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第1章 灰色狼の王国
第12話 ゴーレムの二刀流の英雄:異世界の大泥棒
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南の果て。
七色の霧が立ち込める原生林「境界の森」に踏み込んだ一行を待っていたのは、物理法則が歪んだ異質な静寂だった。
背後では、巨大な肉の山と化した魔王バムバスが森の入り口で咆哮を上げている。
だが、不思議なことに、あれほど貪欲だった魔王のコピーたちは、この森の境界線を越えようとはしなかった。
本能が、この先に踏み込めば「食われる側」になると警告しているかのようだった。
「ひ、ひぃ……助かったの、か……?」
地面にへたり込んだのは、灰色狼の王国の王、ウルだ。
かつての威厳は微塵もなく、泥にまみれた姿は無様な老人に過ぎない。
彼と共に逃げ延びたミリエルや騎士たちも、息を切らし、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……いや。助かったわけじゃねえな。むしろ、さらに厄介なところに来ちまったようだ」
バッシュがペンタラゴンを低く構える。
霧の奥から、ズシン、ズシンと地響きを立てて「何か」が近づいてきていた。
現れたのは、苔むした巨大な岩石で組み上げられたゴーレムだった。
しかし、それは通常の魔導人形とは一線を画していた。
その巨体は洗練された「構え」を解かず、手には岩を削り出した大小二本の長短の剣を握っている。
ゴーレムの頭部にある空洞から、静かな、だが魂を震わせるような声が響いた。
「……我が魂、眠りより覚めたり。此処に集いしは、強者か。あるいは、ただの迷い人か」
その言葉は、この世界の言語ではない。
だが、意思が直接脳内に流れ込んでくる。
「ヒカリ、こいつは……」
「……分からないけど、すごく懐かしい感じがする。日本の……私の国に伝わる、伝説の侍の魂……宮本武蔵?」
ヒカリが震えながら答えた。
そのゴーレムに宿っていたのは、かつて異世界で「剣豪」と謳われた男、宮本武蔵の魂であった。
彼はこの世界に流れ着き、異世界の門を守る守護者として、強き魂を求めるゴーレムへと転生していたのだ。
「二刀流の武士、宮本武蔵。推参」
ゴーレムが動き出した。
その巨体からは想像もできないほど鋭く、無駄のない踏み込み。
岩の長剣が、空気を切り裂いてパーカーへと振り下ろされる。
「ヒャハハハ! 岩の人形が二刀流だと? 最高だ、これこそ斬り甲斐があるぜ!」
パーカーが二振りの黒刀を交差させ、真っ向から受け止める。
火花が散り、衝撃波が霧を吹き飛ばした。
だが、武蔵のゴーレムは止まらない。
長剣を受け止められた瞬間に、左手の短剣がパーカーの脇腹を正確に狙い撃つ。
「ちっ、速い……!」
パーカーが紙一重で回避するが、短剣の切っ先が彼の衣服を切り裂いた。
メロカが援護のために魔法を放とうとするが、武蔵のゴーレムは視線を動かさぬまま、剣圧だけでその魔力を霧散させる。
「……未熟。力に頼り、理を忘れし剣なり」
武蔵の言葉がパーカーの誇りを逆なでする。
パーカーの目が赤く充血し、狂戦士のレベルが急速に上昇していく。
一方で、バッシュは武蔵の動きを凝視していた。
武蔵が守っているもの。その背後にある、空間が歪み巨大な「鳥居」のような形をした光の門が見えた。
そこがチャンク・チャントの言っていた「鍵」のかかった場所か。
「外側の奴が鍵を外す……」
バッシュがその言葉を思い出した瞬間、門の向こう側――「英雄の異世界」から、異質な風が吹き抜けた。
「――おっと、騒がしいねぇ。天下の御免の大泥棒様のお出ましだ!」
門の中から、派手な着物を着崩し、巨大な煙管(キセル)を肩に担いだ男の声が響いた。
武蔵のゴーレムが動きを止めた。
その視線はパーカーではなく、背後の門へと向けられる。
「……何奴。石川、五右衛門か」
「当たり! 武蔵の旦那、相変わらず堅苦しいねぇ。あんたが律儀に守ってるその門の『鍵』……俺様が頂戴したぜ!」
門の向こうから、一人の男が「何か」を空中に放り投げるのが見えた。
それは物理的な鍵ではない。
「門を閉ざす」という概念そのものを、大泥棒・石川五右衛門が盗み出したのだ。
パリンッ、というガラスが割れるような音が響き、異世界の門にかかっていた見えない封印が砕け散った。
「天下の大泥棒、石川五右衛門! この世界の混沌、まとめて盗んでやるぜ!」
門が大きく開かれた。
そこから溢れ出したのは、英雄たちが住まう異世界のエネルギーだった。 見たことも無い風景が、霧と混じり合いながら「境界の森」へと上書きされていく。
数多の英雄たちの気配。チャンクが言っていた「外側の奴が鍵を外す」とは、この事だったのだ。
「……門が開いたか。ならば、もはや此処を守る意味もなし」
武蔵のゴーレムが岩の剣を下ろした。
だが、その眼光は以前よりも鋭く輝いている。
「開かれた道、混ざり合う世界。此処からは、真の強者のみが生き残る修羅の道なり。……調停者よ、其方の覚悟、見せてもらおうか」
武蔵はそう言うと、霧の中へと静かに姿を消した。
彼もまた、この混ざり合った新しい世界で、さらなる強者を求めて彷徨い始めたのだ。
門からは、五右衛門だけではない、さらなる「英雄」たちの影が次々と現れようとしていた。
「……最悪だ」
バッシュが呻く。
魔王バムバスが街を食い、幼女チャンクが城を奪い、そして今度は伝説の英雄たちがこの世界を遊び場に変えようとしている。
「バッシュさん……これ、どうなるんですか?」
ヒカリが怯えながら尋ねる。 彼女の目に見える光の粒子は、今や七色どころか、数え切れないほどの色に染まり、激しく渦巻いていた。
「どうにもならねえ。……混ざっちまったももん、もう分けられねえからな」
バッシュはペンタラゴンを力強く握り直した。
「行くぞ。英雄だろうが泥棒だろうが、俺様の仕事を邪魔するってなら……まとめて叩き斬るだけだ」
灰色狼の王国の民を引き連れた、決死の脱避行。
それは、英雄たちの異世界と融合し始めた「新生ブラッシュワールド」の第一歩となった。
七色の霧が立ち込める原生林「境界の森」に踏み込んだ一行を待っていたのは、物理法則が歪んだ異質な静寂だった。
背後では、巨大な肉の山と化した魔王バムバスが森の入り口で咆哮を上げている。
だが、不思議なことに、あれほど貪欲だった魔王のコピーたちは、この森の境界線を越えようとはしなかった。
本能が、この先に踏み込めば「食われる側」になると警告しているかのようだった。
「ひ、ひぃ……助かったの、か……?」
地面にへたり込んだのは、灰色狼の王国の王、ウルだ。
かつての威厳は微塵もなく、泥にまみれた姿は無様な老人に過ぎない。
彼と共に逃げ延びたミリエルや騎士たちも、息を切らし、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……いや。助かったわけじゃねえな。むしろ、さらに厄介なところに来ちまったようだ」
バッシュがペンタラゴンを低く構える。
霧の奥から、ズシン、ズシンと地響きを立てて「何か」が近づいてきていた。
現れたのは、苔むした巨大な岩石で組み上げられたゴーレムだった。
しかし、それは通常の魔導人形とは一線を画していた。
その巨体は洗練された「構え」を解かず、手には岩を削り出した大小二本の長短の剣を握っている。
ゴーレムの頭部にある空洞から、静かな、だが魂を震わせるような声が響いた。
「……我が魂、眠りより覚めたり。此処に集いしは、強者か。あるいは、ただの迷い人か」
その言葉は、この世界の言語ではない。
だが、意思が直接脳内に流れ込んでくる。
「ヒカリ、こいつは……」
「……分からないけど、すごく懐かしい感じがする。日本の……私の国に伝わる、伝説の侍の魂……宮本武蔵?」
ヒカリが震えながら答えた。
そのゴーレムに宿っていたのは、かつて異世界で「剣豪」と謳われた男、宮本武蔵の魂であった。
彼はこの世界に流れ着き、異世界の門を守る守護者として、強き魂を求めるゴーレムへと転生していたのだ。
「二刀流の武士、宮本武蔵。推参」
ゴーレムが動き出した。
その巨体からは想像もできないほど鋭く、無駄のない踏み込み。
岩の長剣が、空気を切り裂いてパーカーへと振り下ろされる。
「ヒャハハハ! 岩の人形が二刀流だと? 最高だ、これこそ斬り甲斐があるぜ!」
パーカーが二振りの黒刀を交差させ、真っ向から受け止める。
火花が散り、衝撃波が霧を吹き飛ばした。
だが、武蔵のゴーレムは止まらない。
長剣を受け止められた瞬間に、左手の短剣がパーカーの脇腹を正確に狙い撃つ。
「ちっ、速い……!」
パーカーが紙一重で回避するが、短剣の切っ先が彼の衣服を切り裂いた。
メロカが援護のために魔法を放とうとするが、武蔵のゴーレムは視線を動かさぬまま、剣圧だけでその魔力を霧散させる。
「……未熟。力に頼り、理を忘れし剣なり」
武蔵の言葉がパーカーの誇りを逆なでする。
パーカーの目が赤く充血し、狂戦士のレベルが急速に上昇していく。
一方で、バッシュは武蔵の動きを凝視していた。
武蔵が守っているもの。その背後にある、空間が歪み巨大な「鳥居」のような形をした光の門が見えた。
そこがチャンク・チャントの言っていた「鍵」のかかった場所か。
「外側の奴が鍵を外す……」
バッシュがその言葉を思い出した瞬間、門の向こう側――「英雄の異世界」から、異質な風が吹き抜けた。
「――おっと、騒がしいねぇ。天下の御免の大泥棒様のお出ましだ!」
門の中から、派手な着物を着崩し、巨大な煙管(キセル)を肩に担いだ男の声が響いた。
武蔵のゴーレムが動きを止めた。
その視線はパーカーではなく、背後の門へと向けられる。
「……何奴。石川、五右衛門か」
「当たり! 武蔵の旦那、相変わらず堅苦しいねぇ。あんたが律儀に守ってるその門の『鍵』……俺様が頂戴したぜ!」
門の向こうから、一人の男が「何か」を空中に放り投げるのが見えた。
それは物理的な鍵ではない。
「門を閉ざす」という概念そのものを、大泥棒・石川五右衛門が盗み出したのだ。
パリンッ、というガラスが割れるような音が響き、異世界の門にかかっていた見えない封印が砕け散った。
「天下の大泥棒、石川五右衛門! この世界の混沌、まとめて盗んでやるぜ!」
門が大きく開かれた。
そこから溢れ出したのは、英雄たちが住まう異世界のエネルギーだった。 見たことも無い風景が、霧と混じり合いながら「境界の森」へと上書きされていく。
数多の英雄たちの気配。チャンクが言っていた「外側の奴が鍵を外す」とは、この事だったのだ。
「……門が開いたか。ならば、もはや此処を守る意味もなし」
武蔵のゴーレムが岩の剣を下ろした。
だが、その眼光は以前よりも鋭く輝いている。
「開かれた道、混ざり合う世界。此処からは、真の強者のみが生き残る修羅の道なり。……調停者よ、其方の覚悟、見せてもらおうか」
武蔵はそう言うと、霧の中へと静かに姿を消した。
彼もまた、この混ざり合った新しい世界で、さらなる強者を求めて彷徨い始めたのだ。
門からは、五右衛門だけではない、さらなる「英雄」たちの影が次々と現れようとしていた。
「……最悪だ」
バッシュが呻く。
魔王バムバスが街を食い、幼女チャンクが城を奪い、そして今度は伝説の英雄たちがこの世界を遊び場に変えようとしている。
「バッシュさん……これ、どうなるんですか?」
ヒカリが怯えながら尋ねる。 彼女の目に見える光の粒子は、今や七色どころか、数え切れないほどの色に染まり、激しく渦巻いていた。
「どうにもならねえ。……混ざっちまったももん、もう分けられねえからな」
バッシュはペンタラゴンを力強く握り直した。
「行くぞ。英雄だろうが泥棒だろうが、俺様の仕事を邪魔するってなら……まとめて叩き斬るだけだ」
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