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第十四章 悠太と優里菜、移ろいゆく心
10 帝国との全面戦争ですわ!
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帝国軍の動静を知ってからの、アリツェとドミニクの行動は速かった。
アリツェたちはフェルディナントから派遣されている代官に、あれやこれやと領政に関する指示を伝える。綿密に打ち合わせをし、しっかりと引継ぎができたところで、すぐさま旅装を整えると、辺境伯領行きの高速馬車に乗り込んだ。
二週間ほどでオーミュッツに到着し、辺境伯邸の用意した馬に乗り換え、国境の前線へと向かう。
帝国と辺境伯領との国境は広大な森が広がっており、その森を縫って走る一本の街道が、両境界間の唯一の連絡手段になっている。辺境伯領軍をはじめとした王国軍は、辺境伯領側の森の入口周辺に陣を張り、その唯一の街道を見張りつつ、帝国側の様子をうかがっていた。
アリツェとドミニクは、陣の中に張られたひときわ大きな天幕の中に入った。軍の司令部として用意されたものだ。
「お兄様!」
天幕の中でフェルディナントと談笑しているラディムを見つけ、アリツェは大きな声をあげた。
「あぁ、アリツェ。それにドミニクか。よく来てくれた」
ラディムはアリツェを見遣り、片手をあげて挨拶をする。
「現状はどうなんだい?」
「今のところ特に問題はない。帝国軍の斥候隊は、見つけ次第難なく押し返しているよ」
ドミニクの問いに、ラディムは明るい表情で答えた。
「これからの方針は? 帝国内に侵攻する? それとも、このままこの国境で、帝国軍本隊と会戦を行うつもりかい?」
ドミニクは矢継ぎ早に疑問点を確認する。
今の王国側の戦力なら、帝国軍本隊ともまともにやりあえるだけの陣容は整っている。なので、迎撃だけではなく、討って出ることも可能だった。
「今、伝令鳩を使ってムシュカ伯爵軍と連絡を取り合っている。ぼちぼち伯爵側が領境を超え、ミュニホフに進軍するはずさ」
挟み撃ちでうまいこと帝国側の戦力を二分するのが、この作戦の肝だ。伯爵側との連携は欠かせない。
「そうだよな、エリシュカ」
ラディムは傍に立つエリシュカに視線を向けた。
「はい、殿下っ! 父からの連絡では、そのような手はずになっております」
エリシュカはにこにこと微笑みながらうなずいた。エリシュカはぴたりとラディムの傍に張り付いており、二人の仲の良さがうかがえる。
「ということは、帝国軍本軍も全力ではこちらに攻めてこられないってわけだね」
「そうなるな。うまいこと伯爵軍と連携を取りながら、じわじわとミュニホフまで攻め入りたい」
ドミニクの言葉に、ラディムは首肯した。
と、その時、するするっとトラ柄の子猫がラディムの身体をよじ登り、そのままちょこんと肩に座り込んだ。
「そういえば、ミアちゃん見つかったんですね、お兄様」
ラディムの使い魔のミアだった。ミアは嬉しそうにラディムの首筋に顔をこすりつけている。
「あぁ、国境地帯で布陣している際に、ミア自ら戻ってきたよ。本当に賢い奴だな」
ラディムもミアの乗っている側とは逆の手で、ミアの頭をやさしく撫でた。ラディムがベルナルドに捕らえられた際にうまく逃げのびたミアは、しばらく行方が知れなかった。だが、この地に陣を構え始めてからしばらくして、ひょっこりとラディムの前に現れたらしい。国境の森の中で身を潜めていたと、ミア自身は語ったそうだ。
「これで、仔馬のラースも含め、かつての精霊使いカレル・プリンツが率いた四匹の使い魔が、すべてそろったことになりますわ」
アリツェが子犬のペスと鳩のルゥ、ラディムが子猫のミアと仔馬のラース。悠太の操るカレル・プリンツが、『精霊たちの憂鬱』時代に従えていた使い魔たちだ。
「カレル……悠太はこの四匹を同時に一人で従えていたんだろ? そう考えると、精霊使いとしての実力がいかにすごかったのか、よくわかるな」
四匹の使い魔がいるということは、イコール四つの属性の精霊術を同時に行使できるということだ。
「そうですわね……」
ラディムの感嘆の声に、アリツェも同意した。
今のアリツェには決してできない。悠太の水準に達するには、あとどれほどの修練が必要だろうか。
「国王陛下の話では、間もなくヤゲル王国の援軍も到着するらしい。早急に援軍を出すようにとのヤゲル国王への強い働きかけが、聖女様からあったって聞いているが、アリツェ、聖女様と何かあったのか? 結局、婚約破棄もなくなっているし」
「あっ、申し訳ございませんわ! お兄様のところには、まだ情報が伝わっていらっしゃらなかったのですね」
ラディムの言葉に、アリツェはしまったと思った。子爵領の安定のことばかり考えていて、ラディムへの報告をすっかり失念していたからだ。聖女については転生者がらみなので、ラディムにも大いに関係がある。きちんと説明しておかなければいけなかった。
「後ほど食事の際にでも、詳しく説明させていただきますわ」
「よろしく頼むよ」
アリツェの提案にラディムは応じた。
「さて、いよいよ帝国との全面戦争だ。叔父上、アリツェ、ドミニク、それにエリシュカ。必ず勝利をこの手に掴もうっ!」
ラディムはぐるりと場にいる全員に目を遣り、こぶしを固めて力強く宣言した。
中央大陸歴八一三年十二月――。
いよいよバイアー帝国とフェイシア王国との全面戦争の火ぶたが、切って落とされようとしていた。
第三部 悪役令嬢と王子と聖女と ――完――
アリツェたちはフェルディナントから派遣されている代官に、あれやこれやと領政に関する指示を伝える。綿密に打ち合わせをし、しっかりと引継ぎができたところで、すぐさま旅装を整えると、辺境伯領行きの高速馬車に乗り込んだ。
二週間ほどでオーミュッツに到着し、辺境伯邸の用意した馬に乗り換え、国境の前線へと向かう。
帝国と辺境伯領との国境は広大な森が広がっており、その森を縫って走る一本の街道が、両境界間の唯一の連絡手段になっている。辺境伯領軍をはじめとした王国軍は、辺境伯領側の森の入口周辺に陣を張り、その唯一の街道を見張りつつ、帝国側の様子をうかがっていた。
アリツェとドミニクは、陣の中に張られたひときわ大きな天幕の中に入った。軍の司令部として用意されたものだ。
「お兄様!」
天幕の中でフェルディナントと談笑しているラディムを見つけ、アリツェは大きな声をあげた。
「あぁ、アリツェ。それにドミニクか。よく来てくれた」
ラディムはアリツェを見遣り、片手をあげて挨拶をする。
「現状はどうなんだい?」
「今のところ特に問題はない。帝国軍の斥候隊は、見つけ次第難なく押し返しているよ」
ドミニクの問いに、ラディムは明るい表情で答えた。
「これからの方針は? 帝国内に侵攻する? それとも、このままこの国境で、帝国軍本隊と会戦を行うつもりかい?」
ドミニクは矢継ぎ早に疑問点を確認する。
今の王国側の戦力なら、帝国軍本隊ともまともにやりあえるだけの陣容は整っている。なので、迎撃だけではなく、討って出ることも可能だった。
「今、伝令鳩を使ってムシュカ伯爵軍と連絡を取り合っている。ぼちぼち伯爵側が領境を超え、ミュニホフに進軍するはずさ」
挟み撃ちでうまいこと帝国側の戦力を二分するのが、この作戦の肝だ。伯爵側との連携は欠かせない。
「そうだよな、エリシュカ」
ラディムは傍に立つエリシュカに視線を向けた。
「はい、殿下っ! 父からの連絡では、そのような手はずになっております」
エリシュカはにこにこと微笑みながらうなずいた。エリシュカはぴたりとラディムの傍に張り付いており、二人の仲の良さがうかがえる。
「ということは、帝国軍本軍も全力ではこちらに攻めてこられないってわけだね」
「そうなるな。うまいこと伯爵軍と連携を取りながら、じわじわとミュニホフまで攻め入りたい」
ドミニクの言葉に、ラディムは首肯した。
と、その時、するするっとトラ柄の子猫がラディムの身体をよじ登り、そのままちょこんと肩に座り込んだ。
「そういえば、ミアちゃん見つかったんですね、お兄様」
ラディムの使い魔のミアだった。ミアは嬉しそうにラディムの首筋に顔をこすりつけている。
「あぁ、国境地帯で布陣している際に、ミア自ら戻ってきたよ。本当に賢い奴だな」
ラディムもミアの乗っている側とは逆の手で、ミアの頭をやさしく撫でた。ラディムがベルナルドに捕らえられた際にうまく逃げのびたミアは、しばらく行方が知れなかった。だが、この地に陣を構え始めてからしばらくして、ひょっこりとラディムの前に現れたらしい。国境の森の中で身を潜めていたと、ミア自身は語ったそうだ。
「これで、仔馬のラースも含め、かつての精霊使いカレル・プリンツが率いた四匹の使い魔が、すべてそろったことになりますわ」
アリツェが子犬のペスと鳩のルゥ、ラディムが子猫のミアと仔馬のラース。悠太の操るカレル・プリンツが、『精霊たちの憂鬱』時代に従えていた使い魔たちだ。
「カレル……悠太はこの四匹を同時に一人で従えていたんだろ? そう考えると、精霊使いとしての実力がいかにすごかったのか、よくわかるな」
四匹の使い魔がいるということは、イコール四つの属性の精霊術を同時に行使できるということだ。
「そうですわね……」
ラディムの感嘆の声に、アリツェも同意した。
今のアリツェには決してできない。悠太の水準に達するには、あとどれほどの修練が必要だろうか。
「国王陛下の話では、間もなくヤゲル王国の援軍も到着するらしい。早急に援軍を出すようにとのヤゲル国王への強い働きかけが、聖女様からあったって聞いているが、アリツェ、聖女様と何かあったのか? 結局、婚約破棄もなくなっているし」
「あっ、申し訳ございませんわ! お兄様のところには、まだ情報が伝わっていらっしゃらなかったのですね」
ラディムの言葉に、アリツェはしまったと思った。子爵領の安定のことばかり考えていて、ラディムへの報告をすっかり失念していたからだ。聖女については転生者がらみなので、ラディムにも大いに関係がある。きちんと説明しておかなければいけなかった。
「後ほど食事の際にでも、詳しく説明させていただきますわ」
「よろしく頼むよ」
アリツェの提案にラディムは応じた。
「さて、いよいよ帝国との全面戦争だ。叔父上、アリツェ、ドミニク、それにエリシュカ。必ず勝利をこの手に掴もうっ!」
ラディムはぐるりと場にいる全員に目を遣り、こぶしを固めて力強く宣言した。
中央大陸歴八一三年十二月――。
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