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凪編
【凪編】46:xx16年8月8日/8月9日
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「乃亜、どうした?!」
「っ、……い、っ……っ」
駆け寄り乃亜に声をかけるも、
ぎりと歯を食いしばりながら乃亜はなにかを耐えている。
その右手は左腕をつよく押さえつけていた。
「腕が痛むのかっ?!」
だがそれにしては痛がり方が尋常ではない。
こちらの声が聞こえているのか分からないが、乃亜はひたすらに声を上げるのをこらえつつ
必死に痛みに耐えるように左の肘の内側を右手で押さえつけている。
冷や汗なのか髪がぺたりと肌に張り付き、強く眉を寄せている。
それになにか既視感を覚えながら、静は必死に冷静さを引き寄せる。
「乃亜、乃亜、俺の声は聞こえてるか?」
「……っ、に、さん……っ」
どうやら聞こえてはいるらしい。
少しだけ安堵して左腕を刺激しないよう右の肩に触れた。
「っ、お前、肩……っ、いや、今は、いい、それよりベッドに座ろう。
手を貸すから、少し、立てるか?」
「はい……っ」
右の脇の下に腕を通し、抱えるように起き上がらせる。
少し動くたびに小さく乃亜が呻いた。
それに心をじりじりと痛ませながら、静は乃亜をベッドに腰かけさせる。
ベッドの横に膝をつき、あらためて乃亜が押さえつけている左腕を確認する。
心臓の音がこれでもかと煩い。
しかし今ここで冷静さを欠いてもいけない。自分に強く言い聞かせる。
「乃亜、少し触るからな」
「……っ」
慎重に、そっとごく静かに触れる手。
そこから発せられる熱に静は目を見開いた。
熱い。
左手首、腕。いずれも尋常ではない熱をもっていた。
静はぐっと歯を食いしばり、立ち上がって乃亜の布団を丸め、
枕の下のほうにそれを置く。
「心臓より高くに腕を置いた方が楽になる。
横になって、ここに腕を乗せるんだ。
冷やすものをもってくるから」
乃亜は力なく頷き、大人しく言われたとおりに横になる。
冷や汗まみれの顔は青白い。
横になった乃亜に踵を返してキッチンへ向かう。
ビニール袋に氷を入れ、少しの塩をいれてしっかりと結ぶ。
もう一重ビニール袋に入れてからタオルでそれを包み込んだ。
この手の応急処置は剣道道場に通っていた時に経験がある。
乃亜のあの様子は、剣道をしていた時に見ていたそれよりはるかに重度だ。
そのとき汗でぴたりと張り付いた髪に感じた既視感、
その正体を思い出した。
ひとつは数日前、夜中に帰ってきた時だ。
声をかけて出てきた妹はいつも通りに見えたが、
その実、実は痛みに耐えての冷や汗だったのではないだろうか。
そしてもう一つは三者面談。
あの時、大量の汗をかいていた。
暑さのせいのようなことを言っていたが、実は違ったのか。
静は己の不明に叫びたくなった。
だが今はそんなことは後回しである。
即席で作った氷嚢を乃亜の元へ運ぶ。
タオルで包んで温度を確認し、それを乃亜の手首にそっと押し当てた。
冷たさに一瞬顔をしかめたが、すぐにほっと息を吐いていた。
「乃亜、少し落ち着いたら病院に行くからな」
「……でも、兄さん、大学、に……」
「馬鹿を言うな」
いつもであれば乃亜らしいと苦笑いを浮かべるところであるが
今はとても笑ってなどいられない。
むしろ逆に腹立たしささえ感じ、静の声はいつもより低くなっていた。
「病院を確認するから少し待ってろ」
「……はい」
静は乃亜に背を向け、スマートフォンで整形外科を調べる。
幸い月曜日であるから休診となっている場所はほぼない。
比較的近く、評価が低すぎないような場所を
確認しておおよその場所を地図で確認し終えた。
今までにないような二人の間の重たい空気を感じながら
静は音なく小さく息を吐き出し、スマートフォンをしまった。
視界にふと、床に転がったままの電子ヴァイオリンに気付く。
状況からしてヴァイオリンの過剰な練習が要因なのは分かり切っていた。
思わずそれを強くにらみつけそうになるが
それはただの八つ当たりだと分かっている。
静はぐっと手のひらを強く強く握りしめるが、
おさまりが効かず、唇の端を噛みしめる。
いっそ壊してしまいたくなったが、視線を感じて顔を上げると
乃亜が不安そうに、こちらを、否、ヴァイオリンを見ていた。
取り上げないで。
壊さないで。
そう視線で訴えているように見え、静はばつが悪い。
ヴァイオリンをやや乱暴に取り上げて、
壁際の専用台にそれを立てかけた。
確認した整形外科は徒歩でも行ける場所にあったが
乃亜の状況を加味して車を使うことにした。
幸い診療所の近くにコインパーキングがあったため駐車には困らない。
白い壁に『ヒマワリ整形外科クリニック』と水色の看板に白い文字で書かれた看板。
看板にはその名前の通りひまわりの絵が共に描かれていた。
入口近くには背の高いはひまわりが植えられ
それに見送られながら診療所の中へと入る。
室内も白い壁と明るい木目調の受付台など、
全体を通して柔らかな印象を受けた。
壁際のベンチに3名ほど座っている。
受付を済ませ、診療所の待合室にて乃亜は一言も口を利かない。
ただ左手首あたりに氷嚢をあてがいながら、俯き続けている。
人ひとり分もない、二人並んだ隙間。
その合間にある無言がひどく重く感じられ、静もまた目を伏せた。
やがて30分ほど経過して名を呼ばれ、乃亜に寄り添う形で診察室へはいる。
白衣を着たやせ型の医師は50代くらいだろうか。
撫でつけた髪を首の後ろで結んでおり、丸い眼鏡をかけていた。
問診がはじまり、きちんと応対できるのかと最初は少し心配していたが
乃亜は医師の質問にゆっくりながらも答えていく。
掠れた声がどこか痛々しいが、その中で静も状況について把握した。
ヴァイオリンの練習をしていたら痛みが走った。
初めて痛みを感じたのは6月ごろだった。
難しい曲の練習をしていたから、最初は筋肉痛か何かかと思った。
強くなってきた頃には市販の鎮痛剤で抑えてた。
自分の知らない事実に静は眉をしかめていたが
医師はそれらを聞き、痛む箇所に触診を始めた。
その後レントゲンの撮影なども行い、一度待合室に戻され、
再度診察室へと呼ばれた。
五十嵐と書かれたネームプレートを胸元につけた医師は告げた。
「まず、身体の右腕、右肩、首まわり、左肩に関しては
ひどい筋疲労の状態にあると思われます。
簡単に言えば筋肉の使い過ぎですが、本来であれば十分な休息を取れば自然と回復します。
しかし、筋肉がきちんと休めていない状態で
過剰に練習を続けたことによってダメージが蓄積している状態になっています」
「……」
乃亜は視線を逸らした。
「先ほど触診させていただきましたが、
肩周りがガチガチに固まっています。
慢性的に頭痛やめまい、寝つきが悪いなどありませんでしたか?」
「………頭痛は」
「市販の鎮痛薬を服用されていたとのことなので、
それで緩和はされていたかと思いますが、一時的な緩和に過ぎなかったでしょう」
先ほどの問診ではそのようなことは言っていなかった。
静は思わず乃亜り小さくなる背中をにらみそうになった。
「そして左腕ですが、手首まわりが重度の腱鞘炎と思われます。
軽度の状態であれば、特定の動作をした時に痛む程度だったかと思いますが
その状態で放置し、鎮痛剤で胡麻化しながら練習を続けたため
悪化して今の状態になったと思います。
ヴァイオリンを弾く人に多いので珍しくない話ではありますが、
それでもここまで重くなるまで放置してしまうのは少し、まずかったですね」
「……はい」
叱られている子供のように乃亜の頭は下がる。
だがこればかりは静も同意見だった。
ここまでになるまで放置して、それどころか練習を重ね続けたのだから、仕方がない。
深く俯く乃亜を一瞥して静は医師に声をかけた。
「治療については、どうなりますか?」
「筋疲労にしても腱鞘炎にしてもまずは休むことです。
お薬としては、湿布薬と痛み止め、ビタミン剤を処方しますので、
ご自宅ではそちらを使ってください。
あと、これが最も重要ですが、ヴァイオリンはしばらく禁止です」
「っ?!!」
乃亜がひゅっと息を吸い込み顔を上げた。
あまりの勢いに、医師も少し驚いたようだったが
すぐに気を取り直し、乃亜の目をじっくり目ながらつづけた。
「ヴァイオリンの練習によってここまでの状態になったんです。
まずは絶対安静が第一です。
そもそも、自分でもわかるかと思いますが、
ヴァイオリンを弾きたくても弾けない状態のはずですよ」
「そ……それは、でも、私、来週、コンクール、が……っ」
「乃亜」
静が低い声で乃亜の抵抗をさえぎる。
乃亜はそれにびくりとして振り返った。首は殆ど動かず、身体ごと。
青い顔で、今にも泣きだしそうなほどに表情をゆがめていたが
静は首を振るだけだ。
乃亜は絶望したような顔で深く俯いた。
医師は乃亜の右肩にぽん、と触れる。
「今はつらいと思います。
しかし、このまま無理を続けたら、ヴァイオリンどころの騒ぎじゃなくなります。
治療を続ければ必ずまた弾けるようになりますから、今はこらえてください」
「………はい」
掠れた声ながらも承諾し、医師は少し安堵して頷いた。
その後、治療室に通され、背中から肩にかけて湿布薬を張られた。
また腱鞘炎と診断された左手に関しては、
プレートが入っているらしいサポーターを渡された。
付け方や注意点などの説明を受けてそれをつけると、
乃亜の細い手首は、手のひらから親指を含めて完全に固定された。
処方箋をもらい支払いを済ませて診療所を出、
近くにある調剤薬局で処方されたそれらを受け取る。
その間も、乃亜は顔色を悪くしたままなにも言葉を発さなかった。
やがて自宅へと戻った。
自室へと戻ろうとする乃亜は静の顔を見ない。
何を考えているのか、静は妹の心中を察することができない。
ただひとつ言えるのは、今の乃亜はひどくヴァイオリンに執着している。
なにがそうさせているのか、静には分からなかった。
「乃亜」
自室のベッドに腰かける乃亜に、静は膝をついて視線を合わせる。
乃亜はその目を見つめ返すことができないのか、
すぐに視線を逸らした。
「先生も言ったが、しばらくヴァイオリンは禁止だ」
「……っ、はい……」
「電子ヴァイオリンも含めて、しばらく俺の部屋に置く」
「っ!!」
あまりの衝撃だったのだろう、乃亜は静の顔をようやくまっすぐに見た。
なにかを言おうとして、それでも言えず、ぱくぱくと口を動かしている。
静は首を振る。
「6月ごろからずっと痛みがあった。
それでも俺にも誰にも言わずに、痛みをごまかしながらつづけた。
その結果がこれだ。
今回ばかりは、俺も甘やかすことはしない。
何かの拍子に触りたくなることがあってもおかしくない。
……俺の言う意味はわかるな」
「っ、……は、い……」
「水野先生には俺から話しておく。
……幸い夏休みだ。ゆっくり休むんだぞ」
「………」
小さく頷き、乃亜はなにも言わない。
静もまた、それ以上何も言わなかった。
いまだかつてないほどに家の中の空気は重くなった。
食べずにいた昼食のパスタは数時間経過してしまったこともあり
仕方なくそのまま廃棄した。
夕食には別のものを用意したが、
乃亜は慣れない右手でぎこちなくフォークとスプーンを使っていたが
半分ほど残して自室へと戻っていった。
食事中に会話はなかった。
自室に戻った静は部屋の隅に置かれている乃亜の電子ヴァイオリンと
レッスンに持っていっているヴァイオリン、二つをちらと見た。
なにかひどく疲れを感じ、デスクチェアに深く腰掛けて天井を見上げる。
大学には身内の体調不良のためしばらくは顔を出せない旨を伝えた。
教授は事情が事情なだけに仕方がないと言ってくれた。
家でできるデータの整理や検証などは行うと告げると、
無理はせずに家族に寄り添ってやれと言ってくれた時には、
不覚にも少し目の奥が熱くなった。
乃亜が何故、そこまで深く、ヴァイオリンにすがるのか分からない。
少し前にましろが言っていた。
乃亜にとってヴァイオリンは、ただのツールじゃない。
ヴァイオリンを通じて話をしている。
自分の気持ちを訴えている。
それについてはひどく納得した。
以前から、それこそ、ここに来る前の施設にいた時でさえ、
乃亜はヴァイオリンを弾いているときだけはどこか表情が和らいでいた。
よほど好きなんだなと当時は軽く考えていたが、
共に暮らすようになってからを思い返してみると、
ヴァイオリンを弾いている時の姿は、あまりに、普段の様子とは違っていたと気づいた。
ここに来た当初から、どこか遠慮がちで、
自分の思いや意見を言うことはしていなかった。
それが少しずつ、自分の言葉で話すようになっていったのは
暮らしてからしばらく経ってからだった。
それでも、控えめで、どこか気の弱い様子を見せ、自己肯定感は低く
自分の希望はほぼ言わない。
そんな乃亜が、一番大きく感情を動かしたのは、
ヴァイオリン教室へ通ってみないかと告げたときだったかもしれない。
きらきらと瞳を輝かせて、そしてヴァイオリンを久方ぶりに奏でた時の姿は
堂々として、自信に満ち溢れたような姿だった。
それと共に、先ほどのことを思い返す。
かつて輝かせていた瞳が絶望に染まっているように見えた。
それほど深い思い入れがあるヴァイオリンが弾けない。
あまつさえ、取り上げられた。
平時から可愛がっている妹のあの顔は心底堪える。
けれど心を鬼にするほかない。
あの様子では、目を離した隙に、手を伸ばしそうだと感じたからだ。
暗い顔でこちらを見ずに、食事を進める姿も見ていてつらかった。
もっとはやく、打ち明けてくれていたらとどうしても思ってしまう。
静は溜息を深く深く、吐き出した。
もう今日はなにか作業をする気にはなれない。
立ち上がり、ベッドに横になった。
食事を終えて暗い顔で自室へと戻る乃亜の横顔。
今はつらいだろう。
だが今は、乃亜の身体の回復が最優先だ。
静は自分に言い聞かせ、目を閉じ、気付けはそのまま寝入っていた。
ふと目を覚ました静は、枕元に置いたままのスマートフォンを見た。
ディスプレイの時刻は6:51とあった。
ベッドから起き上がり、目元を拭う。
電気がついたままの室内に静は苦いモノを感じる。
そのまま寝落ちてしまったと気づき、溜息を吐いた。
部屋の隅に目をやれば、主のいないヴァイオリンが並んでいる。
昨日の記憶は否応なしにはっきりと思い出され、
乃亜の様子を見るべく自室を出た。
シンと静まり返った室内。
乃亜は少しは眠れているだろうか。
昨日は少し厳しい言い方をしてしまったが、
少しは互いに冷静に話せたらと思いつつ、
乃亜の部屋のドアを薄く開けた。
ドアの正面にあるベッドの上を見て、静は首を傾げた。
「乃亜?」
ベッドの上には枕と、少し乱れながらも広げられた布団。
枕の脇にはスマートフォンが充電されたままは置かれていた。
ドアを開け、室内を見る。
一時しのぎと思っていたがそのまま使われ続けているスチールデスク、
簡易的な椅子に、カラーボックス。
敷かれた遮光カーテン。
「……っ、乃亜?!」
誰もいない。
静は声を上げ、リビングやダイニングに目を向けるが
誰もいないのは明白過ぎている。
トイレか、風呂か。
そう思いそれらをノックするが返事はない。
風呂場のドアは空けたままにしており誰もいないことは一目でわかる。
トイレに関してはドアノブがあっさりと回った。いない。
そこで決定的なことに気付いた。気づいてしまった。
玄関先、そこに置かれたいるはずの、乃亜の靴がない。
さ、と全身の血が引いていく。
静は冷や汗さえかいて家を飛び出し、マンションの外を走って見渡す。
マンションの前、左右を確認する。
犬の散歩やジョギングをする人、通勤のために駅へ向かう人、
その中に、遠くまで見ても乃亜らしい人影はない。
昨日の乃亜の絶望に染まった横顔。
青白い顔でこちらを見ず、ただ目を伏せている姿。
嫌な想像を打ち消すように、静は周辺を探すべく、走り出した。
「っ、……い、っ……っ」
駆け寄り乃亜に声をかけるも、
ぎりと歯を食いしばりながら乃亜はなにかを耐えている。
その右手は左腕をつよく押さえつけていた。
「腕が痛むのかっ?!」
だがそれにしては痛がり方が尋常ではない。
こちらの声が聞こえているのか分からないが、乃亜はひたすらに声を上げるのをこらえつつ
必死に痛みに耐えるように左の肘の内側を右手で押さえつけている。
冷や汗なのか髪がぺたりと肌に張り付き、強く眉を寄せている。
それになにか既視感を覚えながら、静は必死に冷静さを引き寄せる。
「乃亜、乃亜、俺の声は聞こえてるか?」
「……っ、に、さん……っ」
どうやら聞こえてはいるらしい。
少しだけ安堵して左腕を刺激しないよう右の肩に触れた。
「っ、お前、肩……っ、いや、今は、いい、それよりベッドに座ろう。
手を貸すから、少し、立てるか?」
「はい……っ」
右の脇の下に腕を通し、抱えるように起き上がらせる。
少し動くたびに小さく乃亜が呻いた。
それに心をじりじりと痛ませながら、静は乃亜をベッドに腰かけさせる。
ベッドの横に膝をつき、あらためて乃亜が押さえつけている左腕を確認する。
心臓の音がこれでもかと煩い。
しかし今ここで冷静さを欠いてもいけない。自分に強く言い聞かせる。
「乃亜、少し触るからな」
「……っ」
慎重に、そっとごく静かに触れる手。
そこから発せられる熱に静は目を見開いた。
熱い。
左手首、腕。いずれも尋常ではない熱をもっていた。
静はぐっと歯を食いしばり、立ち上がって乃亜の布団を丸め、
枕の下のほうにそれを置く。
「心臓より高くに腕を置いた方が楽になる。
横になって、ここに腕を乗せるんだ。
冷やすものをもってくるから」
乃亜は力なく頷き、大人しく言われたとおりに横になる。
冷や汗まみれの顔は青白い。
横になった乃亜に踵を返してキッチンへ向かう。
ビニール袋に氷を入れ、少しの塩をいれてしっかりと結ぶ。
もう一重ビニール袋に入れてからタオルでそれを包み込んだ。
この手の応急処置は剣道道場に通っていた時に経験がある。
乃亜のあの様子は、剣道をしていた時に見ていたそれよりはるかに重度だ。
そのとき汗でぴたりと張り付いた髪に感じた既視感、
その正体を思い出した。
ひとつは数日前、夜中に帰ってきた時だ。
声をかけて出てきた妹はいつも通りに見えたが、
その実、実は痛みに耐えての冷や汗だったのではないだろうか。
そしてもう一つは三者面談。
あの時、大量の汗をかいていた。
暑さのせいのようなことを言っていたが、実は違ったのか。
静は己の不明に叫びたくなった。
だが今はそんなことは後回しである。
即席で作った氷嚢を乃亜の元へ運ぶ。
タオルで包んで温度を確認し、それを乃亜の手首にそっと押し当てた。
冷たさに一瞬顔をしかめたが、すぐにほっと息を吐いていた。
「乃亜、少し落ち着いたら病院に行くからな」
「……でも、兄さん、大学、に……」
「馬鹿を言うな」
いつもであれば乃亜らしいと苦笑いを浮かべるところであるが
今はとても笑ってなどいられない。
むしろ逆に腹立たしささえ感じ、静の声はいつもより低くなっていた。
「病院を確認するから少し待ってろ」
「……はい」
静は乃亜に背を向け、スマートフォンで整形外科を調べる。
幸い月曜日であるから休診となっている場所はほぼない。
比較的近く、評価が低すぎないような場所を
確認しておおよその場所を地図で確認し終えた。
今までにないような二人の間の重たい空気を感じながら
静は音なく小さく息を吐き出し、スマートフォンをしまった。
視界にふと、床に転がったままの電子ヴァイオリンに気付く。
状況からしてヴァイオリンの過剰な練習が要因なのは分かり切っていた。
思わずそれを強くにらみつけそうになるが
それはただの八つ当たりだと分かっている。
静はぐっと手のひらを強く強く握りしめるが、
おさまりが効かず、唇の端を噛みしめる。
いっそ壊してしまいたくなったが、視線を感じて顔を上げると
乃亜が不安そうに、こちらを、否、ヴァイオリンを見ていた。
取り上げないで。
壊さないで。
そう視線で訴えているように見え、静はばつが悪い。
ヴァイオリンをやや乱暴に取り上げて、
壁際の専用台にそれを立てかけた。
確認した整形外科は徒歩でも行ける場所にあったが
乃亜の状況を加味して車を使うことにした。
幸い診療所の近くにコインパーキングがあったため駐車には困らない。
白い壁に『ヒマワリ整形外科クリニック』と水色の看板に白い文字で書かれた看板。
看板にはその名前の通りひまわりの絵が共に描かれていた。
入口近くには背の高いはひまわりが植えられ
それに見送られながら診療所の中へと入る。
室内も白い壁と明るい木目調の受付台など、
全体を通して柔らかな印象を受けた。
壁際のベンチに3名ほど座っている。
受付を済ませ、診療所の待合室にて乃亜は一言も口を利かない。
ただ左手首あたりに氷嚢をあてがいながら、俯き続けている。
人ひとり分もない、二人並んだ隙間。
その合間にある無言がひどく重く感じられ、静もまた目を伏せた。
やがて30分ほど経過して名を呼ばれ、乃亜に寄り添う形で診察室へはいる。
白衣を着たやせ型の医師は50代くらいだろうか。
撫でつけた髪を首の後ろで結んでおり、丸い眼鏡をかけていた。
問診がはじまり、きちんと応対できるのかと最初は少し心配していたが
乃亜は医師の質問にゆっくりながらも答えていく。
掠れた声がどこか痛々しいが、その中で静も状況について把握した。
ヴァイオリンの練習をしていたら痛みが走った。
初めて痛みを感じたのは6月ごろだった。
難しい曲の練習をしていたから、最初は筋肉痛か何かかと思った。
強くなってきた頃には市販の鎮痛剤で抑えてた。
自分の知らない事実に静は眉をしかめていたが
医師はそれらを聞き、痛む箇所に触診を始めた。
その後レントゲンの撮影なども行い、一度待合室に戻され、
再度診察室へと呼ばれた。
五十嵐と書かれたネームプレートを胸元につけた医師は告げた。
「まず、身体の右腕、右肩、首まわり、左肩に関しては
ひどい筋疲労の状態にあると思われます。
簡単に言えば筋肉の使い過ぎですが、本来であれば十分な休息を取れば自然と回復します。
しかし、筋肉がきちんと休めていない状態で
過剰に練習を続けたことによってダメージが蓄積している状態になっています」
「……」
乃亜は視線を逸らした。
「先ほど触診させていただきましたが、
肩周りがガチガチに固まっています。
慢性的に頭痛やめまい、寝つきが悪いなどありませんでしたか?」
「………頭痛は」
「市販の鎮痛薬を服用されていたとのことなので、
それで緩和はされていたかと思いますが、一時的な緩和に過ぎなかったでしょう」
先ほどの問診ではそのようなことは言っていなかった。
静は思わず乃亜り小さくなる背中をにらみそうになった。
「そして左腕ですが、手首まわりが重度の腱鞘炎と思われます。
軽度の状態であれば、特定の動作をした時に痛む程度だったかと思いますが
その状態で放置し、鎮痛剤で胡麻化しながら練習を続けたため
悪化して今の状態になったと思います。
ヴァイオリンを弾く人に多いので珍しくない話ではありますが、
それでもここまで重くなるまで放置してしまうのは少し、まずかったですね」
「……はい」
叱られている子供のように乃亜の頭は下がる。
だがこればかりは静も同意見だった。
ここまでになるまで放置して、それどころか練習を重ね続けたのだから、仕方がない。
深く俯く乃亜を一瞥して静は医師に声をかけた。
「治療については、どうなりますか?」
「筋疲労にしても腱鞘炎にしてもまずは休むことです。
お薬としては、湿布薬と痛み止め、ビタミン剤を処方しますので、
ご自宅ではそちらを使ってください。
あと、これが最も重要ですが、ヴァイオリンはしばらく禁止です」
「っ?!!」
乃亜がひゅっと息を吸い込み顔を上げた。
あまりの勢いに、医師も少し驚いたようだったが
すぐに気を取り直し、乃亜の目をじっくり目ながらつづけた。
「ヴァイオリンの練習によってここまでの状態になったんです。
まずは絶対安静が第一です。
そもそも、自分でもわかるかと思いますが、
ヴァイオリンを弾きたくても弾けない状態のはずですよ」
「そ……それは、でも、私、来週、コンクール、が……っ」
「乃亜」
静が低い声で乃亜の抵抗をさえぎる。
乃亜はそれにびくりとして振り返った。首は殆ど動かず、身体ごと。
青い顔で、今にも泣きだしそうなほどに表情をゆがめていたが
静は首を振るだけだ。
乃亜は絶望したような顔で深く俯いた。
医師は乃亜の右肩にぽん、と触れる。
「今はつらいと思います。
しかし、このまま無理を続けたら、ヴァイオリンどころの騒ぎじゃなくなります。
治療を続ければ必ずまた弾けるようになりますから、今はこらえてください」
「………はい」
掠れた声ながらも承諾し、医師は少し安堵して頷いた。
その後、治療室に通され、背中から肩にかけて湿布薬を張られた。
また腱鞘炎と診断された左手に関しては、
プレートが入っているらしいサポーターを渡された。
付け方や注意点などの説明を受けてそれをつけると、
乃亜の細い手首は、手のひらから親指を含めて完全に固定された。
処方箋をもらい支払いを済ませて診療所を出、
近くにある調剤薬局で処方されたそれらを受け取る。
その間も、乃亜は顔色を悪くしたままなにも言葉を発さなかった。
やがて自宅へと戻った。
自室へと戻ろうとする乃亜は静の顔を見ない。
何を考えているのか、静は妹の心中を察することができない。
ただひとつ言えるのは、今の乃亜はひどくヴァイオリンに執着している。
なにがそうさせているのか、静には分からなかった。
「乃亜」
自室のベッドに腰かける乃亜に、静は膝をついて視線を合わせる。
乃亜はその目を見つめ返すことができないのか、
すぐに視線を逸らした。
「先生も言ったが、しばらくヴァイオリンは禁止だ」
「……っ、はい……」
「電子ヴァイオリンも含めて、しばらく俺の部屋に置く」
「っ!!」
あまりの衝撃だったのだろう、乃亜は静の顔をようやくまっすぐに見た。
なにかを言おうとして、それでも言えず、ぱくぱくと口を動かしている。
静は首を振る。
「6月ごろからずっと痛みがあった。
それでも俺にも誰にも言わずに、痛みをごまかしながらつづけた。
その結果がこれだ。
今回ばかりは、俺も甘やかすことはしない。
何かの拍子に触りたくなることがあってもおかしくない。
……俺の言う意味はわかるな」
「っ、……は、い……」
「水野先生には俺から話しておく。
……幸い夏休みだ。ゆっくり休むんだぞ」
「………」
小さく頷き、乃亜はなにも言わない。
静もまた、それ以上何も言わなかった。
いまだかつてないほどに家の中の空気は重くなった。
食べずにいた昼食のパスタは数時間経過してしまったこともあり
仕方なくそのまま廃棄した。
夕食には別のものを用意したが、
乃亜は慣れない右手でぎこちなくフォークとスプーンを使っていたが
半分ほど残して自室へと戻っていった。
食事中に会話はなかった。
自室に戻った静は部屋の隅に置かれている乃亜の電子ヴァイオリンと
レッスンに持っていっているヴァイオリン、二つをちらと見た。
なにかひどく疲れを感じ、デスクチェアに深く腰掛けて天井を見上げる。
大学には身内の体調不良のためしばらくは顔を出せない旨を伝えた。
教授は事情が事情なだけに仕方がないと言ってくれた。
家でできるデータの整理や検証などは行うと告げると、
無理はせずに家族に寄り添ってやれと言ってくれた時には、
不覚にも少し目の奥が熱くなった。
乃亜が何故、そこまで深く、ヴァイオリンにすがるのか分からない。
少し前にましろが言っていた。
乃亜にとってヴァイオリンは、ただのツールじゃない。
ヴァイオリンを通じて話をしている。
自分の気持ちを訴えている。
それについてはひどく納得した。
以前から、それこそ、ここに来る前の施設にいた時でさえ、
乃亜はヴァイオリンを弾いているときだけはどこか表情が和らいでいた。
よほど好きなんだなと当時は軽く考えていたが、
共に暮らすようになってからを思い返してみると、
ヴァイオリンを弾いている時の姿は、あまりに、普段の様子とは違っていたと気づいた。
ここに来た当初から、どこか遠慮がちで、
自分の思いや意見を言うことはしていなかった。
それが少しずつ、自分の言葉で話すようになっていったのは
暮らしてからしばらく経ってからだった。
それでも、控えめで、どこか気の弱い様子を見せ、自己肯定感は低く
自分の希望はほぼ言わない。
そんな乃亜が、一番大きく感情を動かしたのは、
ヴァイオリン教室へ通ってみないかと告げたときだったかもしれない。
きらきらと瞳を輝かせて、そしてヴァイオリンを久方ぶりに奏でた時の姿は
堂々として、自信に満ち溢れたような姿だった。
それと共に、先ほどのことを思い返す。
かつて輝かせていた瞳が絶望に染まっているように見えた。
それほど深い思い入れがあるヴァイオリンが弾けない。
あまつさえ、取り上げられた。
平時から可愛がっている妹のあの顔は心底堪える。
けれど心を鬼にするほかない。
あの様子では、目を離した隙に、手を伸ばしそうだと感じたからだ。
暗い顔でこちらを見ずに、食事を進める姿も見ていてつらかった。
もっとはやく、打ち明けてくれていたらとどうしても思ってしまう。
静は溜息を深く深く、吐き出した。
もう今日はなにか作業をする気にはなれない。
立ち上がり、ベッドに横になった。
食事を終えて暗い顔で自室へと戻る乃亜の横顔。
今はつらいだろう。
だが今は、乃亜の身体の回復が最優先だ。
静は自分に言い聞かせ、目を閉じ、気付けはそのまま寝入っていた。
ふと目を覚ました静は、枕元に置いたままのスマートフォンを見た。
ディスプレイの時刻は6:51とあった。
ベッドから起き上がり、目元を拭う。
電気がついたままの室内に静は苦いモノを感じる。
そのまま寝落ちてしまったと気づき、溜息を吐いた。
部屋の隅に目をやれば、主のいないヴァイオリンが並んでいる。
昨日の記憶は否応なしにはっきりと思い出され、
乃亜の様子を見るべく自室を出た。
シンと静まり返った室内。
乃亜は少しは眠れているだろうか。
昨日は少し厳しい言い方をしてしまったが、
少しは互いに冷静に話せたらと思いつつ、
乃亜の部屋のドアを薄く開けた。
ドアの正面にあるベッドの上を見て、静は首を傾げた。
「乃亜?」
ベッドの上には枕と、少し乱れながらも広げられた布団。
枕の脇にはスマートフォンが充電されたままは置かれていた。
ドアを開け、室内を見る。
一時しのぎと思っていたがそのまま使われ続けているスチールデスク、
簡易的な椅子に、カラーボックス。
敷かれた遮光カーテン。
「……っ、乃亜?!」
誰もいない。
静は声を上げ、リビングやダイニングに目を向けるが
誰もいないのは明白過ぎている。
トイレか、風呂か。
そう思いそれらをノックするが返事はない。
風呂場のドアは空けたままにしており誰もいないことは一目でわかる。
トイレに関してはドアノブがあっさりと回った。いない。
そこで決定的なことに気付いた。気づいてしまった。
玄関先、そこに置かれたいるはずの、乃亜の靴がない。
さ、と全身の血が引いていく。
静は冷や汗さえかいて家を飛び出し、マンションの外を走って見渡す。
マンションの前、左右を確認する。
犬の散歩やジョギングをする人、通勤のために駅へ向かう人、
その中に、遠くまで見ても乃亜らしい人影はない。
昨日の乃亜の絶望に染まった横顔。
青白い顔でこちらを見ず、ただ目を伏せている姿。
嫌な想像を打ち消すように、静は周辺を探すべく、走り出した。
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