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シェヘラザードとスネークステップ
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大学のバスケ部を辞めたことを、やっと母親に告げた。それは、俺のことを気に入る店長の口利きで得た、「世界的大企業への内定」を知らせるついでだった。
かつての俺と同じように、俺のことを「特別」だと信じて疑わない母は、俺の将来の安定を喜びながらも、その言葉の所々に「折角」だとか「勿体ない」を忍ばせていた。でも、結局のところ母親としては、「結果が出なければクビ」だとか「セレクション」や「選考」に追われながらバスケを続けている俺よりも、「正社員として就職」した俺の方が自分の希望に近かったのかもしれない。母は「バスケはお仕事に慣れたらまた再開すればいいものね」と自分に言い聞かせるように言い残して、電話を切った。
本来、部活がオフの日の気晴らし兼ちょっとした小遣い稼ぎだったはずのバイトで、どういう訳かバスケとは縁もゆかりもない店長に気に入られ、その店長から「社員として推薦してあげる」という勧誘をうけた。その渦中「そういえば、近々クラブチームができるらしいよ」だなんて、何だか出来過ぎた「おはなし」もきいた。
そして、流されるように入社試験を受けるに至り、こちらでも「折角だから」という呪いの言葉に唆され、「世界的大企業が新設したバスケチーム」のセレクションを受け、とんとん拍子に社員枠での入団が決まってしまった。
また「何でこんなことをしているんだろう……」と思いながら、うまい話に踊らされに行った俺が、ホイホイと流されてみた結果がこれだった。
だから、俺はまたバスケを始めるのだ。
「良くないってわかってる。でも、母さんにはバスケの話しをしたくないんだ……俺、だいぶ自分勝手だよね?」
「お前さんがそう思うなら、そうなんだろう。じゃあ、そろそろお別れか?」
「俺は……蛇兄さんさえ良ければ、このまま一緒に居て欲しい」
「おっと、知らない間に随分と愛されちまったな」
そうやって、蛇兄さんとの夜はそのまま増え続けていった。
蛇兄さんとは、相変わらず一緒に出かけることもなく、「銀河鉄道の夜のその後」みたいな話の続きが語られることもなかった。
進路が決まり、再びバスケを始めることも決まった所為なのか、一つの布団をわけあう様にして寝転ぶ蛇兄さんとの「別れ」が近付いてきた気がした。
ある日突然蛇兄さんと会えなくなってしまうことを想像すると、焦燥に駆られ、どうしようもなくセツナクて、だからこうして蛇兄さんを試すようなことを言ってみる。すると蛇兄さんもそれに乗っかるようにして、こうやって「別れ」を仄めかす。
俺が「おはなし」を振らなければ、蛇兄さんが「別れ」を仄めかすこともない。
でも、ある日存在ごと消えてしまいそうな蛇兄さんにかまってほしい気持ちもあって、俺は性懲りもなく、また、「別れ」を仄めかしてしまう。
こんな不毛なやり取りを、もう何度か繰り返していた。
「お前さんが一番多くのお話しを聴いたことになるな」
「そうなの?」
「ああ。でも、あんまり威張れたことじゃねえからな?他の奴には言うんじゃねえぞ」
「言うも何も、蛇兄さんの存在すら誰にも話してないから」
「ああ、それが一番だ」
かつての俺と同じように、俺のことを「特別」だと信じて疑わない母は、俺の将来の安定を喜びながらも、その言葉の所々に「折角」だとか「勿体ない」を忍ばせていた。でも、結局のところ母親としては、「結果が出なければクビ」だとか「セレクション」や「選考」に追われながらバスケを続けている俺よりも、「正社員として就職」した俺の方が自分の希望に近かったのかもしれない。母は「バスケはお仕事に慣れたらまた再開すればいいものね」と自分に言い聞かせるように言い残して、電話を切った。
本来、部活がオフの日の気晴らし兼ちょっとした小遣い稼ぎだったはずのバイトで、どういう訳かバスケとは縁もゆかりもない店長に気に入られ、その店長から「社員として推薦してあげる」という勧誘をうけた。その渦中「そういえば、近々クラブチームができるらしいよ」だなんて、何だか出来過ぎた「おはなし」もきいた。
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だから、俺はまたバスケを始めるのだ。
「良くないってわかってる。でも、母さんにはバスケの話しをしたくないんだ……俺、だいぶ自分勝手だよね?」
「お前さんがそう思うなら、そうなんだろう。じゃあ、そろそろお別れか?」
「俺は……蛇兄さんさえ良ければ、このまま一緒に居て欲しい」
「おっと、知らない間に随分と愛されちまったな」
そうやって、蛇兄さんとの夜はそのまま増え続けていった。
蛇兄さんとは、相変わらず一緒に出かけることもなく、「銀河鉄道の夜のその後」みたいな話の続きが語られることもなかった。
進路が決まり、再びバスケを始めることも決まった所為なのか、一つの布団をわけあう様にして寝転ぶ蛇兄さんとの「別れ」が近付いてきた気がした。
ある日突然蛇兄さんと会えなくなってしまうことを想像すると、焦燥に駆られ、どうしようもなくセツナクて、だからこうして蛇兄さんを試すようなことを言ってみる。すると蛇兄さんもそれに乗っかるようにして、こうやって「別れ」を仄めかす。
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でも、ある日存在ごと消えてしまいそうな蛇兄さんにかまってほしい気持ちもあって、俺は性懲りもなく、また、「別れ」を仄めかしてしまう。
こんな不毛なやり取りを、もう何度か繰り返していた。
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「そうなの?」
「ああ。でも、あんまり威張れたことじゃねえからな?他の奴には言うんじゃねえぞ」
「言うも何も、蛇兄さんの存在すら誰にも話してないから」
「ああ、それが一番だ」
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