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第7章 ~エマヌエーレ国編~
―88― 彼はあまりにも強すぎた(7) 「眠りのピーター」の眠れる力編
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数秒後、地面にドッと倒れこんだのは四肢を無惨にもがれ、塗炭の苦しみの呻き声をあげるピーターであった……とはならなかった。
バッと前へと飛び出たミザリーが間一髪、殺意の風を弾き、散らしたのだから。
我が王国の王子殿下が「高貴さは義務を強制する」を体現するかのごとく、日々自らを律しているのと同様、自身で志願してアドリアナ王国直属の魔導士となった以上は「能力も義務を強制する」のだ。
これぐらいできなければ、何のためにここにいるのか分からない――!
上空の白髪頭が片眉を吊り上げたように見えた。
女風情がよくも小癪な真似を……!
それも見覚えがある女、というか以前は散々に目をかけてやった女の姿をした者が生意気にも自分の風を散らしたのだ。
”封印の額縁”より半身を乗り出すようにした奴は、スッと両手を横に広げ、それぞれの掌から更なる漆黒の風を続けざまに発した!
しかし、それらの二方向の殺意の目的地は、ミザリーでもピーターでもなかった。
恐怖に怯え続けている全く無関係な民たちをまるで虫けらのごとく殺すために発されたのは明らかであった。
――!!!!!
ミザリー、そしてアダムも咄嗟に立ち上がり、空中でそれらを防いだ。
見事な連携だ。
腹いせの殺意は宙で散らされ、黒い塵と化した。
彼女たちは知らないことだが、奴のこの行動バターンは約二百年前に山間部でフレディの友人の足をもいだ時と同じであった。
人間というのはそう成長することはないというよりも、人間の性根はそう簡単に変わらないということか。
二百年前は、誰一人として魔導士の力を持たぬうえに、血を吐き立つこともままならない状態の七人の若者が標的であったが今回は違う。
対抗できる力を持った者が地上に三人も居並んでいるのだ。
ピーターは歯を食いしばった。
奴を再び”封印の額縁”へと押し留めようとせん、と。
魔導士としての年季や生まれ持った力の差は歴然としていても、そして自身の死がすぐそこに見えていても、まだこの程度の段階であいつに屈してしまっては何のためにここにいるのか分からない――!
地面が揺れ始めた。
激しい縦や横への揺さぶりというのではなく、小刻みに振動している。
空気が熱くなってきた。
乾いた大地の乾いた緩やかな風に熱気が入り混じる。
近くで固唾を呑んで様子を見守っていた民の男たちも、これらの源泉が”あの鳥の巣のような頭をした若い男”であることをはっきりと感じていた。
あの男は只者ではない。
いや、魔導士なのだから只者でないのは当たり前だが、どれだけの眠れる力を内に秘めているのだろうか?
ひょっとしたら、あいつらならやってくれるかもしれん……!
だが……ピーターは鼻血を噴き出した。
しかも、両方の鼻の穴から。
そればかりか、ピーターは口からも血をゴバッと血を吐いた。
「ピーター!」
ミザリーとアダムが慌てて駆け寄った。
かろうじて地面に踏ん張り続けようとするピーターであるも、今にも倒れ込みというか、彼の肉体が崩壊寸前にあるのは明らかだ。
ついには両耳からも血がタラリと流れだした。
「あなた一人の肉体では到底、放出する力を補いきれない……オーバーフローの状態です! 私が今からあなたの肉体に術をかけます! 私とタウンゼントさんの体力をあなたに流し込んで、三人で……」
「おい! 姉ちゃん! 馬鹿言ってんじゃねえよ!」
近くにいた民の男の一人からの怒声が突き刺さってきた。
だが、続けられた言葉はミザリーたちの予想とは違っていた。
「単純な体力だけなら、女や爺さんよりも俺たちの方がずっとあるだろ!? その兄ちゃんの補佐は俺たちがしてやる!」
「それはいけません! あなた方を巻き込むわけには……!」
「もはや完全に巻き込まれているだろ!? 今更何言ってんだ?! そもそも、ここでどうこう言ってる場合じゃない! 今はとにかく空にいるあのクソジジイをなんとかしねえとなんねえんだろ?!」
彼に同調するかのように周りにいた男たち――まさに働き盛りといった年代の男たち――が一斉に声をあげた。
「おう! やってやろうぜ!」
「自分たちの国を自分たちで守りたい気持ちは俺たちにだってあるんだ!」
「だから、あんたらはあんたらにしかできないことをしてくれ! ここは俺たちが引き受けた!!」
※※※
神人の船にては、相変わらず”覗き見のさざ波”が展開されていた。
地上での光景を少しばかり”引きで映し出した”フランシスが、フフッとおかしそうに笑う。
「おやおや、パニックものであったはずなのに人情味がブレンドされた展開になるとは思いもしませんでしたね。まさに肺腑を衝かれるような、とでもいうような……。しかし、なんとも奇妙な光景でもあります。なんだか”ムカデ人間”と呼びたくなってきましたよ」
フランシスが言った通り、なんとも奇妙な光景が地上で広がっていた。
顔の下半分を己の血で汚したピーターは、息も絶え絶えといった状態であるも、なんとか地面に踏ん張り続け、術を続行していた。
その彼の背後に密着し、腰を支えるような体勢をとっているのは、先ほど真っ先にミザリーに声を張り上げた民の男であった。
さらにその背後にはまだ別の男と……それが何人、いや何十人と次から次へと連なっていっている。
彼らの体力が、いや生命力が先頭のピーターに向かって流れ込んでいく。
連なった生命力は、一つの塊として、そこには存在していた。
「最前線に立っているのは魔導士三人……ですが、それを後方で支えているのは何の力を持たない、ただ近くに居合わせただけの名も無き民たちであるというわけですか……さて、どうなることやら? なお、ジョージ・セバスチャン・パークス(黒髪の魔導士)を追っていったバディ(ナザーリオとノルマ)はうまくいったのでしょうかね?」
【お知らせ】
本話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作でございますが、次回更新予定の2025年6月13日(金)より「毎週金曜日 20:00更新」にて進めていく予定です。
ここのところ更新ペースがかなり落ちていたのですが、いつまでもキャラクターたちを宙ぶらりんの状態にしておくわけにはいかないと思いましたため、更新日時という自分との約束をしっかりと守り、完結を目指して書き進めていきます。
引き続き応援いただけましたら、とってもうれしいです。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。
バッと前へと飛び出たミザリーが間一髪、殺意の風を弾き、散らしたのだから。
我が王国の王子殿下が「高貴さは義務を強制する」を体現するかのごとく、日々自らを律しているのと同様、自身で志願してアドリアナ王国直属の魔導士となった以上は「能力も義務を強制する」のだ。
これぐらいできなければ、何のためにここにいるのか分からない――!
上空の白髪頭が片眉を吊り上げたように見えた。
女風情がよくも小癪な真似を……!
それも見覚えがある女、というか以前は散々に目をかけてやった女の姿をした者が生意気にも自分の風を散らしたのだ。
”封印の額縁”より半身を乗り出すようにした奴は、スッと両手を横に広げ、それぞれの掌から更なる漆黒の風を続けざまに発した!
しかし、それらの二方向の殺意の目的地は、ミザリーでもピーターでもなかった。
恐怖に怯え続けている全く無関係な民たちをまるで虫けらのごとく殺すために発されたのは明らかであった。
――!!!!!
ミザリー、そしてアダムも咄嗟に立ち上がり、空中でそれらを防いだ。
見事な連携だ。
腹いせの殺意は宙で散らされ、黒い塵と化した。
彼女たちは知らないことだが、奴のこの行動バターンは約二百年前に山間部でフレディの友人の足をもいだ時と同じであった。
人間というのはそう成長することはないというよりも、人間の性根はそう簡単に変わらないということか。
二百年前は、誰一人として魔導士の力を持たぬうえに、血を吐き立つこともままならない状態の七人の若者が標的であったが今回は違う。
対抗できる力を持った者が地上に三人も居並んでいるのだ。
ピーターは歯を食いしばった。
奴を再び”封印の額縁”へと押し留めようとせん、と。
魔導士としての年季や生まれ持った力の差は歴然としていても、そして自身の死がすぐそこに見えていても、まだこの程度の段階であいつに屈してしまっては何のためにここにいるのか分からない――!
地面が揺れ始めた。
激しい縦や横への揺さぶりというのではなく、小刻みに振動している。
空気が熱くなってきた。
乾いた大地の乾いた緩やかな風に熱気が入り混じる。
近くで固唾を呑んで様子を見守っていた民の男たちも、これらの源泉が”あの鳥の巣のような頭をした若い男”であることをはっきりと感じていた。
あの男は只者ではない。
いや、魔導士なのだから只者でないのは当たり前だが、どれだけの眠れる力を内に秘めているのだろうか?
ひょっとしたら、あいつらならやってくれるかもしれん……!
だが……ピーターは鼻血を噴き出した。
しかも、両方の鼻の穴から。
そればかりか、ピーターは口からも血をゴバッと血を吐いた。
「ピーター!」
ミザリーとアダムが慌てて駆け寄った。
かろうじて地面に踏ん張り続けようとするピーターであるも、今にも倒れ込みというか、彼の肉体が崩壊寸前にあるのは明らかだ。
ついには両耳からも血がタラリと流れだした。
「あなた一人の肉体では到底、放出する力を補いきれない……オーバーフローの状態です! 私が今からあなたの肉体に術をかけます! 私とタウンゼントさんの体力をあなたに流し込んで、三人で……」
「おい! 姉ちゃん! 馬鹿言ってんじゃねえよ!」
近くにいた民の男の一人からの怒声が突き刺さってきた。
だが、続けられた言葉はミザリーたちの予想とは違っていた。
「単純な体力だけなら、女や爺さんよりも俺たちの方がずっとあるだろ!? その兄ちゃんの補佐は俺たちがしてやる!」
「それはいけません! あなた方を巻き込むわけには……!」
「もはや完全に巻き込まれているだろ!? 今更何言ってんだ?! そもそも、ここでどうこう言ってる場合じゃない! 今はとにかく空にいるあのクソジジイをなんとかしねえとなんねえんだろ?!」
彼に同調するかのように周りにいた男たち――まさに働き盛りといった年代の男たち――が一斉に声をあげた。
「おう! やってやろうぜ!」
「自分たちの国を自分たちで守りたい気持ちは俺たちにだってあるんだ!」
「だから、あんたらはあんたらにしかできないことをしてくれ! ここは俺たちが引き受けた!!」
※※※
神人の船にては、相変わらず”覗き見のさざ波”が展開されていた。
地上での光景を少しばかり”引きで映し出した”フランシスが、フフッとおかしそうに笑う。
「おやおや、パニックものであったはずなのに人情味がブレンドされた展開になるとは思いもしませんでしたね。まさに肺腑を衝かれるような、とでもいうような……。しかし、なんとも奇妙な光景でもあります。なんだか”ムカデ人間”と呼びたくなってきましたよ」
フランシスが言った通り、なんとも奇妙な光景が地上で広がっていた。
顔の下半分を己の血で汚したピーターは、息も絶え絶えといった状態であるも、なんとか地面に踏ん張り続け、術を続行していた。
その彼の背後に密着し、腰を支えるような体勢をとっているのは、先ほど真っ先にミザリーに声を張り上げた民の男であった。
さらにその背後にはまだ別の男と……それが何人、いや何十人と次から次へと連なっていっている。
彼らの体力が、いや生命力が先頭のピーターに向かって流れ込んでいく。
連なった生命力は、一つの塊として、そこには存在していた。
「最前線に立っているのは魔導士三人……ですが、それを後方で支えているのは何の力を持たない、ただ近くに居合わせただけの名も無き民たちであるというわけですか……さて、どうなることやら? なお、ジョージ・セバスチャン・パークス(黒髪の魔導士)を追っていったバディ(ナザーリオとノルマ)はうまくいったのでしょうかね?」
【お知らせ】
本話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作でございますが、次回更新予定の2025年6月13日(金)より「毎週金曜日 20:00更新」にて進めていく予定です。
ここのところ更新ペースがかなり落ちていたのですが、いつまでもキャラクターたちを宙ぶらりんの状態にしておくわけにはいかないと思いましたため、更新日時という自分との約束をしっかりと守り、完結を目指して書き進めていきます。
引き続き応援いただけましたら、とってもうれしいです。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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