ヴァージン・スキャンダラス・エンゲージ〜スパダリに処女と剣を献上しますが溺愛彼氏とは絶対に別れません〜

烏杜文庫

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【2・made in 高天原―天津人たちがいる日常―】

2・「虫も殺せぬ」獣撃隊(3)

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 ヨモツによる年間の死者数は交通事故の死者数よりも少ないがそれでも約一千人弱、負傷者数は約二十万人。

 ここ十年間は増加傾向で、去年の死者数は一千百人を超えている。

 ヨモツの方が人を殺めているが、クマが人を襲う方が珍しいのでニュースで頻繁に取り上げられている。

 クマは法律による銃の使用制限があるので、通報したら獣撃隊が早急に駆けつけて祓除ふつじょ出来るヨモツとは違い簡単に駆除をする事が出来ない。

 心理的にクマの方が国民にとって脅威となっている。
 
「獣撃隊」にとってもクマは非常に厄介な存在だ。

 クマは本来、人間がいない山の中で活動している。
 ヨモツは基本的に人間の生活圏内に現れる。

 環境の変化によるエサ不足などでクマは山を降り、人里に姿を現すようになった。

 ヨモツとクマの活動圏が被るようになり、このような見間違いが発生している。

 この辺りに現れるツキノワグマもヨモツも体は黒く遠目では似たような姿をしているが、決定的な違いがある。

 ヨモツは体の周りに黒い霧を纏わせ、その中に小さな稲光いなびかりを宿している。

 獣撃隊に通報が入るたびにその特徴の有無を確認してはいるが、それでも駆けつけてみたらクマと言ったパターンは多い。

 現場でクマと対峙したところで彼らが使う能力は「生き物」には効かず、警棒とナイフは持っているがほぼ丸腰なので逃げるしかない。

 先日は逃げ遅れた他県の隊員が襲われて大怪我を負った。

「獣撃隊」とか勇ましい名前が付いてるくせにクマに負けるとか――SNSでは彼らを嘲笑するポストが多く投稿された。

 その名の通りヨモツの他にクマなどの「生きた」害獣も獣撃隊に銃を持たせて駆除させれば良いのではという声も上がった。

 しかしそれは、ほぼ不可能だ。

 ヨモツには銃火器が効かないので獣撃隊は銃器を所持していない。

 猟銃を揃え、隊員たちに一から訓練をさせるとなるとコストも時間もかかる。

 そもそも法律を改正しない限り住宅地などで猟銃を使用することは出来ない。
 
 クマ騒動よりも前から獣撃隊はヨモツ祓除に特化した「専門部隊」とは真逆の「便利屋」だと思われていて、悪意がない善良な市民たちから専門外の無理難題を依頼されることが多かった。
 
 例えば、半年前にこんな事があった。

 明石あかいし福室ふくむろ黒川くろかわの三人で若林区にあるマンションの通路に逃げ込んだヨモツの祓除に駆けつけた。

 祓除を終え撤収するために車両に向かい歩いていた明石が四十代くらいの女性から呼び止められた。

「すみません……前からずっと相談したいことがあって……」

 厳つい男連中が多い獣撃隊だが小柄で優しそうな女性隊員の明石の姿を見つけ、思い切って声をかけたと言う。

 彼女は現場の向かいにあるマンションに半年前に引っ越してきた。

 その後、誰もいない部屋から破裂音がしたり家族が事故に遭ったり体調を崩すなど良くないことが立て続けに起こっている。

 事故物件とは聞いていないが、これは「悪霊」や「あやかし」のたぐいかもしれない。

 ヨモツを消すようにそれをどうにか「祓って」もらえないかと言うのだ。

 背後で二人のやり取りを聞いていた福室は「またか」と眉根を寄せた。

 女性は真剣で「本当にもう気がおかしくなりそうで……」と縋り付くように明石に何とかして欲しいと頼み込む。

獣撃隊うちではどうにもならないので。そう言うのは「専門家」じゃないと……」

 明石は無下に扱うわけにもいかず、彼女をなだめながら眉を下げてそう言った。
 
 では誰に言えばいいのかと女性は三人に尋ねる。

「祈祷師や陰陽師……とかですかね」

 福室は何となく適当に思い付く宛を口にした。

 何処へ相談すれば良いのかと女性はさらに三人に尋ねる。

「神社?寺?どっちっすかね?陰陽師って神主さんすか?」

 黒川は質問に質問で返すポンコツぶりを露呈した。

 悪霊やあやかしのたぐいの祓除も専門外である。それらはヨモツとは似て非なるもの。

 天津人でもほとんどが霊視など出来ないし、見えたところで悪霊やあやかしは彼らが殴って倒せるものではない。
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