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第1章 灰色狼の王国
第8話 光降る戦場
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灰色狼の王国の空は、もはや救いようのない絶望に染まっていた。
燃え落ちる王宮の瓦礫、鉄の天使の残骸、そして街中に立ち込める焦熱の臭い。
その混乱の極致にある戦場の上空、高度数百メートルに、突如として次元を裂くような「光の亀裂」が生じた。
「――っ、ああああああっ!」
悲鳴と共に、その裂け目から一人の少女が投げ出された。
彼女の名前は、ヒカリ。
異世界の地球という、魔法も異能も空想上の産物に過ぎないはずの世界から、唐突にこの惑星ブラッシュワールドへ引きずり込まれた女子高生だ。
ヒカリは落下しながら、必死に周囲の光をかき集めた。
彼女には生まれつき、他人の目には見えない「光」の粒子を視認し、干渉する力があったのだ。
その光の粒子が、彼女の恐怖に呼応して足元に収束し、目に見えないクッションとなって落下の衝撃を和らげる。
ドォォォン、という重い音を立てて、彼女は灰色狼の王国の中央広場――かつては市場として賑わっていたであろう、無惨な焦土へと着地した。
「ここ、どこなの……!? 街が、燃えてる……」
ヒカリは膝をついたまま、震える肩を抱いて周囲を見渡した。 視界に入るのは、もはや言葉を失うような地獄。
そして、その中心で「異様」な威圧感を放つ者たちが立っていた。
一人は、返り血を浴びた東方の衣服を纏い、二振りの禍々しい黒刀を腰に差した男。デッド・パーカーだ。
彼は獲物を探す獣のような瞳で、空から降ってきたヒカリを値踏みしていた。
もう一人は、黒い剣を静かに担ぎ、死者のような、あるいは神のような冷徹な瞳で佇む男。
この世界の均衡を壊し、再生し続ける男、バッシュ・ブラッドリー。
「……おい、バッシュ。空から何か降ってきたぜ。今度は鉄のクズじゃなくて、美味そうな『異世界人』の小娘だ」
パーカーが下品に舌を鳴らし、一振りの黒刀の柄に指をかけた。
「待て、パーカー。……あの娘、ただの人間ではない」
◇◇◇
バッシュがその重厚な声で制した。
10万回の死を経験し、魂の深淵まで覗いてきたバッシュの瞳には、ヒカリが纏う光が、既存のどの魔法体系にも属さない異質なエネルギーであることが分かった。
そこへ、広場を囲むように蹄の音が響き渡る。 現れたのは、灰色狼の王国の軍部を掌握する、冷酷非道な「鎖将軍」とその私兵たちだ。
「逃がさんぞ、異世界人! その格好、その雰囲気、間違いなく他界からの漂流者だな!」
将軍は軍馬に跨り、数十人の重装歩兵を引き連れて広場に躍り出た。
将軍はヒカリの能力のことなど露ほども知らない。
ただ、この混沌とした情勢下で「異世界人」がいかに高値で取引されるか、あるいは希少な労働力・実験体として価値があるか、その強欲な計算だけで彼女を捕えようとしていた。
「どけ、下等な冒険者共! その女は灰色狼の王国の『所有物』として没収する! 抵抗するなら、反逆罪としてまとめて首を跳ねてくれるわ!」
将軍の怒号が響く。
だが、その場にいた者たちの反応は、将軍の予想とは正反対だった。
バッシュの隣に、一条の風が吹いた。
神速でその場に駆けつけたばかりの少年、メロムだ。
メロムは驚いたようにヒカリを見つめていたが、次の瞬間、彼の体が銀色の光に包まれる。
「――うるさいわね、おじさん。私の『品定め』を邪魔しないでくれる?」
少年の姿から一変した、銀髪の美少女。メロカがそこに立っていた。
「な、なんだ貴様は……!? 二重人格の変異体か! 控えよ!」
「控えるのは貴方の方よ。……メロム、この光の娘、面白いわね。今までの誰よりも『綺麗な光』をしてる」
メロカが優雅に指先を動かすと、空中の魔力が急速に冷却され、氷の刃が形成されていく。
一方で、パーカーは将軍の「首を跳ねる」という言葉に、愉快そうに肩を揺らした。
「ははは! 面白い。国家権力様が俺に喧嘩を売るってのか。なあ、将軍様……お前の首、どれくらいの経験値になるか、試してみようか」
パーカーが二振りの黒刀を抜いた。
黒い輝きが月光を吸い込み、不吉な鳴動を上げる。
ヒカリは、自分を取り囲む異能者たちの圧倒的な殺気に飲み込まれそうになりながらも、必死に立ち上がった。
「やめて……! 私は、誰の道具にもならない! 誰かを捕まえるなんて、そんなこと許されない!」
ヒカリが叫び、両手を広げた瞬間、彼女を中心に爆発的な閃光が放たれた。 それは無自覚な自鳴――彼女の光が恐怖に反応し、周囲を拒絶したのだ。
光を浴びた兵士たちの目は眩み、将軍の馬は恐慌をきたして暴れ回る。
だが、バッシュはその光を正面から浴びながら、僅かに口角を上げた。
その光に触れた瞬間、彼の魂に刻まれた数多の死の記憶――止まることのない強制修復の激痛が、一瞬だけ、嘘のように凪(なぎ)を取り戻したからだ。
「……いい光だ。俺様の魂が、少しだけ落ち着いたぜ」
バッシュはペンタラゴンを地面に突き立て、将軍を一瞥した。
「おい、将軍。この娘は俺様が預かる。不服があるなら、10万回分、俺様を殺してみろ。それでお前の気が済むなら、付き合ってやるがな」
「貴様ぁぁぁ! 殺せ、異世界人もろとも、奴らを皆殺しにしろ!!」
将軍の命令で、重装歩兵たちが一斉に突撃する。
しかし、それはもはや戦闘ですらなかった。
パーカーの黒刀が夜の闇に溶けるように閃き、兵士たちの頸動脈を正確に刈り取っていく。 メロカが詠唱なしに放つ神クラスの魔法が、広場を氷壁と雷撃で埋め尽くす。
逃げ惑う将軍の前で、バッシュはゆっくりと歩を進める。
どれだけ矢を射かけられようと、槍に貫かれようと、彼は止まらない。
欠損した肉体は瞬時に破棄され、新たなバッシュが、さらに強大なプレッシャーを纏って現れる。
「ひ、ひぃ……化物め……!」
将軍が腰を抜かし、泥まみれになって後退る。
ヒカリは、自分を守るために(あるいは自分の欲望のために)戦う彼らの背中を見つめていた。 死ねない男、殺し続ける狂戦士、二心一体の異能。
あまりにも禍々しく、そしてあまりにも圧倒的な力を持つ彼ら。
「……私、どうなっちゃうの……?」
ヒカリの呟きは、戦火の音に消えていった。
灰色狼の王国の廃墟。 異世界、天界、魔界、そして現実の理が、一人の少女を巡って交錯し始める。
最悪にして最強のパーティーが、今、奇妙な産声を上げようとしていた。
燃え落ちる王宮の瓦礫、鉄の天使の残骸、そして街中に立ち込める焦熱の臭い。
その混乱の極致にある戦場の上空、高度数百メートルに、突如として次元を裂くような「光の亀裂」が生じた。
「――っ、ああああああっ!」
悲鳴と共に、その裂け目から一人の少女が投げ出された。
彼女の名前は、ヒカリ。
異世界の地球という、魔法も異能も空想上の産物に過ぎないはずの世界から、唐突にこの惑星ブラッシュワールドへ引きずり込まれた女子高生だ。
ヒカリは落下しながら、必死に周囲の光をかき集めた。
彼女には生まれつき、他人の目には見えない「光」の粒子を視認し、干渉する力があったのだ。
その光の粒子が、彼女の恐怖に呼応して足元に収束し、目に見えないクッションとなって落下の衝撃を和らげる。
ドォォォン、という重い音を立てて、彼女は灰色狼の王国の中央広場――かつては市場として賑わっていたであろう、無惨な焦土へと着地した。
「ここ、どこなの……!? 街が、燃えてる……」
ヒカリは膝をついたまま、震える肩を抱いて周囲を見渡した。 視界に入るのは、もはや言葉を失うような地獄。
そして、その中心で「異様」な威圧感を放つ者たちが立っていた。
一人は、返り血を浴びた東方の衣服を纏い、二振りの禍々しい黒刀を腰に差した男。デッド・パーカーだ。
彼は獲物を探す獣のような瞳で、空から降ってきたヒカリを値踏みしていた。
もう一人は、黒い剣を静かに担ぎ、死者のような、あるいは神のような冷徹な瞳で佇む男。
この世界の均衡を壊し、再生し続ける男、バッシュ・ブラッドリー。
「……おい、バッシュ。空から何か降ってきたぜ。今度は鉄のクズじゃなくて、美味そうな『異世界人』の小娘だ」
パーカーが下品に舌を鳴らし、一振りの黒刀の柄に指をかけた。
「待て、パーカー。……あの娘、ただの人間ではない」
◇◇◇
バッシュがその重厚な声で制した。
10万回の死を経験し、魂の深淵まで覗いてきたバッシュの瞳には、ヒカリが纏う光が、既存のどの魔法体系にも属さない異質なエネルギーであることが分かった。
そこへ、広場を囲むように蹄の音が響き渡る。 現れたのは、灰色狼の王国の軍部を掌握する、冷酷非道な「鎖将軍」とその私兵たちだ。
「逃がさんぞ、異世界人! その格好、その雰囲気、間違いなく他界からの漂流者だな!」
将軍は軍馬に跨り、数十人の重装歩兵を引き連れて広場に躍り出た。
将軍はヒカリの能力のことなど露ほども知らない。
ただ、この混沌とした情勢下で「異世界人」がいかに高値で取引されるか、あるいは希少な労働力・実験体として価値があるか、その強欲な計算だけで彼女を捕えようとしていた。
「どけ、下等な冒険者共! その女は灰色狼の王国の『所有物』として没収する! 抵抗するなら、反逆罪としてまとめて首を跳ねてくれるわ!」
将軍の怒号が響く。
だが、その場にいた者たちの反応は、将軍の予想とは正反対だった。
バッシュの隣に、一条の風が吹いた。
神速でその場に駆けつけたばかりの少年、メロムだ。
メロムは驚いたようにヒカリを見つめていたが、次の瞬間、彼の体が銀色の光に包まれる。
「――うるさいわね、おじさん。私の『品定め』を邪魔しないでくれる?」
少年の姿から一変した、銀髪の美少女。メロカがそこに立っていた。
「な、なんだ貴様は……!? 二重人格の変異体か! 控えよ!」
「控えるのは貴方の方よ。……メロム、この光の娘、面白いわね。今までの誰よりも『綺麗な光』をしてる」
メロカが優雅に指先を動かすと、空中の魔力が急速に冷却され、氷の刃が形成されていく。
一方で、パーカーは将軍の「首を跳ねる」という言葉に、愉快そうに肩を揺らした。
「ははは! 面白い。国家権力様が俺に喧嘩を売るってのか。なあ、将軍様……お前の首、どれくらいの経験値になるか、試してみようか」
パーカーが二振りの黒刀を抜いた。
黒い輝きが月光を吸い込み、不吉な鳴動を上げる。
ヒカリは、自分を取り囲む異能者たちの圧倒的な殺気に飲み込まれそうになりながらも、必死に立ち上がった。
「やめて……! 私は、誰の道具にもならない! 誰かを捕まえるなんて、そんなこと許されない!」
ヒカリが叫び、両手を広げた瞬間、彼女を中心に爆発的な閃光が放たれた。 それは無自覚な自鳴――彼女の光が恐怖に反応し、周囲を拒絶したのだ。
光を浴びた兵士たちの目は眩み、将軍の馬は恐慌をきたして暴れ回る。
だが、バッシュはその光を正面から浴びながら、僅かに口角を上げた。
その光に触れた瞬間、彼の魂に刻まれた数多の死の記憶――止まることのない強制修復の激痛が、一瞬だけ、嘘のように凪(なぎ)を取り戻したからだ。
「……いい光だ。俺様の魂が、少しだけ落ち着いたぜ」
バッシュはペンタラゴンを地面に突き立て、将軍を一瞥した。
「おい、将軍。この娘は俺様が預かる。不服があるなら、10万回分、俺様を殺してみろ。それでお前の気が済むなら、付き合ってやるがな」
「貴様ぁぁぁ! 殺せ、異世界人もろとも、奴らを皆殺しにしろ!!」
将軍の命令で、重装歩兵たちが一斉に突撃する。
しかし、それはもはや戦闘ですらなかった。
パーカーの黒刀が夜の闇に溶けるように閃き、兵士たちの頸動脈を正確に刈り取っていく。 メロカが詠唱なしに放つ神クラスの魔法が、広場を氷壁と雷撃で埋め尽くす。
逃げ惑う将軍の前で、バッシュはゆっくりと歩を進める。
どれだけ矢を射かけられようと、槍に貫かれようと、彼は止まらない。
欠損した肉体は瞬時に破棄され、新たなバッシュが、さらに強大なプレッシャーを纏って現れる。
「ひ、ひぃ……化物め……!」
将軍が腰を抜かし、泥まみれになって後退る。
ヒカリは、自分を守るために(あるいは自分の欲望のために)戦う彼らの背中を見つめていた。 死ねない男、殺し続ける狂戦士、二心一体の異能。
あまりにも禍々しく、そしてあまりにも圧倒的な力を持つ彼ら。
「……私、どうなっちゃうの……?」
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