165 / 272
第十五章 再会
2 随分と復興してきましたわ
しおりを挟む
「エリシュカ、この戦争が終わったら私たちも……」
アリツェが嘆息をついていると、ラディムは隣に座るエリシュカへ向き直り、見つめあい始めた。
「は、はいっ!」
エリシュカは声を震わせ、顔を真っ赤に染めている。
「あ、あの……。お兄様、それって死亡フラグじゃ」
ラディムの台詞を聞き、アリツェは悠太の記憶の中にあったある単語が頭に浮かび、思わず口に出した。
(シーッ、アリツェ、黙っておけ。あの幸せな雰囲気をぶち壊しちまうぞ)
(あ、はい……)
悠太からたしなめられ、アリツェはそれ以上は言うのをやめた。
「さて、指示を出しておいた代官は頑張っているかな。前線へ出てひと月ちょっとが経ったけれど、少しは変わったと思うかい?」
ラディムとエリシュカの様子にあてられたのか、ドミニクはアリツェの傍にぴたりと張り付き、腰に手を回してきた。
「どうでしょうか? でも、元がどん底状態でしたし、まだまだ先は長いと思いますわ」
アリツェも体をドミニクに預け、寄り掛かった。ドミニクのぬくもりを感じると、とても落ち着く。
「早くかつての状態に戻るといいね。私たちの結婚式のときには、盛大にお披露目をしたいものだよ」
「そうですわね!」
ニコリと微笑むドミニクに、アリツェは精いっぱいの笑顔で応えた。
二週間ほどの旅で、アリツェたちを乗せた高速馬車はグリューンに入った。
道中は冬の寒さが体に堪えたが、幸いにも天気が崩れる日はなく、体調を崩す者は出なかった。馬車の旅とはいえ強行軍である。一度身体を壊せば回復するまで時間がかかる。そのような余計な時間を取られることなく移動できたのは、今の季節を考えれば運がよかった。ただ、運動不足と馬車の揺れによる腰への疲労の蓄積は避けようがないため、全身がカチカチにこわばった。馬車から降りるや、皆思い思いに体を伸ばし始める。
街の大通りの様子を確認したかったアリツェは、グリューンの入口で馬車から降り、子爵邸までは徒歩で進むことにした。先だってグリューンを出てから約四週間、どの程度街の景気は回復しているだろうか。
「へぇ、随分と露店の数も増えてきた感じだね」
ドミニクが体の節々を曲げ伸ばししながらつぶやいた。
「フェルディナント叔父様からよこしてくださったあの代官、なかなか優秀ですわね。こちらの指示以上の采配を振るってくださっているようですわ」
ドミニクの言葉にアリツェもうなずいた。
確かに露店は増えている。今が冬場だという点も考慮に入れれば、かなりの成果ではないかとアリツェは思った。
「これなら再度、前線に出ても大丈夫そうだね」
ドミニクは嬉しそうに相好を崩した。
今の代官には安心して領を任せられる。確かに喜ばしい。
「一度お養父様の指示で壊された精霊教の教会や孤児院も、間もなく再建が済むそうですわ。クラークに逃げていた皆との再会ももうすぐ叶いそうで、わたくし楽しみですの」
アリツェは領を出る前に事務官から受けた報告を思い出した。そろそろ建物が竣工するはずだ。
「クラークに避難していた精霊教関係者って言うと、アリツェを子爵の手から守っていた人たちか?」
「そうですわ、お兄様! 皆様、とてもすてきなんですのよ!」
ラディムの問いに、アリツェは嬉々として答えた。
「それは、私も一目会うのが楽しみだな」
「ええ! ぜひ紹介させていただきますわ!」
アリツェは破顔し、ラディムの手をぎゅっと握りしめた。
アリツェが嘆息をついていると、ラディムは隣に座るエリシュカへ向き直り、見つめあい始めた。
「は、はいっ!」
エリシュカは声を震わせ、顔を真っ赤に染めている。
「あ、あの……。お兄様、それって死亡フラグじゃ」
ラディムの台詞を聞き、アリツェは悠太の記憶の中にあったある単語が頭に浮かび、思わず口に出した。
(シーッ、アリツェ、黙っておけ。あの幸せな雰囲気をぶち壊しちまうぞ)
(あ、はい……)
悠太からたしなめられ、アリツェはそれ以上は言うのをやめた。
「さて、指示を出しておいた代官は頑張っているかな。前線へ出てひと月ちょっとが経ったけれど、少しは変わったと思うかい?」
ラディムとエリシュカの様子にあてられたのか、ドミニクはアリツェの傍にぴたりと張り付き、腰に手を回してきた。
「どうでしょうか? でも、元がどん底状態でしたし、まだまだ先は長いと思いますわ」
アリツェも体をドミニクに預け、寄り掛かった。ドミニクのぬくもりを感じると、とても落ち着く。
「早くかつての状態に戻るといいね。私たちの結婚式のときには、盛大にお披露目をしたいものだよ」
「そうですわね!」
ニコリと微笑むドミニクに、アリツェは精いっぱいの笑顔で応えた。
二週間ほどの旅で、アリツェたちを乗せた高速馬車はグリューンに入った。
道中は冬の寒さが体に堪えたが、幸いにも天気が崩れる日はなく、体調を崩す者は出なかった。馬車の旅とはいえ強行軍である。一度身体を壊せば回復するまで時間がかかる。そのような余計な時間を取られることなく移動できたのは、今の季節を考えれば運がよかった。ただ、運動不足と馬車の揺れによる腰への疲労の蓄積は避けようがないため、全身がカチカチにこわばった。馬車から降りるや、皆思い思いに体を伸ばし始める。
街の大通りの様子を確認したかったアリツェは、グリューンの入口で馬車から降り、子爵邸までは徒歩で進むことにした。先だってグリューンを出てから約四週間、どの程度街の景気は回復しているだろうか。
「へぇ、随分と露店の数も増えてきた感じだね」
ドミニクが体の節々を曲げ伸ばししながらつぶやいた。
「フェルディナント叔父様からよこしてくださったあの代官、なかなか優秀ですわね。こちらの指示以上の采配を振るってくださっているようですわ」
ドミニクの言葉にアリツェもうなずいた。
確かに露店は増えている。今が冬場だという点も考慮に入れれば、かなりの成果ではないかとアリツェは思った。
「これなら再度、前線に出ても大丈夫そうだね」
ドミニクは嬉しそうに相好を崩した。
今の代官には安心して領を任せられる。確かに喜ばしい。
「一度お養父様の指示で壊された精霊教の教会や孤児院も、間もなく再建が済むそうですわ。クラークに逃げていた皆との再会ももうすぐ叶いそうで、わたくし楽しみですの」
アリツェは領を出る前に事務官から受けた報告を思い出した。そろそろ建物が竣工するはずだ。
「クラークに避難していた精霊教関係者って言うと、アリツェを子爵の手から守っていた人たちか?」
「そうですわ、お兄様! 皆様、とてもすてきなんですのよ!」
ラディムの問いに、アリツェは嬉々として答えた。
「それは、私も一目会うのが楽しみだな」
「ええ! ぜひ紹介させていただきますわ!」
アリツェは破顔し、ラディムの手をぎゅっと握りしめた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる