57 / 149
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
scene .12 忙しなティータイム
しおりを挟む
「わーいパンケーキー!」
食卓の上の軽食を目にしたシャルロッテが両手を上げて喜ぶ。
ちなみに、ロルフが良く屋敷で作っているパンケーキはリェフの直伝だったりする。ベジタリアンを豪語し、ろくな料理を作れないゴルトに変わり、リェフは色々とロルフに料理を教えてくれたのだ。
「おう! たんと食え!」
「いふぁあふぃあふ!」
リェフの言葉に挨拶を返したのはいいものの、我先にと席についたシャルロッテの口の中はすでにパンケーキでいっぱいだ。
「あぁ、シャルちゃんたら。食べながら話しちゃめ、でしょ?」
「ほんっとシャルロッテってば落ち着きがないわね……」
少し前まではロルフが注意していたところだが、今はお世話係とツッコミ係がいてくれるお陰でその必要もなくなってきた。
だが、モモの注意の仕方が優しいためか、この数日でだらしなさに拍車がかかってきているような気もする。
「それで? ロルフはヴィオレッタ様にけちょんけちょんにされたって?」
全員が席についたことを確認するや否や、気になって仕方のなかったと言うように、ライザは質問を口にした。
「それが違うのよ」
ロロは口に入れようとしたパンケーキの切れ端を付けたまま、フォークを小さく振って意気揚々と話し出す。
サーカス団の建物内は空間を歪めて内部が広げられており、外からの見た目よりもかなり広く、しかもやたらと入り組んでいた。それだけならよいのだが、登録されていない人物のみで部屋の外を移動しようものなら、侵入者として手厚く歓迎される仕様になっていたのだ。
幸い途中で入ることのできた部屋に他の団員がいたため、事情を説明し、どうにか外に出ることができたのだが、それまで使える能力や魔術を使い、全神経を駆使して全員を守っていたロルフは魔力も気力もキレイに使い果たしたという訳だった。
「お兄ちゃんなんて何度も落とし穴に落ちるし、モモは簡単な魔術詠唱も噛み噛みだし」
最もな指摘に、クロンとモモは気まずそうに苦笑する。
役に立たなかったのはロロ自身も同じなのだが、そんな指摘をする者はこの場にはいない様だ。
「シャルロッテに至ってはいかにも罠ですってボタンを押しちゃうのよ?」
「ふぇ?」
突然出された自分の名前に、シャルロッテが間の抜けた声を出す。
「あはは、シャルロッテらしいや! なんだかちょっと楽しそうだね」
「死なないならね、いいんだけど」
「そりゃそうだ!」
楽しそうに話を聞くライザに、ロロは「笑い事じゃなかったんだから……」と言いつつ冷めたパンケーキの切れ端を口に運んだ。
実践の為ではなく、勉強と研究のために鍛えていた能力と魔術力がこんなところで役に立つとは。ロルフはコーヒーを口に含みつつそう思う。
もしも自分が能力を鍛えていなかったら、魔術に興味をもっていなかったら、一介のセキュリティ魔術であるため、命を落とすことは無かったと思いたいが、無傷で帰ってくることはできなかったかもしれない。
テント内に入る際、最新の警備用魔術を使っていたことから、それなりのセキュリティが敷かれていることを警戒するべきであったのだ。自分だけならともかく、預かっている子供を危険な目に合わせてしまったことを、ロルフは一人静かに反省する。
「というか、よ?」
何かを思い出したかのようにそう言うと、ロロは口に残っていたパンケーキをジュースで流し込んだ。
「絶対知ってるわよね、あの女! なのにどうして教えてくれなかったのかしら」
あの女? その場にいた全員がそう思ったであろう。その言葉が指す人物を理解するのに少し時間がかかってしまった。今朝まであんなにヴィオレッタ様! と慕っていたロロであったが、何かが気にくわなかったらしい。
――まぁ、俺もあの女は少し苦手だが。そう思いつつも、今まで疑っていたせめてもの償いに、ロルフはロロをなだめることにした。
「何か予定でも思い出したんじゃないか? 急いで部屋を出て行った様子だったしな」
「本当にそう思ってるの?」
想定外の切り替えしに、ロルフは飲みかけたコーヒーで少しむせる。
なだめるどころか逆なでしてしまったかもしれない。最近の子供らしい言動のお陰で忘れかけていたが、この少女の観察力は侮れないのだ。
「でも、襲撃をしたのがヴィオレッタさんじゃなくてよかったです。妹さんかもってところは少し心が痛むけれど……」
ロルフに助け舟を出すように、モモが小さく手をあげながらそう言った。
「ふぅ~ん、襲撃事件の犯人はヴィオレッタ様ではなかったんだ」
「そうみたいです。でも双子の妹さんがいて、その人かもしれないって」
この事件を一番気に掛けているのは間違いなくモモであろう。この世界図書館への旅についてきたのも、犯人を捕まえたいという気持ちが少なからずあったからなのかもしれない。
だがなぜヴィオレッタは、ロルフ達が妹を探し出そうとしていると思ったのだろうか。――そもそもあの時……ロルフがヴィオレッタとの会話の際に感じた違和感を思い出すのと同時に、ロロが耐え兼ねたかのように「ん~もう!」と声を張り上げた。
「その襲撃のことだってみんな知ってる風なのに、わたしだけが知らないし! もう誰も信じられないわ!」
食卓の上の軽食を目にしたシャルロッテが両手を上げて喜ぶ。
ちなみに、ロルフが良く屋敷で作っているパンケーキはリェフの直伝だったりする。ベジタリアンを豪語し、ろくな料理を作れないゴルトに変わり、リェフは色々とロルフに料理を教えてくれたのだ。
「おう! たんと食え!」
「いふぁあふぃあふ!」
リェフの言葉に挨拶を返したのはいいものの、我先にと席についたシャルロッテの口の中はすでにパンケーキでいっぱいだ。
「あぁ、シャルちゃんたら。食べながら話しちゃめ、でしょ?」
「ほんっとシャルロッテってば落ち着きがないわね……」
少し前まではロルフが注意していたところだが、今はお世話係とツッコミ係がいてくれるお陰でその必要もなくなってきた。
だが、モモの注意の仕方が優しいためか、この数日でだらしなさに拍車がかかってきているような気もする。
「それで? ロルフはヴィオレッタ様にけちょんけちょんにされたって?」
全員が席についたことを確認するや否や、気になって仕方のなかったと言うように、ライザは質問を口にした。
「それが違うのよ」
ロロは口に入れようとしたパンケーキの切れ端を付けたまま、フォークを小さく振って意気揚々と話し出す。
サーカス団の建物内は空間を歪めて内部が広げられており、外からの見た目よりもかなり広く、しかもやたらと入り組んでいた。それだけならよいのだが、登録されていない人物のみで部屋の外を移動しようものなら、侵入者として手厚く歓迎される仕様になっていたのだ。
幸い途中で入ることのできた部屋に他の団員がいたため、事情を説明し、どうにか外に出ることができたのだが、それまで使える能力や魔術を使い、全神経を駆使して全員を守っていたロルフは魔力も気力もキレイに使い果たしたという訳だった。
「お兄ちゃんなんて何度も落とし穴に落ちるし、モモは簡単な魔術詠唱も噛み噛みだし」
最もな指摘に、クロンとモモは気まずそうに苦笑する。
役に立たなかったのはロロ自身も同じなのだが、そんな指摘をする者はこの場にはいない様だ。
「シャルロッテに至ってはいかにも罠ですってボタンを押しちゃうのよ?」
「ふぇ?」
突然出された自分の名前に、シャルロッテが間の抜けた声を出す。
「あはは、シャルロッテらしいや! なんだかちょっと楽しそうだね」
「死なないならね、いいんだけど」
「そりゃそうだ!」
楽しそうに話を聞くライザに、ロロは「笑い事じゃなかったんだから……」と言いつつ冷めたパンケーキの切れ端を口に運んだ。
実践の為ではなく、勉強と研究のために鍛えていた能力と魔術力がこんなところで役に立つとは。ロルフはコーヒーを口に含みつつそう思う。
もしも自分が能力を鍛えていなかったら、魔術に興味をもっていなかったら、一介のセキュリティ魔術であるため、命を落とすことは無かったと思いたいが、無傷で帰ってくることはできなかったかもしれない。
テント内に入る際、最新の警備用魔術を使っていたことから、それなりのセキュリティが敷かれていることを警戒するべきであったのだ。自分だけならともかく、預かっている子供を危険な目に合わせてしまったことを、ロルフは一人静かに反省する。
「というか、よ?」
何かを思い出したかのようにそう言うと、ロロは口に残っていたパンケーキをジュースで流し込んだ。
「絶対知ってるわよね、あの女! なのにどうして教えてくれなかったのかしら」
あの女? その場にいた全員がそう思ったであろう。その言葉が指す人物を理解するのに少し時間がかかってしまった。今朝まであんなにヴィオレッタ様! と慕っていたロロであったが、何かが気にくわなかったらしい。
――まぁ、俺もあの女は少し苦手だが。そう思いつつも、今まで疑っていたせめてもの償いに、ロルフはロロをなだめることにした。
「何か予定でも思い出したんじゃないか? 急いで部屋を出て行った様子だったしな」
「本当にそう思ってるの?」
想定外の切り替えしに、ロルフは飲みかけたコーヒーで少しむせる。
なだめるどころか逆なでしてしまったかもしれない。最近の子供らしい言動のお陰で忘れかけていたが、この少女の観察力は侮れないのだ。
「でも、襲撃をしたのがヴィオレッタさんじゃなくてよかったです。妹さんかもってところは少し心が痛むけれど……」
ロルフに助け舟を出すように、モモが小さく手をあげながらそう言った。
「ふぅ~ん、襲撃事件の犯人はヴィオレッタ様ではなかったんだ」
「そうみたいです。でも双子の妹さんがいて、その人かもしれないって」
この事件を一番気に掛けているのは間違いなくモモであろう。この世界図書館への旅についてきたのも、犯人を捕まえたいという気持ちが少なからずあったからなのかもしれない。
だがなぜヴィオレッタは、ロルフ達が妹を探し出そうとしていると思ったのだろうか。――そもそもあの時……ロルフがヴィオレッタとの会話の際に感じた違和感を思い出すのと同時に、ロロが耐え兼ねたかのように「ん~もう!」と声を張り上げた。
「その襲撃のことだってみんな知ってる風なのに、わたしだけが知らないし! もう誰も信じられないわ!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる