一葉のコンチェルト

碧いろは

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漣編

【漣編】32:xx15年11月2日

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ふ、と目を覚ました。

自分の部屋の、ベッドの上。
視界にあるのは薄暗い部屋で、シンプルなスチールデスクと椅子、その横にある棚。
学校の制服、鞄。モノが少ないと言われ続けている室内。

いつもとなにも変わらない日常の中での目覚め。
布団の上に置いたスマートフォンで時間を見れば、11/2 5:50と表示されていた。
もぞりと布団から起き上がって部屋を見渡す。

もしかしたら夢だったのではないだろうか、とさえ思うが
入り口付近にまとめた荷物、ヴァイオリンケース、
そしてデスクの上の書類がそれを否定する。

昨日、初めてのヴァイオリンコンクールだった。
以前見たガラコンサートの景色に触発され、その向こうの景色を見てみたいと思った。
あの輝くような清流の向こうの、明るい景色を見たいと。
けれど本当にそんなことを望んでいいのかひどく迷った。
それを解放してくれたのは煉矢の言葉だった。
だが自分のような甘い技巧の演奏など、きっと、予備選考も通らないだろう。
そう思っていたら通ってしまった。
心から戸惑った自分に対して、静やましろはあたたかく励まし続けてくれた。
そして昨日、コンサートの予選。

演奏自体は時間が経過して少しずつ思い出した。
相変わらず、水野に言われたことを出来ていたのかはわからない。
普段よりも深く集中して演奏はできたとは思う。
しかしかといって、満足できる演奏だったかと言われれば、答えは否。
にもかかわらず、結果は。

 「……本当に、私なんかが、本選になんて……」

正直誰よりも納得できていないのは自分だと思う。
けれど、もはやどうにもならないのも事実だ。
予選を通り、静もましろも、そして水野も大変に喜んでくれた。
唖然とする自分はどこか取り残されたように感じているが
それでも喜んでくれる三人には、応える必要がある。
乃亜はそれだけを考えることにしていた。

不安な気持ちも、戸惑う気持ちも、自信のなさも、
すべて責任感だけで乗り切るしかないのだ。

乃亜は重い気持ちを吐き出して、ベッドから滑るように降りる。

今日11/2は平日である。
つまり通常通り学校がある。
本選については、中高生が対象ということも考慮されているのだろう、
開始時間は夕方17;00からだった。
あらかじめ出演の順番についても、各自が間に合うように調整されている。

しかし一度家に帰る余裕はあまりない。
乃亜は学校が終わったらそのまま向かう予定にしていた。
静も今日は大学の講義を終えたらすぐに向かうと言っており、
ましろも同様らしかった。
なんだか申し訳ない気持ちが浮かぶが、それを口にしたら苦く笑われた。
荷物は少し多くなるがこればかりは仕方ない。

乃亜は制服に着替え、スマートフォンを充電器から取る。
そのまま鞄に入れればいいのだが、手が止まった。

予選を通過したことを、煉矢には伝えていなかった。
そもそも、以前、予備選考に通ったと伝えて以降、連絡ができていない。
それもすべては、ましろに言われた言葉がきっかけだ。

 『恋してるんだよ』

思い出すだけで頬が熱くなる。
何度も自分を支えてくれたあの人。
このコンクールの出場に関してもそう。
何度も連絡しようと思ったが、チャットルームを開くことさえできないでいた。

その名前を見るだけで、何かが湧き上がってくるのを感じる。
それは頬を熱くして、胸を叩き、そして締め付ける。
けれどそれをぎゅっと目を閉じて、唇の裏を噛み、押しとどめる。

今回も、乃亜はメッセージを送ることなく、スマートフォンをロックした。

リビングに出ると、すでに静がキッチンに入っていた。
普段よりもいくらかはやい。
乃亜が出てきたことに気付いて、静は笑みを浮かべた。

 「おはよう、乃亜」
 「おはようございます、兄さん。
  はやいですね、今日は」
 「まあな」

静は機嫌が良い様子で朝食の支度を進めている。
乃亜もまた、キッチンに入る。弁当作りのためだ。
しかしすでに自分の弁当の半分が出来ていることに気付いた。
それに気づいて兄を見ると、ふっと笑っていた。

 「ついな」
 「……もう、無理に早く起きなくていいんですよ」
 「今日は本当に無理じゃないさ。
  昨日早く寝たこともあって、目が覚めたんだ」

昨日、外で夕食を食べて家に戻った後、
乃亜は疲れが出たのか早々に就寝した。
どうやらそれは静も同じだったらしい。

そういうことなら、と乃亜はひとまず納得することにし、
朝食の支度を手伝うことにする。

サラダの用意だろう、洗ったレタスが水切りに置かれているので
それをちぎり、トマトを取り出して洗い、四等分に切る。
解凍していたコーンとそれらを合わせてドレッシングで手早く和える。
以前自分が静に送った平皿を取り出し、サラダを乗せた。
その合間に静が目玉焼きとベーコンを焼いている。
食パンをトースターに入れ、焼いている間に
バターやジャムを小さなトレーに乗せてテーブルに運ぶ。
やがて目玉焼きとベーコンが出来上がったらしく、
静がサラダの乗った皿にそれらを乗せてプレートは完成。
コーヒーについては静に任せることにしているので、
コーヒーを淹れている間にバスケットにトーストを乗せてテーブルに運んだ。
やがて二人分のコーヒーが出来上がり、静が運んで朝食の支度は完了だ。

二人でダイニングテーブルにつき、食事を始めた。

 「乃亜は今日、直接行くんだろう?」
 「はい。いったん家には帰っているほど、余裕はないと思うので……」
 「荷物が多いが、大丈夫か?」
 「たぶん、大丈夫です。
  ヴァイオリンは担いでいきますし、ドレスくらいなので」
 「俺が送っていけたらよかったんだが、すまないな」
 「いえ、兄さんも大学があるんですから」

本当に無理はしないでほしいのだ。
乃亜が心底そういった思いで言っているのに、静は変わらず苦く笑っている。

 「俺としては休みたいところなんだけどな」
 「さすがに駄目ですよ……そろそろ卒業研究の執筆始めるって言ってたじゃないですか」
 「……まぁ、そうだ。だから、苦渋の決断だ」
 「苦渋って……」

相変わらず、兄にとって優先順位は妹である自分らしい。
乃亜は思い切り苦笑いを浮かべた。

 「とはいえ、お前の出番には間に合う。
  楽屋には顔は出せないと思うが、客席で見てる」
 「はい、ありがとうございます」
 「昨日も言ったが、本選に進んだと言うだけで本当に立派なんだからな。
  俺としては、お前が、そうして自分がやりたいことをしてくれるだけで嬉しい。
  だから、なにひとつ気負う必要なんかないぞ」

気付けば止まっていた食事の手。
兄はこちらをまっすぐに見て、偽りのない様子で笑う。
責任感だけで乗り切ろうと思っていた気持ちが見透かされている気がする。

 「コンクールに出ても、出なくても、結果が伴おうが、なんだろうが、
  お前はいつでも、俺の自慢の妹なんだからな」
 「……はい。ありがとうございます」

敬愛する兄が自慢だと言ってくれる。
乃亜はそれに少しの緊張も覚えたが、それでもやはり、嬉しい気持ちが広がる。
それに頷き、乃亜は微笑みで返した。





学校が終わり、乃亜は聊か急ぎながら校門を出る。
友人たちは乃亜の荷物に興味津々なようだったが、
乃亜が曖昧に微笑むとそれ以上はなにも追求しないでいてくれた。
本当にいい友人たちにかこまれていると思う。

普段のらない電車に乗り、昨日と同じ場所へと向かう。
徐々に緊張してきたが、昨日よりは多少ましだ。

スマートフォンが鞄の中で震えたことに気付いて取り出す。
CORDアプリの新着が2つあった。
スマートフォンを取り出すのは朝以来だ。
いつの間にかメッセージが着ていたのか、それとも今の新着か。
チャットルームの一覧を確認したとたん、どきりとした。

 「……煉矢、さん……っ?」

つい電車の中で口走ってしまった。
あわてて周囲を見渡すが、幸い人は少なく、
また、電車の音に紛れたようで誰も気にしていない。
ほっと息を吐く。

確かに、彼とのチャットルームに新着1件のアイコンが付いている。
だがそれを開くことにやはりためらいが生まれた、
それよりも、今届いた、兄からのメッセージを開こう。
分かりやすく、乃亜は煉矢からのメッセージから逃げた。

静からのメッセージは予定通りに行けそうだ、というものだった。
少しほっとする。客席に兄がいてくれるだけで心強いのは確かだ。
しかし、こちらを優先しすぎないように、無理をしないでほしいと返信する。
また続けてましろからもメッセージが入った。
こちらも予定通り向かっているから、ということだった。

いずれにしても最初に到着するのは自分らしい。
少し心細さを感じるが、その心細さは、チャットルームの一覧に戻ったときに吹き飛んだ。
煉矢とのチャットルームについた新着アイコン。
指先がスマートフォンの上でさまよう。

9月に連絡してそれきり。
誕生日にもなにも連絡できなかった。
そんな中で送られてきたメッセージ。
内容を見たい、と言う気持ちと、怖い、という気持ちがせめぎ合う。

そこで駅に到着したことに気付いた。
乃亜はあわてて電車から降りる。
駅のホームの天井にかかる時計に目をやると、時刻は16:00を過ぎていた。

乃亜はスマートフォンを見つめ、やがてロックし、歩き出した。




時刻は17:00になった。
イベント会場は平日と言うこともあり、昨日よりは人出が少なかった。
しかしそれでも、明日が祝日で休みと言うこともあり、
夕方になるにつれて外のざわめきが大きくなってきている気がする。

乃亜は昨日と同じように楽屋で着替えを終えて、ひとり廊下の椅子に座っていた。
今日の出演者は自分を含めて8名。
自分の出番は4番目だ。

先ほどましろからCORDでメッセージが届いた。
会場に到着して、着席したらしい。

 『大丈夫。きっと今日も、大きく、花開くよ』

昨日かけてくれた言葉を思い出させる言葉だ。
乃亜はそれにふっと笑った。

ドレスは戦闘服。
ましろらしい言い回しだが、たしかに普段と違う姿は、
普段の自分から変わるためのきっかけになるのかもしれない。
もっとも、今日は兄がいないため、髪型はシンプルにおろしたままだ。

CORDアプリのチャットルームの一覧に視線を落とした。
いまだに開いていない、あの人のメッセージ。

間もなく本選。
まわりには誰もいない。
水野は現在、他の生徒の演奏のため離席している。

昨日よりも大きな舞台に、乃亜はぎりぎりまで一人で立ち向かう必要があった。
そんな中だからだろう。
どうしても、すがりたくなってしまう。
乃亜はチャットルームの名前に胸を高鳴らせながら、
ついに、それを開いた。

 『予選、通ったと静から聞いた。おめでとう。
  お前の演奏を聴けないのが残念だが、そちらに戻った時の楽しみにしておく』

そのメッセージ、一文字一文字をゆっくりとたどる。
予選のことやコンクールの時期など直接は言ってないのに、兄を通して伝わっていた。
それに対しての祝いの言葉。
聴けないことが残念だという。
けれどこちらに戻ってきたら、聴きたいと。
社交辞令のようなものだと思っている。きっとそうに違いない。
けれど形容しがたい、胸の内からあふれて仕方ないなにかが
乃亜の身体を侵食していく。
それに抗うように口の中を噛みしめる。
それでも抑えきれないそれらは、乃亜の頬を赤く染め、涙腺を緩めようとしてくる。
乃亜は緩む涙腺を必死に抑え込むように目を強く閉じ、
スマートフォンを胸に抱きしめた。

   ___煉矢さん……。

締め付けられる胸の痛み、溢れて仕方ない感情の波。
これが、本当に、恋、なんていうものなのだろうか。
しかし乃亜は必死に否定の言葉を探した。

   ___煉矢さんにとって、私は、妹みたいなもの、だもの……。

だから。
そう思ったとたんに、また強く胸が痛んだ。
心の奥の方で、なにかが、必死に、それを否と叫んでいるようだ。
その叫びは耳をふさいでも防げない。
乃亜はスマートフォンを見る。
いつの間にか画面が暗くなっている。
黒い画面に映る自分は、ひどく泣きそうな顔をしていた。



少しざわめきの広がる大ホール。
ヴァイオリンコンクールの本選が始まり、3人の出場者が演奏を終えている。
イベントの中の一プログラムという位置づけではあるが、
それでもコンクールとしての体裁はきちんとしており、
審査員もプロを招待し厳正に審査がなされている。
中高生とはいえ、昨今優れた才能はどこに転がっているか分からない。
審査員や、ヴァイオリンを愛する人々は、
一人ひとりの演奏に集中して耳を傾けていた。

 「No.8 斉王 乃亜さん」

次の出場者の名前がアナウンスされ、ざわついた会場は静まった。
その名前に5人いる審査員が大小さまざまに反応した。
昨日の予選での演奏を忘れられないのだ。
細かい技巧という点においては、他の出場者の中でも優れたものはいた。
しかし彼女のヴァイオリンを聴いたとき、なにか飲まれそうになったのだ。
それは圧倒的な表現力と魂にまで触れるようななにかのせいだ。
プロヴァイオリニストの審査員は厳しい目で見つめる。
小柄な少女の中に、途方もないほどの才能の原石がある。
そんな予感を感じているからだ。

ピアノ伴奏者とともに礼がされ、拍手が広がった。

二人が視線を合わせ、舞台上の少女はヴァイオリンを構えて頷く。

 【フォーレ:夢のあとに】

弓が引かれた途端に広がるとてつもないほどの切ない響き。
ヴァイオリンの美しい響きはまるで、何もない、誰もいない空へ、
ただすがるように手を伸ばしているようだ。
けれどそこに広がるのは、美しくも無感情な青い空だけ。
露骨に悲しみの広がる雨空ではない。
手足を冷やす雪空でもない。
あるのはどこまでもどこまでも晴れ渡った青空。
しかしそこには誰もいない、なにもない。
ただのひとりで、そこに立ち尽くしている。
誰かを求めて泣いているのに、
泣き声さえも空に飲まれて誰にも届かない。
誰かを求めているのではない。
たった一人を求めている。
ほんの少し前までは傍に感じられたその人は
いまはもうどこにいるのかもわからない。
手を伸ばしても届かない。
伸ばし方さえも分からない。
ただ果てしないほどに美しい青空の中、
声が、思いが、せめて風に乗って届くように。

そんな健気な祈りがかすれた声で囁かれるように、
しずかに、弓は落とされた。

最初に強い拍手をしたのは、
最も厳しい目を向けていたプロヴァイオリニストの審査員だった。
それに追従する形で多くの人の拍手が会場中に広がる。
プロのヴァイオリニストの隣に座っていた若手のヴァイオリニストは
込みあがる感情の整理を必死にしながら、
ちらと厳格で有名な隣人を見た。
かの人が最初に拍手をしたのが意外であったからだ。
そして仰天する。
その人の笑みを初めて見た。



拍手が収まった会場内の一角。
静は隣に座るましろの背中を撫でていた。

 「大丈夫か、ましろ」
 「……いや、うん、なんとか……」

涙声でつぶやくましろに静は苦笑いを浮かべる。
乃亜の演奏が始まって間もなく、ましろの瞳から涙が落ちたことに静は内心焦った。
ましろは横で、じっと乃亜の演奏を聴いていただけだ。
しかし分からないでもない。
自分のような、音楽にさほど感動を覚えない者でも、
乃亜の演奏は胸に迫るものがあった。

なんとも切ない響きだった。
どうしても、去年、ましろが病気に苦しんでいた時期を思い出してしまったのだ。
あの時の自分の無力感、ましろを救いたい思い、
そして失うかもしれないという恐怖。
それをまざまざと思い出してしまった。

どうやらそれはましろも同じだったらしい。

 「乃亜の演奏がすごいことは、昨日や、あの時聞かしてもらった、
  G線上のアリアでも思ってたんだけど……今日のは別格にすごかった……」
 「そうだな……」
 「私、音楽に気持ちが高揚することはないわけじゃないけど、
  こんなにぼろぼろ泣いたのは初めてだよ……。
  ちょっとこれで帰るのキツい……今ひどい顔してる……」
 「安心しろ、車で送ってやる」
 「助かる……」

はぁと深く息を吐き出してましろは背もたれに深く身体を委ねた。
次の出場者のアナウンスが響く。
静はひとつ息を吐いて、次の演奏に気持ちを切り替えた。




乃亜は震えそうになる手を身体の前で組みながら握る。
すべての出演者の発表が終わり、審査が終わったため、
全員ステージの上に立つように、という指示があった。
明るい照明に照らされたステージ。
自分も含めて8人が横一列に並んでいる。
緊張しているのは結果に対するものではなく、この状況にである。

満席とはいかないものの多くの人が客席に座り、こちらを見ている。
勿論自分だけに視線が向けられているわけではないだろうが、
こんな風に多くの人からの注目を浴びることには全く慣れていない。

泣きそうになる顔を引き締めつつ、ステージ中央で話している男性の背中を見る。
客席ではなく、せめてその人に視線を集中することでなんとか気持ちを紛らわせていた。
今話をしているのは審査員長として参加していた、中年のプロヴァイオリニストだ。
素晴らしい演奏ばかりで感動した。
きっと未来に大きく羽ばたく。
そんなようなことを話していると思うのだが、どうにも集中しきれない。
やがて話を終えたようで、司会担当にマイクが戻った。

 「では、審査結果の発表を行います」

言葉はよくないが、乃亜としては、やっとか、というのが正直だ。
はやくステージから降りたい気持ちでいっぱいである。
乃亜は両手に再度力を込めた。あと少しだ。

司会担当は手元の進行表を確認しながらつづけた。

 「今回のコンクールでは、1位、2位、3位までの上位入賞をされた方、
  そして、審査員特別賞を受賞された方には、
  明日の13:00からのガラコンサートにご出演いただきます。
  ではまず、審査員特別賞の発表です。
  この賞は上位の皆さまとは異なった判断基準にて選ばれる賞となっており、
  今回に関しては、卓越した表現力と感受性、それを高く評価し、
  将来を強く期待するといった意味での授賞となります。
  では、特別審査員を務めていただきました、
  本イベントの主催者である五木さん、お願いします」

薄いブルーのカジュアルシャツを着た40代に届くかというくらいの男性が
軽い足取りでステージの中央に進んでくる。
司会の青年からマイクを受け取り、手元の紙を取り出した。

 「それでは、審査員特別賞の発表です。
  ……No.8 斉王 乃亜さん!おめでとうございます!」
 「っ?!」

中央にいた主催の男性の視線、ステージ上の他の審査員、司会、さらに左右の出場者、
それらの視線が一斉に集まると同時に、ぱっとスポットライトに照らされる。
息を飲んで、周囲に視線をさまよわせる。
まさか、嘘だ。
口から出そうになったが会場中から聞こえる拍手にそれは飲まれ、
主催の男性に手招きされる。
受賞者は呼ばれたら前に出なければならない、ということは知っていたが
まさか自分が、と思っていたため頭が真っ白だ。
その手招きに促され、震える足でステージの中央に歩む。

 「おめでとうございます。
  大変に素晴らしい演奏でした」
 「あ……あ、ありがとう、ございます……」
 「是非今後も、その素晴らしい演奏で、
  多くの人に音楽のすばらしさを伝えて行ってください」
 「は、はい……」

掠れないようにマイクに対して必死に声を振り絞るが
それでもいくらも声は震えていた。
差し出される小さな花のブーケ。
白とピンクのバラが中心となったブーケを受け取り、
更に記念品として15cm程度のガラスのトロフィーを渡される。
震える手でそれを受け取り、乃亜は頭を下げて礼をし、
ステージの後ろに下がった。

すべて促されるまま、言われるままにしていたことで
まったく頭が動いてくれない。
花束もトロフィーも落とさないようにするのに必死だ。
今の自分に起きていることが心底信じられない。
本選に出たことさえ、演奏した今でさえ、どこか半信半疑なのに
授賞など本当に理解の範疇にない。
ただただ、戸惑うばかりだ。

本当に自分なんかがもらっていいのか。
もっと素晴らしい演奏をしていた人たちはいた。
楽屋でその演奏を聴いていた。
楽しそうに、明るく、自信をもって堂々を奏でている人たちがいた。
ツィゴイネルワイゼンは技巧もさることながら情熱的で震えたし、
無伴奏ヴァイオリンのシャコンヌはあまりにも美しかった。
洋楽をカバーしていたらしい演奏にはときめきさえ感じた。
有名なアニメ映画の主題歌をカバーしていた演奏は微笑みながら聴いていた。
華麗なるポロネーズは少しのミスはあったようだが
その華やかさはそれを打ち消してあまりある。
ゲームミュージックを楽しくわくわくとした様子で演奏している人もいた。
彼らは、彼女らは、自分なんかよりよほど。
自分のように、自分の気持ちも心もよく分からないまま、
ヴァイオリンを奏でていると言うことはないはずなのに。

足がすくむ。
怖い。
皆は自分ではない、別の自分を見ているのではないか。
自分はそこにいなかったのでは。
予備選考に通ったときの恐怖が再び甦る。

世界が自分を置いて、どこか遠くに見える。

乃亜は唇の裏を強くかみしめる。
胸に抱いた花束の香り、トロフィーの感触を感じられない。
ただ目を伏せ、ステージ上で続く、コンクールの結果発表を見ていた。





その後、楽屋に戻ると同時に水野に熱烈な賞賛を受けた。
やっぱり自分の考えは間違ってなかった。
本当に素晴らしい。
あなたの才能が認められた。
そんな風にいわれたが、乃亜は曖昧に微笑むことしかできなかった。
幸い謙遜しているのだと受け取ってもらえた。
更に静とましろも駆けつけてくれた。
ましろには抱きしめられた。
静には髪をいつものように撫でられた。
目元が少し濡れていたように見えたのは気のせいだろうか。
二人からの心からの祝いの言葉にも戸惑ったが、
心底嬉しそうにしているふたりに水を差すのも違う気がして、
乃亜は笑みを浮かべて礼を述べた。
本当はなにを祝われているのかさえ、よく分からなくなっていたのだけれど。

着替えを終えて帰り支度をし、
翌日のガラコンサートについての書類を受け取り会場を後にした。
いつも借りている車に乗り、ましろを家まで送って、静と共に帰宅した。
時刻はもう21:00を過ぎていたが、食欲がなかった。
実際演奏のあとに楽屋に差し入れとして、おにぎりやパンなどが置かれていた。
もっとも自分はほとんど食べていないが、兄に心配をかけたくなかったため、
それを言い訳につかい、夕食は食べずに休ませてもらった。
兄もそれで納得してくれ、今度ましろも入れてお祝いの食事に行こうと言っていた。
乃亜は頷く以外の選択肢が思い当たらなかった。

そして、今。
電気を消した部屋で、乃亜はひとり、ベッドに横になっていた。
先ほど時刻を確認したとき、23:45だったからおそらくもう、0:00をすぎているだろう。
それでも眠れない。
乃亜は布団のあたたかささえ煩わしさを感じて起き上がり、壁に背を預け、両膝を抱えた。

きっかけは、兄と共に行ったガラコンサートだった。
美しい音楽と旋律、音色、空気の震え、輝かしい舞台すべてに、乃亜は強く魅せられた。
ヴァイオリンの音色に誘われるようにその向こうの世界を見たいと思った。
けれど手を伸ばすことは強く躊躇われた。
幼い日々の、タンポポに手を伸ばしたときに受けた衝撃、
連鎖的に起きた恐怖、それに身がすくんだからだ。
ヴァイオリンを弾くことは続けても、あくまで自分の趣味のようなもの。
そう自分に言い聞かせ、その伸ばした手を握って下げた。
しかし水野のコンクールへ出てほしいという要望は、
そのとき引いた手を再び伸ばすかどうかの葛藤を自分に抱かせた。

その葛藤を払ってくれたのは煉矢の言葉だった。
あの強い恐怖の記憶はまだ消えない。
けれど、あのときのような気持ちではなく、
ヴァイオリンという当時はなかったものであるなら許される気がしたのだ。

だから少しだけそこに近づいてみようとしただけだ。
自分はまだまだ未熟で演奏も拙く、
水野の言うような語り部としての演奏もできる気がしなかった。
どうせ大事にはなるまいといった気楽さもあった。
自分の中では、一歩、否、半歩進めただけで十分だったのだ。

しかし、予備選考に通り、予選を突破し、
更に本選では、審査員特別賞などという賞まで貰った。

乃亜は顔をあげ、スチールデスクの上に飾った花束と
ガラスのトロフィーに視線を向ける。

白とピンク色の小さな薔薇が中心となり彩られた可愛らしい花束。
ガラスのトロフィーは六角柱の水晶のように少しアンバランスな形をつくり、
下部にはエッチング加工で虹の模様が描かれ、
審査員特別賞とプレートが貼られている。

客観的に見れば祝い事だ。
けれど乃亜自身はどうしても怖さを感じて仕方なかった。
自分が感じている自己評価と、他者から与えられているそれがまるで違いすぎている。
ステージにいた自分は、実はまったく違う自分だったのではないだろうか。
ましろが言っていた。
ドレスをきて、ステージに立ったとき、
ヴァイオリニスト斉王乃亜という、別の自分が顔を出す。
それはただの比喩、勇気づける為だと思っていたが、事実そうなのかもしれない。

 「……みんな、誰を、見てるの……?」

とても、自分のことを見ているようには思えない。
兄や、ましろでさえも。
震えそうになる身体を抱きしめた。
自分はここにいるのに、どこにもいないような気がして怖い。

そんなとき、スマートフォンの画面が明るくなった。
夜間であるから振動はなかった。
ロック画面にCORDアプリの通知が表示されていた。

それにどきりとする。
まさかという思いと共に、スマートフォンを手に取った。
ロックを解除してCORDを起動する。

チャットルームの一覧を表示する。
新着アイコンのついたチャットルームの名前に、乃亜は涙腺が緩んだ。

 「煉矢さん……」

どうしていつも、心が散り散りになるときに、
こうしてメッセージをくれるのだろう。
乃亜はぐっと涙をこらえて、チャットルームを開いた。

 『特別賞、おめでとう。よく頑張ったな』

同じような言葉は受賞の時にも聞いた。
水野からも、静からも、ましろからもだ。
ただそれでも、胸からあふれる気持ちのせいだろうか。
心を震わせ、身体を震わせ、涙腺をひどく刺激して仕方ない。

彼らとは違う。
煉矢は自分の演奏を見ていない。
だからかもしれない。
初めて、今ここにいる、斉王 乃亜ひとりに対して、言葉を向けられた気がした。

そう思ったとたん、堪えようもなく、涙がこぼれた。
ぼろぼろと次々と涙がこぼれてくる。
自分ではない自分を讃えられているような恐怖も、
意図せず受賞してしまったという事実も、
自分なんかが受賞して良かったのかという葛藤も、
全部次々と涙となってこぼれていく。

ここにいていいと、認めてくれたような気がしたからだ。

乃亜は泣き声を必死に抑え、
それでも消し聞けない嗚咽や吐息は腕で押さえつける。
涙が次々と頬を濡らして口元を押さえる袖にしみをつくっていく。
それでもチャットルームから目が離せない。

いくつも優しい言葉。
大切な言葉の羅列。
いつでも励まして、支えてくれたそれら。
すべては、自分に向けられたもの。
自分にだけ向けられているもの。

あたたかな思いはついに、限界突破を迎えた。

 「……好きです……煉矢さん……」
  
乃亜は息を吐き出し、否定し続けてきたその想いを言葉にした。
もう否とは言えない。
誤魔化せもしない。
どうにも消しようがない。
生まれて初めて自覚した、好きは、あまりにも遠い、その人だった。

会いたい。
自覚した途端にあふれた願いは、涙として落ちた。




肌寒さを少し感じるオープンテラス。
広大な敷地の中にあるいくつかのカフェの一角で、煉矢はスマートフォンを眺めていた。
その目元は普段より柔らかく細められ、
横向きにしたスマートフォンに映る動画を見ていた。
接続したBluetoothイヤフォンを片耳につけてその音色を楽しむ。
動画に映るのは、今は遠くにいる、幼馴染の少女。
とはいえ顔はあまりよく見えない
わざとそういったアングルで撮影しているらしいが、
音色を楽しむ分には何一つ問題はなかった。

先日、静から、乃亜がコンクールの予選を突破したとメッセージがきた。
コンクールに出場することについては、乃亜自身から、
そして静からも雑談の延長として聞いていた。
予備選考が通ったと乃亜からはメッセージが着ていたが、
その後の状況については特に音沙汰がなかった。

どうしていたか気にはなっていたものの、
こちらからあれこれ詮索するつもりはなかったし、
なにより乃亜になにかあれば、静から情報はもたらされるだろうという予感があった。
そしてそれは正しかった。

だが予選突破、そして翌日の本選でも、
審査員特別賞なる賞を受賞したと聞いたときにはさすがに驚いた。

大変にめでたいことであるし、乃亜のことを少なからず知っている自分としては感慨深い。
だが同時に、乃亜がどういった葛藤をもって出場したのかも知っているし、
彼女の繊細さもよく知っている。
なにか不安や戸惑いのほうが強いのではという気もしていた。

ひとまず受賞の祝いのメッセージを送った。
すぐに既読が付いたことは驚いたが、その後は特に返信はなかった。
が、あちらの時間での翌日。
乃亜からメッセージが入っていた。

 『ガラコンサートに出場するんですが、よければ、見てください』

どうやらイベントの一環で、ガラコンサートについては撮影され、
それが動画配信サービスのViewTubeで公開されるらしい。
貼られていたURLはイベントサイトだった。
配信については公演日の翌日に配信、とあった。

そしてつい先ほど配信されたのを確認した。

未成年が中心だからだろう、顔などは極力移さないようなアングルだ。
しかしそれでもヴァイオリンの音色はよくわかる。

乃亜が演奏している曲は、クラシックや音楽にあまり詳しくない自分でも知っている。
ある洋画の挿入歌となっていた曲だ。
力強い、「これが私」と訴えるような曲。
乃亜がこのようなタイプの曲を弾くことは意外だったが
それでもなにか胸に迫るものを感じた。

私はここにいる。

そう訴えてくるような。
演奏の合間、見切れた顔が僅かに映る。
その口元には笑みが浮かんでいた。

 「Yo, Ren, what're you watching?」
  (よう、レン、何見てるんだ?)

丁度曲の終わりに声がかかり、顔を上げた。
親しくしている友人であった。
彼はこちらが答えるより先に、隣の席に腰かける。
ひとまず彼が座る側のイヤフォンを外して答えた。

 「My friend in Japan won an award at a violin competition. 
  This is a livestream of the event.」
  (日本の友人が、ヴァイオリンコンクールで賞を取ったようでな。
   そのイベントの配信だ)
 「Whoa, that's awesome! Let me see for a bit!」
  (へぇ、すごいじゃないか!ちょっと見せてくれよ)

そういえばこの友人はクラシックが好きだったはずだ。
そういう意味でも興味があるらしい彼に、イヤフォンを軽く拭いて差し出した。
わくわくしたような様子でそれを受け取って耳に当て、
乃亜の演奏部分を最初からにして聴かせた。

最初は軽い気持ちの様子だった彼は、
その演奏が始まった途端にその表情を引き締めた。
どうやら乃亜の演奏がすごいものだと感じるのは、自分だけではないようだ。
やがて聴き終えた彼は、はぁ、と息を吐いてイヤフォンを外し、
同じように袖口で拭いて返してきた。

 「...That's amazing playing. I like classical music, 
  so I listen to it a lot, but this girl's incredible. Wait, how old is she?」
  (……すごい演奏だな。俺、クラシック好きだからよく聞くけど、
   すごいな、この子。え、何歳だ?)
 「Fifteen? No, maybe fourteen.」
  (15、いや、14か)
 「Fourteen?! Seriously?!」
  (14?!マジで?!)

誕生日前であるからそうなるはずだ。
煉矢はもう片方に着けていたイヤフォンも外しケースに片づけた。
そろそろ次の講義に向かう時間だ。

 「Hey, send me the URL for that video. I wanna watch it carefully later.」
  (なぁ、その動画のURL、送ってくれよ。あとでじっくり見たいから)
 「...Sure, but did you like it that much?」
  (……別にいいが、そんなに気に入ったのか?)
 「Yeah, totally!」
  (おう、まぁな!)

にかりと笑う彼に内心首をかしげながら、煉矢は承諾する。
彼もまた講義に向かうらしく、手を振って講義の場所へ走って行った。

煉矢もまた荷物もって立ち上がり、統計学の学棟へと向かう。
その中、先ほどの演奏を思い返す。

私はここにいる。
これが、私。

そう叫ぶような乃亜は、今どんな彼女になっているのだろうか。
留学期間はあと半年。
柄にもなく、帰国に対する期待をしている自分に、煉矢は小さく笑った。

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