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5【:fall】
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しおりを挟む教室の中に夏服と長袖が混在していて、高校生活最後の夏への未練が現れているみたいだった。俺は長袖のシャツを選んだのに、まだ暑苦しくてその袖を肘の辺りまで捲りあげている。
乾いてきた風が季節を容赦なく進めようとすることには、もう反抗せずに委ねる事にしたい。でもこの日々はソワソワと落ち着かない。進学という目標に焦点が定まらないまま、そんな風に、目標を斜め下から見上げる事しか出来ないでいた。
それに近頃の俺は、繰り返した寝不足を解消できないまま、もう何度も冷ややかな朝を迎えていた。それでも教室で過ごす今は、夏を思い出させるように暑い。
朝との寒暖差に疲れ果て、何にも考えたくなくなった。だからここでも一人でいる時間が長くなっている。カイたちですらそれぞれの目指す場所に焦点を当て始め、俺らが無理やりつるむ必要性も減ってきていたし、それはまあ、丁度良かった。
ただ、俺のこの寝不足の原因は受験勉強のせいではない。残暑と言えど、幾分眠りやすくなったはずの八月の終わり。その頃から俺は、嫌な夢ばかり見ている。
*
夢の中の俺は使命感に駆られていて、何かを助けるために走っていた。
もと来た道は遠くの方から燃え始め、もう後戻りも出来なければ、凄いスピードで迫って来る炎に追いつかれてしまいそうだった。走る事はやめられない。誰を助けるためなのかもわからないまま走り続け、足が縺れてふくらはぎが痛かった。鼓動は速く、締め付けられて痛い程なのに、上手く酸素が吸えないせいで息苦しい。それでも、もっと急がねばと焦る。
何かに向けて必死で手を伸ばす、この手が届かなければ助けられないことを知っていた。数えきれない程の「何か」を救う事ができないまま、ただその事に絶望している結末も、もう何度も経験している気がする。
積み上げていたものの頂上から一粒の何かが転がり落ちて、まだ遥か先の方で地鳴りが響く。ああ、もう、だめだ。希望が一気に崩れ落ちる。強迫観念にも似た焦りを嘲笑うかのように、呆気なく、何一つも救えなかったのだと知らされる。
そんな曖昧な夢の中で、虚無感だけがハッキリと身体の中に残っていた。
足の痛みも、胸の奥にできた穴も、溢れ出した涙もそのままで目が覚める。
そんな悪夢の後味は、ソラとの時間さえも蝕み始めていた。
あの後も、俺とソラは相変わらず二人で出かけていた。ただあの日から、二人とも何処か上の空な事が多くなった気がする。カメラを抱えて集合しても、一枚の写真も撮らないまま解散する日だってあった。
そうしてる間に、二人で会う時間も少なくなり始め、勉強するだとか、風邪っぽいだとか、そんな見え透いた理由がどちらともない口から零れてしまった。そんな最も嘘らしい嘘を受け入れてしまった俺たちは、今、同じ教室の空気を吸いながら、また全く違う時間を過ごす。そして放課後も週末も、二人の距離を離したまま、虚しく残り時間を消化してゆくだけだった。
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