【完結】問題児な特待生は義姉への恋を拗らせる。愛の勢いと方向性がおかしいですよ?

月にひにけに

文字の大きさ
7 / 27
1章 新入生編

7.一枚上手

しおりを挟む
「こないだのダリア団長かっこよかったねぇ……っ!!」

「ほんと王子様みたいだったぁ……っ!!」

「氷の騎士、ダリア団長の特殊部隊に入れたらなぁ……」

「いやいや、あそこは流石に無理でしょぉ……っ」

「ーーなぁーにが王子様だよ、あの腹黒クソ陰険野郎が……っ!! ぜったいにあいつ碌なヤツじゃねぇぞ……っ!!!」

「フィン……っ!?」

 キャァキャァと未だに熱の収まらないクラスメイトの渦中の相手の名前に、フィンはギリギリと歯噛みする。

 フィンは教室の端でこれ以上ないほどの凶悪さにその整った顔を歪めると、先日の攻防を思い出していた。

「ーーそれで、フィンくんはどうするんだい? ソフィアさんは俺の部隊に入団と言う話しなのは、今聞いていた通りだけど」

「ーー……っ!!」

「あ、あわわわわ……っ」

 悠然とした余裕を見せるダリアが、この期に及んでフィンを更に煽ることにノアが狼狽える。

 ギリと歯を噛み締めてイラついたフィンが、今にもダリアに噛みつこうとしたその直後、ソフィアがキラキラと顔を輝かせてその間に割って入った。

「あれ、フィンも一緒なんだよね? ノアさんからそう伺ったから喜んでたんだけど……」

「…………っ!!」

「………………で、どうする?」

 キキキーっと急ブレーキをかけるかのような勢いで踏み止まるフィンに、ダリアがニヤリとして追い討ちをかけた。

「…………フィン?」

「………………………………入る……っ!!」

 様子のおかしいフィンをキョトンとして見遣るソフィアに、ギリギリと今にも暴れ出しそうな様子のフィンが、押し殺すように口にした。

「……………入る?」

 ギリギリギリギリと歯軋りをしそうな勢いのフィンを悠然と見下ろして、ダリアはニヤリと黒い笑みを浮かべると、その蒼い瞳をスッと細めた。

「俺は団長。キミはその団長の集団に入ろうとしている見習い候補生。ーーさて、入団の可否権が俺にあることをお忘れかな? フィンくん」

「んなっ!?」

 にっこりとした笑顔で圧をかけるダリアに、フィンがその言わんとしている意味を理解してその顔色を変えた。

「ち、ちょっと、ダリア……っ!! せっかくその気になってくれたんだし、もうそこら辺でよろしくないかい……っ!?」

 あわあわと狼狽するノアを無視して、ダリアは一歩も引く気配を見せずにぐぬぬと小刻みに震える生意気な少年を見下ろした。

「別にいいんだよ? ソフィアさんが入ってくれたし、指示に従わない部下を連れ歩くほど危険なことはないからね」

「この……っ……ペテン師が……っ!!!」

「ちょっ! フィンっ!? 団長さんになんて口きくの!?」

「……………………」

 ギリギリギリと睨みをきかせるフィンを歯牙にもかけず、はっはっはっと笑うダリアに、慌てるソフィア。

 そんな様をそれまでソワソワと見守っていたノアは、その関係性の終着点が見えて来たことで普段の冷静さを取り戻してきていた。

「フィン、礼儀は大事よ? これから2人でお世話になるんだし……っ」

「…………………っ…………っ…………っ!!」

 ね? と心配そうな顔でフィンを宥めるソフィアに、小刻みに震えたままのフィンは、その紅い瞳を閉じて大きく息を吐き出した。

「ーー入団許可を頂けますか? …………ダリア団長……っ……!!」

「ーー歓迎しよう、フィン・レートくん」

 ふっと勝ち誇ったように笑うダリアを、言葉とは裏腹な表情でギリっと睨み上げるフィン。そんなフィンを頑張ったねと抱きしめるソフィアと、頑張ったねぇとほろりとしながら頷くノアーー。

「ーーあの氷野郎、いつか絶っっっ対に燃やす……っっっ!!!」

「えっ!? 急にどうしたの、フィンっ!?」

 はらわたが煮え繰り返るような出来事を思い出して、教室の椅子で突如として目を吊り上げるフィンに驚くソフィア。

 皆が憧れるダリア団長に一目置かれてヘッドハンティングをされるほどのエリート特待生。

 その一方で問題児な癖にとことんと姉に弱く、どことないポンコツ感を漂わせるフィンの様子に慣れて来たクラスメイトは、その様を遠巻きにホワッと密かに見守る。

「ーーあ、あの、ソフィアさん……っ」

 そんな2人の傍に近寄る影に振り返るソフィアと、頬杖をついたままにむむっとその眉間に再び深いシワを刻むフィン。

 そんなフィンにびくりと震えながら、いつぞやの演習時にソフィアへと話しかけていたモブ男子生徒がヒエッと後退った。

「あ、あの時のーー」

 顔をパッと明るくさせるソフィアの一方で、まだ懲りねぇのかと凶悪に顔を歪ませるフィンに戸惑いながらも、モブ男子生徒は半ばヤケクソでその頭をソフィアへと下げた。

「こっ、この間はごめんっ!!! 俺が避けたから、怖い思いさせちゃって……っ!!」

 下げられた頭にしばしぽかんとその頭を見ていたソフィアとフィンは、次いで顔を見合わせる。

「そ、そんなっ!! あれはしょうがないことだった訳だし、魔物に襲い掛かられたら逃げるべきだよっ!! むしろ私がぼんやり突っ立ってて鈍臭かっただけだし……っ!!」

 わたわたと両手を振るソフィアの一方で、モブ男子生徒は未だ申し訳なさそうにその眉尻を下げた。

「ーーでも、弟くんにも怪我をさせてしまってーー……っ」

 頬杖をついたままの体勢から微動だにせず、人事のように2人の様子を見上げていたフィンは、チラリと視線を向けてくるモブ男子生徒にうん? とその顔を見遣る。

「ーーあの怪我は俺が無理矢理割り込んだから負っただけで、お前のせいなんかじゃねぇよ。あの魔物が届く前に団長サンはちゃんとやっつけてた」

 怪我だって大したことないし、ソフィアにすぐ治してもらったから問題もない。そんなことを気のない素振りで付け加えて、フィンはふすんと机に突っ伏した。

「ーー足蹴にして悪かったな」

 小さくボソリと溢されたその呟きに、ソフィアとモブ男子生徒はしばしその黒い頭を見守ると、顔を見合わせて笑い合う。

「ーー俺、ラックス・フィールド、17歳……っ」

「私はソフィア・レート、同い年です。弟はフィン・レート、15歳。この通りちょっと生意気ですけど素直ないい子なので、姉弟共々仲良くしてもらえると嬉しいです」

 にっこり笑うソフィアに、ラックスは少し照れたようにその赤みがかかったオレンジの短髪をかくと、少し垂れたブラウンの瞳とセクシーな黒子ほくろのある口元を緩ませた。

「こちらこそ、ソフィアちゃん、フィンくん」

「待て、ちゃん付けは許してない」

「「えっ!?」」

 ラックスの腕をガシリと掴んでその紅い瞳を半目にするフィンに、2人はギョッとして固まる。

「もう、フィンったらダメよ、めっ!!」

 なんて困り顔のソフィアに優しく諭される光景を皆が微笑ましく見守るクラスメイトの一方でーー。

「何あれ、ウッザ」

 どこからか聞こえた声に、フィンは眉をひそめて人山を振り返ったーー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

処理中です...