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hana4

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case2:白金恵太様

2-10

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 途端、ピピピピッという電子音が部屋に響く。

 その音で、私も彼も同時に目を覚ました。
 なんだか目が回ったままでスッキリしない。
 彼もまだ、ぼーっとしているようだった。

「ご気分いかがです?」

「……なに?あかりさん、急によそよそしくない?」

 彼は自分でタオルを外し、のそのそと起き上がった。

「なんで……?覚えてるの?」

 思わず急いで彼の横に移動した。見た目に変化は起きていない気がするけど……
 施術前の彼の事がどうも上手く思い出せない。うーん、心なしか、洋服がシンプルになっている……?

「うん。中学の時、カレンに告られたあと、頭の中で話しかけられて……」
「そんな感じで覚えてるの……?」
「ん?あっ、俺あの後、言いつけ守って告白を断ったよ。けど、カレンも「あっそ」って、別に気にもしてない感じだった……そうか、あの時の声は“今日の”俺とあかりさんだったんだ。そうだっ!俺、なんか見た目変わった?」
「ああ。それが……良く覚えてないんだけど……もうちょっとだけ、派手目の服を着ていた気がする」
「えー!まじか……ココでの事とか、あかりさんがしてくれた話は覚えてんのに、俺、今朝この服を着て出かけた記憶しかないや……」
「ちょっと……私も初めての事が多くて、わけわかんなくなってる」
「そうなんだ……じゃあ、俺は一回で過去が変わる感じじゃないのかもな?」
「うん。そうなのかもしれない。けど……あのね、二回以上“いけた”人って、今まで施術した中ではオーナーと、お客様では一人だけしかいないの」
「美鈴おば……ねーちゃん?」
「あっ、これは絶対オーナーに言わないで!でなきゃ、最悪……私、クビ……」
「わかったわかった。んで?そのお客さんてのは?」
「大場様……あっ、そのお客様の後悔って、いつもお昼ご飯とか、デザートのチョイスとかなの……しかもそれ、ご来店の直前のことなんだよね……」
「なるほど。それじゃあその人の過去を変えても、影響があるのはこの店につくまでの……」
「ほんの数十分とか」
「だよね。でもさ、一緒に“いける”のはトクベツなんじゃない?」
「ホント……まさか、一緒に頭の中に入るなんて……あの、ぐちゃぐちゃな走馬灯も関係あるのかな?」
「そっか……じゃあ、俺については、これからもやってみるしかないんだな?」
「えっ?なんで、そう……」
「だって、俺の感じてる“後悔”は全然まだ残ってるし……でもまあ、今日のところはもう帰るよ」

 え?……ってことは、また来る気なの?なんだか急に、どっと疲れが押し寄せてきた。
 彼に言いたい事は山ほどあるのに、もうその元気は残されてない。

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