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②美月は昼休みになって用事があることを翔に伝え,図書室に行った。
 受験勉強のためではない,それは、太陽君と星奈ちゃんの保育園からアンケート用紙が届いていて,家庭の様子などを記入するためだ。お母さんが病気になってから二人の様子は悪くなってきている。昨夜の寝る前の太陽君のおねしょもそうだ。今までになかったことで、子どもなりに不安があるのだろう。
 美月は、5時限目が体育だったので制服から体操服の上は白の半袖、下は赤のブルマに履き替えた。ほとんどの学校ではハーフパンツなのに、ここの学校は今でもブルマで、学年ごとに、赤、青、黄色といろ違いだ。美月は図書室で保育園のアンケート用紙を書いていたので急いで着替えて体育館へ向かったが遅刻してしまい,先生に叱られてしまった。美月は一切言い訳をしない強気な一面をもっている。
 男子は外で女子は体育館で授業をする。学習指導要領にないが、クラスが馴染むようにと,「ドッジボール」だった。しかも,先生は体育教官室に行ってしまい、生徒運営で行うこととなった。
 クラスの委員長と副委員長が審判をして始まった。すると,始まってすぐに美月は集中して狙われ、ドッジボールのボールが投げつけられた。しかも,当てるのは顔より下というルールなのに,みんな顔面に投げつけられた。
「痛い!」
「ふふ~,ごめ~ん,美月さん,コントロール悪いから・・・・・」
 外野に出た美月は持ち前の運動神経で敵を当てて、すぐに内野になる。しかし、美月を狙って完全に集中攻撃だ。
「きゃぁ、いたっ!」
 美月は、ボールの当たった勢いで転んで回転し、体操服は土で汚れ、頬を押さえる。見かねた審判の委員長が言ってくれた。

「美月さんばかり狙っていないで,もっと楽しもうよ」
「委員長,これ,作戦ですよ,ねぇっ、はっはははは・・・・・・・」
 弘子達のグループに何人かが言われて仕方なく美月を狙っていることは予想がついたが,さすがに顔に何回も当たり、腫れてきたようだ。
「大丈夫、私は負けないから!」
 委員長が言っても美月が内野に入ると集中して,しかも顔ばかりなので,副委員長が美月さんに話しかけた。
「美月さん,顔が腫れてるから顔を冷やしてきて,治ったら参加しよう,ねっ」
 副委員長は美月をドッジボールゲームから助け出してくれた。
「ありがとう,じゃあ,ちょっと,顔冷やしてくるね」
 美月がコートから離れたら,背中に強くボールが当たって、また転んでしまった。美月は、後ろを見ないで駆け出しながら、人に見えないように涙を拭いた。
「ごめ~ん,美月さん,手がすべちゃって~~~・・・はっははは~~~」
「美月ってさ、体操は凄いのに、どんくさ、はっはは~」
 何人かが弘子と一緒に美月に聞こえるように馬鹿にして笑っている。
 笑いながら謝っている声を聞いて、つかみかかりたい気分の美月だったが,今は家庭,体操競技を一番大切にしたい。こんなことにかかわっている時間がもったいない。
 放課後になって職員室に呼ばれた。
 体育の時の出来事を心配して委員長が担任に相談したようだが,美月は早く体操の練習に行きたかった。夏の全国大会に出るのはお母さんの夢だから。
 職員室では担任と生徒指導担当の先生が待っていた。
「美月,おまえ,だれかにいじめられているのか」
 美月は弘子達をかばったり恐れたりしているのではなく,早く体操部の練習に行きたいのだ。
「何もありません,委員長が心配しすぎなんです,すみません,部活に行ってもいいですか」
 二人の先生方も本人の意志を尊重して部活に行くよう指示した。職員室を出ると,翔がいた。
「体育で何があったの,副委員長からちょっと聞いたんだけど・・・、顔が腫れているみたいだけど・・」
 美月は笑顔で応えた
「私、球技が得意じゃないから、ついボールにあたちゃった。何でもないわ,部活行くから,じゃあね」
 翔は、時間を大切にしたい美月の気持ちを理解している。
「うん,わかった,頑張って!」
「OK~~~」
 翔は美月にとって体操部の練習がどれだけ大切かを知っていたので止めなかった。
 体育館入り口に弘子達,数人がいて美月を睨んでいたが,美月は気にしないで体育館へ入った。今日は,練習を頑張るんだ!
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