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【2・made in 高天原―天津人たちがいる日常―】
1・「王子様」が迎えに来るから(1)
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茉莉花は先程まで学校の友人たちと会っていた。
映画を見た後にしばらく同じビルの一階にあるカフェで閑談をしていた時、スマホがあるメッセージを受信した。
《帰りに駅で合流しよう》
「王子のお迎えじゃん」
メッセージの主を知った友人たちは冷やかすようにそう言って笑った。
茉莉花は「一緒に行きたいお店があるんだって」と満更でもない笑みを浮かべて彼女たちに答えた。
その後、しばらく来週から再開される学校の話などをしてから「お開き」となった。
カフェを出てから友人たちと別れ、エスカレーターで二階フロアへ上がる。
茉莉花以外は徒歩やバスで帰宅するので、彼女は一人で待ち合わせ場所の仙台駅の構内へ向かった。
チョコレートショップや催事のワゴンに並ぶアクセサリーを流し見ながら出入り口から駅と直結している巨大な歩道橋――ペデストリアンデッキに出る。
それは駅周辺の数棟のビルに直結しており、その規模は全国で最大のものだ。
午後四時前、まだ陽射しが強いので茉莉花は持っていた日傘を開く。
縁にフリルが二段付いた黒い日傘。
現在は女性でもシンプルなデザインが好まれる風潮だが、茉莉花はこのフェミニンな装飾の日傘がお気に入りだ。
昔の貴婦人みたいで気分が上がる――彼女は開いた日傘をくるりと回してから顔を隠すかのように少し深めに差した。
彼女が出たビルからペデストリアンデッキを真っ直ぐ歩いた先に仙台駅の二階コンコースがある。
「お忍びで街を訪れたお姫様」のように日傘ですれ違う人たちの視線から身を隠し、茉莉花は待ち合わせ場所に向かう。
平日の日中。人通りは大都市と比べれば少ない方だが、ここは一応政令指定都市のターミナル駅周辺だ。それなりに賑わっている。
数分もかからず到着した駅の構内は地元の人間の他に、キャリーケースを引き土産物の紙袋を持った観光客も多く行き交っていた。
二階の中央改札前は三階まで吹き抜けになっており、高い天井には携帯電話会社の広告が数枚吊るしてある。
改札前の広いコンコースでは年中何らかの催事が行われている。
商品を陳列するワゴンや食料品が入った冷蔵のショーケースが並び、行列が出来ているブースもある。
現在開かれている催しは「夏の九州物産展」だ。
賑わう催事ブースの先、壁面にあるのは天井の高さまである大きなステンドグラス。
七夕飾りと日本三景「松島」と伊達政宗が色鮮やかに描かれたこのステンドグラスは、地元の百貨店から寄贈されたものでこの駅舎が建てられた頃からある。
昔から待ち合わせスポットとなっており、その前には常に多くの人が集まっている。
茉莉花も「王子」とこの場所――通称「ステグラ前」で落ち合う予定だったが既に人でいっぱいだったので、比較的人が少ない左隣にある大型ビジョンの手前に立って待つ事にした。
彼女の背後にある大型ビジョンから流れる映像が建設会社のCMから次のものへ切り替わる。
警察官のような制服を着たピンクの髪の「ゆるキャラ」が動くアニメーションとともに文字テロップが映し出された。
『――県民の皆様、日頃からヨモツメ「ふつ除」のご協力ありがとうございます』
『ヨモツを見たら「刺激をせず」「その場を離れて」「1XXへ通報」――』
『全国都道府県獣撃隊・宮城県獣撃隊本部』
「ゆるキャラ」がお辞儀をした後、映像は鉄道会社による観光キャンペーンのCMに替わった。
ヨモツとは死者が住まう黄泉国から地上に湧き出した人間を襲う「向かって来る死」――ケモノの姿をした「死の穢れ」で神代から人々を悩ませてきた「害獣」だ。
このヨモツを祓除――消すことが出来るの者たちは「天津人」と呼ばれる。
茉莉花も、彼女のきょうだい達も天津人である。
彼女たちの祖先はヨモツと戦うために高天原から地上に「移植」された人草だ。
そのルーツは神々が葦原中国――日本の国土を整地し、高天原の神々による統治が始まった頃まで遡る。
高天原の神々が葦原中国に降り立ち暫く経った頃、黄泉国から地上のへ湧き出た「死」が形となって人草たちを襲うようになったのだ。
老衰や病気、他殺や自死――これらは形は様々だが「迎える死」である。
一方、黄泉国から湧いて来るケモノたちは「形となって自ら向かって来る死」だ。
人草や神々はそれを「黄泉のもの」――ヨモツと呼ぶようになった。
人草たちは武器を取り抵抗するもそのヨモツたちを倒すことはできない。
生き物ではなく「死」そのものなのでなす術がない。
人草の生と死のバランスは、かつて睦みあい国土と神々を産み出した夫婦神、伊邪那岐と伊邪那美によって作られた。
火の神を産んだことにより死んでしまった伊邪那美に会いたい一心で死者の国・黄泉国へ向かった伊邪那岐は、そこで彼女から「あなたの元へ戻れるかどうか黄泉の神に相談をするので、それまでは私の姿を決して見ないで欲しい」と告げられた。
彼はそれでも一目妻の姿を見たいとその禁忌を破ってしまう。
そこに居た妻の姿は全身に蛆がわき、雷神の雷を纏った悍ましく変わり果てたものだった。
伊邪那岐はその姿に恐れをなし逃げ出し、伊邪那美は辱めを受けたと怒り黄泉の使いを放ち彼を追った。
襲いかかる千五百余の黄泉軍を打ち払い地上へ戻った伊邪那岐は、黄泉国への入り口を大岩で塞ぎ窮地から逃れた。
彼を追ってきた伊邪那美は塞いでいる大岩越しにこう告げた。
「この仕打ちの報いとして、現世の人草を日に一千人殺します」
妻の言葉を受け夫はこう返した。
「ならばこちらは、日に一千五百の産屋を建てよう」
夫婦二柱により定められた「一千人の死」と「一千五百人の誕生」――数字で見るとそれは「生」が「死」に打ち勝つ計算になる。
伊邪那岐が打ったこの一手で、必ず迎える死に抗うように新たな命は生まれ続けた。
「死」を「生」で抑えることにより、葦原中国は人草で満ち発展していった。
そんな中で新たに訪れた黄泉国からの脅威。
「黄泉神と化した伊邪那美によるさらなる一千人殺しの呪いでは」と人草たちは恐れ慄き、高天原の天津神たちは首を傾げた。
地上の神、国津神たちも対処に困っていた。ヨモツを祓うことは出来ても自分たちだけではどうにもならない。
消しても消しても湧いてくる。怯える人草たちには申し訳ないが、神ばかり働かされても――と言う何とも人間臭い不満を漏らすようになった。
人草の危機は人草で対応できないものか。「彼女」はそう考えていた。
ちょうどその頃、天津神による葦原中国統治がなされたことを機に高天原にいる人草を全て地上に送り出そうと計画していた。
地上の人草と違い、神の力を授かることが出来る高天原の人草はこのイレギュラーへの対応には最適だと「彼女」たちは踏んだ。
これを機に天津神たちは人草に「穢れを祓う雷」などの力を与え「ヨモツから葦原中国の人草たちを守りなさい」と彼らを地上に送り出した。
「お前たちは地上の人草と同じ人草。人草同士で争うのではなく互いに手を取り合いヨモツと戦い、葦原中国を良い国にしなさい」
彼女――かつて「死に打ち勝つ生の一手」を打った伊邪那岐を父神とする天照大御神はそう告げたと言われている。
高天原から地上に「移植」された人草は「天津人」、先に地上にいた土着の人草は「国津人」と呼ばれるようになった。
産地は高天原だが「天津人」は特殊な力を持っているとは言え、あくまでも「人」であり「神」ではない。
特殊能力を持つ天津人は「人草同士で争うことなくヨモツと戦え」という神からの使命が血となって染み付いているので、自ら地上を支配しようとしたり権力を持ちそれを振り翳すようなことはしなかった。
その力をありがたいと思いつつ恐れていた国津人も彼らが直向きに人草を守り戦う姿を見ていくうちに、手を取り合うようになり共に葦原中国を発展させて行った。
――と、教科書にも載っている「日本の神話を記録した書」は伝えている。
茉莉花の双子の弟、咲也はその内容について「俺らのルーツ設定、かなりガバガバだよな」とぼやいていた。
神話のどこからどこまでが本当なのかはわからないが、現在この国には特殊な力を持つマイノリティの「天津人」と持たないマジョリティの「国津人」が存在している。
茉莉花が先程まで一緒にいた友人たちは全員国津人だ。
ちなみにルーツは同じだが天照大御神の子孫とされている、あの「やんごとなき方々」は天津人とは全く違う存在である。
長い歴史の中で多少の諍いはあったが天津人と国津人は互いの存在を「当たり前」のものとして受け入れ、ごく普通に共存し暮らしている。
茉莉花が「王子」を待つ、この仙台駅構内にも天津人はいる。
中央改札前の催事場で明太子を売っている中年女性。
新幹線改札がある三階からエスカレーターで降りてきたビジネスマン。
これから在来線に乗ると思われる百貨店の紙袋を持った老夫婦。
ライブ会場行きのシャトルバス乗り場へ向かう「推し活」装備の二十代くらいの女性。
年代も性別も様々だが皆、茉莉花と同じ天津人である。
たった今出発した東京行きの新幹線の運転手も天津人だ。乗客にも天津人は数人いる。
大手企業の社長、政治家、アイドル、刑務所にいる囚人にも天津人はいる。
自分から名乗りこそはしないが頑なに隠している訳でもない。
天津人だと知られても「クリスチャン」や「親が外国籍」と言った場合ほどは驚かれない。
だが、色々と制約がある。
ヨモツ退治以外で能力を使う事は法律で禁止されている。
ほとんどの天津人はヨモツ退治に特化した能力だけ所持しているが、それ以外の能力を持つ者もいる。
真斗が使う「空中跳躍」――これが出来る者はそれなりにいる。
ヨモツ退治の最前線である地方公務員「獣撃隊」の隊員は八割くらいが「飛ぶ」ことが可能だ。
彗斗や咲也が持つ「念力」のようななもの――これは能力が強い血筋の者だけが持つかなり特殊な力だ。
公共の場で使用した場合、緊急時以外はかなり重い罰則が科せられる。
だが二人は家の敷地内では「悪さでなけりゃ治外法権だろ」と割と気軽に使っていた。
真斗も使えるらしいが、真面目に法律を守っているのか実妹の彗斗ですら家の中で使っている様子を見た事はない。
能力が強い血筋の家の天津人たちは「国の監視対象」になっている。高野原家もその対象だ。
能力を悪用して金銭を得ようとしていないか、テロや殺人を企てていないか、反社組織や過激派との繋がりがないか――いくらでも悪用出来る能力故に抜き打ちでの身辺調査や年に一回程度の個人面談が行われている。
このような天津人に関する案件に携わっているのは内閣府「地域・市民活躍政策推進本部」だ。
部内の天津案件に関わる部署に所属する官僚は天津人と国津人が同人数になるように構成されている。専門性と公正性を保つためだ。
ちなみに先日茉莉花と面談をしていた官僚、蛇台原麗虎も天津人である。
映画を見た後にしばらく同じビルの一階にあるカフェで閑談をしていた時、スマホがあるメッセージを受信した。
《帰りに駅で合流しよう》
「王子のお迎えじゃん」
メッセージの主を知った友人たちは冷やかすようにそう言って笑った。
茉莉花は「一緒に行きたいお店があるんだって」と満更でもない笑みを浮かべて彼女たちに答えた。
その後、しばらく来週から再開される学校の話などをしてから「お開き」となった。
カフェを出てから友人たちと別れ、エスカレーターで二階フロアへ上がる。
茉莉花以外は徒歩やバスで帰宅するので、彼女は一人で待ち合わせ場所の仙台駅の構内へ向かった。
チョコレートショップや催事のワゴンに並ぶアクセサリーを流し見ながら出入り口から駅と直結している巨大な歩道橋――ペデストリアンデッキに出る。
それは駅周辺の数棟のビルに直結しており、その規模は全国で最大のものだ。
午後四時前、まだ陽射しが強いので茉莉花は持っていた日傘を開く。
縁にフリルが二段付いた黒い日傘。
現在は女性でもシンプルなデザインが好まれる風潮だが、茉莉花はこのフェミニンな装飾の日傘がお気に入りだ。
昔の貴婦人みたいで気分が上がる――彼女は開いた日傘をくるりと回してから顔を隠すかのように少し深めに差した。
彼女が出たビルからペデストリアンデッキを真っ直ぐ歩いた先に仙台駅の二階コンコースがある。
「お忍びで街を訪れたお姫様」のように日傘ですれ違う人たちの視線から身を隠し、茉莉花は待ち合わせ場所に向かう。
平日の日中。人通りは大都市と比べれば少ない方だが、ここは一応政令指定都市のターミナル駅周辺だ。それなりに賑わっている。
数分もかからず到着した駅の構内は地元の人間の他に、キャリーケースを引き土産物の紙袋を持った観光客も多く行き交っていた。
二階の中央改札前は三階まで吹き抜けになっており、高い天井には携帯電話会社の広告が数枚吊るしてある。
改札前の広いコンコースでは年中何らかの催事が行われている。
商品を陳列するワゴンや食料品が入った冷蔵のショーケースが並び、行列が出来ているブースもある。
現在開かれている催しは「夏の九州物産展」だ。
賑わう催事ブースの先、壁面にあるのは天井の高さまである大きなステンドグラス。
七夕飾りと日本三景「松島」と伊達政宗が色鮮やかに描かれたこのステンドグラスは、地元の百貨店から寄贈されたものでこの駅舎が建てられた頃からある。
昔から待ち合わせスポットとなっており、その前には常に多くの人が集まっている。
茉莉花も「王子」とこの場所――通称「ステグラ前」で落ち合う予定だったが既に人でいっぱいだったので、比較的人が少ない左隣にある大型ビジョンの手前に立って待つ事にした。
彼女の背後にある大型ビジョンから流れる映像が建設会社のCMから次のものへ切り替わる。
警察官のような制服を着たピンクの髪の「ゆるキャラ」が動くアニメーションとともに文字テロップが映し出された。
『――県民の皆様、日頃からヨモツメ「ふつ除」のご協力ありがとうございます』
『ヨモツを見たら「刺激をせず」「その場を離れて」「1XXへ通報」――』
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「ゆるキャラ」がお辞儀をした後、映像は鉄道会社による観光キャンペーンのCMに替わった。
ヨモツとは死者が住まう黄泉国から地上に湧き出した人間を襲う「向かって来る死」――ケモノの姿をした「死の穢れ」で神代から人々を悩ませてきた「害獣」だ。
このヨモツを祓除――消すことが出来るの者たちは「天津人」と呼ばれる。
茉莉花も、彼女のきょうだい達も天津人である。
彼女たちの祖先はヨモツと戦うために高天原から地上に「移植」された人草だ。
そのルーツは神々が葦原中国――日本の国土を整地し、高天原の神々による統治が始まった頃まで遡る。
高天原の神々が葦原中国に降り立ち暫く経った頃、黄泉国から地上のへ湧き出た「死」が形となって人草たちを襲うようになったのだ。
老衰や病気、他殺や自死――これらは形は様々だが「迎える死」である。
一方、黄泉国から湧いて来るケモノたちは「形となって自ら向かって来る死」だ。
人草や神々はそれを「黄泉のもの」――ヨモツと呼ぶようになった。
人草たちは武器を取り抵抗するもそのヨモツたちを倒すことはできない。
生き物ではなく「死」そのものなのでなす術がない。
人草の生と死のバランスは、かつて睦みあい国土と神々を産み出した夫婦神、伊邪那岐と伊邪那美によって作られた。
火の神を産んだことにより死んでしまった伊邪那美に会いたい一心で死者の国・黄泉国へ向かった伊邪那岐は、そこで彼女から「あなたの元へ戻れるかどうか黄泉の神に相談をするので、それまでは私の姿を決して見ないで欲しい」と告げられた。
彼はそれでも一目妻の姿を見たいとその禁忌を破ってしまう。
そこに居た妻の姿は全身に蛆がわき、雷神の雷を纏った悍ましく変わり果てたものだった。
伊邪那岐はその姿に恐れをなし逃げ出し、伊邪那美は辱めを受けたと怒り黄泉の使いを放ち彼を追った。
襲いかかる千五百余の黄泉軍を打ち払い地上へ戻った伊邪那岐は、黄泉国への入り口を大岩で塞ぎ窮地から逃れた。
彼を追ってきた伊邪那美は塞いでいる大岩越しにこう告げた。
「この仕打ちの報いとして、現世の人草を日に一千人殺します」
妻の言葉を受け夫はこう返した。
「ならばこちらは、日に一千五百の産屋を建てよう」
夫婦二柱により定められた「一千人の死」と「一千五百人の誕生」――数字で見るとそれは「生」が「死」に打ち勝つ計算になる。
伊邪那岐が打ったこの一手で、必ず迎える死に抗うように新たな命は生まれ続けた。
「死」を「生」で抑えることにより、葦原中国は人草で満ち発展していった。
そんな中で新たに訪れた黄泉国からの脅威。
「黄泉神と化した伊邪那美によるさらなる一千人殺しの呪いでは」と人草たちは恐れ慄き、高天原の天津神たちは首を傾げた。
地上の神、国津神たちも対処に困っていた。ヨモツを祓うことは出来ても自分たちだけではどうにもならない。
消しても消しても湧いてくる。怯える人草たちには申し訳ないが、神ばかり働かされても――と言う何とも人間臭い不満を漏らすようになった。
人草の危機は人草で対応できないものか。「彼女」はそう考えていた。
ちょうどその頃、天津神による葦原中国統治がなされたことを機に高天原にいる人草を全て地上に送り出そうと計画していた。
地上の人草と違い、神の力を授かることが出来る高天原の人草はこのイレギュラーへの対応には最適だと「彼女」たちは踏んだ。
これを機に天津神たちは人草に「穢れを祓う雷」などの力を与え「ヨモツから葦原中国の人草たちを守りなさい」と彼らを地上に送り出した。
「お前たちは地上の人草と同じ人草。人草同士で争うのではなく互いに手を取り合いヨモツと戦い、葦原中国を良い国にしなさい」
彼女――かつて「死に打ち勝つ生の一手」を打った伊邪那岐を父神とする天照大御神はそう告げたと言われている。
高天原から地上に「移植」された人草は「天津人」、先に地上にいた土着の人草は「国津人」と呼ばれるようになった。
産地は高天原だが「天津人」は特殊な力を持っているとは言え、あくまでも「人」であり「神」ではない。
特殊能力を持つ天津人は「人草同士で争うことなくヨモツと戦え」という神からの使命が血となって染み付いているので、自ら地上を支配しようとしたり権力を持ちそれを振り翳すようなことはしなかった。
その力をありがたいと思いつつ恐れていた国津人も彼らが直向きに人草を守り戦う姿を見ていくうちに、手を取り合うようになり共に葦原中国を発展させて行った。
――と、教科書にも載っている「日本の神話を記録した書」は伝えている。
茉莉花の双子の弟、咲也はその内容について「俺らのルーツ設定、かなりガバガバだよな」とぼやいていた。
神話のどこからどこまでが本当なのかはわからないが、現在この国には特殊な力を持つマイノリティの「天津人」と持たないマジョリティの「国津人」が存在している。
茉莉花が先程まで一緒にいた友人たちは全員国津人だ。
ちなみにルーツは同じだが天照大御神の子孫とされている、あの「やんごとなき方々」は天津人とは全く違う存在である。
長い歴史の中で多少の諍いはあったが天津人と国津人は互いの存在を「当たり前」のものとして受け入れ、ごく普通に共存し暮らしている。
茉莉花が「王子」を待つ、この仙台駅構内にも天津人はいる。
中央改札前の催事場で明太子を売っている中年女性。
新幹線改札がある三階からエスカレーターで降りてきたビジネスマン。
これから在来線に乗ると思われる百貨店の紙袋を持った老夫婦。
ライブ会場行きのシャトルバス乗り場へ向かう「推し活」装備の二十代くらいの女性。
年代も性別も様々だが皆、茉莉花と同じ天津人である。
たった今出発した東京行きの新幹線の運転手も天津人だ。乗客にも天津人は数人いる。
大手企業の社長、政治家、アイドル、刑務所にいる囚人にも天津人はいる。
自分から名乗りこそはしないが頑なに隠している訳でもない。
天津人だと知られても「クリスチャン」や「親が外国籍」と言った場合ほどは驚かれない。
だが、色々と制約がある。
ヨモツ退治以外で能力を使う事は法律で禁止されている。
ほとんどの天津人はヨモツ退治に特化した能力だけ所持しているが、それ以外の能力を持つ者もいる。
真斗が使う「空中跳躍」――これが出来る者はそれなりにいる。
ヨモツ退治の最前線である地方公務員「獣撃隊」の隊員は八割くらいが「飛ぶ」ことが可能だ。
彗斗や咲也が持つ「念力」のようななもの――これは能力が強い血筋の者だけが持つかなり特殊な力だ。
公共の場で使用した場合、緊急時以外はかなり重い罰則が科せられる。
だが二人は家の敷地内では「悪さでなけりゃ治外法権だろ」と割と気軽に使っていた。
真斗も使えるらしいが、真面目に法律を守っているのか実妹の彗斗ですら家の中で使っている様子を見た事はない。
能力が強い血筋の家の天津人たちは「国の監視対象」になっている。高野原家もその対象だ。
能力を悪用して金銭を得ようとしていないか、テロや殺人を企てていないか、反社組織や過激派との繋がりがないか――いくらでも悪用出来る能力故に抜き打ちでの身辺調査や年に一回程度の個人面談が行われている。
このような天津人に関する案件に携わっているのは内閣府「地域・市民活躍政策推進本部」だ。
部内の天津案件に関わる部署に所属する官僚は天津人と国津人が同人数になるように構成されている。専門性と公正性を保つためだ。
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