黒狼さんと白猫ちゃん

翔李のあ

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story .01 *** うさぎと薬草と蛇

scene .6 蛇はベジタリアン?

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 コンメル・フェルシュタットに辿り着くや否や、少年は自分の父親の店を見つけると駆け出し、「ちょっとまってて!」と言って店の中へ入っていった。街の入り口付近に店舗を構えられるということは、かなり権威のある人物なのだろうか。店の佇まいから察するに、鍛冶屋の様だ。
 ロルフがそこまで思考したところで、少年が何やら話しながら父親らしい男性の手を引き出てきた。偏見かもしれないが、鍛冶屋の店主というと、がっちりとした強面の男性を想像していたが、イメージとは異なり、細身の優しそうな男性だった。
 少年が話を終え、ロルフ達を紹介すると、

「息子が助けていただいたようで、ありがとうございます。道中までお世話になってしまって……」

 と、父親は三人に向かってぺこぺこと頭を下げながら、お礼を述べた。とても腰の低い人物だ。
 そして、「大してお構いはできませんが、お茶でも飲んでいかれませんか」と言う父親に、急ぎの用があると告げ丁重に断ると、目的の場所へと向かった。少年はひどく残念がっていたが、シャルロッテの「また来るね!」の言葉に大きく返事をすると、元気に手を振って見送ってくれた。



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 コンメル・フェルシュタットの歴史は古く、数千年前からあると言われている。数十人の商人が寄り合って商店街を作ったことが始まりだそうだ。それから年々、次々と商人が集まり、店が増え、現在の姿となった。
 今は通りなどもそれなりに整備され、店も綺麗に並ぶよう建てられているが、昔はそうではなく、街の中心部へ進む程建物の並び方は無秩序になっていく。所によっては人がすれ違うのも厳しい程の細道だ。初めて来た人は必ず道に迷う、と言われても納得してしまいそうな場所である。ただ、古いと言ってもどの店も手入れが行き届いているのか、遠くから眺める分には綺麗な風景の一部として溶け込んでいた。
 そんな中に建つ、一軒の店の前にロルフ達はいた。――いつ来ても入りづらいんだよな……。店先の窓越しに見える薄暗い店内と悍ましげな呪物を一瞥しながら、ロルフは短くため息をつく。
 夕方であるのも相まって、この店は何ともおどろおどろしい雰囲気をまとっていた。たまたま通りかかった人も早足に通り過ぎたくなりそうな印象の店だ。知る人ぞ知る店、といったところなのだろうか。

「変わった人物だが、悪い奴じゃない。怖がらなくて大丈夫だからな、モモ」

 モモが小さく震えているのが体調不良のためではないと感じ取ったロルフは、ひとことそう言い、ドアを開けた。
 店の中は、外から見えるより少し広そうだが、呪物や変わった植物類、薬品などで埋め尽くされた棚やテーブルが所狭しと並べられているせいで、息苦しさを感じる。そんな中を、ロルフは慣れた様子で進み、「電気くらいちゃんとつけろって言ってるんだけどな……」と独り言ちて部屋の奥にある電気のスイッチを押した。すると、

「誰だい、人の店の明りを勝手につける無礼者は」

 そう言いながら、店の奥から一人の女性がでてきた。その姿は、ぱっと見は人間の様だが、耳の先が尖っており、整った唇の間からは時折長い舌がチロチロと出入りしている。そして、腰骨辺りから下が、艶やかな黄色の鱗で覆われており、一本の長い尾になっていた。

「久しぶりーゴルトー!」
「ほぅ、シャルにロルフじゃないか。そなたらから店に来るなんて珍しいのぅ」

 シャルロッテにゴルトと呼ばれた女性は、不機嫌そうな表情から一転、少し嬉しそうに顔をほころばせる。
 そして、シャルロッテの後ろから恐る恐る覗いているモモに気づくと、「おや……?」と長い舌で唇を舐めながら言った。

「美味しそうなもの連れてきたじゃないか」
「ひ、ひぁぁあぁあぁぁ」

 その言葉に、モモはその場で盛大にしりもちをつくと、ぷるぷると震えて口をぱくぱくさせている。その様子を見たロルフは、はぁ……と大きくため息をつき、モモに手を差し出した。

「ベジタリアンの癖によく言うよ。安心しろモモ、この蛇は野菜しか食わない」
「ふん、つまらん男に育ったもんだの。挨拶の冗談じゃないか」
「彼女は病人なんだよ。いたわってやってくれないか」

 心外だという様子で少し不機嫌そうにするゴルトに、ロルフはやれやれ、と呆れながらそう言うと、近くの椅子にモモを座らせた。

「驚かせてすまなかったな……ああした冗談を平気で言うところがあるんだ。許してやってくれ」

 ロルフがゴルトの代わりに謝ると、モモは相変わらず震えながら、「だ、だいじょうぶです……」と小さく答えた。
 この最悪な出会いのおかげで、モモがゴルトに対して恐怖心を持ったことは言うまでもない。これ以降、モモはゴルトと目を合わせる度に硬直するのであった。
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