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第二十二章 マリエと名乗る少女とともに
3-2 わたくしとお兄様の真実ですわ~中編~
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「えぇ!? なんだか、ますますわからなくなってきましたわ……」
アリツェは素っ頓狂な叫び声を上げた。
横見悠太の転生が、そもそも最初から失敗するはずだったとは、どういう意味だろう。
「ちょっと待って。つまり、横見悠太は、このゲーム世界に生まれ落ちる前に、すでにゲームオーバーになっているはずだったの?」
クリスティーナはテーブルに身を乗り出し、目を丸くする。
「察しがいいね、クリスティーナ」
マリエは満足げにうなずいた。
「ひどい話ですわ……」
横見悠太の立場から見れば、第二の人生を楽しめると意気揚々とテストプレイに参加したのに、キャラクターメイクが終わった段階でゲームオーバーだ。なかなかのクソゲーっぷりだと言えよう。
アリツェの胸に、言いようのない怒りが込み上げてくる。おそらくは、アリツェの人格と融合している横見悠太の感情に違いない。
アリツェは右手を胸に当て、昂る気持ちを抑え込もうとした。数回深呼吸をする。
「ま、最終的にはそうならなかったんだから、結果オーライじゃないか」
マリエは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
結局は、ゲームオーバーにならずに転生できている。なので、それほど大した問題ではないだろう、とマリエは言いたげだ。
だが、ゲーム管理者のヴァーツラフとしてはそれでよくても、問題に巻き込まれた当事者の横見悠太としては、素直に納得できるものでもない。
横見悠太と一心同体のアリツェとしても、ヴァーツラフ――マリエには、もう少し真剣な態度で事に向き合ってほしいと感じた。ただ、実際にマリエにそう指摘をしたところで、あまり効果はなさそうだが……。
「キャラクターメイクをした段階で、父をカレルに、母をユリナに設定した悠太君は、このゲーム世界ではフェイシア王国のカレル・プリンツ辺境伯と帝国皇女のユリナ・ギーゼブレヒトとの間の子として生まれる予定になった。ここまではいいよね?」
アリツェたちはうなずいた。
「ところが、この時、システムによる受精卵の遺伝子突然変異で、受精卵の性染色体――性別を決定している部分なんだけれど、ここに異常が生じたんだ」
「ということは、その突然変異が原因で、私たちは死産するはずだったと?」
ラディムの疑問に、マリエはうなずいて答える。
「性染色体がXXで女性、XYで男性となるのが通常だけれど、悠太君の作った受精卵は、システムのいたずらによる分裂異常――不分離が起こって、XXYになっていた」
マリエは懐から紙とペンを取り出し、サラサラッと図を描いた。
アリツェたちは身を乗り出し、描かれた図を確認する。アリツェはこの時、図に示された記号を見て、わずかに既視感を覚えた。
この感覚はなんだろうと考えれば、おそらくは横見悠太の知識の中に、何か関連したものがあるからではないかと思い当たる。アリツェは目を閉じて、記憶の深層――悠太の記憶を探り、思い出そうとする。
……たしか、悠太が病室で読みふけっていた生物学の本に、似たような図が描かれていたような――。
「あまり細かな話をしても、訳が分からなくなると思う。だから、なるべく簡潔に説明するよ」
マリエはちらりとアリツェたちに目配せをする。
アリツェとしても特に異論はなかったので、首肯した。ラディムとクリスティーナもうなずいている。
「染色体ってね、通常は二本で一組になっているんだけれど……」
マリエは図上のXX、XYと描かれた部分を指で叩く。
「悠太君の受精卵は、イレギュラーで三本に増えてしまった。これが原因で、受精卵はユリナ・ギーゼブレヒトの子宮に着床ができないはずだったんだ」
マリエはそのまま指を横にずらし、XXYと描かれた部分を示す。
「なるほど、それで、流産になると」
ラディムの言葉にマリエはうなずきつつも、「ただ、現実世界では、別に流産するってわけじゃないんだけれどね」と補足した。このゲームシステム上の制約か何かが理由なのだろうと、アリツェは理解をする。
「あ、ちなみにだけれど、双子化したのは受精卵が卵割――細胞分裂を開始した直後で、その段階でXXYのまったく同じ遺伝情報を持った受精卵が二つできている。できた二つの受精卵の間にはまったく差異が無いので、どっちがアリツェちゃんでどっちがラディム殿下になったのかは、わからない」
マリエは図上にもう一つXXYと書き記した。
「ということは、わたくしたちは最初、別々の性別ではなかった?」
遺伝情報にまったく差異がなかったとマリエは言っている。であれば、性別も同一だったと考えるのが自然だ。
「そうだね。当初はどちらもXXY。分類上は男性かな? 地球だとクラインフェルター症候群って言っていたと思うよ」
マリエはXXYそれぞれの上に、男性を表す記号を追記した。
「でもね、今度はゲーム世界側で、イレギュラーな事態が生じた」
走らせていたペンの動きを止め、マリエは図上に落としていた視線を上げる。
「父上……カレル・プリンツの《祈願》だな?」
「そのとおり!」
ラディムが推論を述べると、マリエはぱっと嬉しそうな表情を浮かべた。
「カレルの《祈願》で、本来流産するはずだったところを、強引にユリナの子宮に着床させた」
「父上の技能才能は、本当に強烈だったんだな……」
時のフェイシア国王をも虜にした《祈願》の技能才能を持っていた、アリツェたちの実父カレル・プリンツ前辺境伯。
強力な効果ゆえに、デメリットも強烈だった。最期には、その強烈なデメリットのせいで、命を失う羽目になる。
だが、そんな父の命がけの《祈願》のおかげで、今のアリツェとラディムがある。直接姿を見たこともない父ではあるが、アリツェは深い深い愛情を感じた。
「さらにそこに、ゲームシステムを安定させるための修正が入った。システム側からの介入で、遺伝子にさらなる突然変異が起こった結果、それぞれの受精卵の性染色体の一つが欠落したんだ」
「つまり、ゲームシステム上XXYが存在してちゃダメだから、無理やり変更させたってことなの?」
クリスティーナは首を傾げ、マリエの反応を確かめる。
「やっぱり、そういう結論になるよね。別に、僕はゲームプログラムの詳細まで把握していないから、これはあくまで推測ではあるけれど」
マリエはクリスティーナの言葉に満足げにうなずくと、一旦言葉を区切り、コホンと咳払いをした。
「性染色体の組み合わせをXXかXYにしないと、システム全体の整合性が取れなくなるんだろうね」
XXYのままでは流産になるようにプログラミングがされていたのも、そのシステム全体の整合性を取るための調整手段なのだろう、とマリエは続ける。
「双子の受精卵のうちの片方はXが一つ、もう片方はYが一つ欠落した。結果、XXYを持ったまったく同じ二個の受精卵の性染色体は、それぞれ、XYとXXへと変化した。つまり、男の子と女の子の双子になったってわけさ」
マリエは一方のXXYの一つ目のXの上と、もう一方のXXYのYの上に、それぞれ斜線を引いた。さらに、Xが欠落した側にはラディムと、Yが欠落した側にはアリツェと名前を記す。
「ここまでのお話から考えますと、わたくしとお兄様との違いは、あくまで性別のみ。性染色体以外はまったく同じ遺伝情報を持っているので、結果として性別以外の部分――ステータスの上限値や技能才能などは、まったくの同一になっていると」
アリツェの問いに、マリエはうなずいた。
「男女の一卵性双生児になった理由は以上だね。次に、殿下たちに転生した悠太君や優里菜ちゃんの人格に関して、もう少し説明しようか」
マリエの話は、まだまだ続きそうだ。
アリツェは一旦席を立ち、部屋の脇の台に置かれたティーポットを取りに向かった。しゃべりすぎて、のどがカラカラだ。
全員のティーカップに紅茶を注ぎ直して、アリツェは改めて席に着く。続きを聞く準備は、万端だ。
アリツェは素っ頓狂な叫び声を上げた。
横見悠太の転生が、そもそも最初から失敗するはずだったとは、どういう意味だろう。
「ちょっと待って。つまり、横見悠太は、このゲーム世界に生まれ落ちる前に、すでにゲームオーバーになっているはずだったの?」
クリスティーナはテーブルに身を乗り出し、目を丸くする。
「察しがいいね、クリスティーナ」
マリエは満足げにうなずいた。
「ひどい話ですわ……」
横見悠太の立場から見れば、第二の人生を楽しめると意気揚々とテストプレイに参加したのに、キャラクターメイクが終わった段階でゲームオーバーだ。なかなかのクソゲーっぷりだと言えよう。
アリツェの胸に、言いようのない怒りが込み上げてくる。おそらくは、アリツェの人格と融合している横見悠太の感情に違いない。
アリツェは右手を胸に当て、昂る気持ちを抑え込もうとした。数回深呼吸をする。
「ま、最終的にはそうならなかったんだから、結果オーライじゃないか」
マリエは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
結局は、ゲームオーバーにならずに転生できている。なので、それほど大した問題ではないだろう、とマリエは言いたげだ。
だが、ゲーム管理者のヴァーツラフとしてはそれでよくても、問題に巻き込まれた当事者の横見悠太としては、素直に納得できるものでもない。
横見悠太と一心同体のアリツェとしても、ヴァーツラフ――マリエには、もう少し真剣な態度で事に向き合ってほしいと感じた。ただ、実際にマリエにそう指摘をしたところで、あまり効果はなさそうだが……。
「キャラクターメイクをした段階で、父をカレルに、母をユリナに設定した悠太君は、このゲーム世界ではフェイシア王国のカレル・プリンツ辺境伯と帝国皇女のユリナ・ギーゼブレヒトとの間の子として生まれる予定になった。ここまではいいよね?」
アリツェたちはうなずいた。
「ところが、この時、システムによる受精卵の遺伝子突然変異で、受精卵の性染色体――性別を決定している部分なんだけれど、ここに異常が生じたんだ」
「ということは、その突然変異が原因で、私たちは死産するはずだったと?」
ラディムの疑問に、マリエはうなずいて答える。
「性染色体がXXで女性、XYで男性となるのが通常だけれど、悠太君の作った受精卵は、システムのいたずらによる分裂異常――不分離が起こって、XXYになっていた」
マリエは懐から紙とペンを取り出し、サラサラッと図を描いた。
アリツェたちは身を乗り出し、描かれた図を確認する。アリツェはこの時、図に示された記号を見て、わずかに既視感を覚えた。
この感覚はなんだろうと考えれば、おそらくは横見悠太の知識の中に、何か関連したものがあるからではないかと思い当たる。アリツェは目を閉じて、記憶の深層――悠太の記憶を探り、思い出そうとする。
……たしか、悠太が病室で読みふけっていた生物学の本に、似たような図が描かれていたような――。
「あまり細かな話をしても、訳が分からなくなると思う。だから、なるべく簡潔に説明するよ」
マリエはちらりとアリツェたちに目配せをする。
アリツェとしても特に異論はなかったので、首肯した。ラディムとクリスティーナもうなずいている。
「染色体ってね、通常は二本で一組になっているんだけれど……」
マリエは図上のXX、XYと描かれた部分を指で叩く。
「悠太君の受精卵は、イレギュラーで三本に増えてしまった。これが原因で、受精卵はユリナ・ギーゼブレヒトの子宮に着床ができないはずだったんだ」
マリエはそのまま指を横にずらし、XXYと描かれた部分を示す。
「なるほど、それで、流産になると」
ラディムの言葉にマリエはうなずきつつも、「ただ、現実世界では、別に流産するってわけじゃないんだけれどね」と補足した。このゲームシステム上の制約か何かが理由なのだろうと、アリツェは理解をする。
「あ、ちなみにだけれど、双子化したのは受精卵が卵割――細胞分裂を開始した直後で、その段階でXXYのまったく同じ遺伝情報を持った受精卵が二つできている。できた二つの受精卵の間にはまったく差異が無いので、どっちがアリツェちゃんでどっちがラディム殿下になったのかは、わからない」
マリエは図上にもう一つXXYと書き記した。
「ということは、わたくしたちは最初、別々の性別ではなかった?」
遺伝情報にまったく差異がなかったとマリエは言っている。であれば、性別も同一だったと考えるのが自然だ。
「そうだね。当初はどちらもXXY。分類上は男性かな? 地球だとクラインフェルター症候群って言っていたと思うよ」
マリエはXXYそれぞれの上に、男性を表す記号を追記した。
「でもね、今度はゲーム世界側で、イレギュラーな事態が生じた」
走らせていたペンの動きを止め、マリエは図上に落としていた視線を上げる。
「父上……カレル・プリンツの《祈願》だな?」
「そのとおり!」
ラディムが推論を述べると、マリエはぱっと嬉しそうな表情を浮かべた。
「カレルの《祈願》で、本来流産するはずだったところを、強引にユリナの子宮に着床させた」
「父上の技能才能は、本当に強烈だったんだな……」
時のフェイシア国王をも虜にした《祈願》の技能才能を持っていた、アリツェたちの実父カレル・プリンツ前辺境伯。
強力な効果ゆえに、デメリットも強烈だった。最期には、その強烈なデメリットのせいで、命を失う羽目になる。
だが、そんな父の命がけの《祈願》のおかげで、今のアリツェとラディムがある。直接姿を見たこともない父ではあるが、アリツェは深い深い愛情を感じた。
「さらにそこに、ゲームシステムを安定させるための修正が入った。システム側からの介入で、遺伝子にさらなる突然変異が起こった結果、それぞれの受精卵の性染色体の一つが欠落したんだ」
「つまり、ゲームシステム上XXYが存在してちゃダメだから、無理やり変更させたってことなの?」
クリスティーナは首を傾げ、マリエの反応を確かめる。
「やっぱり、そういう結論になるよね。別に、僕はゲームプログラムの詳細まで把握していないから、これはあくまで推測ではあるけれど」
マリエはクリスティーナの言葉に満足げにうなずくと、一旦言葉を区切り、コホンと咳払いをした。
「性染色体の組み合わせをXXかXYにしないと、システム全体の整合性が取れなくなるんだろうね」
XXYのままでは流産になるようにプログラミングがされていたのも、そのシステム全体の整合性を取るための調整手段なのだろう、とマリエは続ける。
「双子の受精卵のうちの片方はXが一つ、もう片方はYが一つ欠落した。結果、XXYを持ったまったく同じ二個の受精卵の性染色体は、それぞれ、XYとXXへと変化した。つまり、男の子と女の子の双子になったってわけさ」
マリエは一方のXXYの一つ目のXの上と、もう一方のXXYのYの上に、それぞれ斜線を引いた。さらに、Xが欠落した側にはラディムと、Yが欠落した側にはアリツェと名前を記す。
「ここまでのお話から考えますと、わたくしとお兄様との違いは、あくまで性別のみ。性染色体以外はまったく同じ遺伝情報を持っているので、結果として性別以外の部分――ステータスの上限値や技能才能などは、まったくの同一になっていると」
アリツェの問いに、マリエはうなずいた。
「男女の一卵性双生児になった理由は以上だね。次に、殿下たちに転生した悠太君や優里菜ちゃんの人格に関して、もう少し説明しようか」
マリエの話は、まだまだ続きそうだ。
アリツェは一旦席を立ち、部屋の脇の台に置かれたティーポットを取りに向かった。しゃべりすぎて、のどがカラカラだ。
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