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【第二話】
気になるあいつと「お勉強会」
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大学とバイトをこなし、ようやく咲と約束した日がやってきた。
そういえば前回、俺は早々に追い出されて、支払いも「いーのいーの。今回は僕が誘ったんだから。それに剛、いっぱい美味しいもの買ってきてくれたでしょ? だからそのお礼。気になるなら次回払ってよ」って言われたんだよな
今回は、咲と泊まったりするんかな。
じゃあ着替えも持って行った方が良いよな? 後必要なものは……。
「あれ、剛、今日荷物多くね」
朝、教室へ入り友人たちが固まっている席へ向かうと、うち一人がそんなことを言い出した。
そう。あれが必要これも必要などと考えながら荷詰めをしていれば、普段背負っているデイパックとは別に大きなトートバック一つ分余分な荷物が増えた。
なんとなく気付かれるのが後ろめたく思っていたから、思わず俺は視線を彼らから逸らしてしまう。
「あー。ちょっとな」
「もしかして女の家に行くんじゃないだろうな? はぁ~。モテる男は羨ましいぜ」
イツメンのうちの一人である女好きの文はデリカシーのないことを大声で言う。
すると周りも続々とそれに乗っかってきた。
「えっ、剛、彼女できたの?」
「おめでと! どんな女なのか写真見せろよ」
「え~。私たちの剛が一人の女のものになるってこと? 嫌~!」
どんどん話題はヒートアップして、俺に彼女がいることを前提として話が進められていく。
彼女なんているわけもないし、そもそも女性と泊まりなんて絶対に出来ない。
それに、もし咲に聞かれてしまったらどうしよう、なんて心理も働いた。
彼は既に教室に来ており、俺たちの席とは離れているものの、後部座席でスマートフォンを弄っているのを見かけたから。
「違う違う! 勘違いすんなって。泊まりで友達に勉強教えに行くだけ」
「けどそれも女なんだろ?」
「いーや、普通に男。だから言っただろ? ヘンな期待すんなって」
熱くなる場を抑えると、不平半分、安堵半分の声が上がる。
けれど、一番「ヘンな期待」をしているのは俺なのかもしれない。
今日は仲間とどんな話ができるんだろうって、約束をしたその日から浮かれているから。
「ちぇー。つまんねーの。つか、俺にも勉強教えてよ」
「私も私も~!」
「お前らは自分で頑張れ。つか勉強する気ないだろ」
「あるある! アリアリのアリ。ずりーんだよな、剛を独り占めって」
そんな軽口を叩き合っていたら、始業のベルが鳴った。
あと四講義終わらせたら、咲と会えるんだ。
ようやくやってきた木曜日に、俺は胸をときめかせていた。
そして授業終わり、俺は誰よりも早く荷物をまとめて教室を出る。
今日の待ち合わせも新宿のラブホテル。
「また美味しいもの買ってきてよ」と言った咲の言葉を反芻し、俺はずっとエンスタで新宿のケーキ屋情報を収集し続けていた。
今日は最近グルメ芸能人がプライベートで行って太鼓判を押していたショップへ行く予定だ。
意気揚々と買い物を済ませ、俺は咲に指定されたホテルへ向かう。
「今から行く」と連絡を入れれば、既に咲は部屋に入っているようで、前回と同じく部屋番号が書かれたメッセージが送られてきた。
前回とは違うホテルではあったが、今回のところも綺麗で洗練されたような空間だ。
「……で、剛は僕と「お勉強会」しにきたんだ?」
部屋に入れば、咲は相変わらず少し濡れた髪にバスローブ、そして煙草というセクシーな雰囲気を漂わせている。
前回もその色気に驚いたものの、自分は一度その身体を抱いたことがあると思うと、何かこみ上げてくるものがあった。
やはり前回同様咲に見入ってしまうけれど、彼はそんな俺の視線を気にも留めないようだった。
「話、聞いてたのか?」
「まあね。耳に入ってきたから。でも泊まりは無理。今日僕着替え持ってきてないし、明日一限からだからどこかで買ってく余裕もないしね」
「そっか……」
残念だな。今日はもっと咲と一緒に居られるかな、なんて思ってたから、つい落胆してしまう。
泊まれるかも、なんてワクワクしながら荷物を用意してきたのが、少しだけみじめに感じられた。
「そんな顔しないの。さ、オベンキョウ、するんでしょう?」
思わず思考が表情に出ていたのだろう。咲はそう言えば、ベッドから立ち上がり、俺の頭をポンポンと撫でた。
俺は一八五cmあるが、咲もかなり背が高い方だ。一八〇cmはあるんじゃないか。
そんな彼は少しだけ腕を上に伸ばしているが、そんな様子もどこか愛おしかった。
「なぁ、咲。今度一緒に服買いに行かないか?」
もし泊まることになったとき、咲は着替えがないときはどこかで買うと言っていた。
それなら一緒に洋服を見に行ったら楽しいんじゃないか。
そんな俺の提案は、あっさりとスルーされる。
「あー。そのうちね。ねぇ、今日は何を買ってきてくれたの?」
そう言って、咲は俺の手に握られた白い箱を指さした。
服の話はこれ以上深掘りされるのも嫌なのだろう。そう思って、言葉を呑み込む。
「……レモンパイとガトーショコラ、オレンジピールのマドレーヌ。チョコチップクッキーにスノーボールクッキー。どれが良い?」
「このクッキー、包装がオシャレだね。でもそうだな、まずはレモンパイ、もらっていい?」
「もちろん。今日は皿とフォークも買ってきた」
「あはは。ありがと。さっすが剛。痒いところに手が届く~」
服を買いに行こうって言ったの、軽く流されたよな。
咲は俺と出かけたくないんだろうか。でもこうしてホテルでは会ってくれるし……。
俺はガトーショコラを口に運びながら、咲がケーキを食べ終わるのをじっと見ていた。
彼はそんな俺にすぐに気付き、「剛は食べないの?」なんて揶揄って見せる。
半ば飲み込むようにケーキを胃袋に収めると、咲は俺の頬に手を伸ばし、色気を帯びた笑みを浮かべた。
「さ。美味しいケーキの後は、「お勉強会」始めようか」
結局俺はその手から逃れることは出来ない。
一度抱いた咲の冷たさを、温めてあげたいと願ってしまっているから。
そういえば前回、俺は早々に追い出されて、支払いも「いーのいーの。今回は僕が誘ったんだから。それに剛、いっぱい美味しいもの買ってきてくれたでしょ? だからそのお礼。気になるなら次回払ってよ」って言われたんだよな
今回は、咲と泊まったりするんかな。
じゃあ着替えも持って行った方が良いよな? 後必要なものは……。
「あれ、剛、今日荷物多くね」
朝、教室へ入り友人たちが固まっている席へ向かうと、うち一人がそんなことを言い出した。
そう。あれが必要これも必要などと考えながら荷詰めをしていれば、普段背負っているデイパックとは別に大きなトートバック一つ分余分な荷物が増えた。
なんとなく気付かれるのが後ろめたく思っていたから、思わず俺は視線を彼らから逸らしてしまう。
「あー。ちょっとな」
「もしかして女の家に行くんじゃないだろうな? はぁ~。モテる男は羨ましいぜ」
イツメンのうちの一人である女好きの文はデリカシーのないことを大声で言う。
すると周りも続々とそれに乗っかってきた。
「えっ、剛、彼女できたの?」
「おめでと! どんな女なのか写真見せろよ」
「え~。私たちの剛が一人の女のものになるってこと? 嫌~!」
どんどん話題はヒートアップして、俺に彼女がいることを前提として話が進められていく。
彼女なんているわけもないし、そもそも女性と泊まりなんて絶対に出来ない。
それに、もし咲に聞かれてしまったらどうしよう、なんて心理も働いた。
彼は既に教室に来ており、俺たちの席とは離れているものの、後部座席でスマートフォンを弄っているのを見かけたから。
「違う違う! 勘違いすんなって。泊まりで友達に勉強教えに行くだけ」
「けどそれも女なんだろ?」
「いーや、普通に男。だから言っただろ? ヘンな期待すんなって」
熱くなる場を抑えると、不平半分、安堵半分の声が上がる。
けれど、一番「ヘンな期待」をしているのは俺なのかもしれない。
今日は仲間とどんな話ができるんだろうって、約束をしたその日から浮かれているから。
「ちぇー。つまんねーの。つか、俺にも勉強教えてよ」
「私も私も~!」
「お前らは自分で頑張れ。つか勉強する気ないだろ」
「あるある! アリアリのアリ。ずりーんだよな、剛を独り占めって」
そんな軽口を叩き合っていたら、始業のベルが鳴った。
あと四講義終わらせたら、咲と会えるんだ。
ようやくやってきた木曜日に、俺は胸をときめかせていた。
そして授業終わり、俺は誰よりも早く荷物をまとめて教室を出る。
今日の待ち合わせも新宿のラブホテル。
「また美味しいもの買ってきてよ」と言った咲の言葉を反芻し、俺はずっとエンスタで新宿のケーキ屋情報を収集し続けていた。
今日は最近グルメ芸能人がプライベートで行って太鼓判を押していたショップへ行く予定だ。
意気揚々と買い物を済ませ、俺は咲に指定されたホテルへ向かう。
「今から行く」と連絡を入れれば、既に咲は部屋に入っているようで、前回と同じく部屋番号が書かれたメッセージが送られてきた。
前回とは違うホテルではあったが、今回のところも綺麗で洗練されたような空間だ。
「……で、剛は僕と「お勉強会」しにきたんだ?」
部屋に入れば、咲は相変わらず少し濡れた髪にバスローブ、そして煙草というセクシーな雰囲気を漂わせている。
前回もその色気に驚いたものの、自分は一度その身体を抱いたことがあると思うと、何かこみ上げてくるものがあった。
やはり前回同様咲に見入ってしまうけれど、彼はそんな俺の視線を気にも留めないようだった。
「話、聞いてたのか?」
「まあね。耳に入ってきたから。でも泊まりは無理。今日僕着替え持ってきてないし、明日一限からだからどこかで買ってく余裕もないしね」
「そっか……」
残念だな。今日はもっと咲と一緒に居られるかな、なんて思ってたから、つい落胆してしまう。
泊まれるかも、なんてワクワクしながら荷物を用意してきたのが、少しだけみじめに感じられた。
「そんな顔しないの。さ、オベンキョウ、するんでしょう?」
思わず思考が表情に出ていたのだろう。咲はそう言えば、ベッドから立ち上がり、俺の頭をポンポンと撫でた。
俺は一八五cmあるが、咲もかなり背が高い方だ。一八〇cmはあるんじゃないか。
そんな彼は少しだけ腕を上に伸ばしているが、そんな様子もどこか愛おしかった。
「なぁ、咲。今度一緒に服買いに行かないか?」
もし泊まることになったとき、咲は着替えがないときはどこかで買うと言っていた。
それなら一緒に洋服を見に行ったら楽しいんじゃないか。
そんな俺の提案は、あっさりとスルーされる。
「あー。そのうちね。ねぇ、今日は何を買ってきてくれたの?」
そう言って、咲は俺の手に握られた白い箱を指さした。
服の話はこれ以上深掘りされるのも嫌なのだろう。そう思って、言葉を呑み込む。
「……レモンパイとガトーショコラ、オレンジピールのマドレーヌ。チョコチップクッキーにスノーボールクッキー。どれが良い?」
「このクッキー、包装がオシャレだね。でもそうだな、まずはレモンパイ、もらっていい?」
「もちろん。今日は皿とフォークも買ってきた」
「あはは。ありがと。さっすが剛。痒いところに手が届く~」
服を買いに行こうって言ったの、軽く流されたよな。
咲は俺と出かけたくないんだろうか。でもこうしてホテルでは会ってくれるし……。
俺はガトーショコラを口に運びながら、咲がケーキを食べ終わるのをじっと見ていた。
彼はそんな俺にすぐに気付き、「剛は食べないの?」なんて揶揄って見せる。
半ば飲み込むようにケーキを胃袋に収めると、咲は俺の頬に手を伸ばし、色気を帯びた笑みを浮かべた。
「さ。美味しいケーキの後は、「お勉強会」始めようか」
結局俺はその手から逃れることは出来ない。
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