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【第五話】
染み渡る琥珀色.I
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そうして次の週。
待ちに待った咲とのデート。前日までどんな服を着ていこうか悩んだ末に、ターコイズ色のレトロ柄のオーバーサイズシャツ、黒のアビエイタージャケット。それにネイビーのバギージーンズにした。シルバーリングのネックレスもこの日の為に新調したから、気付いてくれると嬉しい。
待ち合わせは新宿駅東口の改札前。
イツメンとよく行く、俺が大好きな居酒屋に咲の事を連れていく予定だ。
あいつらも今日は各々予定があるから、鉢合わせる可能性は無いだろう。
どうせなら個室居酒屋、なんてことも考えたが、まずは俺がどんな場所が好きかっていう事を見て欲しかったのだ。
時刻は一七時四五分。流れゆくサラリーマンと若い男女、あからさまに夜の香りを纏った奴、そんないろんな人が入り混じるこの場所でも、咲はより一層輝いて見えた。
「ごめんね、待たせちゃったかな」
「全然! 俺が浮かれすぎて早く来ただけ。っていうか、咲、メッチャカッコいい」
「そう? 剛も格好良いよ。お洒落してきてくれてありがとう。それにネックレス、今まで着けてきたことなかったよね。似合ってる」
「マジ!? 気付いてくれたの、超嬉しい。今日の為に新調したんだ!」
「あはは。気合入れてくれたんだね。素敵だよ」
「それを言えば咲だって」
その日の咲は、レッドのタートルネックにブラックのカーディガン。その上にホワイトのロングコートを羽織っており、モノクロの千鳥格子のワイドパンツという、洒落た服を着ていた。
ぽーっと見惚れていると、咲は心配そうに俺を覗き込む。
その時にふわっと香るムスクで、俺は視覚と嗅覚から彼を感じることになり、思わず照れて顔を逸らしてしまった。
「……あ、ワリ。店、こっちだから。ほら、早く行こうぜ!」
そう言って咲の腕を無意識に掴んでしまったが、彼は俺を振りほどかない。
これって、手も繋げるのかな。いや、それはちょっと性急すぎるか?
まあいいや。こうやって少しでも触れることが出来るだけで嬉しいもんな。
「そんなに焦らなくてもお店は逃げないよ。じゃあ、案内お願いするね」
駅からは徒歩一〇分。歌舞伎町の少し奥まったところにある、雑居ビルの四階だ。
到着したのは予約した時間の五分前。ちょうど良いタイミングだろう。
一八時になり、店のおばちゃんがドアを開けば、俺を見てにっこりと笑ってくれた。
「おや、彼方くんじゃない! 珍しいね。今日はいつもの子たちと一緒じゃないんだ」
「そうなんすよー。今日は友達に俺の大好きな店を知ってもらいたかったから、ここに来たんです」
「まーた。相変わらず口がうまいんだから。隣の子、名前は?」
「仲間です。はじめまして」
「仲間くんね。この子もべっぴんさんだねー。おばちゃん、サービスしちゃおうかな」
「マジで? やったー! あざーっす!」
そんなやりとりをして、店の中へと入る。中はカウンター席が一〇席、それにテーブル席が六席ある。俺たちはそのうちの二人掛けのテーブル席に案内された。
おしぼりとお冷、それにメニューを渡されると、咲はゆったりと周りを見渡す。
「雰囲気の良い所だね」
「だろ? ここを営業しているおっちゃんとおばちゃんもメッチャ良い人でさ。しかも料理もすげーウマい。お気に入りの店なんだ」
「確かに。入り口で話していた時も、気さくで良い方そうだったもんね」
得意げに言うと、咲は優しく頷いてくれる。
「やっぱりいいね。外に出ると剛の新しい一面を知ることができる。ホテルばっかりじゃ無くて、こういうのも楽しいね」
「そうだろうそうだろう。今度は咲がよく行く店も教えてくれよな!」
「そうだね、考えておくよ」
そう咲はくすくすと笑うと、メニュー表に目を通した。通常メニューと、本日のおすすめが書かれた手書きメニュー。
豪快な筆文字で書かれたそれには、厚焼き玉子や野菜の天ぷら盛り合わせと言った文字が並んでいる。どれも美味しそうだ。
「ちなみに、剛のおすすめは何?」
「焼き鳥と梅水晶! 特に月見つくねと雛皮がウメーんだ」
「じゃあそれを貰おうかな。あと、茄子のたたきとサーモンとクリームチーズのカナッペも」
「良い感じじゃん。そういや咲って酒は飲むの?」
そう言えば、咲が酒を飲んでいるところって見たことがない。
煙草はよく吸ってるけど、酒も飲むのかな。飲む前提で居酒屋に連れてきたけど、そう言えば飲めない可能性だってあったよな。
でもそんな俺の考えは杞憂で終わった。
「そうだね。お酒は好きだから、結構飲む方だよ」
「じゃあ飲み放題の方が良いかな。最初の一杯は何にする?」
「うーん、じゃあハイボールで」
「ハイボール良いな。じゃあ俺も同じのにしよ。おばちゃーん! オーダーお願いしま~す!」
それにしても、やっぱり咲ってめちゃくちゃ綺麗だよな。
駅前で見かけたときも思ったけど、こうして照明に照らされて、俺の前で笑いかけてくれるのって破壊力がエグい。
普段はバスローブ姿だけど、こういうブランド服も超似合ってる。こういうのって着こなすのムズそうなのに。やっぱりスタイルが良いから映えんのかな。
俺はしばらく咲の顔に見入ってしまったらしい。彼は眉を下げ、苦笑している。
「どうしたの? そんなに僕の顔をマジマジ見て」
「いや、かっこいいなーって思って」
「僕が? 剛の方がかっこいいと思うけど」
「なんだろう。カッコ良さの中にも綺麗さがあるっていうか? すげー」
「それは、お褒めいただき光栄です」
そんなやり取りをしていると、早速ハイボールとお通しの金平ごぼうが小鉢に乗って提供される。これはおまけだから、なんてポテトサラダも一緒に付けてくれた。
「じゃあ今日の初デートの記念に、乾杯!」
「かんぱーい」
カシャン、とグラス同士を軽く合わせると、俺はそのままハイボールを煽った。
待ちに待った咲とのデート。前日までどんな服を着ていこうか悩んだ末に、ターコイズ色のレトロ柄のオーバーサイズシャツ、黒のアビエイタージャケット。それにネイビーのバギージーンズにした。シルバーリングのネックレスもこの日の為に新調したから、気付いてくれると嬉しい。
待ち合わせは新宿駅東口の改札前。
イツメンとよく行く、俺が大好きな居酒屋に咲の事を連れていく予定だ。
あいつらも今日は各々予定があるから、鉢合わせる可能性は無いだろう。
どうせなら個室居酒屋、なんてことも考えたが、まずは俺がどんな場所が好きかっていう事を見て欲しかったのだ。
時刻は一七時四五分。流れゆくサラリーマンと若い男女、あからさまに夜の香りを纏った奴、そんないろんな人が入り混じるこの場所でも、咲はより一層輝いて見えた。
「ごめんね、待たせちゃったかな」
「全然! 俺が浮かれすぎて早く来ただけ。っていうか、咲、メッチャカッコいい」
「そう? 剛も格好良いよ。お洒落してきてくれてありがとう。それにネックレス、今まで着けてきたことなかったよね。似合ってる」
「マジ!? 気付いてくれたの、超嬉しい。今日の為に新調したんだ!」
「あはは。気合入れてくれたんだね。素敵だよ」
「それを言えば咲だって」
その日の咲は、レッドのタートルネックにブラックのカーディガン。その上にホワイトのロングコートを羽織っており、モノクロの千鳥格子のワイドパンツという、洒落た服を着ていた。
ぽーっと見惚れていると、咲は心配そうに俺を覗き込む。
その時にふわっと香るムスクで、俺は視覚と嗅覚から彼を感じることになり、思わず照れて顔を逸らしてしまった。
「……あ、ワリ。店、こっちだから。ほら、早く行こうぜ!」
そう言って咲の腕を無意識に掴んでしまったが、彼は俺を振りほどかない。
これって、手も繋げるのかな。いや、それはちょっと性急すぎるか?
まあいいや。こうやって少しでも触れることが出来るだけで嬉しいもんな。
「そんなに焦らなくてもお店は逃げないよ。じゃあ、案内お願いするね」
駅からは徒歩一〇分。歌舞伎町の少し奥まったところにある、雑居ビルの四階だ。
到着したのは予約した時間の五分前。ちょうど良いタイミングだろう。
一八時になり、店のおばちゃんがドアを開けば、俺を見てにっこりと笑ってくれた。
「おや、彼方くんじゃない! 珍しいね。今日はいつもの子たちと一緒じゃないんだ」
「そうなんすよー。今日は友達に俺の大好きな店を知ってもらいたかったから、ここに来たんです」
「まーた。相変わらず口がうまいんだから。隣の子、名前は?」
「仲間です。はじめまして」
「仲間くんね。この子もべっぴんさんだねー。おばちゃん、サービスしちゃおうかな」
「マジで? やったー! あざーっす!」
そんなやりとりをして、店の中へと入る。中はカウンター席が一〇席、それにテーブル席が六席ある。俺たちはそのうちの二人掛けのテーブル席に案内された。
おしぼりとお冷、それにメニューを渡されると、咲はゆったりと周りを見渡す。
「雰囲気の良い所だね」
「だろ? ここを営業しているおっちゃんとおばちゃんもメッチャ良い人でさ。しかも料理もすげーウマい。お気に入りの店なんだ」
「確かに。入り口で話していた時も、気さくで良い方そうだったもんね」
得意げに言うと、咲は優しく頷いてくれる。
「やっぱりいいね。外に出ると剛の新しい一面を知ることができる。ホテルばっかりじゃ無くて、こういうのも楽しいね」
「そうだろうそうだろう。今度は咲がよく行く店も教えてくれよな!」
「そうだね、考えておくよ」
そう咲はくすくすと笑うと、メニュー表に目を通した。通常メニューと、本日のおすすめが書かれた手書きメニュー。
豪快な筆文字で書かれたそれには、厚焼き玉子や野菜の天ぷら盛り合わせと言った文字が並んでいる。どれも美味しそうだ。
「ちなみに、剛のおすすめは何?」
「焼き鳥と梅水晶! 特に月見つくねと雛皮がウメーんだ」
「じゃあそれを貰おうかな。あと、茄子のたたきとサーモンとクリームチーズのカナッペも」
「良い感じじゃん。そういや咲って酒は飲むの?」
そう言えば、咲が酒を飲んでいるところって見たことがない。
煙草はよく吸ってるけど、酒も飲むのかな。飲む前提で居酒屋に連れてきたけど、そう言えば飲めない可能性だってあったよな。
でもそんな俺の考えは杞憂で終わった。
「そうだね。お酒は好きだから、結構飲む方だよ」
「じゃあ飲み放題の方が良いかな。最初の一杯は何にする?」
「うーん、じゃあハイボールで」
「ハイボール良いな。じゃあ俺も同じのにしよ。おばちゃーん! オーダーお願いしま~す!」
それにしても、やっぱり咲ってめちゃくちゃ綺麗だよな。
駅前で見かけたときも思ったけど、こうして照明に照らされて、俺の前で笑いかけてくれるのって破壊力がエグい。
普段はバスローブ姿だけど、こういうブランド服も超似合ってる。こういうのって着こなすのムズそうなのに。やっぱりスタイルが良いから映えんのかな。
俺はしばらく咲の顔に見入ってしまったらしい。彼は眉を下げ、苦笑している。
「どうしたの? そんなに僕の顔をマジマジ見て」
「いや、かっこいいなーって思って」
「僕が? 剛の方がかっこいいと思うけど」
「なんだろう。カッコ良さの中にも綺麗さがあるっていうか? すげー」
「それは、お褒めいただき光栄です」
そんなやり取りをしていると、早速ハイボールとお通しの金平ごぼうが小鉢に乗って提供される。これはおまけだから、なんてポテトサラダも一緒に付けてくれた。
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