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【第五話】
染み渡る琥珀色.II
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「うんめー! ほら、咲。お通しも美味しいから食べてみろって!」
「うん、じゃあ早速いただきます。……これ、すごく美味しいね。少し濃いめの味付けが、ハイボールによく合う。さすが、剛は美味しいお店をたくさん知ってるんだね」
「だろ? この店マジで好きだからさ。咲にも喜んでもらえてチョー嬉しい」
すごい、咲が俺の好きな店で笑ってくれてる。ホテルでケーキを食べていた時も思ったけど、やっぱり咲って上品にものを食べるよな。きっと育ちが良いんだろう。
「剛は食べないの?」
「モチ、食べる。……んー! ウッマ! おばちゃん、今日も最強に料理美味しいっす!」
「そうかい。良かったね。彼方くんは美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるよ」
それから俺たちはいろんな話をした。
主に学校の話で、あの先生が厳しいだの、この授業は課題が多いだの、前のテストがどうだったかとかそんな事。
それに俺のバイトの話とか、イツメンの事もニコニコしながら聞いてくれる。
咲ってすごく聞き上手なんだな。俺はこの日よくしゃべったと思う。
けれど話し上手でもあるから、どんな話でも上手にまとめて答えてくれる。
そんな時間は、俺たちが出会ってからは初めてで、これ以上ないくらい喜びを感じていた。
「でさ、最近俺、結構ケーキ屋に詳しくなったんだぜ? この間ダチの誕生日の時、ケーキを選んで持ってったらメッチャ喜ばれてさ。これも咲のおかげだな!」
「あはは。僕は何もしてないよ。剛が一生懸命お店を探してくれているから、それが功を成したんだね」
「俺、ケーキって誕生日とかクリスマスに家で出されたものを食べるばっかだったから。咲と会うようになってからなんだ。こーやってケーキを食べるようになったの」
「確かに。自分から進んでケーキを買う事ってあんまりないよね」
「そうなんだよなー。今じゃスイーツ巡りが趣味です~なんて言ったら、いろんな店も教えてもらえるようになったんだぜ。咲にもうまいもの食べて欲しいし、良いことばっかりだ」
「剛みたいな格好良い人の趣味がスイーツ巡りだなんて、ギャップがあってすごく良いと思う」
咲が俺の事をカッコいいって言ってくれた。素直にめっちゃ嬉しい。
俺は酒が入ってることと、咲が目の前にいる事実で、きっとだらしなく破顔していたに違いない。
けど咲は結構飲んでるはずなのに、顔色一つ変えない。酒、強いんかな。
こういう事もホテルでは知ることが出来なかった。外デート、マジで最高。
楽しい時間はあっという間で、気が付けばラストオーダーの時間だ。
だから俺はレモンサワーを、咲は変わらずハイボール、それとシジミの味噌汁を頼む。
普段より酒も食事も進んだし、咲といっぱい話も出来たし、満足感が半端ない。
味噌汁を飲みながら、俺はそんな感慨に浸っていたのだ。
会計を終え外に出ると、ひんやりとした空気が火照った身体にちょうど良くて、迫る冬の訪れを予感させた。
「は~食べたー! めっちゃ満足した。もう食えね~」
「うん。すごく美味しかった。それに最後に食べたシジミの味噌汁。アルコールで昂った心をじんわりと癒していくれるような優しさがあったね」
「だろ? マジであそこのおじちゃんもおばちゃんも、料理がうまいよな~」
そのまま駅へ向かって歩き出そうとすれば、咲は歩みを止め路肩へと寄った。
何か忘れものでもしたのかと思い、俺も咲のもとへ向かうと、彼はぐっと拳を握りながら、真剣なまなざしで俺を捉えた。
「それでさ、剛」
「なんだ?」
「この後って、時間ある?」
そう言って腕時計を確認する。時刻は二〇時半。まだまだ夜はこれからだ。
「勿論。っつっても、終電で帰らなきゃだから後三時間くらいだな」
「じゃあ、ホテルいこっか」
「えっ!?」
その提案に、俺は声を上げてしまった。
てっきり忘れ物か飲み足りないから二軒目に行くとかそういう話だと思っていたからだ。
それに今日は居酒屋デートだけだと思っていたから、何の用意もしていない。
「今回の最終目的って、ホテルじゃなかったの?」
「いや、そんなこと考えてなかったな」
それに、ホテルに行くために酒を飲ませるって、ちょっと人としてどうなんだ? って思うし。
普通のデートみたいで嬉しいな、なんて思っていたから、思う存分飲み食いした。
だからこそ、これからホテルへ行くとなるとびっくりして当然だろう。
「剛が好きな場所に連れて行ってもらったから、僕もお気に入りの場所に連れて行くね。空いてると良いんだけど」
そう言うと咲はずんずんと前へ進んでいく。
確かに咲ともっと一緒に居れるのは嬉しいけど、どこか自分を嘲笑うような咲の態度が気になる。
咲は一体、何を考えているのだろう。
この猥雑な街で、その儚げな背中を見失わないようにするのに、俺は必死になっていた。
「うん、じゃあ早速いただきます。……これ、すごく美味しいね。少し濃いめの味付けが、ハイボールによく合う。さすが、剛は美味しいお店をたくさん知ってるんだね」
「だろ? この店マジで好きだからさ。咲にも喜んでもらえてチョー嬉しい」
すごい、咲が俺の好きな店で笑ってくれてる。ホテルでケーキを食べていた時も思ったけど、やっぱり咲って上品にものを食べるよな。きっと育ちが良いんだろう。
「剛は食べないの?」
「モチ、食べる。……んー! ウッマ! おばちゃん、今日も最強に料理美味しいっす!」
「そうかい。良かったね。彼方くんは美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるよ」
それから俺たちはいろんな話をした。
主に学校の話で、あの先生が厳しいだの、この授業は課題が多いだの、前のテストがどうだったかとかそんな事。
それに俺のバイトの話とか、イツメンの事もニコニコしながら聞いてくれる。
咲ってすごく聞き上手なんだな。俺はこの日よくしゃべったと思う。
けれど話し上手でもあるから、どんな話でも上手にまとめて答えてくれる。
そんな時間は、俺たちが出会ってからは初めてで、これ以上ないくらい喜びを感じていた。
「でさ、最近俺、結構ケーキ屋に詳しくなったんだぜ? この間ダチの誕生日の時、ケーキを選んで持ってったらメッチャ喜ばれてさ。これも咲のおかげだな!」
「あはは。僕は何もしてないよ。剛が一生懸命お店を探してくれているから、それが功を成したんだね」
「俺、ケーキって誕生日とかクリスマスに家で出されたものを食べるばっかだったから。咲と会うようになってからなんだ。こーやってケーキを食べるようになったの」
「確かに。自分から進んでケーキを買う事ってあんまりないよね」
「そうなんだよなー。今じゃスイーツ巡りが趣味です~なんて言ったら、いろんな店も教えてもらえるようになったんだぜ。咲にもうまいもの食べて欲しいし、良いことばっかりだ」
「剛みたいな格好良い人の趣味がスイーツ巡りだなんて、ギャップがあってすごく良いと思う」
咲が俺の事をカッコいいって言ってくれた。素直にめっちゃ嬉しい。
俺は酒が入ってることと、咲が目の前にいる事実で、きっとだらしなく破顔していたに違いない。
けど咲は結構飲んでるはずなのに、顔色一つ変えない。酒、強いんかな。
こういう事もホテルでは知ることが出来なかった。外デート、マジで最高。
楽しい時間はあっという間で、気が付けばラストオーダーの時間だ。
だから俺はレモンサワーを、咲は変わらずハイボール、それとシジミの味噌汁を頼む。
普段より酒も食事も進んだし、咲といっぱい話も出来たし、満足感が半端ない。
味噌汁を飲みながら、俺はそんな感慨に浸っていたのだ。
会計を終え外に出ると、ひんやりとした空気が火照った身体にちょうど良くて、迫る冬の訪れを予感させた。
「は~食べたー! めっちゃ満足した。もう食えね~」
「うん。すごく美味しかった。それに最後に食べたシジミの味噌汁。アルコールで昂った心をじんわりと癒していくれるような優しさがあったね」
「だろ? マジであそこのおじちゃんもおばちゃんも、料理がうまいよな~」
そのまま駅へ向かって歩き出そうとすれば、咲は歩みを止め路肩へと寄った。
何か忘れものでもしたのかと思い、俺も咲のもとへ向かうと、彼はぐっと拳を握りながら、真剣なまなざしで俺を捉えた。
「それでさ、剛」
「なんだ?」
「この後って、時間ある?」
そう言って腕時計を確認する。時刻は二〇時半。まだまだ夜はこれからだ。
「勿論。っつっても、終電で帰らなきゃだから後三時間くらいだな」
「じゃあ、ホテルいこっか」
「えっ!?」
その提案に、俺は声を上げてしまった。
てっきり忘れ物か飲み足りないから二軒目に行くとかそういう話だと思っていたからだ。
それに今日は居酒屋デートだけだと思っていたから、何の用意もしていない。
「今回の最終目的って、ホテルじゃなかったの?」
「いや、そんなこと考えてなかったな」
それに、ホテルに行くために酒を飲ませるって、ちょっと人としてどうなんだ? って思うし。
普通のデートみたいで嬉しいな、なんて思っていたから、思う存分飲み食いした。
だからこそ、これからホテルへ行くとなるとびっくりして当然だろう。
「剛が好きな場所に連れて行ってもらったから、僕もお気に入りの場所に連れて行くね。空いてると良いんだけど」
そう言うと咲はずんずんと前へ進んでいく。
確かに咲ともっと一緒に居れるのは嬉しいけど、どこか自分を嘲笑うような咲の態度が気になる。
咲は一体、何を考えているのだろう。
この猥雑な街で、その儚げな背中を見失わないようにするのに、俺は必死になっていた。
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