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第十五章 再会
2 随分と復興してきましたわ
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「エリシュカ、この戦争が終わったら私たちも……」
アリツェが嘆息をついていると、ラディムは隣に座るエリシュカへ向き直り、見つめあい始めた。
「は、はいっ!」
エリシュカは声を震わせ、顔を真っ赤に染めている。
「あ、あの……。お兄様、それって死亡フラグじゃ」
ラディムの台詞を聞き、アリツェは悠太の記憶の中にあったある単語が頭に浮かび、思わず口に出した。
(シーッ、アリツェ、黙っておけ。あの幸せな雰囲気をぶち壊しちまうぞ)
(あ、はい……)
悠太からたしなめられ、アリツェはそれ以上は言うのをやめた。
「さて、指示を出しておいた代官は頑張っているかな。前線へ出てひと月ちょっとが経ったけれど、少しは変わったと思うかい?」
ラディムとエリシュカの様子にあてられたのか、ドミニクはアリツェの傍にぴたりと張り付き、腰に手を回してきた。
「どうでしょうか? でも、元がどん底状態でしたし、まだまだ先は長いと思いますわ」
アリツェも体をドミニクに預け、寄り掛かった。ドミニクのぬくもりを感じると、とても落ち着く。
「早くかつての状態に戻るといいね。私たちの結婚式のときには、盛大にお披露目をしたいものだよ」
「そうですわね!」
ニコリと微笑むドミニクに、アリツェは精いっぱいの笑顔で応えた。
二週間ほどの旅で、アリツェたちを乗せた高速馬車はグリューンに入った。
道中は冬の寒さが体に堪えたが、幸いにも天気が崩れる日はなく、体調を崩す者は出なかった。馬車の旅とはいえ強行軍である。一度身体を壊せば回復するまで時間がかかる。そのような余計な時間を取られることなく移動できたのは、今の季節を考えれば運がよかった。ただ、運動不足と馬車の揺れによる腰への疲労の蓄積は避けようがないため、全身がカチカチにこわばった。馬車から降りるや、皆思い思いに体を伸ばし始める。
街の大通りの様子を確認したかったアリツェは、グリューンの入口で馬車から降り、子爵邸までは徒歩で進むことにした。先だってグリューンを出てから約四週間、どの程度街の景気は回復しているだろうか。
「へぇ、随分と露店の数も増えてきた感じだね」
ドミニクが体の節々を曲げ伸ばししながらつぶやいた。
「フェルディナント叔父様からよこしてくださったあの代官、なかなか優秀ですわね。こちらの指示以上の采配を振るってくださっているようですわ」
ドミニクの言葉にアリツェもうなずいた。
確かに露店は増えている。今が冬場だという点も考慮に入れれば、かなりの成果ではないかとアリツェは思った。
「これなら再度、前線に出ても大丈夫そうだね」
ドミニクは嬉しそうに相好を崩した。
今の代官には安心して領を任せられる。確かに喜ばしい。
「一度お養父様の指示で壊された精霊教の教会や孤児院も、間もなく再建が済むそうですわ。クラークに逃げていた皆との再会ももうすぐ叶いそうで、わたくし楽しみですの」
アリツェは領を出る前に事務官から受けた報告を思い出した。そろそろ建物が竣工するはずだ。
「クラークに避難していた精霊教関係者って言うと、アリツェを子爵の手から守っていた人たちか?」
「そうですわ、お兄様! 皆様、とてもすてきなんですのよ!」
ラディムの問いに、アリツェは嬉々として答えた。
「それは、私も一目会うのが楽しみだな」
「ええ! ぜひ紹介させていただきますわ!」
アリツェは破顔し、ラディムの手をぎゅっと握りしめた。
アリツェが嘆息をついていると、ラディムは隣に座るエリシュカへ向き直り、見つめあい始めた。
「は、はいっ!」
エリシュカは声を震わせ、顔を真っ赤に染めている。
「あ、あの……。お兄様、それって死亡フラグじゃ」
ラディムの台詞を聞き、アリツェは悠太の記憶の中にあったある単語が頭に浮かび、思わず口に出した。
(シーッ、アリツェ、黙っておけ。あの幸せな雰囲気をぶち壊しちまうぞ)
(あ、はい……)
悠太からたしなめられ、アリツェはそれ以上は言うのをやめた。
「さて、指示を出しておいた代官は頑張っているかな。前線へ出てひと月ちょっとが経ったけれど、少しは変わったと思うかい?」
ラディムとエリシュカの様子にあてられたのか、ドミニクはアリツェの傍にぴたりと張り付き、腰に手を回してきた。
「どうでしょうか? でも、元がどん底状態でしたし、まだまだ先は長いと思いますわ」
アリツェも体をドミニクに預け、寄り掛かった。ドミニクのぬくもりを感じると、とても落ち着く。
「早くかつての状態に戻るといいね。私たちの結婚式のときには、盛大にお披露目をしたいものだよ」
「そうですわね!」
ニコリと微笑むドミニクに、アリツェは精いっぱいの笑顔で応えた。
二週間ほどの旅で、アリツェたちを乗せた高速馬車はグリューンに入った。
道中は冬の寒さが体に堪えたが、幸いにも天気が崩れる日はなく、体調を崩す者は出なかった。馬車の旅とはいえ強行軍である。一度身体を壊せば回復するまで時間がかかる。そのような余計な時間を取られることなく移動できたのは、今の季節を考えれば運がよかった。ただ、運動不足と馬車の揺れによる腰への疲労の蓄積は避けようがないため、全身がカチカチにこわばった。馬車から降りるや、皆思い思いに体を伸ばし始める。
街の大通りの様子を確認したかったアリツェは、グリューンの入口で馬車から降り、子爵邸までは徒歩で進むことにした。先だってグリューンを出てから約四週間、どの程度街の景気は回復しているだろうか。
「へぇ、随分と露店の数も増えてきた感じだね」
ドミニクが体の節々を曲げ伸ばししながらつぶやいた。
「フェルディナント叔父様からよこしてくださったあの代官、なかなか優秀ですわね。こちらの指示以上の采配を振るってくださっているようですわ」
ドミニクの言葉にアリツェもうなずいた。
確かに露店は増えている。今が冬場だという点も考慮に入れれば、かなりの成果ではないかとアリツェは思った。
「これなら再度、前線に出ても大丈夫そうだね」
ドミニクは嬉しそうに相好を崩した。
今の代官には安心して領を任せられる。確かに喜ばしい。
「一度お養父様の指示で壊された精霊教の教会や孤児院も、間もなく再建が済むそうですわ。クラークに逃げていた皆との再会ももうすぐ叶いそうで、わたくし楽しみですの」
アリツェは領を出る前に事務官から受けた報告を思い出した。そろそろ建物が竣工するはずだ。
「クラークに避難していた精霊教関係者って言うと、アリツェを子爵の手から守っていた人たちか?」
「そうですわ、お兄様! 皆様、とてもすてきなんですのよ!」
ラディムの問いに、アリツェは嬉々として答えた。
「それは、私も一目会うのが楽しみだな」
「ええ! ぜひ紹介させていただきますわ!」
アリツェは破顔し、ラディムの手をぎゅっと握りしめた。
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