わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

文字の大きさ
271 / 272
番外編 アリツェと地下迷宮

8 最後の戦いですわ!

しおりを挟む
 ガブリエラの掛け声とともに、シータからかまいたちが、アルファから炎が舞い上がった。

 狼に向かって放たれた二つの精霊術は、途中で絡み合い、火災旋風となって狼の全身を取り巻く。

「グォォォォォォッッッ!」

 狼の咆哮があがった。
 火だるまになりながら、狼はガブリエラに向かって突進する。

 まだ、全身の霊素の被膜は破られていないようだ。毛皮の焼けこげるような臭いは、アリツェたちの元まで漂ってこない。

 炎によるダメージはほとんどないせいか、狼の動きは俊敏だった。
 真っ赤な塊になって、ビュンっと駆け抜ける。

「やられるもんかっ!」

 ガブリエラは叫ぶと、懐からナイフを取り出した。
 横っ飛びに飛んで、狼の突進の線上から外れる。と同時に、ナイフを投げつけた。

 ナイフは白い靄による軌跡を残しながら空中を突き進み、狼の背に向かって飛んでいった。
 ガブリエラは霊素の裂け目をピンポイントで狙ったようだ。

 しかし、狼もガブリエラの意図に気が付いたのか、急停止をすると、そのままガブリエラが飛んだ方向とは逆方向に飛ぶ。

「ちぇっ! かわされちゃった!」

 ガブリエラの舌打ちが聞こえるとともに、投げつけられたナイフが地面に落ち、甲高い金属音が響き渡った。

「やるな。さすがは転生者に教えを受けた精霊使い、と言ったところか」
「なっ!」

 狼の言葉に、ガブリエラは表情をこわばらせた。

 アリツェもぴくっと身体を震わせる。

 ――ガブリエラがわたくしの指導を受けたことも、知っているんですね。やはり、あの狼、『精霊王』様に連なるものなのでしょうか……。

 アリツェがあれこれと考えを巡らせている間にも、アルファとシータによる精霊術での追撃が続いていた。

 次第に狼の動きが鈍っていく。
 目論見どおり、霊素の隙間から入り込んだ炎の燃焼によって、軽い酸欠状態に陥っているようだ。

「アルファ、シータ! 動きを止めないで!」

 ガブリエラからの叱咤が飛ぶ。ガブリエラ自身は精神を集中しながら、何度も何度も、二匹の使い魔に精霊具現化を施し直し続けていた。
 とにかく全力で、狼の行動を封じ、霊素の被膜を破ろうと必死だった。

 しばらくの間、アルファとシータの火災旋風による攻撃が続いた。

「おのれっ! おのれっ!」

 狼の怒声が響き渡ったところで、パリンと霊素の被膜が剥がれた音がした。

「悠太様!」
「わかっている! まかせておけ!」

 悠太は長剣を振りかぶり、地面を蹴った。

 瞬間、狼にまとわりついていた火災旋風は消え去った。悠太が攻撃できるよう、ガブリエラが精霊術を解除したのだ。

「でりゃあああああっっっ!!」

 気合一閃、悠太の長剣が狼の頭部を狙う。
 一時的な酸欠と霊素の被膜が暴かれた衝撃で、狼は完全に行動が停止していた。

 悠太がこの隙を見逃すはずもない。

「《神速龍神閃》!」

 掛け声とともに、小さな『龍』が狼の頭上を襲う。

 超高速で振り下ろされる剣の軌道が、あたかも『精霊王』たる『龍』をかたどったように見える、美しくも破滅的な『剣士』のクラス奥義、《神速龍神閃》が発動された。

『龍』はすさまじい勢いで狼の頭部に直撃し、轟音とともに狼を大きく弾き飛ばした。狼はその身を何度も地面に叩き付けられながら、壁際まで吹っ飛んでいく。

 まさに、悠太の会心の一撃だった。振り下ろされた長剣は、石畳を軽々と割り、深く地面に突き刺さっている。

 アリツェは初めてこの秘儀を見たが、威力の凄まじさに目を見張った。

 だが、ここで驚いているわけにはいかない。

「エミル! 今です!」

 アリツェは叫んだ。

 狼が体勢を立て直す前に、拘束してしまいたい。まさに今が、好機だった。

 エミルは拘束玉を持って振りかぶり、全力で狼に投げつけた。

「それっ! 発動だよっ!」

 エミルの張り上げた声に反応し、空中で少しずつ、拘束玉の毛糸がほぐれる。
 狼の身体にぶつかった瞬間に、ほぐれた毛糸は数多の透明な腕に変化し、狼に襲い掛かった。

「グググッ!」

 狼のうめき声が漏れた。

「いきますわ!」

 拘束玉がうまく発動したとアリツェは踏んた。
 薙刀を構え、力を蓄える。

「それっ!」

 地面を蹴った。

 狼に向かって、一直線に走る、走る、走る!

「これで、わたくしたちの力を、認めさせてみせますわっ!」

 アリツェは飛び上がり、大きく薙刀を振りかぶった。狼の首筋に向かって、一気に振り下ろす。

 瞬間、バシンッと激しい打撃音が部屋に響き渡った。

 狼の苦痛を漏らす声とともに、両腕に確かな手ごたえを感じた。素早くバックステップで距離を取り、様子を窺う。

 そのまま狼はぐらりと横倒しに倒れ、動きを止めた。

「やりましたか……?」

 アリツェは油断なく目の前の狼を見据える。

 そこに、悠太たちが駆けつけてきた。

「どうやら、気絶させられたようだな」

 悠太の言うとおり、狼は動き出しはしないものの、胸のあたりはわずかに上下している。

「これで、わたくしたちの力は示せましたかしら……」

 とアリツェがつぶやいた刹那、周囲が突然、真っ白な光に包まれた。

「え? きゃ、きゃあぁぁっ!」
「アリツェ!? くっ! なんだこれは!?」

 あまりのまぶしさに、目を開けていられない。

 不意に、全身に浮遊感が襲いかかる。

 アリツェはそのまま、意識を失った――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...