最底辺の魔法使いに恋したガーディアン

木風 麦

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精霊の望み

【19】魔法使いの実情

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 晴れてはいるが、なんだか蒸し暑い午前。洗濯物は乾きづらく、パッとしない天気にはかすかに苛立ちが募る。

「──……っだから!俺はこの作業が嫌いだっつってんだろ!」

 ドライフラワーを束ねる作業中、再びルドガーは声を荒らげた。
「そんなこと言われても。編み物とどっちがいいか聞いたらそっちって答えたのルドガーさんでしょ」
 ドライな対応のフォグに、ルドガーは「どっちも嫌なんだよ」と噛み付く。
「しょうがないじゃん。またミーシャが倒れたんだから」
 少年は「やれやれ」と言うようにルドガーの散らかした無惨なドライフラワーたちを手元に引き寄せる。
「ミーシャの熱って、あれルドガーさんのせいなんじゃないの」
 彼女が体調を崩して部屋にこもった後、ルドガーからヘアスタイルうんぬんの話を手短に聞いていた。
 昨日、たしかに彼女の頬は少し赤かった。が、それは熱の前兆であったと言われてしまえば否定できない。けれどもここで彼をその気にさせておけば、ルドガーはもっと積極的に動くようになるかもしれない。

 そう考えたフォグだったが、ルドガーは潔く首を振る。
「そこまで自惚れてない。俺の言葉一つでそんな影響はでない」
 と顔をしかめるルドガーに、少年の憐れむ視線が刺さる。
「もう家族の括りに入っちゃってるんじゃないの」
「ああ……有り得る」
「有り得るのか」
 半分冗談だったんだが、とは言い出せない。やぶ蛇になる前に話題を変えよう、とフォグは「そういえば」と切り出す。

「ルドガーさんはミーシャに付きっきりだよな。ちょっと過保護なんじゃねぇの」

 ちょっとしたからかいも含まれていたが、ちゃんと「少し距離をおいて様子を見るべきだ」と助言につなげるつもりだった。

 しかしその言葉を口にした瞬間、ルドガーの目がぎらりと光った。
 目を細めただけで人を殺しそうな眼光は、今まで何度も見てきた。だが今回ばかりは違う。全くの別物だとフォグの本能が告げていた。
 青ざめるフォグを視界に入れたルドガーはハッと目を瞬き、手で自身の目元を覆った。
「すまん。脅すつもりはなかった」
 覇気のない声に、フォグは力を抜く。というか、抜けた。体全体に妙な力が入ったせいで、自由が効かない。指先なんか小さく震えて使いものにならない。
「お前も知っておくべきだろうな。……『魔法使い』という存在を」
 ルドガーはふっと短く息を吐き、手元のドライフラワーに手を伸ばした。
「魔法使いってのは人間とは区別して呼ばれていて、種族が違う扱いになってるんだ。理由は二つ。一つは、そもそも普通の人間とは異なる人体構造をしていたから。そしてもう一つは──……『情』を、感じさせないためだ」
 そこまで話したルドガーはギリッと拳を握った。青い血管が浮き出て、その腕はかすかに震えている。
 フォグは「じょう……?」と眉をひそめた。
「お偉い様方は、魔法使いを恐れたものの、その力に憧れた。だから自分たちのものにしようとしたんだ。……手っ取り早い方法として、奴隷として飼ったんだ。モノとして扱い、魔法使いは道具同然に扱われた。だが人間相手にそれをやれば、国民からは非難される可能性もあった。だから種族分けをして国民の感情を操作した。しかし当然、魔法使いたちは黙っちゃいない。全面戦争になりかけたところ、人間の上層部と魔法使いの間を取り持ったのが、当時話題となっていた『ルムランドの勇者』様だった」
「ルムランド……あれか、初めてドラゴンを倒したっていう伝説の……じゃあ奴隷はなくなったってことか?」
「制度として無くなっただけだ。まぁ十分な成果とも言える、が──実際は、勇者のパーティに同行して使い捨ての駒にされるなんてよくある話。そんな地位だから、当然魔法使いがもし何かしらの功績を挙げたとしても、それらは全て勇者様の手柄になるって寸法だ」
「うわ……なんか現実聞くと一気に勇者がヤバい奴に思えてきた」
「全員じゃない。その伝説の勇者なんかが例外だが、まぁ、だいたいそんなヤツらの集まりだ。ただ、そんな扱いをずっと受けていたら、当然領民や国民だってそういう目で見るようになる。『自分より下等な種族』だと。だからあいつは村へ下りてもいい顔はされない。むしろ嫌がらせを受ける。……この森には、一応目隠しの魔法がかけられている。だから普通、用のない奴や悪意のある奴は家に辿りつけない。だがごくたまに、迷い込んでくる奴はいる。そんな奴らに手出しさせないため、俺は勝手に護衛ガーディアンをしている」
 ルドガーの説明で、かつて魔法使いがルドガーを留守番をすることに難色を示していたことを思い出す。あの反応は、こういう背景があったかららしい。
「……たしかにルドガーさんが居たら心強いな」
「この顔もたまには役に立つもんだろ」
 フォグの言葉に笑いながら、護衛の男はラベンダーのドライフラワーを天井に掲げた。

「俺が傍に居たいだけってのもあるんだがな」

 滑らせた言葉に、ルドガーは無言で口を抑えた。
「……ルドガーさんって、結構乙女なとこあるよね」
「言うな」
 無口になった男は不器用な手を動かす。
 だが無口になろうが集中しようが、彼に細かい作業は向いていないらしい。後には形の揃わない花の束が出来上がり、それを見るなり彼は席を立った。

「少し気分転換してくる」

 そう告げた彼がしばらく家に戻ってくることはなかった。
 残されたフォグは、数時間後になってようやく自分の置かれた状況に気づいた。

──完ッ全に押し付けられた。

 彼が良い人に思えていたのが遠い昔のことに思えた。
 そんな当てようのない怒りを蓄積しながら、少年は夜通し手を動かし続けたという。
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