わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第十四章 悠太と優里菜、移ろいゆく心

8 わたくしたちの新たな関係が始まりますわ

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(ミリアなら問題ないぞ。あいつは無類のショタ好きだ。アレシュなんて、どストライクだろうな)

 とそこに、悠太の笑い声が聞こえてきた。

(ショタ……とは、何ですの?)

 久しぶりに悠太から聞き慣れない言葉が飛び出し、アリツェは尋ねた。

(深くは聞くな、きっと後悔する)

(あ、はい……)

 聞いてはいけないらしい。

 ぶつぶつと悠太の「おねショタも悪くない、か?」とつぶやく声が聞こえたが、気にしたら負けだとアリツェは思う。

「どうやらクリスティーナ様のおっしゃるとおりにするのが、皆が幸せになる道のような気が致しますわね」

 クリスティーナの自己犠牲からくる提案というわけでもなさそうだった。であるならば、今ここにいるアリツェ、ドミニク、クリスティーナ、アレシュの四者すべてにとって好都合なこの発案は、受け入れるに値する。

「よし、決まりだな。これで、ボクはアリツェと一緒にいられる!」

 ドミニクは歓喜の声を上げながら、アリツェにギュッと抱き着いた。

「ちょっ、ドミニク。クリスティーナ様とアレシュ様がみていますわ!」

 アリツェは慌ててドミニクの腕を剥がそうとするが、力が違いすぎてひっぺがえせない。

「かまうものか! ボクはずっと我慢してきたんだ!」

 ドミニクはより一層腕に力を入れ、そのままアリツェの頬に口をつけた。

「あぁ……」

 アリツェは抵抗は無駄だと悟り、脱力してドミニクのなすがままにさせた。

「それともう一つ、いい機会だから皆に伝えておこうと思う」

 アリツェを抱きしめつつ、ドミニクはクリスティーナとアレシュに視線を向けた。

「なんですの、ドミニク。改まって」

 態度はともかく、ドミニクの声は真剣だった。

「クリスティーナ様との婚約をもって、ボクが王太子になる予定だったんだ」

「え!? でも、ドミニクのお兄様、いまだ健在ですわよね」

 アリツェはひどく面食らった。第一王子であり王太子でもあるドミニクの兄がいるのに、いったいなぜ、ドミニクに王太子の座が転がり込んでくるのだろう。

「病は癒えて、命の危険はなくなった。だが、どうにも体が弱り、将来国王としての政務をこなせるような体では、なくなってしまったんだ」

 つまり、兄王太子の健康上の理由らしい。国王の政務は多岐にわたり、激務でもある。非情な決断ではあるが、病弱な第一王子ではもはや、将来の国王は務まらないと判断されたのだろう。

「それで、ボクがクリスティーナ王女との婚約を機に王太子になり、ヤゲル王国側から提案のあった連合王国の案を、より一層進めようって話になっていたんだ」

 クリスティーナのわがままから始まった連合王国の話が、まさかここまで現実味を帯びてくるとは、なかなか政治の世界も面白いとアリツェは思う。

「だが、今、状況は変わった。クリスティーナ王女と結婚するのはアレシュになる。であるならば、連合王国案を進めるためにも、アレシュが王太子になるべきだ」

 ドミニクはアレシュの顔を鋭く見つめた。アレシュは驚愕のあまり、すっかり色を失っている。

「ちょ、ちょっとお待ちください、兄上!」

 突然ドミニクから水を向けられて、アレシュは声を上ずらせた。

「アレシュ、覚悟して聞け。もしお前が本気でクリスティーナ様と結ばれたいのなら、父を説得するためにも、お前は王太子になる必要があるんだ」

 決意を促すかのように、ドミニクは厳しい口調でアレシュを責め立てる。

「ぼ、ボクは……」

 さすがに十二歳の少年には荷が重いのだろう、アレシュは言葉を濁した。

「すぐに答えを出せとは言わない。数日ゆっくり考えるんだ」

 ドミニクは立ち上がってアレシュの傍に行くと、グッとアレシュの肩をつかんだ。

「いずれにしても、今後の対帝国戦を睨めば、フェイシアとヤゲルの関係強化は必須だ。そのためには、王子の誰かがクリスティーナ様と婚約を結ぶのが一番なのは、間違いがない。今この状況での適任者は、アレシュ、お前だよ」

 ドミニクは至近距離でアレシュの顔を鋭く見据えた。アレシュはドミニクの視線から逃れるべくうつむくと、そのまま考え込み始めた。

「……わかりました、兄上。ボクも腹を決めました。王太子になります!」

 アレシュはパッと顔を上げると、ドミニクに力強く宣言した。

「よく決断した。……そんな顔をするな。もちろんボクも、公爵としてアレシュをきっちりと支えるから」

 目に涙を浮かべるアレシュの様子を見て、ドミニクは慌ててフォローをした。ポンッと軽くアレシュの頭を叩き、ニカッと笑いかける。

「お願いします、兄上……」

 アリツェはこの瞬間、ほんの少し、アレシュの姿が大きく見えた。
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