わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

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第十六章 王国軍対帝国軍

7 調理当番ですの?

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 王国軍の大勝後、数日が経過した。一方的な展開で終わったため、帝国軍側は態勢の立て直しが追い付いていないのだろうか、あれからまったく攻めてはこなかった。

 アリツェは引き続き、周囲の霊素を探るための哨戒に出ていた。だが、それ以外の時間は手が空くことが多くなった。暇を持て余し、アリツェは自分の天幕でくつろぎながら、懸念だった器用さ向上のために簡単な編み物を始めた。

 アリツェが編み棒を前に悪戦苦闘していると、ドミニクがやってきて面白い話を振ってきた。

「え? 料理当番ですの?」

 アリツェは首をかしげた。

 ドミニクが言うには、軍属の料理人の手が回りきっておらず、野菜を切るだけでもいいから助っ人が欲しいという話らしい。

「うん。アリツェ、料理を習いたがっていたよね。どうだい、参加してみないか?」

 ドミニクはニコニコと笑みを浮かべている。

「でも、実はわたくし、相当な不器用者なんですの。いきなりで大丈夫でしょうか」

 確かに料理は習いたいが、それが、よりにもよって、なぜ軍の料理当番に混ざって教わる話になるのか。もしアリツェが失敗をすれば、被害は甚大だ。さすがに気が引ける。

「ベテランが補佐で付くって言うから、しっかりと習ってくるといいよ」

 アリツェの懸念を吹き飛ばすかのように、ドミニクは「心配しなくても大丈夫さ」と口にした。

「それに、君の手料理を食べてみたいしね」

 ドミニクはアリツェの顔を見据え、パチッと片目をつむった。

 そういえば以前、子爵領からの逃避行中にも同じことを言われたとアリツェは思い出す。その時から一年以上経つが、結局一度もドミニクに手料理を披露する機会はなかった。

「お腹を壊しても、責任はとれませんわよ」

 忙しさにかまけ、料理の練習はまったく積んでいない。まともな料理が作れるとも思えなかったアリツェは、ドミニクが失望しないように先にくぎを刺した。

「大丈夫、アリツェの料理ならなんだって、おいしく食べられるさ」

 ドミニクは少し大げさに両手を広げながらのたまった。

「もう、バカなことを言わないでくださいませ!」

 おどけた様子のドミニクに、アリツェもほおを緩めつつ軽く咎めた。






 その日の夕方、アリツェはさっそく調理を担当している部隊の天幕に顔を出した。

 事前にドミニクから話は伝わっていたのか、すぐさま責任者が現れ、アリツェを歓迎する。

 責任者から紹介された中年の小太りの調理人に案内され、アリツェは厨房へと足を踏み入れた。厨房になっている天幕内では、多数の調理人がせわしなく動き回っている。そんな中に素人の自分が入っていいものだろうかと、アリツェは一瞬躊躇した。だが、「周囲は気になさらず、どうぞ」と小太りの調理人に促され、中へと入り調理台の前に立った。

 目の前にはいくつか野菜が置かれており、小太りの調理人はアリツェに下ごしらえのやり方を、実演を交えつつ懇切丁寧に説明する。それを見ながら、アリツェも見様見真似で野菜を切り始めた。だが――。
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