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第十五章 再会
1 グリューンへとんぼ返りですの!?
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フェイシア王国軍の陣地は、バイアー帝国との国境沿いの森の入口に張られている。今のところまだ、静寂を保っていた。
帝国軍が帝都ミュニホフを発ったとの知らせが入ってから、アリツェたちがこの陣地に戻ってくるまでおそよ二週間が経過していた。相変わらず帝国軍先遣部隊のちょっかいはあるものの、王国軍側も特段の問題もなく追い返している。
帝国軍本隊は前回の皇帝親征と同様に、各村々を回りつつのゆっくりとした行軍のようで、実際に王国軍と対峙するのはまだ二か月程度は先になりそうだ。今は十二月、これから本格的に冬に突入するため、行軍スピードは特に遅くなる。雪こそめったに降らないが、寒さ自体は厳しく、また、強風の日が多いため、大軍での行動にはかなりの支障が出る季節だった。
そのような状況であったため、王国軍内部の様子は、アリツェも驚くくらい落ち着いていた。
そんな中、アリツェはドミニクから意外な話題を提供される。
「え? 婚約の儀、ですの?」
戦場には似つかわしくない単語がドミニクの口から飛び出し、アリツェはきょとんとした。クリスティーナ王女とアレシュ王子の婚約の儀……。
「うん、急きょ決まったらしいんだ。……さすが聖女様だ、行動が早いね」
ドミニクは苦笑している。
アリツェも同じ気分だった。クリスティーナのような傍若無人なわがままな性格ではないが、ミリアも我が強いところがあると悠太は言っていた。狙った獲物はさっさと手に入れようという魂胆なのだろうか。真相はわからない。だが、アレシュも乗り気なので、話はわりとすんなりと進んだとはドミニクの弁だ。
「それにしたって、なぜグリューンで?」
今回の話で一番の疑問点は開催場所だった。婚約する二人とは関係のないはずのアリツェの領地グリューンで、なぜだか婚約の儀を催したいという。意味が分からなかった。
「フェイシアの王都プラガとヤゲルの王都ワルスの中間にあたるからだってさ。今は戦時で、フェイシア側の重鎮が国内を離れるのが難しいって事情もあると言っていたね」
「はぁ、わかりましたわ。せっかく前線まで出向いたのに、すぐさまグリューンにとんぼ返りだなんて……」
ドミニクの言葉に、状況を考えれば妥当なのかなとアリツェは思いなおした。クリスティーナはグリューン訪問の経験もあるし、ヤゲル王国の者がフェイシア王国に入国する際の玄関口でもあるから、ある意味最適な場所なのかもしれなかった。
「まぁ、おめでたい席をボクたち主催で開けるんだ。名誉なことと思おうよ。それに、新生プリンツ子爵領をアピールするにはいい機会だと思うしね」
ドミニクはぱちりとアリツェに向けて片目をつむった。
「……ドミニクの言うとおりですわね。前向きに考えましょうか」
クリスティーナ――というか、ミリアの人格の計らいで、王国内でのアリツェの悪評もだいぶ収まってはいたが、それでも、中にはまだ、アリツェに対してよくない感情を抱いている者もいると聞いている。であれば、偶然にも転がり込んできたこの汚名返上の機会を、活用しないわけにはいかないだろう。
アリツェがグリューンでの婚約の儀開催を同意するや、すぐに日取りがひと月後と決められた。アリツェは慌ててグリューンへの高速馬車に乗り込み、領地へ急いだ。また、先触れに伝書鳩を飛ばし、領の代官に婚約の儀の準備を進めるよう指示も送る。
帝国軍が国境地帯に到着するまでにすべてを終えて、再び前線に戻らなければならない。これから二か月は目の回る忙しさになりそうだった。
「お兄様もいらっしゃるんですね。フェルディナント叔父様、よく許可を出されましたわね」
アリツェは対面に座るラディムとエリシュカに目を向けた。
ラディムは高速馬車に揺られながら、エリシュカとともに窓の外の様子を楽しそうに眺めている。
「クリスティーナ様が転生者がらみってわかったからな。うまいこと説得してみた」
アリツェの問いに、ラディムは視線をチラリとアリツェに向け、答えた。
クリスティーナがミリアの転生体であるとわかった以上、ラディムにとってもクリスティーナの存在は、より一層重要なものに変化している。それに、ラディムの立場から考えても益がある。将来ラディムによって新たな帝国が打ち立てられた際に、帝国とヤゲル王国との交流は必須だ。今回の婚約の儀にラディムが出席していたという事実は、有利に働くに違いない。
おそらくはこういった事情で、ラディムは無理やりフェルディナントを説得したのだろう。
「あまり無茶を言って、叔父様を困らせないでくださいませ」
ただ、前線に残るフェルディナントの苦労がしのばれる。二か月近く、総大将のラディムが不在になるのだから。ストレスで胃に穴をあけなければいいが……。
「わかっているさ」
ラディムはおざなりに返事を返した。本当にわかっているのだろうか……。
帝国軍が帝都ミュニホフを発ったとの知らせが入ってから、アリツェたちがこの陣地に戻ってくるまでおそよ二週間が経過していた。相変わらず帝国軍先遣部隊のちょっかいはあるものの、王国軍側も特段の問題もなく追い返している。
帝国軍本隊は前回の皇帝親征と同様に、各村々を回りつつのゆっくりとした行軍のようで、実際に王国軍と対峙するのはまだ二か月程度は先になりそうだ。今は十二月、これから本格的に冬に突入するため、行軍スピードは特に遅くなる。雪こそめったに降らないが、寒さ自体は厳しく、また、強風の日が多いため、大軍での行動にはかなりの支障が出る季節だった。
そのような状況であったため、王国軍内部の様子は、アリツェも驚くくらい落ち着いていた。
そんな中、アリツェはドミニクから意外な話題を提供される。
「え? 婚約の儀、ですの?」
戦場には似つかわしくない単語がドミニクの口から飛び出し、アリツェはきょとんとした。クリスティーナ王女とアレシュ王子の婚約の儀……。
「うん、急きょ決まったらしいんだ。……さすが聖女様だ、行動が早いね」
ドミニクは苦笑している。
アリツェも同じ気分だった。クリスティーナのような傍若無人なわがままな性格ではないが、ミリアも我が強いところがあると悠太は言っていた。狙った獲物はさっさと手に入れようという魂胆なのだろうか。真相はわからない。だが、アレシュも乗り気なので、話はわりとすんなりと進んだとはドミニクの弁だ。
「それにしたって、なぜグリューンで?」
今回の話で一番の疑問点は開催場所だった。婚約する二人とは関係のないはずのアリツェの領地グリューンで、なぜだか婚約の儀を催したいという。意味が分からなかった。
「フェイシアの王都プラガとヤゲルの王都ワルスの中間にあたるからだってさ。今は戦時で、フェイシア側の重鎮が国内を離れるのが難しいって事情もあると言っていたね」
「はぁ、わかりましたわ。せっかく前線まで出向いたのに、すぐさまグリューンにとんぼ返りだなんて……」
ドミニクの言葉に、状況を考えれば妥当なのかなとアリツェは思いなおした。クリスティーナはグリューン訪問の経験もあるし、ヤゲル王国の者がフェイシア王国に入国する際の玄関口でもあるから、ある意味最適な場所なのかもしれなかった。
「まぁ、おめでたい席をボクたち主催で開けるんだ。名誉なことと思おうよ。それに、新生プリンツ子爵領をアピールするにはいい機会だと思うしね」
ドミニクはぱちりとアリツェに向けて片目をつむった。
「……ドミニクの言うとおりですわね。前向きに考えましょうか」
クリスティーナ――というか、ミリアの人格の計らいで、王国内でのアリツェの悪評もだいぶ収まってはいたが、それでも、中にはまだ、アリツェに対してよくない感情を抱いている者もいると聞いている。であれば、偶然にも転がり込んできたこの汚名返上の機会を、活用しないわけにはいかないだろう。
アリツェがグリューンでの婚約の儀開催を同意するや、すぐに日取りがひと月後と決められた。アリツェは慌ててグリューンへの高速馬車に乗り込み、領地へ急いだ。また、先触れに伝書鳩を飛ばし、領の代官に婚約の儀の準備を進めるよう指示も送る。
帝国軍が国境地帯に到着するまでにすべてを終えて、再び前線に戻らなければならない。これから二か月は目の回る忙しさになりそうだった。
「お兄様もいらっしゃるんですね。フェルディナント叔父様、よく許可を出されましたわね」
アリツェは対面に座るラディムとエリシュカに目を向けた。
ラディムは高速馬車に揺られながら、エリシュカとともに窓の外の様子を楽しそうに眺めている。
「クリスティーナ様が転生者がらみってわかったからな。うまいこと説得してみた」
アリツェの問いに、ラディムは視線をチラリとアリツェに向け、答えた。
クリスティーナがミリアの転生体であるとわかった以上、ラディムにとってもクリスティーナの存在は、より一層重要なものに変化している。それに、ラディムの立場から考えても益がある。将来ラディムによって新たな帝国が打ち立てられた際に、帝国とヤゲル王国との交流は必須だ。今回の婚約の儀にラディムが出席していたという事実は、有利に働くに違いない。
おそらくはこういった事情で、ラディムは無理やりフェルディナントを説得したのだろう。
「あまり無茶を言って、叔父様を困らせないでくださいませ」
ただ、前線に残るフェルディナントの苦労がしのばれる。二か月近く、総大将のラディムが不在になるのだから。ストレスで胃に穴をあけなければいいが……。
「わかっているさ」
ラディムはおざなりに返事を返した。本当にわかっているのだろうか……。
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