8 / 51
【1・Brother & Sister―高野原家の五人―】
4・猫被り姫の長い午後(2)
しおりを挟む
テレビの野球中継が中断し定時のニュースが流れる。
岩手県でクマが民家に侵入し住民が怪我をしたとアナウンサーが原稿を読み上げると現場の映像に切り替わった。
「ここ数年で厄介なのは「クマ」に変わったって感じだなぁ…」
伯従父がテレビを見ながらそう言った。
「まぁ「クマ」となったら警察も自治体も色々縛りがあって簡単に駆除出来ない―俺らを駆り出してさっさとやれと言われるけど管轄外ですから」
真斗はそう言ってグラスに残った麦茶を飲み干す。
「俺らどころか真斗君クラスでも「クマ」は倒せないもんなぁ」
「さすがに「クマ」に遭ったら逃げるしかないですよ」
怖いもんなぁと二人は笑った。
台所からダイニングに行きその様子を覗き見ていた茉莉花は何となく見ていられなくなって目を逸らす。
眉間に皺がない笑顔の真斗なんてこんな時しか見ない。彼には申し訳ないが茉莉花は正直その表情を見ていると鳥肌が立つ。
外面が良い咲也や誰とでも気さくに接する事が出来る彗斗が親戚相手に愛想良くしている姿は抵抗なく受け入れられる。
だが普段は仏頂面の真斗がまるで人格が変わったかのようにそうしている姿を見るのはいつになっても慣れない。
彼自身は特に抵抗なく大人の振る舞いとして卒なくこなしているだけだが茉莉花にとってはわざとらしい演技を延々と見せられているようでキツいのだ。
覗き見ている茉莉花の姿に気付いた伯従母が手招きして彼女に言う。
「マリちゃん、もういいから座って座って」
茉莉花は薄い愛想笑いをし彗斗の隣――下座に座る。
大伯母が振り返って庭の方を見ながら言った。
「しかし九郎君、随分と男らしくなったねぇ。背もまた高くなって」
「正月に来た時は俺と同じくらいだったよなぁ」
伯従父がそう言うと真斗が答える。
「あれからさらに伸びましたね」
「来年になったら真斗君抜かされるかも知らないねぇ」
「さぁ……どうですかねぇ」
真斗はそう言って笑った。
「車から見た時九郎君だと思わなくてねぇ、「誰?あのイケメン」って」
「そうそう!もしかしてマリちゃんの彼氏?ってねぇ」
大伯母と伯従母が十代の少女のように囃し立てる。
「ええ……?」
茉莉花は薄い愛想笑いのまま眉根を寄せた。
無いわ、と喉元まで言葉が出かけたがそれを飲み込む。
男女とも五十歳以上になると判定が甘くなり背が高く健康的で若い男はみんな「イケメン」に見えるのだろう。茉莉花はそう思った。
他の親戚も彼に対して同じことを言っていた。その時、直接言われた九郎本人も茉莉花と同じ反応で「親戚にそう言われても」と真に受けてはいない。
「ちょっと前まで子犬みたいに可愛かったのにねぇ」
「おいおい九郎君は「犬」じゃないだろ。ねえ、茉莉花ちゃん」
伯従父が居心地が悪そうにしている茉莉花に気を遣って話を振る。
「あぁ……はは……そうだ、麦茶のおかわり持ってきますね……」
茉莉花は座卓の上にある空のグラスを盆に乗せて再び席を立った。
シンクに持って来たグラスを置いて、冷蔵庫から麦茶のポットを取り出しダイニングテーブルに置く。
替えのグラスをテーブルに並べながらガラス戸越しに庭を見ると咲也と九郎が摘んだ大葉が入った籔を持ったまま木陰に入って立ち話をしてる姿が目に入った。
もうとっくに摘み終えているのにだらだらと時間稼ぎをしている――そんな様子だった。
それを見て茉莉花が顔を顰めていたらテーブルの下に置いてある新聞ストッカーから昨日の朝刊が浮き上がり彼女の目の前までふわりと飛んできた。
続いてガラス戸が開き新聞が庭に向かって飛んで行き、こちらに背を向けている咲也と九郎の後頭部を順に叩いて足元に落ちた。
茉莉花が居間の方を見ると座っている彗斗が目配せをした。彼女の仕業だ。
不意を突かれてこちらを振り向いた二人と目が合う。
茉莉花は顔を顰めたまま「早く戻って来い」と居間を指差した。
岩手県でクマが民家に侵入し住民が怪我をしたとアナウンサーが原稿を読み上げると現場の映像に切り替わった。
「ここ数年で厄介なのは「クマ」に変わったって感じだなぁ…」
伯従父がテレビを見ながらそう言った。
「まぁ「クマ」となったら警察も自治体も色々縛りがあって簡単に駆除出来ない―俺らを駆り出してさっさとやれと言われるけど管轄外ですから」
真斗はそう言ってグラスに残った麦茶を飲み干す。
「俺らどころか真斗君クラスでも「クマ」は倒せないもんなぁ」
「さすがに「クマ」に遭ったら逃げるしかないですよ」
怖いもんなぁと二人は笑った。
台所からダイニングに行きその様子を覗き見ていた茉莉花は何となく見ていられなくなって目を逸らす。
眉間に皺がない笑顔の真斗なんてこんな時しか見ない。彼には申し訳ないが茉莉花は正直その表情を見ていると鳥肌が立つ。
外面が良い咲也や誰とでも気さくに接する事が出来る彗斗が親戚相手に愛想良くしている姿は抵抗なく受け入れられる。
だが普段は仏頂面の真斗がまるで人格が変わったかのようにそうしている姿を見るのはいつになっても慣れない。
彼自身は特に抵抗なく大人の振る舞いとして卒なくこなしているだけだが茉莉花にとってはわざとらしい演技を延々と見せられているようでキツいのだ。
覗き見ている茉莉花の姿に気付いた伯従母が手招きして彼女に言う。
「マリちゃん、もういいから座って座って」
茉莉花は薄い愛想笑いをし彗斗の隣――下座に座る。
大伯母が振り返って庭の方を見ながら言った。
「しかし九郎君、随分と男らしくなったねぇ。背もまた高くなって」
「正月に来た時は俺と同じくらいだったよなぁ」
伯従父がそう言うと真斗が答える。
「あれからさらに伸びましたね」
「来年になったら真斗君抜かされるかも知らないねぇ」
「さぁ……どうですかねぇ」
真斗はそう言って笑った。
「車から見た時九郎君だと思わなくてねぇ、「誰?あのイケメン」って」
「そうそう!もしかしてマリちゃんの彼氏?ってねぇ」
大伯母と伯従母が十代の少女のように囃し立てる。
「ええ……?」
茉莉花は薄い愛想笑いのまま眉根を寄せた。
無いわ、と喉元まで言葉が出かけたがそれを飲み込む。
男女とも五十歳以上になると判定が甘くなり背が高く健康的で若い男はみんな「イケメン」に見えるのだろう。茉莉花はそう思った。
他の親戚も彼に対して同じことを言っていた。その時、直接言われた九郎本人も茉莉花と同じ反応で「親戚にそう言われても」と真に受けてはいない。
「ちょっと前まで子犬みたいに可愛かったのにねぇ」
「おいおい九郎君は「犬」じゃないだろ。ねえ、茉莉花ちゃん」
伯従父が居心地が悪そうにしている茉莉花に気を遣って話を振る。
「あぁ……はは……そうだ、麦茶のおかわり持ってきますね……」
茉莉花は座卓の上にある空のグラスを盆に乗せて再び席を立った。
シンクに持って来たグラスを置いて、冷蔵庫から麦茶のポットを取り出しダイニングテーブルに置く。
替えのグラスをテーブルに並べながらガラス戸越しに庭を見ると咲也と九郎が摘んだ大葉が入った籔を持ったまま木陰に入って立ち話をしてる姿が目に入った。
もうとっくに摘み終えているのにだらだらと時間稼ぎをしている――そんな様子だった。
それを見て茉莉花が顔を顰めていたらテーブルの下に置いてある新聞ストッカーから昨日の朝刊が浮き上がり彼女の目の前までふわりと飛んできた。
続いてガラス戸が開き新聞が庭に向かって飛んで行き、こちらに背を向けている咲也と九郎の後頭部を順に叩いて足元に落ちた。
茉莉花が居間の方を見ると座っている彗斗が目配せをした。彼女の仕業だ。
不意を突かれてこちらを振り向いた二人と目が合う。
茉莉花は顔を顰めたまま「早く戻って来い」と居間を指差した。
0
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる