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5【:fall】
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しおりを挟む諦めに似た空は雲を大勢携えて、すぐそこまで落ちて来ている。
俺が目標を見失ったわけが、そんな曇天のせいなら良かった。
あの奇跡のような光景が夢では無かった事を確かめ合えば、また何か目指すものが出来るのかもしれない。でも、眩し過ぎる日々は思い出すのも難しくて、それに触れた途端に壊れてしまう気がする。思い出してはいけないような現実から、まだ目を背けていたい。
お互いの席にすわったまま、視界に映り込んだソラを避けるように窓の外を見る。ソラと同じ世界にいるのに、こんなに遠く感じるのは初めてだった。ソラの笑顔を見なくなってから、何故か自分の小さい頃の夢を思い出す。きっとこれも、気付いてはいけない事の一つだったんだと思う。
そんな風にわかっていても、流れゆく思考を止める気力はもう、少しも残ってはいなかった。
俺は、本気で自分の夢を追いかけたことがなかった。
小さい頃は本気で正義のヒーローがいると信じていて、俺もそうなれると信じていた。
平和な日常を脅かす悪の組織からこの世界を守るヒーロー。時に自分の身を賭してまで戦うその姿に憧れて、そして俺もいつかそういう存在になれるのだと、そう信じて疑わなかった。ライバーマンごっこが流行った時に、他の誰よりも必死になっていたのも、何処かで夢らしいその夢を諦めてはいなかったせいなのかもしれない。
だからなのか?
俺は、いつもソラの前を走っていたかった。
ソラの視界の中にいたかった。
俺に憧れて欲しかった。
ソラにとってのヒーローになりたかった。
実在する悪の組織には、身を賭して戦いを挑んだところで勝てやしない。だからこの世界には、正義のヒーローなんて存在しなかった。
だから俺は、夢が叶う日が決して訪れないことを知ってしまった。それからの俺は、ソラと自分との対比の中だけで、どうにかその夢を満たそうとしていたんだ。
自分の中にそんな欲があったことに気が付きたくはなかった。
ただ「こんな時間がずっと続けばいいのに」と思いながら、笑い続けていたかった。
こんな自分の事を認められず、ソラにどんな顔で笑いかければ良いかがわからなくなる。
俺たちの距離は埋まることのないまま、無情な世界が冬になろうとしていた。
──虹雲の群れを見たせいなのか?
自分の中に浮かんだそんな思考が憎い。
本当はあの悪夢が始まった頃からそう感じていたことにも、心のどこかで気が付いてしまっていた。
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