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【第七話】
化膿
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咲と俺は、あの女の一件があった以来、全く連絡も取れなくなっていた。
メッセージや通話は全て無視をされて、学校で話しかけようとしても、ものの見事に避けられる。
咲は「目立ちたくないから」と言っていたから、俺が声を上げて彼を呼び止めようものなら、さらに関係は悪化するに違いない。
クリスマスパーティーの約束をした一二月二五日。あれほどまでに楽しみにしていたクリスマスも、結局は咲と会う事もなく、虚しいだけの一日で終わった。
俺はその時、咲が古着屋で選んでくれた、ヴィンテージのショートブルゾンを着用していた。
くすんだイエローに、襟元のみブラックのそれは、俺の好みドンピシャだ。
本当なら「咲が選んでくれた服、超最高!」なんて笑いあえていたはずなのに。
気が付けば既に一か月が過ぎ、その間俺はただ平坦で刺激も楽しみもない毎日を過ごしていた。
ああ、駄目だ。あの日の別れからずっと、俺は咲の事しか考えられない。
勉強もバイトも生活もそれなりにこなしてはいるものの、以前みたいに楽しくは無い。
自分の心がからっぽになったような、そんな錯覚さえ起こすほどだ。
一月の下旬。外気の冷たさはピークを迎え、ただでさえ温度を失った気持ちにさらに追い打ちをかけるようだった。
外では梅の花弁がささやかに咲き始めて、これから来る春を予感させる。
三月には、咲と一緒に桜を見ることが出来れば良いのに。
彼とは一か月も話していないはずなのに、俺は誰よりも咲の事を考えていた。
だからと言って日常生活をないがしろにすることは出来ない。
今日だって、午前の授業が終わり昼休みに入ると、周囲は騒がしくなり、教室からも人が遠のいた。
そんな中、俺は教室の後部座席から立ち上がり、そそくさと退出する咲を目で追う事しかできない。
そんな俺を不審に思ったのだろう。グループ内でも特に親しい友人の文は、俺の肩に両手を置いた。
「なんだよ剛。最近仲間にお熱じゃん。お前らってそんなに仲良かったっけ? つか、接点ある?」
「……いや、ない」
そう。俺たちは大学での接点は何も無かった。
学外でいくら時間を重ねたとしても、それをイツメンの奴らは気付くことなどない。
初めは秘密の逢瀬みたいでワクワクしていたけれど、こうなってしまえば、早く関係を露呈されたほうが良かったのではないかとさえ思えてしまう。
きっとそれを、咲は望まなかったのだろうけど。
「おいおい、そんな真面目な顔するなって。な、落ち込んでてもしゃーないし、またイツメンで飲みに行こうぜ。最近の剛、付き合い悪いって俺に言われてもどーにもできないっつーの。だから、な? 俺の顔を立てると思って」
ビシビシと背中を叩かれるが、驚くほどに何も感じない。
咲にもし同じことをされたら、きっと俺は嬉しくなるんだろうな。
きっと彼だったらこんな無遠慮な叩き方はしない。優しくなだめるようにポンポンとしてくれるはずだ。
「分かった、行くよ」
以前は週一回のペースで咲に会っていたから、都合は付きづらかった。
けれど今は何もない。そう、哀しくなるほどに。
「おー。みんな剛の事大好きだから喜ぶぞ~。そうと決まれば予定組もうぜ! グルチャで希望確認して、と。剛は都合悪い日あるか?」
「バイトの日以外だったらいつでも」
そう言って俺はスマートフォンのスケジュール管理アプリを開く。
今月はバイトの予定しかそのには入力されていなかった。ふと前月を確認すると、咲とクリスマスデート! なんて浮かれた絵文字と共に、予定が入っている。予定は遂行されなかったのに、俺はその記録を消すことは出来なかった。
これ、かなりキツイな。
どうしても気分が落ち込んでしまい、思わず深いため息を吐いてしまう。
すると文はそんな俺を慰めるように、ぐっと顔を覗き込んできた。
「なーんだよ剛、ノリわりぃの~。ほら、オトンに悩みを相談してごらん」
そう声を低くして言う彼に、俺は思わず吹き出してしまった。
時折デリカシーの無い発言をするけど、こいつのこういう所は、本当に美点だと思う。
「っはは、お前、いつから俺の父さんになったんだよ」
思わず吹き出してしまうと、文はニカッと歯を出して笑って見せた。
「ようやく笑ったな。怖い顔してると、幸運も逃げていくぜ。そ・れ・に。笑ってた方が剛はイケメン一〇〇割増しだって」
「一〇〇割ってなんだよ。単位おかしいのマジうける。お、来週の月曜空いてる。お前らは?」
「月曜ね、オッケー。俺もその日はフリー。ほら、パーっと飲みに行くぞ! おーい! 集合! 剛、飲みに行けるってよー!」
そう文が声を上げると、わらわらと人が寄ってくる。
「マ? 剛めっちゃ久しぶりじゃん!」
「アタシ達、ガチで剛に彼女ができたんじゃないかって凹んでたんだけど」
「えっ、剛、彼女できたんか!?」
「……いや、出来てねーよ」
「お前ら食いつきすぎだろ。ほらほら、剛は逃げねーんだから。予定空いてるやつはグルチャに行けるってメッセ送っといて。ほら、剛も、な!」
そんな会話をして、俺たちは食堂へと向かっていった。
咲との予定は、空白のままで。
メッセージや通話は全て無視をされて、学校で話しかけようとしても、ものの見事に避けられる。
咲は「目立ちたくないから」と言っていたから、俺が声を上げて彼を呼び止めようものなら、さらに関係は悪化するに違いない。
クリスマスパーティーの約束をした一二月二五日。あれほどまでに楽しみにしていたクリスマスも、結局は咲と会う事もなく、虚しいだけの一日で終わった。
俺はその時、咲が古着屋で選んでくれた、ヴィンテージのショートブルゾンを着用していた。
くすんだイエローに、襟元のみブラックのそれは、俺の好みドンピシャだ。
本当なら「咲が選んでくれた服、超最高!」なんて笑いあえていたはずなのに。
気が付けば既に一か月が過ぎ、その間俺はただ平坦で刺激も楽しみもない毎日を過ごしていた。
ああ、駄目だ。あの日の別れからずっと、俺は咲の事しか考えられない。
勉強もバイトも生活もそれなりにこなしてはいるものの、以前みたいに楽しくは無い。
自分の心がからっぽになったような、そんな錯覚さえ起こすほどだ。
一月の下旬。外気の冷たさはピークを迎え、ただでさえ温度を失った気持ちにさらに追い打ちをかけるようだった。
外では梅の花弁がささやかに咲き始めて、これから来る春を予感させる。
三月には、咲と一緒に桜を見ることが出来れば良いのに。
彼とは一か月も話していないはずなのに、俺は誰よりも咲の事を考えていた。
だからと言って日常生活をないがしろにすることは出来ない。
今日だって、午前の授業が終わり昼休みに入ると、周囲は騒がしくなり、教室からも人が遠のいた。
そんな中、俺は教室の後部座席から立ち上がり、そそくさと退出する咲を目で追う事しかできない。
そんな俺を不審に思ったのだろう。グループ内でも特に親しい友人の文は、俺の肩に両手を置いた。
「なんだよ剛。最近仲間にお熱じゃん。お前らってそんなに仲良かったっけ? つか、接点ある?」
「……いや、ない」
そう。俺たちは大学での接点は何も無かった。
学外でいくら時間を重ねたとしても、それをイツメンの奴らは気付くことなどない。
初めは秘密の逢瀬みたいでワクワクしていたけれど、こうなってしまえば、早く関係を露呈されたほうが良かったのではないかとさえ思えてしまう。
きっとそれを、咲は望まなかったのだろうけど。
「おいおい、そんな真面目な顔するなって。な、落ち込んでてもしゃーないし、またイツメンで飲みに行こうぜ。最近の剛、付き合い悪いって俺に言われてもどーにもできないっつーの。だから、な? 俺の顔を立てると思って」
ビシビシと背中を叩かれるが、驚くほどに何も感じない。
咲にもし同じことをされたら、きっと俺は嬉しくなるんだろうな。
きっと彼だったらこんな無遠慮な叩き方はしない。優しくなだめるようにポンポンとしてくれるはずだ。
「分かった、行くよ」
以前は週一回のペースで咲に会っていたから、都合は付きづらかった。
けれど今は何もない。そう、哀しくなるほどに。
「おー。みんな剛の事大好きだから喜ぶぞ~。そうと決まれば予定組もうぜ! グルチャで希望確認して、と。剛は都合悪い日あるか?」
「バイトの日以外だったらいつでも」
そう言って俺はスマートフォンのスケジュール管理アプリを開く。
今月はバイトの予定しかそのには入力されていなかった。ふと前月を確認すると、咲とクリスマスデート! なんて浮かれた絵文字と共に、予定が入っている。予定は遂行されなかったのに、俺はその記録を消すことは出来なかった。
これ、かなりキツイな。
どうしても気分が落ち込んでしまい、思わず深いため息を吐いてしまう。
すると文はそんな俺を慰めるように、ぐっと顔を覗き込んできた。
「なーんだよ剛、ノリわりぃの~。ほら、オトンに悩みを相談してごらん」
そう声を低くして言う彼に、俺は思わず吹き出してしまった。
時折デリカシーの無い発言をするけど、こいつのこういう所は、本当に美点だと思う。
「っはは、お前、いつから俺の父さんになったんだよ」
思わず吹き出してしまうと、文はニカッと歯を出して笑って見せた。
「ようやく笑ったな。怖い顔してると、幸運も逃げていくぜ。そ・れ・に。笑ってた方が剛はイケメン一〇〇割増しだって」
「一〇〇割ってなんだよ。単位おかしいのマジうける。お、来週の月曜空いてる。お前らは?」
「月曜ね、オッケー。俺もその日はフリー。ほら、パーっと飲みに行くぞ! おーい! 集合! 剛、飲みに行けるってよー!」
そう文が声を上げると、わらわらと人が寄ってくる。
「マ? 剛めっちゃ久しぶりじゃん!」
「アタシ達、ガチで剛に彼女ができたんじゃないかって凹んでたんだけど」
「えっ、剛、彼女できたんか!?」
「……いや、出来てねーよ」
「お前ら食いつきすぎだろ。ほらほら、剛は逃げねーんだから。予定空いてるやつはグルチャに行けるってメッセ送っといて。ほら、剛も、な!」
そんな会話をして、俺たちは食堂へと向かっていった。
咲との予定は、空白のままで。
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