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第十三章 グリューン帰還
12 さようなら、ドミニク……
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翌日、廊下でドミニクに声をかけられ、アリツェは足を止めた。
「アリツェ……」
ドミニクの顔面は蒼白だった。
「側近たちが父に訴えている様子を、ボクも見たよ。アリツェが世界再生教にはまり、帝国と内通しようとしているのではないかってね」
力なく頭を振るドミニクを、アリツェは胸が締め付けられるような思いで見つめる。
「このまま君と婚約を続けては、国が分裂する。君の思惑どおりに事態が進んでいるのは正直悔しいけれど、ボクも覚悟を決める」
「ありがとうございます、ドミニク……」
これでいいんだと、アリツェは必死で自分の気持ちを押しとどめた。ようやく目的が果たせた。悪役令嬢も、もうこれで終わり。
「プリンツ子爵領が平定されたことで、父は近日中に精霊教を国教に指定するつもりだ。その際、精霊教で国がまとまったことを祝し、国中の有力者を王宮に招いて、盛大に宴を開くらしい」
国の内外に新たなフェイシア王国を印象付けるため、大々的に催すのだとドミニクは言う。
「わたくしたちも、当然招かれるというわけですわね」
「ああ。そして、その場には同盟国のヤゲルの人間も来る。クリスティーナ様も含めてね。で、私はその場で君との婚約の破棄を宣言する」
本来であればアリツェとドミニクの仲睦まじい姿を見せ、今後長らく国を支えていくであろう将来の公爵夫妻をアピールするのに、実に格好の場となるはずであった。だが――。
「……周知するには最適な、良い見せ場ですわね」
蜜月ぶりの披露などはされず、ドミニクの口から発せられるのは婚約破棄の宣言だ。
「併せて、クリスティーナ様からの婚約の申し出を受ける。父にもこの覚悟を伝えておく」
ドミニクは顔をくしゃくしゃにゆがめている。
「わかりましたわ。では、その手はずで」
アリツェもこの場で泣きだしたかった。だが、ここまで悪役を演じた以上は、アリツェにも意地がある。込み上げる涙を必死で抑え込んだ。
「君には帝国のスパイの疑いがかかってしまった。申し訳ないけれど、このグリューンにはもう戻れないだろう」
「……少し残念ですが、仕方がありませんわ。当初予定していたとおり、わたくしはお兄様とともにムシュカ伯爵のところに匿ってもらいますわ」
やはり王国からは追放されるようだ。せっかくもらった領地だが、あきらめるしかない。育った故郷でもあるので、感慨深い地ではあるが、きっとドミニクならうまく盛り立てていくだろう。
……最後に、ヤゲル王国のクラークの街に逃れたエマや孤児院の院長に一目会いたかったが、どうやら叶いそうもない。
「本当にすまない。君だけにこんな悪役を押し付けて」
「いいえ、わたくしが自ら発案したんですもの。ドミニクが気に病むことはありませんわ……」
うなだれるドミニクに、アリツェは優しく微笑んだ。
「この世ではあなたと結ばれることはかないませんでしたが、わたくしはいつまでも、あなたをお慕いしておりますわ」
アリツェは予感していた。もうこの世界でドミニク以上の相手は見つけられないと。であれば、恋愛結婚はもうしないだろう。そして、一度ケチのついたアリツェには、もはや政略結婚の価値もない。ラディムの下で静かに生きていくことになる。
だが、アリツェは前向きに考えた。本来の目的である精霊術の普及と、世界の余剰地核エネルギーの消費。そのためには、動きやすい身分でいたほうが都合がいいはずだと。
「ボクもだ、アリツェ……。たとえこのままクリスティーナ様と結婚することになったとしても、一生涯、君のことは忘れない」
「ドミニク……」
アリツェは改めて思う。やはりこの人しかいないのだと。
いったいどこでボタンを掛け間違い、このような結果になったのか。生まれた時代が悪かった? 聖女の存在のせい? ……わからない。だが、誰かのせいにしてはいけない。これは、アリツェが貴族の義務として、自らの意志で行ったものなのだから。
「これが最後だ。最後に、君にぬくもりを感じさせてほしい……」
「はい……」
ドミニクの言葉に応え、アリツェはドミニクに身を任せた。そのままドミニクにギュッと抱きしめられ、口づけを交わされる。この甘美な瞬間も、もうすぐ永遠に終わってしまうのかと思うと、堪えていた涙を押しとどめることは、もうできなかった。
(くそっ、なんでオレまでこんなに悲しいんだ。ドミニクの姿を見ると、ますます胸が締め付けられる。本当に心が女性化してきたのか? やめてくれよ……)
悠太の嘆きが聞こえたが、アリツェはドミニクの最後の愛を感じるので、ただただ頭がいっぱいだった。
「アリツェ……」
ドミニクの顔面は蒼白だった。
「側近たちが父に訴えている様子を、ボクも見たよ。アリツェが世界再生教にはまり、帝国と内通しようとしているのではないかってね」
力なく頭を振るドミニクを、アリツェは胸が締め付けられるような思いで見つめる。
「このまま君と婚約を続けては、国が分裂する。君の思惑どおりに事態が進んでいるのは正直悔しいけれど、ボクも覚悟を決める」
「ありがとうございます、ドミニク……」
これでいいんだと、アリツェは必死で自分の気持ちを押しとどめた。ようやく目的が果たせた。悪役令嬢も、もうこれで終わり。
「プリンツ子爵領が平定されたことで、父は近日中に精霊教を国教に指定するつもりだ。その際、精霊教で国がまとまったことを祝し、国中の有力者を王宮に招いて、盛大に宴を開くらしい」
国の内外に新たなフェイシア王国を印象付けるため、大々的に催すのだとドミニクは言う。
「わたくしたちも、当然招かれるというわけですわね」
「ああ。そして、その場には同盟国のヤゲルの人間も来る。クリスティーナ様も含めてね。で、私はその場で君との婚約の破棄を宣言する」
本来であればアリツェとドミニクの仲睦まじい姿を見せ、今後長らく国を支えていくであろう将来の公爵夫妻をアピールするのに、実に格好の場となるはずであった。だが――。
「……周知するには最適な、良い見せ場ですわね」
蜜月ぶりの披露などはされず、ドミニクの口から発せられるのは婚約破棄の宣言だ。
「併せて、クリスティーナ様からの婚約の申し出を受ける。父にもこの覚悟を伝えておく」
ドミニクは顔をくしゃくしゃにゆがめている。
「わかりましたわ。では、その手はずで」
アリツェもこの場で泣きだしたかった。だが、ここまで悪役を演じた以上は、アリツェにも意地がある。込み上げる涙を必死で抑え込んだ。
「君には帝国のスパイの疑いがかかってしまった。申し訳ないけれど、このグリューンにはもう戻れないだろう」
「……少し残念ですが、仕方がありませんわ。当初予定していたとおり、わたくしはお兄様とともにムシュカ伯爵のところに匿ってもらいますわ」
やはり王国からは追放されるようだ。せっかくもらった領地だが、あきらめるしかない。育った故郷でもあるので、感慨深い地ではあるが、きっとドミニクならうまく盛り立てていくだろう。
……最後に、ヤゲル王国のクラークの街に逃れたエマや孤児院の院長に一目会いたかったが、どうやら叶いそうもない。
「本当にすまない。君だけにこんな悪役を押し付けて」
「いいえ、わたくしが自ら発案したんですもの。ドミニクが気に病むことはありませんわ……」
うなだれるドミニクに、アリツェは優しく微笑んだ。
「この世ではあなたと結ばれることはかないませんでしたが、わたくしはいつまでも、あなたをお慕いしておりますわ」
アリツェは予感していた。もうこの世界でドミニク以上の相手は見つけられないと。であれば、恋愛結婚はもうしないだろう。そして、一度ケチのついたアリツェには、もはや政略結婚の価値もない。ラディムの下で静かに生きていくことになる。
だが、アリツェは前向きに考えた。本来の目的である精霊術の普及と、世界の余剰地核エネルギーの消費。そのためには、動きやすい身分でいたほうが都合がいいはずだと。
「ボクもだ、アリツェ……。たとえこのままクリスティーナ様と結婚することになったとしても、一生涯、君のことは忘れない」
「ドミニク……」
アリツェは改めて思う。やはりこの人しかいないのだと。
いったいどこでボタンを掛け間違い、このような結果になったのか。生まれた時代が悪かった? 聖女の存在のせい? ……わからない。だが、誰かのせいにしてはいけない。これは、アリツェが貴族の義務として、自らの意志で行ったものなのだから。
「これが最後だ。最後に、君にぬくもりを感じさせてほしい……」
「はい……」
ドミニクの言葉に応え、アリツェはドミニクに身を任せた。そのままドミニクにギュッと抱きしめられ、口づけを交わされる。この甘美な瞬間も、もうすぐ永遠に終わってしまうのかと思うと、堪えていた涙を押しとどめることは、もうできなかった。
(くそっ、なんでオレまでこんなに悲しいんだ。ドミニクの姿を見ると、ますます胸が締め付けられる。本当に心が女性化してきたのか? やめてくれよ……)
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