春を売るなら、俺だけに

みやした鈴

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【第六話】

Get ready

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「なぁ咲、クリスマスって空いてる?」

 それは十一月下旬、十二月後半のシフトを出す前に咲に尋ねた事だった。
 折角の聖夜。どうせなら好きな人と過ごしたい。

 すると咲は特に予定を確認することなく、こてん、と首を傾げた。

「二十五日? 今のところ予定は何も無いよ」
「よっしゃ! なぁ、じゃあ二十五日は開けといてくれよな! クリスマスデートしたい!」
「あはは、剛ってばはしゃぎすぎ。いいよ。どこに出掛けようか?」
「どーしよっかなー。真剣に考えるから、当日までお楽しみってことで。……あっ! それなら俺、したいことがあるんだ」

 そこで俺はある思い付きをする。咲、乗ってくれたらいいな。
 そう思ってベッドに座り込む咲の前にしゃがみ込み、彼の冷たい両手を握りしめた。

「何?」
「せっかくクリスマスデートするんだったら、プレゼントも用意したいよな? だから、前の週、一緒に服見に行こうぜ! お互いが選んだ服でデートするって、最強じゃね?」
「楽しそうだね。いいアイディアだと思うよ」
「だろ!? やった。じゃあクリスマスとー。その前の週の、火曜日とか予定空いてるか?」

 俺は彼の手をぶんぶんと振り回してしまう。そんな俺をなだめるように、けれどどこか愛情深い手つきで俺の頭を撫でた。
 なんか俺、大型犬みたいじゃないか? でも咲に飼われるなら悪くないな。なんて思ってしまう。

「うん。何もなかったはず。補講さえなければ」
「じゃあその前に勉強も一緒にしないとな! やっべー。咲と一緒にいると、楽しくて仕方ない」
「喜んでもらえて光栄です。僕もだよ」

 そう言って、俺は一言断りを入れてシャワールームへと向かった。

 初めての「実践授業」からずいぶんと時は流れた。その時から俺たちはほぼ毎週のように身体を重ねている。
 けれど最初のころとは違う。肉体関係だけではなく、今はホテルに行く前に一緒に飯を食いに行ったり、帰りに軽く寄り道をするようになった。

 もしかして、クリスマスに告白とかしちゃったりしても良いんじゃないか?

 そんな浮かれた考えが出るほどまでに、咲と親密になれた気がする。
 どうしよう、咲と恋人同士とか。考えるだけでドキドキが止まらない。

 その日は路上にテラス席がある肉バルで軽いつまみと一杯のワインを飲み、終電間近で解散した。

 そして日々は過ぎ、クリスマス一週間前。俺たちは洋服を見に、原宿の竹下通りに来ていた。
 アメリカンカジュアルやヴィンテージ品まで品揃えが良い店から、アウトドアブランドを中心に取り揃えた店。
 古着以外にも、自家製ケーキを提供するレトロな喫茶店、クレープや綿あめなんかも売っているから、デートにピッタリじゃないか? なんて思って咲を連れてきた。
 けれど、やっぱり若者の街なだけあり、女の子の視線がびしびしと飛んでくる。さすが咲。顔も綺麗だしスタイルも抜群だもんな。

 その中でヤムニョムチキンを食べ、行きつけの古着屋に向かった。
 地下にあるそこは、所狭しと古着が並べられており、天井からもバンドTを始めとするアイテムが吊り下げられている。

 咲ってどんな服が似合うかな。少し奇抜な格好でも、彼なら着こなすに違いない。

「クリスマスだったらやっぱり赤と緑の服……?」

 俺はそんなことを言いながらハンガーをかき分けていく。
 見つけたのは、赤をベースとして、ライトブルーを基調としたカラフルな気球が円形状に印刷されたブランド物のジャンパー。ちょっと曼荼羅っぽくて、抜群に目立つ。
 個性が強いけれど、咲、赤いアイテムをよく身に着けてるし。どうだろう、と彼に合わせてみる。

「……案外行けるんじゃね? これに黒タートルとか合わせたら、普通にオシャレ」
「剛のファッションセンスはなかなか独特だね。自分じゃ選ばないだろうから、新鮮だよ」

 そういう咲は、少し困ったように眉を下げ、それでも口元には確かな笑みが浮かんでいる。最初の強がったり飾ったりしている作られたものじゃない、咲の心の底からの笑顔だ。

「折角だし、いろいろ見て回ろうぜ! ほら、俺が全身コーディネートしてやるよ」
「いや、それはいいかな」
「そんな冷たいこというなって~。ほら、カリスマ店員剛っちにお任せ~的な?」
「あはは、何それ。けれど、それも楽しそうだね。でも赤と緑のツートンとかは勘弁してね?」

 そう言って俺はばっちりとウィンクを決める。
 けれど最初に選んだ服を咲は気に入らなかったのだろう。自然な手つきで俺から服を受け取ると、ハンガーラックにスッとそれを戻した。

 だけど、咲も咲で楽しんでくれているようで、ヴィンテージカラーのフライングジャケットを手に取っている。
 こういうのって、スッゲー楽しい。

「りょーかい! 咲に似合う服、かぁ~。咲、スタイル良いからなんでも着こなせそう」
「お褒めいただきありがとう。それなら僕は剛の服を選んでくるね。どんなものが似合うかな」
「おう! めちゃくちゃ楽しみだ! 俺が買ってくるまでこっち見るなよ?」
「分かってるって。剛は心配性だね」

 そう言ってやわらかい表情で俺を見つめる咲に、ドキドキが止まらない。
 こんな感情、初めてだ。
 恋ってこんなにも楽しいものだって、咲と出会わないときっと知らないままだった。

「でも、マジで夢みてー。好きな人と、クリスマスに互いがプレゼントした服でデートって。めちゃめちゃ楽しみすぎてヤバい、俺、超浮かれてる」
「はいはい。剛が楽しそうで嬉しいよ」
「おう! すげぇ楽しい!」

 ご飯を食べに行ったり、こうしてお互いの服を選んだり。
 むしろこれで恋人同士じゃない方がおかしいだろ。
 しかもクリスマスも一緒に過ごす約束をしている。
 咲も、俺と同じ気持ちだったら嬉しいな。

 そんな中、ピリピリとほんの少しの違和感を覚えた。
 それは些細なもの。けれど確かにあからさまな視線を感じるのだ。

「剛? どうしたの?」
「いや、なんつーか、最近どっかから見られてる気配がするっていうか。俺の気のせーだったらいいんだけど」

 するとすぐに咲は神妙な面持ちになる。そこまで真剣に考えられるとは思ってなくて、茶化そうとするけれど、彼の態度は軟化しない。

「実害は出てない? もし何かあったらすぐ警察に相談するんだよ」
「あざす。それにしてもなんだろな~。なんか、ゾワゾワする」
「今日はもう買い物やめておこうか? 剛の安全が一番大事だから」
「やめない! せっかくの咲とのデートだし、そんな事くらいでやめるなんてナシナシ!」
「あはは。そっか。……でも本当に気をつけてね。何が起こるかわからないから」

 そういう咲の表情は硬いままだ。
 だからわざとヘンな服を選んで咲に見せると、少しだけ肩の力が抜けたようだった。

「な。折角ここまで来たんだ。服選び、再開しようぜ!」
「それもそうだね。じゃあ、買い物が終わったら入り口待ち合わせで。僕も君の良さを引き立てるアイテムを探してくるね」

 咲にヘンな心配かけさせちゃったかな。なんて少しだけ反省する。
 けど、大したことは無いよな? 俺だって男だし、何かあっても大丈夫だと思うんだけど。

 うん。気にしないことにしよう。それより咲の服選びだ。
 そう思って、俺は買い物に意識を集中させた。
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