わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

文字の大きさ
167 / 272
第十五章 再会

4 性悪聖女様は吸収されましたの?

しおりを挟む
 翌日、アリツェの私室にクリスティーナが尋ねてきた。

「アリツェ、昨日は素晴らしい式を、本当にありがとう。一生の思い出になるわ」

 どうやら興奮もあってあまり眠れていないのか、クリスティーナの目の周りにはクマがある。

「いいんですのよ、クリスティーナ。わたくしとあなたの仲ではないですか」

 眠いだろうにわざわざ礼を言いに来たクリスティーナに、アリツェは優しく微笑んだ。

「ほんと、かわいいわね、あなた」

 クリスティーナはアリツェの傍までよって、そのままアリツェを抱きしめようとした。

「ダメですよ、クリスティーナ様。アリツェはボクのものです。あげませんからね」

 その様子を見ていたドミニクが慌てて割って入り、代わりにアリツェを抱き寄せた。

「ちょ、ちょっとドミニクっ!」

 ドミニクの突然の行動に、アリツェは慌てて声を上げた。だが、ドミニクは手を緩めない。

「あらあら、お熱いことね」

 クリスティーナは苦笑を浮かべていた。

 クリスティーナに見られる気恥ずかしさもあり、アリツェは全身が熱くなる。

「……それはそうと、一つあなたに報告をしたい話が。悪いけれど、ラディム君も呼んでもらえるかしら?」

 クリスティーナは急に真面目な表情に変わり、ラディムの同席を要求した。

 わざわざラディムを指名という点に、どうやら転生者がらみの話だとアリツェは察し、すぐさま侍女にラディムを呼んでくるよう指示をした。






「クリスティーナ様、私にも御用で?」

 呼ばれたラディムが、すぐにアリツェの私室に姿を現した。

「すみません、ラディム君。あ、あとあなたもできれば私を呼び捨てにしてもらえると嬉しいわ」

 クリスティーナはラディムに微笑んだ。

「あぁ、わかった、クリスティーナ」

 一瞬躊躇したものの、ラディムは素直に首肯する。

「……実はね、私の中の人格についてなの」

 やはり、転生者がらみの話のようだ。

「昨日の婚約の儀を終えて、疲れたのでベッドで横になってウトウトとしていたんだけれど」

「あ、もしかして……」

 アリツェはピンときた。ミリアが表に出てきて以来、一度もクリスティーナの人格が現れていない点を考えると、おそらくは……。

「そう、人格が統合されたわ。私が押さえ込んでいたクリスティーナの人格が急速に消えて、私の中にスーッと溶け込んでいくような感覚を覚えたわ」

 クリスティーナは目を閉じ、胸の前で両手を合わせる。

「で、目が覚めたら、かつてのクリスティーナの人格は完全に消えていて、彼女の記憶のみが私の中にとどまったの」

「完全に、消えた……」

 クリスティーナの言葉に、アリツェは目をむいた。

「あ、消えたって言っても、なんだか不思議なのよ。こうして人格はミリアなんだけれど、同時にクリスティーナでもあるっていう感覚。説明が難しいわね。とにかく、消えたからって言っても、完全に消滅したわけではない。ミリアの人格の中にクリスティーナの人格が混じりこんでいるのよ」

 アリツェとラディムが押し黙っていると、クリスティーナは慌てて弁解した。

「ヴァーツラフ様が言っていたとおり、まじりあうのですわね。実際に体験しないと、感覚はわかりそうにありませんけれど」

 クリスティーナの話を聞いてもどうにも理解がしがたいが、人格自体が無くなってしまったわけではないようだ。溶け合って、融合する。言葉で表現すればこんな感じになるのだろうか。

 本来であればアリツェと悠太もそうなるはずだった。結局は二重人格で固定されてしまったが。

 ……だが、最近悠太の様子がおかしいとも、アリツェは感じていた。以前優里菜との会話で、悠太の人格がアリツェに統合されそうだと不安を吐露しているのを見た。悠太の思考がアリツェに寄ってきていて、アリツェを主人格に人格が統合されるのではないかとの危惧を、ここのところの悠太はずっと持っているようだった。

 言葉を裏付けるかのように、最近は夜になっても悠太の人格が表に出てこようとはせず、アリツェがそのまま夜も活動する機会が増えていた。ミリアがクリスティーナの人格を抑えて表に出てこないようにしていた状況と、似ていると言えば似ているのかもしれない。であれば、アリツェと悠太の行きつく先は……。

「うまく説明できなくてごめんなさいね」

 クリスティーナは少し悔しそうに頭を振った。

「いずれにしても、これでわがまま娘の人格に悩まされはしなくなるわ。これから始まる本格的な対帝国戦に、私もより一層協力させていただくわ」

 クリスティーナはアリツェの手を握り締める。

「ありがとうございます、クリスティーナ」

「助かる、クリスティーナ」

 アリツェとラディムはクリスティーナの配慮に礼を述べた。今度の戦いは絶対の勝利が求められる。心強い味方は多いに越したことはない。

「ふふ、私たちは同じ転生者同士ですし、アリツェとラディム君の中には私のかつてのパーティーメンバーがいるんです。当然です」

 クリスティーナは得意げに鼻を鳴らし、グイっと胸を張った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...