリツェ)

 悠太が呆れた声を上げた。

「申し訳ございませんわ、悠太様」

 アリツェは返す言葉もなく、うなだれた。

(いや、ありゃ相手の方が一枚上手だ。篭絡されたアリツェを責められない。オレも、なんだか……。いや、なんでもない)

 またも悠太は妙なタイミングで言葉を濁した。

「? とにかく、ドミニクから婚約を破棄するつもりはまったくないとわかりましたわ。わたくしとしては、とても喜ばしいのですが」

 アリツェはおやっと思ったものの、今は先ほどのドミニクとの痴態があまりにも恥ずかしく、悠太を問い詰められなかった。ただ、その痴態の結果として、ドミニクにアリツェを捨てる選択肢がまったく無いとわかった。アリツェは溺愛されているとの実感があった。

(ただ、現状のままだとまずいよなぁ。ラディムや優里菜にも相談するか?)

「あまり周囲を巻き込みたくはありませんわ。これは、わたくしとドミニク、クリスティーナ様の間の話ですわ」

 恋愛話を兄とするのも、なんだか気が引けた。

(うーん、いっそアリツェが、ドミニクに嫌われるようにふるまうっていうのはどうだろう?)

「えっ……、それは……」

 悠太の言葉に、アリツェはぎょっと目をむいた。

(アリツェにはつらいかもしれないけれど、オレたちが泥をかぶらないと、フェイシア王国とヤゲル王国のためにならないよ)

 貴族としての義務はわかる。しかし、理解したからと言って、必ずしもそのとおりに行動ができるとは限らない。

「でも、さすがにわたくしからドミニクに嫌われるような態度をとるだなんて、そんな……」

 アリツェの心は拒絶をする。初めて深く愛した異性に対して、自ら嫌われるように行動をするなんて、実行できるとは到底思えなかった。

(うーん……。ドミニク本人に対して嫌悪を掻き立てるような行動が難しいならば、周囲にするしかないか)

 アリツェの不安を察し、悠太は別の案を考えはじめた。

「と申しますと? もしかして、クリスティーナ様に何か?」

 悠太の『周囲にする』という言葉を受け、アリツェはパッとクリスティーナの姿が脳裏に浮かんだ。

(それも含めて、だね。クリスティーナには個人的に嫌がらせをする。アリツェとドミニクとの結婚を望んでいるフェイシア王国上層部には、アリツェに失望するような何らかの問題を起こす)

 悠太は二段構えの作戦を提案した。

「やはり、やらなければなりませんか?」

 気が進まないアリツェは、不満の声を漏らした。

(アリツェ、自分を殺すんだ。君は恋愛結婚に夢を見てはだめだ)

 悠太は厳しい声でアリツェを諭す。

「……本当に、これでよいのでしょうか」

 アリツェはそれでも納得しきれず、頭を振った。

(アリツェ、君は今から、悪役令嬢になるんだぞ)

 悪役令嬢……。プリンツ子爵領にいた時から、悠太がたびたび口にしていた言葉だ。この悪役令嬢という存在を参考に、自身の言葉遣いを決めていると悠太は言っていた。

 まさかアリツェ自身が、この悪役令嬢を務めることになろうとは、まったく想像していなかった。

「もう少し、考えさせてくださいませ……」

 アリツェはうなだれながらつぶやいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...