ユメ/うつつ

hana4

文字の大きさ
24 / 56
5【:fall】

5-1

しおりを挟む

 教室の中に夏服と長袖が混在していて、高校生活最後の夏への未練が現れているみたいだった。俺は長袖のシャツを選んだのに、まだ暑苦しくてその袖を肘の辺りまで捲りあげている。

 乾いてきた風が季節を容赦なく進めようとすることには、もう反抗せずに委ねる事にしたい。でもこの日々はソワソワと落ち着かない。進学という目標に焦点が定まらないまま、そんな風に、目標を斜め下から見上げる事しか出来ないでいた。
 それに近頃の俺は、繰り返した寝不足を解消できないまま、もう何度も冷ややかな朝を迎えていた。それでも教室で過ごす今は、夏を思い出させるように暑い。

 朝との寒暖差に疲れ果て、何にも考えたくなくなった。だからここでも一人でいる時間が長くなっている。カイたちですらそれぞれの目指す場所に焦点を当て始め、俺らが無理やりつるむ必要性も減ってきていたし、それはまあ、丁度良かった。

 ただ、俺のこの寝不足の原因は受験勉強のせいではない。残暑と言えど、幾分眠りやすくなったはずの八月の終わり。その頃から俺は、嫌な夢ばかり見ている。



 夢の中の俺は使命感に駆られていて、何かを助けるために走っていた。

 もと来た道は遠くの方から燃え始め、もう後戻りも出来なければ、凄いスピードで迫って来る炎に追いつかれてしまいそうだった。走る事はやめられない。誰を助けるためなのかもわからないまま走り続け、足が縺れてふくらはぎが痛かった。鼓動は速く、締め付けられて痛い程なのに、上手く酸素が吸えないせいで息苦しい。それでも、もっと急がねばと焦る。
 何かに向けて必死で手を伸ばす、この手が届かなければ助けられないことを知っていた。数えきれない程の「何か」を救う事ができないまま、ただその事に絶望している結末も、もう何度も経験している気がする。

 積み上げていたものの頂上から一粒の何かが転がり落ちて、まだ遥か先の方で地鳴りが響く。ああ、もう、だめだ。希望が一気に崩れ落ちる。強迫観念にも似た焦りを嘲笑うかのように、呆気なく、何一つも救えなかったのだと知らされる。

 そんな曖昧な夢の中で、虚無感だけがハッキリと身体の中に残っていた。
 足の痛みも、胸の奥にできた穴も、溢れ出した涙もそのままで目が覚める。


 そんな悪夢の後味は、ソラとの時間さえも蝕み始めていた。


 あの後も、俺とソラは相変わらず二人で出かけていた。ただあの日から、二人とも何処か上の空な事が多くなった気がする。カメラを抱えて集合しても、一枚の写真も撮らないまま解散する日だってあった。
 そうしてる間に、二人で会う時間も少なくなり始め、勉強するだとか、風邪っぽいだとか、そんな見え透いた理由がどちらともない口から零れてしまった。そんな最も嘘らしい嘘を受け入れてしまった俺たちは、今、同じ教室の空気を吸いながら、また全く違う時間を過ごす。そして放課後も週末も、二人の距離を離したまま、虚しく残り時間を消化してゆくだけだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...