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ソラと再会したのは、もう十年も前の事だ。
担任の影にすっぽりと隠れていたその姿を確認すると、自分まで教室内の微かにふわりとした空気に同調したような気がする。
「遠藤……ソラです」
緊張で上ずったのか、元々の声が高めなのか分からない。ソラは、窓際に座る俺の所まで辛うじて届く位の小さな声で自分の名前だけを呟くと、もうそれ以上の情報を何も明かさない事を示すように、ペコリと頭を下げた。だからその後は、代わりに担任がソラについての説明をしてくれている。
あの、ソラ──だよな?
高一の二学期頃から、ぽつぽつと編入してくる生徒はいた。そいつらは皆、一芸に秀でていたり、部活で高校を選んだような、志の高い奴らだったらしい。
特に夢なんて無かった俺にでも、早すぎる夢の挫折のせいで、彼らがこの高校に来たんだってこと位はわかっていたし、他の奴らだって、すでに夢破れた同級生を傷付けて喜ぶほど幼稚ではなかった。
編入生として入ってきた彼らは、俺らがまだ、なんなら、もしかしたらこの先一度だって体験することが無いような、そんな挫折を経験してきたんだ。その挫折の先で、しょうがなく宛がわれたようなこの場所で、それぞれが気の合う友人を見つけ、早すぎる第二の人生を謳歌している。
それは少し、救いだった。
そんなウチの高校に、ソラは高二の始めに編入してきた。
どんなによく見ても、教卓の横で紹介されているのは、間違いなくソラだった。
それに、もし違う場所ですれ違ったとしても、面影を残すどころか、あの時のままだったソラの顔を、俺が見間違うはずがない。
ソラだけが中学受験をして、俺たちが別々の中学に進むと聞いた時、俺は二人の関係が壊れるだなんて思ってもみなかった。
だから、小学校の卒業式で女子みたいにさめざめと泣くソラに向かって、「馬鹿じゃねーの?」と言って別れた。
だって入学式までの間はただの「春休み」で、次の日もその次の日も、いつもみたいに遊ぶもんだと思っていたから。
でも次の日から、ソラとは一切連絡が取れなくなった。
いつもの時間、いつもの場所に現れないソラにイライラして、最初の日は呼びにも行かなかった。
ただ、もう中学生だというのにガキのまんまだった俺は、その次の日にはもう、どうにもたまらなくなった。だから照れ隠しでイラつきを顔に貼り付けて、ソラの家を訪ねたのだった。
しかし、その時にはもう、ソラは家族もろとも引っ越してしまった後だった。
あの時、もぬけの殻になってしまったソラの家は、少し前に遊びに来た時よりも大きさを増していて、何も教えてもらえないまま置いて行かれた俺を、静かに、ただ見下していた。
その後、どんなに待っていても一つの連絡もよこさなかったソラを、俺はいつの間にか、恨み半分で忘れてやることにしていたらしい。
担任の影にすっぽりと隠れていたその姿を確認すると、自分まで教室内の微かにふわりとした空気に同調したような気がする。
「遠藤……ソラです」
緊張で上ずったのか、元々の声が高めなのか分からない。ソラは、窓際に座る俺の所まで辛うじて届く位の小さな声で自分の名前だけを呟くと、もうそれ以上の情報を何も明かさない事を示すように、ペコリと頭を下げた。だからその後は、代わりに担任がソラについての説明をしてくれている。
あの、ソラ──だよな?
高一の二学期頃から、ぽつぽつと編入してくる生徒はいた。そいつらは皆、一芸に秀でていたり、部活で高校を選んだような、志の高い奴らだったらしい。
特に夢なんて無かった俺にでも、早すぎる夢の挫折のせいで、彼らがこの高校に来たんだってこと位はわかっていたし、他の奴らだって、すでに夢破れた同級生を傷付けて喜ぶほど幼稚ではなかった。
編入生として入ってきた彼らは、俺らがまだ、なんなら、もしかしたらこの先一度だって体験することが無いような、そんな挫折を経験してきたんだ。その挫折の先で、しょうがなく宛がわれたようなこの場所で、それぞれが気の合う友人を見つけ、早すぎる第二の人生を謳歌している。
それは少し、救いだった。
そんなウチの高校に、ソラは高二の始めに編入してきた。
どんなによく見ても、教卓の横で紹介されているのは、間違いなくソラだった。
それに、もし違う場所ですれ違ったとしても、面影を残すどころか、あの時のままだったソラの顔を、俺が見間違うはずがない。
ソラだけが中学受験をして、俺たちが別々の中学に進むと聞いた時、俺は二人の関係が壊れるだなんて思ってもみなかった。
だから、小学校の卒業式で女子みたいにさめざめと泣くソラに向かって、「馬鹿じゃねーの?」と言って別れた。
だって入学式までの間はただの「春休み」で、次の日もその次の日も、いつもみたいに遊ぶもんだと思っていたから。
でも次の日から、ソラとは一切連絡が取れなくなった。
いつもの時間、いつもの場所に現れないソラにイライラして、最初の日は呼びにも行かなかった。
ただ、もう中学生だというのにガキのまんまだった俺は、その次の日にはもう、どうにもたまらなくなった。だから照れ隠しでイラつきを顔に貼り付けて、ソラの家を訪ねたのだった。
しかし、その時にはもう、ソラは家族もろとも引っ越してしまった後だった。
あの時、もぬけの殻になってしまったソラの家は、少し前に遊びに来た時よりも大きさを増していて、何も教えてもらえないまま置いて行かれた俺を、静かに、ただ見下していた。
その後、どんなに待っていても一つの連絡もよこさなかったソラを、俺はいつの間にか、恨み半分で忘れてやることにしていたらしい。
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