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【2・made in 高天原―天津人たちがいる日常―】
5・何も出来ない「箱入り娘」(4)
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女優やアイドルになることも諦めた。
彼女はそれ以外にも様々なことを諦めてきた。
進学か就職で東京に出て一人暮らしもしてみたかったが諦めた。
成績を落とさなければ内部推薦で入れる女子大への進学も諦めた。
諦めることに慣れてしまっていた。
諦める以前に、未来に対する執着自体がなくなっていた。
――私の「進路」はたった一つ。もう決まっている。
それは覆すことが出来ない「運命」だ。
だからこそ、潔く諦めることが出来たと言ってもいい。
どうにもならないことを嘆き続けても、何も変わることはない。
茉莉花のことを「かわいそう」だと言う関係者も何人かいたが、彼女はそうとは思っていない。
彼女の立場は現代において「悲劇のヒロイン」とも言えるかも知れないが、そんなダサい生き方をするつもりもない。
――だったら出来る限り楽しく生きてやる。
茉莉花は気が強い女だ。
噛みついて抵抗することだけが強さではない。
置かれた状況下で図太く生きることも強さだ。
淡々と家事をこなしながら、出来るだけ毎日を楽しく過ごすようにしている。
編み物をしたり、読書をしたり、テレビでミュージカルや映画を見たり。時には外でこっそり歌って踊ったり。
両親とは死別しているが、一緒に暮らしているきょうだいたちとの関係は良好だ。
華や泉崎など、仲が良い友人たちもいる。
恋人は――
タオルを畳んでいた手が止まった。
別に好きな男なんていないし――そう思った。
それなのに不意に胸が騒いだ。
体が心にシグナルを出して「何か」を訴えかけているかのような妙な感覚に茉莉花は困惑する。
これもきっと「よくない」ことに違いない。
「……彼氏とか、いたらまずいじゃん」
打ち消すように首を振り、彼女は再びタオルを手に取る。
洗濯物を畳み終え、本を読もうかと思ったが二階の自室まで取りに行くのが少し億劫だった。
代わりに座卓に置いていたスマホを手に取り、居間から縁側へ移動する。
そこに置かれているビーズクッションに横たわり、SNSのアイコンをタップしてタイムランを開いた。
画面をスクロールして行くと、東京に住む同年代の少女たちの華やかな生活ぶりが目に留まる。
テーマパークやアフタヌーンティー。観劇やライブ。
華やかな服を着て各所で夏休みを楽しむ彼女たちは茉莉花とは別世界の住人。
羨ましいと言う気持ちはなくはないが、そのことに対する執着はない。
茉莉花もアカウントを持っているが閲覧するだけのもので、画像の投稿はしていない。
自分が写っている画像はもちろん、自分が写っていない出先での食事や風景の画像なども身元を特定される危険があるのでSNSへの投稿は禁止されている。
――まぁ、わざわざ写真撮ってアップするようなキラキラした生活じゃないし。
ベージュの質素なワンピースを着て、家の中でひとりきり。
いつも通りに家事をして、きっといつも通り何事もなく一日が終わる。
それなりに楽しいけれど、退屈と言えば退屈だ。
茉莉花はスマホを傍らに置いて欠伸をした。
今日の「楽しみ」は咲也と九郎が買って来るドーナツ。
忘れてる可能性があるのであらためてメッセージを送ろうか。
そう思ったが何度か欠伸をするうちに瞼が重くなり、茉莉花はそのままクッションに深く頭を沈め眠りに落ちた。
時刻は午後二時。まだ日は高い。
彼女はそれ以外にも様々なことを諦めてきた。
進学か就職で東京に出て一人暮らしもしてみたかったが諦めた。
成績を落とさなければ内部推薦で入れる女子大への進学も諦めた。
諦めることに慣れてしまっていた。
諦める以前に、未来に対する執着自体がなくなっていた。
――私の「進路」はたった一つ。もう決まっている。
それは覆すことが出来ない「運命」だ。
だからこそ、潔く諦めることが出来たと言ってもいい。
どうにもならないことを嘆き続けても、何も変わることはない。
茉莉花のことを「かわいそう」だと言う関係者も何人かいたが、彼女はそうとは思っていない。
彼女の立場は現代において「悲劇のヒロイン」とも言えるかも知れないが、そんなダサい生き方をするつもりもない。
――だったら出来る限り楽しく生きてやる。
茉莉花は気が強い女だ。
噛みついて抵抗することだけが強さではない。
置かれた状況下で図太く生きることも強さだ。
淡々と家事をこなしながら、出来るだけ毎日を楽しく過ごすようにしている。
編み物をしたり、読書をしたり、テレビでミュージカルや映画を見たり。時には外でこっそり歌って踊ったり。
両親とは死別しているが、一緒に暮らしているきょうだいたちとの関係は良好だ。
華や泉崎など、仲が良い友人たちもいる。
恋人は――
タオルを畳んでいた手が止まった。
別に好きな男なんていないし――そう思った。
それなのに不意に胸が騒いだ。
体が心にシグナルを出して「何か」を訴えかけているかのような妙な感覚に茉莉花は困惑する。
これもきっと「よくない」ことに違いない。
「……彼氏とか、いたらまずいじゃん」
打ち消すように首を振り、彼女は再びタオルを手に取る。
洗濯物を畳み終え、本を読もうかと思ったが二階の自室まで取りに行くのが少し億劫だった。
代わりに座卓に置いていたスマホを手に取り、居間から縁側へ移動する。
そこに置かれているビーズクッションに横たわり、SNSのアイコンをタップしてタイムランを開いた。
画面をスクロールして行くと、東京に住む同年代の少女たちの華やかな生活ぶりが目に留まる。
テーマパークやアフタヌーンティー。観劇やライブ。
華やかな服を着て各所で夏休みを楽しむ彼女たちは茉莉花とは別世界の住人。
羨ましいと言う気持ちはなくはないが、そのことに対する執着はない。
茉莉花もアカウントを持っているが閲覧するだけのもので、画像の投稿はしていない。
自分が写っている画像はもちろん、自分が写っていない出先での食事や風景の画像なども身元を特定される危険があるのでSNSへの投稿は禁止されている。
――まぁ、わざわざ写真撮ってアップするようなキラキラした生活じゃないし。
ベージュの質素なワンピースを着て、家の中でひとりきり。
いつも通りに家事をして、きっといつも通り何事もなく一日が終わる。
それなりに楽しいけれど、退屈と言えば退屈だ。
茉莉花はスマホを傍らに置いて欠伸をした。
今日の「楽しみ」は咲也と九郎が買って来るドーナツ。
忘れてる可能性があるのであらためてメッセージを送ろうか。
そう思ったが何度か欠伸をするうちに瞼が重くなり、茉莉花はそのままクッションに深く頭を沈め眠りに落ちた。
時刻は午後二時。まだ日は高い。
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