ヴァージン・スキャンダラス・エンゲージ〜スパダリに処女と剣を献上しますが溺愛彼氏とは絶対に別れません〜

烏杜文庫

文字の大きさ
22 / 51
【2・made in 高天原―天津人たちがいる日常―】

3・Emperor vs Princess(2)

しおりを挟む
「――余裕で結べるな」

 茉莉花まりかはいつの間にか九郎くろうの背後に移動していた。

 膝をついて彼の長めの襟足と首の間に左手の指を差し入れ、右手で後ろ髪をいている。

 こしがあって健康的な艶がある、しなやかな黒髪。
 姉の彗斗けいとのものと似ていて羨ましいなと茉莉花は思った。

 茉莉花の髪は柔らかい癖っ毛で、湿気を含むと広がりやすい。
 彗斗は昔から彼女の癖っ毛を「お姫様みたいで可愛い」と言ってくれたが、茉莉花は彗斗の艶々とした黒髪に憧れていた。

 ――男のくせに、いい髪してんじゃん。
 
 適当に両サイドの髪を手に取り、束にして後ろで合わせる。
 ハーフアップも出来そうだなと急に楽しくなって来た。

「よーし、私に任せろ」

 茉莉花は九郎の肩に手を掛け、体を揺すりながらニヤリと笑う。

「カッコよくしてやるけっからな」

 そう言って彼女は自分のポニーテールを解いた。
 外したこのヘアゴムで結んで仕上げる。

 顔の横に落ちた栗色の長い髪を耳にかけ、茉莉花は再び九郎の黒髪を指でかし始めた。
 
 九郎は茉莉花にされるがまま動けずにいた。

 彼女が自分の髪をいじり始めてからページをめくる手が止まっている。
 指が髪をたび、頭だけにとどまらず全身にむず痒さが走る。

 それでも彼は動かなかった。

 単行本に視線を落としたまま「嵐が去るのを待つ」ような心持ちで息を殺し、口を閉じたまま歯を食いしばって黙っていた。

 右手で毛束を掴んだまま、茉莉花は九郎の顔を覗き込むと感心したかのように目を見開いて言った。
 
「――似合うよ。いい感じ」

 その言葉と表情に揶揄からかいの色はなかった。

 九郎は横目で茉莉花を見る。

 自分をとらえる彼の犬のような黒い瞳が「本当か?」と言っているかのように思え、茉莉花は頷く代わりに歯を見せて笑った。

 彼女が九郎の髪をヘアゴムで束ねようとした時、廊下側の戸が開く音がした。

 二人は驚いて顔を上げる。

 戸を開けたのは帰宅した真斗まなとだった。

 いつもならガレージへ向かう車の走行音や障子越しに見えるヘッドライトの光で彼が帰宅したとわかるのだが、茉莉花は九郎の髪を弄るのに没頭していて全く気付かなかった。

 九郎もこのむず痒い弄りに「耐える」ことに集中していたのでそこまで気が回らなかった。

 茉莉花が九郎に後ろから抱きついているように見えて真斗は一瞬ぎょっとしたが、違っていた。

 彼女は九郎の後ろで膝をつき、彼の髪を纏めていただけだった。

 九郎はと言うと、飼い主にうざ絡みされている柴犬のように不服そうな面持ちで目を伏せている。

「――何してんだ」

 真斗は二人を見据え、低い声で言った。

「何って、髪鬱陶しそうだから結べるかなぁって」

 茉莉花は悪びれもなく、むしろ何か文句でもあるのかと言いたげに口を尖らせて答える。

「九郎が嫌がってるだろ」
「え?」
 
 真斗に言われるまで茉莉花は全くそうだとは思っていなかった。
 今更気まずさを感じた彼女は慌てて九郎の髪に触れていた手を離す。

 すると九郎は茉莉花と目を合わせることなく無言で立ち上がり、そのまま読んでいた単行本と着替えを持って真斗と入れ替わるように居間から廊下へ出て行った。

 本当に嫌だったのか。
 茉莉花は廊下にいる九郎に向かい声を張って呼びかける。

「ごめん!でもさぁ、嫌なら嫌って先にちゃんと言ってよね!」
 
 何も反応しないからわかんないんだよ――謝罪しつつも茉莉花は少し不満げだった。

 そんな茉莉花に対し、真斗は眉をひそめ険しい視線を送っている。

 ――年頃の女が男に対してなんてことをしてるんだ。

 真斗は前々からこのような、茉莉花の九郎に対する「やたら近い距離感」は非常に良くないものだと思っていた。

 茉莉花が九郎に対して「きょうだい」以上の感情を抱くようになるのではないかと彼は薄っすら疑っている。

 九郎は養子で他のきょうだいたちとは血の繋がりがない。

 身内としては感情的にかなりキツいが、そうなっても血の繋がりはないので倫理的には問題はない。

 法的にも問題はない。成人後なら双方の同意があれば性行為をしても構わないし、実子と養子は結婚することも出来る。

 ――だが、それは絶対にあってはならない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

私の通っている女子校はデカすぎる!

藤田大腸
キャラ文芸
兵庫県南西部にある藤葉女学園は中高合わせて生徒数およそ六千三百人を誇る超弩級マンモス女子校である。中学部三年生の下雅意柚羽は立派な名前の割に目立たない生徒であったが、ある日のほんのちょっとした出来事がきっかけで運命が一変。生徒会の一員として忙しない日々を送ることに。待ち受けるのは様々な事件と個性的すぎる生徒たち。柚羽の明日はいったいどっちの方向に行ってしまうのか? 「あのときやけ食いしたモナカアイスが学校生活の転機だったのかもしれません」(下雅意柚羽)

処理中です...