春を売るなら、俺だけに

みやした鈴

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【第六話】

ささやかな、けれど確実に進んでいくこと

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 先日道を歩いていれば、ふわりと甘い芳香がした。
 どうやら近所の生垣に咲き誇る、山茶花の香りらしい。
 白い花弁の縁にはピンクが彩られ、パッと人目を惹く美しさは俺の想い人とどこか似ているような気がした。

 咲と関係を持ってから半年。はじめは遠く感じていた彼の心も、少しは俺と近づいてくれたんじゃないかと思う。これは俺の勘違いじゃなければ良いのだけど。

 それにこの頃になると、俺は目を逸らすことが出来なくなっていた。
 彼――仲間咲の事を愛しているという現実を。

 毎週恒例の咲と過ごす時間。今日は珍しく咲が先にシャワーを浴びて、私服を身に纏っていた。
 今日の服装は黒のエナメルジャケットに、白地に黒い薔薇がプリントされたシャツ。それに黒のスカートだ。

「いいなー。スカート、めっちゃオシャレ。男でも似合うんだな~」

 思わず感嘆の息が漏れる。
 花柄のシャツなんて着こなしが難しそうだし、その上スカートというオシャレ上級者にも程がある格好なのに、しれっと着こなしているから本当にすごい。

「剛も履いてみたら? 身長が高いから映えると思うよ」
「マジ? でも俺、咲みたいにうまく着こなせる自信ねー」
「いけるいける。ほら、僕とお揃い、どう?」

 そういうと咲はスマートフォンを取り出し、通販サイトに掲載されているメンズスカートを俺に見せた。
 モデルは、イエローのスポーツブランドのジャージに白のインナー。それにカーキのナイロン製のロングスカートを着用している。

「えっ。フツーに可愛いんだけど。めっちゃアリ」
「でしょ? リンク送るね」
「あざーっす」

 そう言うと、俺は速攻サイトに飛んで、ショッピングカートに商品を追加した。
 うん。値段もちょうど良いし。このまま決済して、発送先を自宅に設定して、と。

「……よし、買った」
「本当? 挙動が早いね」
「俺も咲とお揃い、したかったから」
「あはは。やっぱり剛は可愛いね。きっと君も似合うと思うよ。届いたら着て見せて?」
「もちろん! あー。でもなんて言われっかなー。文あたりに弄られるかもしんねー」

 やっぱり男でスカート履いてるのって、あんまり見たことないよな。
 間近で見るのは、咲のが初めてだし。
 けれど全く違和感がないのは、やっぱり咲がスタイル抜群で綺麗な顔をしているからなんかな。

 百面相をする俺に、彼はぽん、と俺の肩を優しく叩いた。
 よくあるフローラルなボディーソープ。でもそれだけじゃない、柔らかくてずっと嗅いでいたくなるような優しい香りが鼻腔を擽る。

「気にしなくていいんじゃない? 人目を気にしてたら、楽しいことも楽しめなくなるって」
「まー、そーだな。うっし、せっかく買ったんだから、俺、超男前に着こなす」
「楽しみにしているよ」
「任せとけ! じゃあ来週の予定は――」

 咲といると、今まで知らなかった自分に出会うことが出来る。
 新しい事に挑戦したり、今まで恥ずかしいと思っていたことだって、咲に掛かれば俺の長所になった。

 次回の約束を決め、俺もシャワーを浴びてから、一緒にラブホを出る。
 その帰り道に、立ち飲み屋で一緒にハイボールを一杯煽ったりして。
 最初の頃じゃ全く考えられなかった進展に、俺は浮足立つばかりだ。

「咲がしらたき食べてんの、すげーそれっぽい」
「そうかな? 僕、おでんって今まで食べたことがなくて。気になって頼んでみたんだけど、すごくだしがしみ込んでいて美味しいね」
「おう! 俺のおすすめは牛筋と餅巾着! 今度咲も食べてみろよ」
「うん、良いね。剛のおすすめ、楽しみにしているよ」

 そんな会話をしながら、共に食事をする。
 まるで恋人同士みたいじゃないか? 好きな人とだったら、こういう些細な事でも楽しく感じるもんな。

「……彼方さん!?」

 そう遠くから俺を呼ぶ声がした気がしたけど、きっと気のせいだろう。
 俺は何よりも大切な咲との時間を満喫していたのだった。

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