上 下
1 / 30
時間を節約したい方へ

「続・ここは安全地帯」短縮版

しおりを挟む
クリックいただきまして、ありがとうございます。

以下は、「ここは安全地帯」の続編(一部過去編)の「続・ここは安全地帯」の短縮版となります。
本作のあらすじ、そしてネタバレを凝縮いたしました。
※【 】内の数字は、内容に該当する話数ではなく、あらすじを説明するためにつけた番号です。

本作の主人公 八窪由真(やくぼゆま)と前作の主人公 我妻佐保(わがつまさほ)の共通点といえば、1)容姿はそれなりに可憐or美人 2)やや複雑ともいえる家庭環境 3)けれども、その家庭はすこぶる裕福 といった具合です。

前作よりもさらに登場人物が多いため、主人公含む超主要人物以外は、外見的特徴や職業等を強調した一語で表しております。
(おばちゃん、地味顔、ぽっちゃり、ひょっとこなど)
不快に思う方もいるかもしれませんが、ご了承ください。


【1】
主人公の八窪由真(やくぼ・ゆま)は、24才。
6年前の夏「Y市連続殺人事件」で、異母姉である八窪真理恵(やくぼ・まりえ)(享年26才)を、化け物である「殺戮者」に殺された過去を持つ女性であり、彼女自身もその事件の生き残りであった。

※Y市連続殺人事件が発生した運命の夜、事件発生現場となったペンションには13人の人間がいたが、10人が殺され、まだ18才だった由真含む3人が助かった。

※元放置子であり、母のあたたかな愛を知らない由真にとっては、8才年上の真理恵が母親代わりであった。異母姉妹と言っても、憎しみいがみ合うような関係ではなく、彼女たちの中は非常に良かった。


【2】
現在は、親類が経営しているY市のレストランの店長の職についている由真。
レストランには、元同級生の近衛仁郎(このえ・じろう)もサブシェフとして勤務しており、他の者(メインシェフのおじさん、温和顔社員♂、ぽっちゃりJD)たちも真面目であり、職場内の人間関係はそう悪くない。

だが、由真は時々レストランの客として、ナイスバディ嫁を連れてやってくる作家の宵川斗紀夫に何か底知れぬものを感じていた。直接、斗紀夫に何かをされたわけではないが、どうも好きになれないでいた。

※前作では独身であった斗紀夫は、本作では結婚している。
※由真の第六感が、斗紀夫を信用するなと告げているのだ。ネグレクトされて育ち、普通の子供よりも厳しい子供時代を過ごした由真の動物的勘は見事なまでに当たっている。


そして、斗紀夫も斗紀夫で、6年前の事件の日(殺された真理恵たちの命日)に、由真を主人公とした舞台計画を練っている模様。しかも、今回の舞台計画には、他の協力者もいるらしい。


【3】
8月。
もうすぐ真理恵と、6年前の事件の被害者たちの命日がやってくる。
由真は正妻の娘ではなく、身持ちの悪い愛人の娘である自分が助かったことをとてもすまなく思っている。
そんななか、由真の従弟である男子中学生が、夏休みの職業体験として由真が店長を務めるレストランで体験学習をすることに。

※この由真従弟、中学生ではあるが、小学生寄りの成長具合で幼い感じの非常にカワイイ男の子である。この可愛さによって、彼は物語後半でひどい目にも遭うこととなる。

いつも通り、勤務していた由真であったが、突如やってきた”2人の客”に由真は驚き、トレイの上の食器を全て落とし、粉々に割ってしまう。


【4】
突如、やってきたその”2人の客”。
その”2人の客”は、6年前の事件で自分とともに助かった、生存者の2人であったのだ。

※この時点での2人の客の性別、年齢、容姿は不明。

由真の心は、忘れることなどできない6年前に生々しく引き戻され……

次の話より、回想編「第2章 ~8月の死者たち~」に。



【5】
6年前の8月。


大学の夏休みでY市に帰省した由真は、父の経営するペンションを手伝うために車を走らせていた。
後ほど姉・真理恵もペンションにて合流する予定であった。

真理恵はちょうど離婚したばかりであった。
真理恵の元夫・吹石隆平は、自分の浮気が原因でありながら、離婚後も真理恵に復縁を迫りまくり、由真はちょっと不穏な空気を感じている。



【6】
ペンションには、ペンションの従業員(チョイ悪親父・おばちゃん・不思議系おじさん)、そして宿泊客(求職中男、美熟女、大学生4人のグループ、モテ男子・犬好き男子・地味顔JD・派手顔JD)がいた。

※地味顔JDも派手顔JDも、如実に地味だったり派手な顔をしているわけではなく、どちらの容姿もまあそれなりにいけてはいる。2人の区別をつけやすくするために、この表現とした。なお、モテ男子の”表向き”の彼女は、地味顔JDではあるも、裏では派手顔JDと手を繋ぎ合っている。んでもって、地味顔JDは、彼らの裏切りに気づいているも、必死で知らないふりをしているのだ。

ペンションにて、真理恵の到着を待っていた由真。
当の真理恵は、父親の会社の従業員であり、なお父親のお気に入りでもあるイケメン社員に車で送られてきて、彼とともにこのペンションに姿を見せた。

由真は父の策略(離婚後まもない娘をお気に入りのイケメン社員とくっつけようとしている?)を感じ取る。



【7】
事件当日。
一組のリア充夫婦(30代)が車を走らせ、悲劇の始まりの場所となるペンションへと向かっていた。

そのリア充夫婦の車を物凄い勢いで追い越し、ペンションへと向かう1人の男がいた。
その男は、は真理恵の元夫・隆平であった。

なんというタイミングか、この運命の日、イケメン社員も有休をとり由真や真理恵とともにペンションの手伝いをするためにやってきた。
由真はイケメン社員の狙いは、真理恵であるに違いないと身構える。

そして、さらなる最悪のタイミングで、目を血走らせた隆平がペンションへと足を踏み入れ、イケメン社員と真理恵を巡っての火花を散らす一幕もあった。

が、ひとまず隆平は、一人きりの自宅に帰ることに。
そして、犬好き男子も、実家からの愛犬の突然の訃報が届いたため、泣きながら帰った。

こうして、事件の夜にペンションに”残ることとなったのは”、
由真、真理恵、イケメン社員、従業員のチョイ悪親父、おばちゃん、不思議系おじさん、そして泊り客の地味顔JD、派手顔女子JD、モテ男子、求職中男、美熟女、先ほど不運にもチェックインを終えたばかりのリア充夫婦の13名となった。



【8】
場面は変わり――
日が沈みかけているなか、隆平はイラつきながら”ペンションに向かって”車を走らせていた。

隆平は、あののイケメン社員が真理恵にモーションをかけるかもしれないと、やっぱりペンションに戻ることにしたのだ。
だが、いきなり車がパンクする。
パンクしたのではなく、パンクさせられたことを知らない隆平は、車を下りた。

その隆平の前に……!

夕陽をバックに、人外の姿をした化物「殺戮者」が現れた。
この日の夜にペンション周辺にて繰り広げられる、陰惨で残酷な殺人事件の加害者が突如、姿を現したのだ!

慌てて逃げようとした隆平であったも、「殺戮者」に左腕を素手で切断され、崖下に蹴り落とされる。
ついに、殺戮の夜の幕が切って下ろされたのだ。



【9】
日は完全に暮れた。
由真たちは、現状にそれぞれ問題は抱えていたものの、まさか殺意を持った「殺戮者」が自分たちを殺しにこのペンションにやってくるとは思いもしなかった。
外で由真たちの様子をうかがっている「殺戮者」の存在に最初に気づいたのは、従業員の不思議系おじさんであった。

不思議系おじさんは、無謀にも懐中電灯だけを手に外へと出た。
この不思議系おじさん、年は40代なのだが、どうも立ち振る舞いが幼いというか少々とらえどころのない人物でもあった。



【10】
外に行ったまま、なかなか帰ってこない不思議系おじさんを、同じく従業員のチョイ悪親父が探しに行く。


チョイ悪親父は、舌を千切られて呻き声をあげている不思議系おじさんを発見する。
すぐさま、助けを呼ぼうと駆け出したチョイ悪親父であったが、後ろから「殺戮者」にその首を掴まれ、首と胴体を人間離れした力で切断され死亡。



【11】
外に行った2人(不思議系おじさんとチョイ悪親父)がなかなか戻ってこないことを不審に思う由真たち。

その時、外に――

「殺戮者」が立っていることに一番最初に気づいた、地味顔JDが絶叫した。

以下、殺戮者の描写抜粋。本当に人間とは思えない姿である。


 優に2メートルは超えている細長い棒のような体躯。それは美しさを微塵も感じさせない気味の悪い青色の皮膚で包まれていた。まるで藁のような艶のないバサバサの髪の毛。萎びて垂れ下がった大きな乳房の両の乳首は、まるで耳にまで届くほど裂けた唇と同じく、生臭さを感じさせる赤っぽい色であった。そして、下腹部の陰毛は髪の毛とは全く違う漆黒の存在感を青の皮膚の上で示していた――

(第2章 ~8月の死者たち~ ―5―)より

というように、まさに人間ではない。化物だ。

外にいる『殺戮者』は、悲鳴が協奏曲を奏でるペンション内の状況に、さらに火に油を注ぎ入れるかのごとく、自身の手に持っていた肌色の棒を食堂に向かって投げた。


「殺戮者」が投げた肌色の棒、それはお分かりかと思うが、切断された隆平の左腕であった。
ちょうど白いテーブルクロスの上に、宙を掴むような形で結婚指輪が輝く逞しい左腕が着地し、さらなる絶叫の協奏曲がペンション内では奏でられた。



【12】
だが、「殺戮者」はすぐさま、ペンション内に襲い掛かってくるわけではなく、一旦、姿を黒闇に溶け込ませるがごとく姿を消した。


今のうちに車で町まで逃げよう、とリア充夫婦を先頭とし、何人かは外へと出て、車まで走る。
その途中、従業員のおばちゃんは、事切れたチョイ悪親父の死体を発見し、気がふれてしまう。
※実はこのおばちゃんとチョイ悪親父、懇ろな仲であった。互いにいい年なのに、結構頻繁に乳繰りあってもいた。

地味顔JDは、彼氏のモテ男子と親友であるはずの派手顔JDに、おいて逃げられてしまった。
ショックを受けた地味顔JDは、「生きる」ことを諦めかけたが、求職中男に「逃げよう」と肩を叩かれる。
彼女たちは、まだ息があった不思議系おじちゃんを両肩に担いで車に乗せた。



【13】
由真、真理恵、イケメン社員は、ペンションの中にいた。

”隆平が殺された”と酷いショックを受けている真理恵。
由真とイケメン社員は、真理恵を連れて、ともに逃げようと顔を見合わせ頷きあった。

お客さん”全員”先に逃げたと思った由真であったが、まだ美熟女がこの殺戮の始まりも知らずに自室で休んでいることに気づき――!!



【14】
町へと向かう道路を2台の車が走る。

1台目と2台目の車には、かなりの車間距離があいている。

1台目の車にはリア充夫婦、派手顔JD、モテ男子の4人(運転者はリア充夫婦の夫)、
2台目の車には、求職中男、地味顔JD、不思議系おじちゃんの3人(運転者は求職中男)。


必死で車を走らせる彼らであったが、1台目のバッグミラーに「殺戮者」の姿が映った。
猛スピードで車を追い上げた「殺戮者」は、1台目の車を襲撃した!

リア充夫婦、派手顔JD、モテ男子の全員死亡。
モテ男子は、頬を「殺戮者」に貫かれ、派手顔JDは「殺戮者」から逃げようと走行中の車から飛び出し、頭部よりガードレールに激突した。
リア充夫婦は、直接は殺されていないが、運転を誤って崖下へと転落し、車ごと大炎上した。

そして、向こうからやってくる2台目の車に向かって、「殺戮者」は身構えていた。



【15】
なかなか目を覚まさなかった美熟女を起こし、玄関へと向かう由真、真理恵、イケメン社員。
突如、玄関が勢いよく開かれ、一同、後ずさった。
そこにいたのは、「殺戮者」ではなく、愛しいチョイ悪親父の切断された首を持ったおばちゃんであった。


完全に正気を失っているおばちゃんに、由真たちは後ずさる。


それに間髪入れず、玄関上の小さな屋根より、「殺戮者」の腕がにゅっと伸びてきて――
おばちゃんもあえなく、縊り殺された。



【16】
車が置いてある外ではなく、ペンション内に逆戻りするがごとく、逃げる由真たち。
廊下のつきあたりまでおいつめられ、消火器で「殺戮者」を攻撃する由真。
「殺戮者」は、ただの消火器の噴射に悲鳴をあげながら逃げていった……

あっけなさすぎるその退却に、不思議に思ったが、助かったと胸を撫で下ろす由真たち4人。
だが再び……「殺戮者」はペンション内に侵入してきたのだ!

運が悪いことに一番近くにいた美熟女が「殺戮者」にとらわれ、胸を割れた窓ガラスに叩きつけられて、殺された。
「殺戮者」は雄たけびような、変な声を上げ、再び外へと姿を消した。



【17】
由真、真理恵、イケメン社員は、なんとか車まで辿り着いた。
町へ向かって必死で車を走らせるも、頼りの綱である車がパンクさせられ……ついに夜の道路を走って逃げることに。

必死で駆ける由真たち3人であったが、、背後よりまるで弓矢のごとく「殺戮者」が投げた木の枝に首を貫かれイケメン社員が死亡。
真理恵も木の枝で肩を貫かれ、重症を負う。



ちょうど、その同時刻、由真と真理恵の父親、そして、もうすでにこの世にはいないイケメン社員をライバル視していた”ひょっとこ社員(男性)”がペンションに向かって車を走らせていた。
※顔がひょっとこに似ているため、ひょっとこ社員としました。



【18】
ついに追い詰められ、死を――それも殺されるという無惨な死を覚悟する由真と真理恵。
途中、イケメン社員のものであった携帯が鳴った。
震える手で携帯に出た真理恵は、父親に「大好きよ」と最期の言葉を告げる。

携帯が「殺戮者」に無惨に踏みつぶされる。


「殺戮者」は真理恵の下腹部を貫き、殺害。
目の前で最愛の姉を殺され、狂ったように絶叫する由真。


その由真の首を片手で掴みあげた「殺戮者」は、由真を崖下に落として、殺そうと――



【19】
斜面を転がり落ちていく由真であったが、なんとか残っていた力を振り絞り、で斜面に生えていた枝をつかんだ。
苦痛に顔を歪めながらも木の枝を掴みつづける由真は、自分の頭上より車の音、それと何やら「殺戮者」と”普通に”話をしている男の声、そしてカメラのフラッシュの光を感じた。

※この時、駆け付けた男は、言うまでもなく宵川斗紀夫である。
彼は「殺戮者」の派手すぎる今夜の犯罪を嗜め、なお自分好みの美しい女性・真理恵の命を断ち切られたばかりの姿を写真に収めていたのだ。



……ついに、由真の体を支えていた木の枝は折れ、由真の肉体は崖下へと吸い込まれていった。



【20】
由真たちの父親とひょっとこ社員が、「一体、何が起こっているんだ?!」とペンションへと向かって車を飛ばしていた。
その車に「殺戮者」の手によって、イケメン社員の無惨な死体がぶつけられた。

外に出て、愛娘・真理恵の無惨な死体を見た父親は、その場で脳出血を起こし、昏倒した。

ひょっとこ社員は、闇の中から自分を見ている「殺戮者」の視線をしっかりと感じるも、「殺戮者」は姿を消し、そのうえ、パトカーまで駆け付けたため命拾いし、今宵の
死者にならずにすんだ。



【21】
翌日の夕方、山の斜面の中腹に意識を失ったままひっかかっていた由真は、救助隊によって発見された。

そして、2台目の車に乗っていた求職中男、地味顔JDの2人も助かっていた。
重傷を負っていた不思議系おじさんは、医師たちの懸命の治療もむなしく、他の死者たちと同日に息を引き取った。

脳出血を起こした由真たちの父親は、一命をとりとめたが、言語障害と運動障害が残った。
由真が目を覚ました時、既に親族たちによって真理恵の葬式がとり行われており、真理恵は骨となって天へと昇ってしまっていた。




【22】
20×6年8月4日、Y市のペンション周辺にて発生したこの一連の殺戮は、全国ネットで報道された。
多くのマスコミがやや都会よりの田舎であるのどかなY市へと押し寄せてきた。
通称「Y市連続殺人事件」と呼ばれるようになった本事件は、事件から6年経過した20▲2年8月現在も、未解決のままである。
また、事件の残忍さや被害者たち、また犯人(殺戮者)について、事件に無関係な人物たちの様々な議論や憶測がネットでも今もなお展開され続けていた。




【23】
そして、再び時間は現在に――

事件から6年後、由真を訪ねてきたのは、あの求職中男、地味顔JDの2人であった。
結婚し、これからの長過ぎる人生をともに歩むこととした彼らは、真理恵の霊前に手を合わせた。


レストランで、事件の生存者たちとともに自宅へと向かった由真のことを考えている仁郎は、最近この辺りでよく見る”ホームレス”のことを気にしていた。
そのホームレスの瞳は――肉食動物を思わせるその男の瞳は、由真を獲物のように狙っている――仁郎にはそう見えたのだから。



【24】
ついに6年後の8月4日がやってきた。
由真にとっては、真理恵たちの命日であるが、変態・斗紀夫にとっては由真をヒロインとした舞台の開演日でもある。

真理恵の霊前にいつものように手を合わせた由真は、由真従弟とともにレストランへと向かう。
※親戚が集まる7回忌は、この日ではなく事前に済ませていた。

この日、由真は朝から何だか嫌な予感、生々しい恐怖を感じずにはいれなかった。



【25】
この日のレストランは大盛況であり、休憩時間もとれないほどであった。
そのうえ、従業員の1人である温和顔社員♂が体調不良のため、早退したいと申し出た。

それから、しばらくして、由真はまだ中学生の従弟の帰りも遅くなるといけないから、帰りを促した。

少し、客足が遠のいた時、宵川斗紀夫夫妻がやってきた。
由真は、突如、斗紀夫のナイスバディ嫁に、不貞の疑いをかけられ、一目もはばからず、泥棒猫呼ばわりされる。

※このナイスバディ嫁は、斗紀夫とはある種、異なる狂気の持ち主であり、地雷女である。
斗紀夫は異常な性癖が相変わらずなだけで、他でも不貞行為など自分の有責となるようなことをしない理性は持っている。


仁郎が由真を助けようと駆け付ける。
ナイスバディ嫁、逃走。斗紀夫は由真に謝罪し、嫁を追いかけていった。


【26】
夜、レストランの外に出る由真。
由真の手には、コンビニ袋(中には弁当や”男性用の”デオドラントシートが入っている)が握られていた。

一応、本作のヒーローポジションにいる仁郎が由真に声をかける。
仁郎は、あの怪しすぎるホームレスに、由真が食料やエチケット用品を差し入れしていると検討づけた。
意外に勘の鋭いところもある仁郎に由真が驚く。

由真が黙り込んだ時、レストランの裏側から呻き声が聞こえてきた。
呻き声の正体は、明らかに性的暴行を受けた後の由真従弟であった。



【27】
レストランのスタッフルーム内に由真従弟を保護し、病院に連れていこうとするレストラン従業員一同。
仁郎含む、他の従業員たちは、あの怪しいホームレスが従弟を襲ったに違いないと声をそろえて言う。

否定する由真。
そして、当のホームレスが由真たちのいるスタッフルームの窓を叩いた。

なぜなら、あの彼は――



【28】
ホームレスは、真理恵の元夫の隆平だったのだ。

6年前のあの日、ペンションにいた13名の中には含まれていない被害者であり、生存者。
一番最初に殺戮者に襲われた人物でもあり、左腕を切断されたあげく、崖下に蹴落とされ、あうやく死ぬところであった彼も由真と同じく、一命をとりとめていた。 


34才となった吹石隆平は、今も亡き元妻・八窪真理恵を愛し続けていた。
仕事も家も全て捨てて、愛する真理恵の仇をとるためだけに、息を潜め『殺戮者』がこの地に再び現れるのを待ち、主にY市のこの山間部を中心に練り歩き続けていたのだ。


その隆平の口から驚くべきことが告げられる。
由真の従弟を襲ったのは、恐らくこのレストランの従業員の1人である温和顔社員♂だろうと――

ホームレス同然の生活をしていた隆平は、その温和顔社員♂が小学生男子に異常な興味を示して、お菓子やゲームをちらつかせて声をかけていたのを何度も見ていた。 



【29】
温和顔社員♂のいつもの姿からは、とても想像できないことに混乱する由真たち。

何の前触れもなく、停電。

外で誰かがレストラン全体のブレーカーを落としたのだ。

外のブレーカーのところに駆け付ける由真、仁郎、隆平。
そして、彼らの前に、あの「殺戮者」が6年前と全く同じ姿で現れた。

真理恵の仇を取るために、「殺戮者」へと飛びかかっていく由真と隆平。
だが、6年前にあれだけ酷い惨殺事件を起こしたにも関わらず、「殺戮者」は”怯えて”逃げていった。

由真と隆平は、真理恵の仇のために「殺戮者」を追い、仁郎は由真従弟を病院まで連れていくことに――

その時――
レストランのメインシェフであり、鍛え抜かれた肉体をしているも、それほど存在感はなかった松前不二男がやってきた。

※この時より、おじさん→松前不二男に表現を変えます。今宵の斗紀夫の「協力者」は、松前不二男であった。

不二男は、仁郎と隆平を軽くボコり(隠し持っていた催涙スプレーとスタンガンで)、由真をしばいて気絶させた。




【30】
不二男は、由真を自分の車で誘拐する。

彼の車が向かう先は、6年前の事件現場――八窪真理恵が最期を迎えた場所であった。

そして、自身のナイスバディ嫁が起こした騒ぎによって、今宵の舞台計画が狂ったことに超絶イラついている斗紀夫も車を走らせていた。
車を走らせている斗紀夫は気づく、今宵の「協力者」である松前不二男が連れていったはずの毛布にくるまれ由真が道路に横たわっていることに。


斗紀夫はもちろん、由真を膝にのせて車を走らせた。

目を覚ました由真は、斗紀夫にセクハラ行為を受けつつ、6年前の事件について「殺戮者」についてのことを聞かされる。
この時、全ては聞かされない。
ただ、あの殺戮者は元々は普通の人間の女であったということ。
X市でストーカー殺人を起こした女子高生・A子と同じく、夢で何かを受け取り、彼女は抱えていた様々な事情が積み重なり、あの事件を起こしてしまったんだと――


そして、斗紀夫は――
由真にその殺戮者に自らの手で制裁する機会を与えたいと。
由真に殺人を犯させ、被害者であるとともに加害者となった彼女が苦しむところを見たいという屈折した欲望をダダ漏れにし始めた。



【31】
連れ去れた由真を車で追う仁郎と隆平。
不二男にボコられ、体は本調子ではないものの、彼らは由真を助けに行こうとしていた。


由真と斗紀夫に追いつき、真理恵の死亡現場に辿り着いた仁郎と隆平。

物語終盤になって、急に存在感を示し出した松前不二男。
彼とともに、人間の女に戻った「殺戮者」がいた。



【32】
殺戮者の回想。いや、言い訳か?

この回想部分は3話ぐらい尺をとっており、長いのでかいつまんで説明する。

・真理恵と殺戮者は高校の同級生であったも、そんなに親しいわけではない
・殺戮者は、自分が、容姿、家庭、就職、恋愛、その他諸々に恵まれなかったことを呪いながら、生きていた。
・そんな時、別の同級生より真理恵の近況を聞く。
容姿、裕福な家庭、恋愛など、全てに恵まれていたような真理恵に、その憎しみのルーレットが定められたこと。

その憎しみのルーレットを回すように、そそのかしたのは斗紀夫ではあるが……


気味の悪いモンスターが血肉を求めて繰り広げられたような無差別殺戮。
だが、その「殺戮者」は、醜い嫉妬や羨望をさらけ出し、化け物に変身した人間の女。

日本全土を騒がせたオカルトで猟奇的な連続殺人事件の裏側は、こんなものであった。
真理恵にも罪はなく、ただあの日、真理恵と同じペンションの下にいた人たちも、単に巻き添えを喰っただけであった。


「殺戮者」は由真の手で、この”呪われた人生”に終止符を打ちたいと――



【33】
だが、由真は生身の人間を殺すことはできなかった。
それよりも、この状況をニヤニヤしながら眺めている宵川斗紀夫に不気味さしか感じない。

仁郎、隆平とともに、一刻も早くこの場から離れようとした由真たちの前に――


半魚人のごとき、松前不二男(しかも全裸)が現れる。

以下は、松前不二男のモンスターぶりの抜粋である。


「背丈は人間の時の松前不二男とそう変わりはない。だが、わずかに残っていたはずの頭髪は今は完全にない。衣服も何も身に着けていない。深い緑色のゴムのような触感を思わせる皮膚の隅々に、赤い血管の筋が生々しく浮き出て、鍛え上げられた筋肉をさらに示していた。股間には縮れた陰毛につつまれた男の証。隆平へと飛びかからんと地を蹴りながら、こっちへと迫りくる彼のその顔には、由真が知っている松前不二男の面影は微塵もなかった。気味が悪い緑色の顔の皮膚。ナイフで切り抜かれたような形のような切れ込みの中に漆黒の瞳があった。その瞳に白目の部分はない。深淵を思わせるような漆黒。そして、鼻はなかった。呼吸のためにつけられたような小さな2つの穴があるべき鼻の箇所に存在していた。そして、内臓の色のような色をしている分厚くはれ上がった唇が、緑の皮膚のなか、さらにその醜悪な存在感を際立たせていた。」

(最終章 ~ここは安全地帯~ -7- より抜粋)



【34】
仁郎と隆平は、またしてもナイフやら拳の殴打やらで松前不二男にボコられる。
だが、またしても彼ら2人は松前不二男に殺されはしない。

不二男は隆平に「俺はお前たち側だ」という意味深な言葉まで告げた。
覚醒した彼はどうみても、向こう側(宵川斗紀夫側)にいるのに。
そして、由真には「少し、役にたってもらう」と言い、怯えて震えているだけの「殺戮者」の前に連れてきた。



【35】
あらかじめ地面に浸み込ませておいたガソリンで、即席の炎のリング場を作った不二男。
炎のリング場の中にいるのは、由真と「殺戮者」の2人。

6年前の悪夢がこの地で再開された。
その悪夢は八窪真理恵の最期の場所という、由真と『舌無しコウモリ』の双方にとって因縁の深い場所で、今、クライマックスを迎えようとしていた。



【36】
炎の中にいる由真を助けに行こうとした、仁郎の動きを不二男は封じた。

半魚人のような化物に変身したあとも、不二男は正気を保ち続けており、仁郎に恋愛アドバイスまでする余裕を見せていた。
仁郎に「ハゲ」と言われた時を青筋を立てた不二男であったが、仁郎の人懐こく飾らない人柄は、ラスボス・松前不二男にすら気に入られていた。



そして、当の殺戮者は、由真の手で殺されたいと言いつつも、実際に「死」が迫ると人間としてではなく、再び「殺戮者」生きることを選び、変身した――



【37】
由真と「殺戮者」の戦い。
不二男がそのリング場に隠していたナイフというアイテムに気づき、「殺戮者」に反撃することができる武器を手にした由真は殺戮者に向かって身構えた。
恐怖もあった。
でも、それ以上に愛人の娘であるという本来なら憎んでもおかしくない存在であった自分を優しく受け入れてくれた姉を、この『殺戮者』に無惨に殺された怒りの方が由真のなかで熱く燃え上がっていた。





由真はなかなかに検討するも、「殺戮者」との体格差はやはり大きく、由真は殺戮者にとらえられてしまった。
「殺戮者」は由真を崖下に落とすのではなく、焼き殺そうと……



【38】
その光景を――自分の目の間で自分の舞台の”主演女優”が殺され、またしても事件に被害者となる光景を――喜々として眺めている斗紀夫。

隆平は、由真を助けに行こうと、炎のリングの中に飛び込もうとする。

その隆平を斗紀夫は「いいところだから、邪魔するな」と制止する。

隆平、斗紀夫に右ストレートと腹蹴り。

炎の中に今にも由真を落とそうとした「殺戮者」に体当たりを食らわせた隆平は、自らも殺戮者とともに燃えさかる炎の中へと飛び込んだ。

隆平は、愛する妻・真理恵の仇を取った後、自らも死ぬつもりであったのだ。
最愛の者を奪った者への憎しみ。それを昇華させるのは、彼は生きている限りできなかったのだろう。




【39】
松前不二男が仁郎に「そろそろ、お前の出番だ」と彼を自由にした。

即座に駆けた仁郎は、炎の中より、由真を助け出した。



……もうすでに動かなくなっている隆平と「殺戮者」の焼けこげた遺体を見つめる由真たち。


人間形態に戻った松前不二男が、宵川斗紀夫(殴って気絶させた)を車に乗せ、豪快にアクセルをふかせ、どっかに走り去った。

その直後――夫・斗紀夫の浮気を疑っていたナイスバディ妻が斗紀夫の不貞の証拠を押さえようと車のトランクに潜んでいたらしく、いきなり飛び出てきて卑猥な言葉を喚き散らすという一幕もあったが、由真も仁郎も無事に駆け付けた警察に保護された。



【40】
あの事件から6年後の今夜、またしてもこの地は血で染まった。
今夜、流された血は、義兄・吹石隆平と『殺戮者』――あの事件の被害者と加害者のものであった。
だが、今夜の死者は、隆平と『殺戮者』だけではなかった。
翌日に、宵川斗紀夫の死体が発見されたというニュースが全国ネットで流れたのだから。




【41】
松前不二男に殴られた斗紀夫は、今回の事件現場より数キロ離れた隣県のどこかの川の近くに停められた車の中で目を覚ました。
「なぜ、八窪由真たちたちの口封じ(殺し)をしなかった、あんたは俺たちの協力者だったろう? 俺たち側にいたはずだろう? 」と盛大に焦り、不二男を問い詰める斗紀夫。

全く取り合わず、余裕に満ちたまま、煙草を吹かす不二男。

そして――
斗紀夫は不二男に殺された。

そう、松前不二男こそが真のラスボスであったのだ。

松前不二男は、正義感より斗紀夫を殺害したわけではない。
確かに彼は歪んだ殺人願望を持っている。だが、その殺人の対象が誰でもいいってわけではない。あの夢で自分と同じく「受け取った者」をトモグイのごとく殺したかったのだと。

不二男は、以前にも人を殺している。
そして、その者の戸籍を奪い、”松前不二男”として、今宵の斗紀夫の舞台計画に脇役として参加していたのだ。
だが、宵川斗紀夫こそ松前不二男の計画に加担させられていたのかもしれない。
松前不二男は、あの宵川斗紀夫すら手の上で転がして、自分の本当の目的を達成するための駒として、いや宵川斗紀夫こそ彼の獲物であり、メインディッシュであったに違いない。



【42】
斗紀夫の死因は、溺死。
彼が6年前の秋に、ゾンビストーカー女子高生・A子に殺させた自分の恋人・相田千郷と同じ死因であった。
より深く掘り下げると、そのA子とも同じ死因でもある。


今まで「安全地帯」で事件を操り、その事件のヒロインを眺め性的興奮を見ていた斗紀夫であったが、もう二度と「安全地帯」に戻ってくることはできない。
そして、今度は彼が事件に関係ない「安全地帯」にいる者たちから眺められる”主人公”となったのだ。



【43】
8月の終わり。
由真と仁郎は、真理恵の最期の場所、そして真理恵の仇を取ってくれた隆平の最期の場所に花を供えに車を走らせていた。


由真従弟を暴行した温和顔社員♂は逮捕され、松前不二男は指名手配犯となり、従業員から2人も犯罪者が出たため、レストランは間違いなく閉鎖されるだろう。

※温和顔社員は、由真たちのいるところではそのショタ+強姦趣味の片鱗を見せないようにしていたが、彼の好みにドンピシャな大変にカワイイ由真従弟の登場に、彼の築き上げた理性という堤防は決壊していた。



手を合わせる由真と仁郎。

突如吹き抜けた風にハッとした由真。
彼女が見上げた青い空に、8月の死者たちの姿が見えた気がした。

リア充夫婦、モテ男子、派手顔JD、チョイ悪親父、おばちゃん、不思議系おじさん、美熟女、イケメン社員、そして真理恵と隆平の姿が……
由真はもう一度、瞳を閉じ両手を合わせた。その姿を見た仁郎も黙って手を合わせた。
真理恵や隆平だけではなく、あの8月に『殺戮者』に命を奪われたすべての者たちへ――「ただ安らかに」と。



ちなみに、作中、最後まで真理恵の心のうちは語られることはない。
真理恵がそのこころのうちで何を思い、26年という短い人生を生きたのかは永遠に謎のままであるが、由真にとって真理恵は、聖女のように優しく美しい唯一無二の存在である。

殺された大切な人はもう二度と戻っては来ない。
残された者もその声を聞くことはできない。
悲しみは生きている限り、癒えることはない。けれども、悲しみを胸に抱き、”いつか”その大切な人に会えることを願い、由真は生きていく。



―fin―
しおりを挟む

処理中です...