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なずみのホラー便 ※公開順
第38弾 彼らのマザー
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ある鳥の語りによって、物語は展開していく。
※口調より、鳥はおそらく雌だと思われる。そして、鳥は”あなた”に話しかけており、この”あなた”が本作のオチに大いに関係する。
鳥は、昔話を――彼女の先祖が見ていた話を、”あなた”へと向かって語り始める。
※※※
時代ならびに国は不明であるも、兄は14才、弟は13才の2人の兄弟を軸として昔話が始まる。
この兄弟は、”彼らのマザー”とともに山の麓で暮らしていた。
彼らのマザーは、兄弟が凍え死んだり、飢え死にすることのないよう、また夜も安心して眠れるようにと、日々尽力していたらしい。
そんなある日、国の本土より騎士団の一行が船に乗って、騎士の微募のためにやってきた。
兄弟は騎士となるために、本土へと渡ることを決意する。
しかし、マザーに猛反対されるであろうことは予測できたし、そもそも”マザーは自由に動くことができない”から、マザーには何も言わずにこの地を発とうと考えていた。
けれども、彼らのマザーは、兄弟が自分の元を離れようとしていることを知っていた。
※ちなみに、マザーにこのことを告げ口したのは鳥たちであると、物語終盤で判明もする。
出立前夜、マザーは兄弟を問い詰めたうえに、相当な癇癪を起こし、家の中の物を”裏切者の兄弟に向かって”手あたり次第に投げつけた。
兄弟は、痛む体を支えあい、外へと向かって飛び出す。
”マザーの内から逃れることができた”彼らは、”マザーの心を引き裂く言葉”を吐いてしまった。
「お兄ちゃん! やっぱり、本来、”心を持つはずのない物”が心なんて持っちゃいけなかったんだよ!」by弟
「そうだ! マザーは……マザーは”家”なんだから! 人間が暮らすために建てられた家が、心を持つなんてあってはならないことだ!」by兄
そう、”彼らのマザー”とは”彼ら兄弟が住む家”であった。
両親を早くに亡くした兄弟たちは、自らの母親代わりの存在を求めてか、幼い頃から”家”へと話しかけていた。 その結果、マザーは彼らの呼びかけに応えて、彼らの母親代わりになろうとしたという……
兄弟の言葉に心を切り裂かれたマザーの慟哭が山に響き渡り、マザーは自らを燃え上がらせて自殺した。
しかし、兄弟たちは気づいていなかったけど、マザーとともに彼らを見守っていた存在がいた……というよりも、ずっとそこに”在った”のだ。
それは、雄大の自然な一部である山だ。
焼身自殺をした”彼らのマザー”は、その山に生えている木によって造られていた。つまり、山は”マザーの母親”にあたる。
山は、自分の子供であるマザーを死なせた兄弟に――”自分たち”がずっと見守ってやっていたというのに恩知らずにもほどがある兄弟に怒り狂い、泣きながら町へと逃げる兄弟と燃え続けるマザーをも言葉通り、”自分の内部へと飲み込んだ”。
自分の内部で、兄弟と愛しいマザーを永遠に一緒にいさせたいという気持ちゆえの行動だったのかもしれない……
※※※
と、ここでひとまず、鳥の口から語られた兄弟と彼らのマザーについての昔話は終わる。
そして、語り手であるこの鳥が話しかけていた”あなた”とは、彼らのマザーと同じく”家”であったことが判明する。
この家も心を持っていた。そして、おそらく性別は女である”家”は、自分が39年も見守り続けた男性が40才を目前に電撃結婚することに心を痛めていた。
電撃結婚だけではなく、婚約者の女に「この家は古いから、私は住みたくないわ。ここを売って、綺麗なマンションで新婚生活を始めましょうよ」なんて言われたから、家を出ようと(自分から離れていこうと)している状況にあったのだ。
鳥は家を煽る。
煽りまくる。
「私はあなたこそ、彼の”真のパートナー”だと思ってるわ。」や「マザーはその名の通り母として兄弟を守っていたけど、あなたは糟糠の妻のごとく彼を影ながら支えていた。39年間、”何も言わずに”ずっと彼を支え続けていた。だから、あんなぽっと出の人間の女になんか、負けちゃだめよ」などなど。
さらに、そのうえ――
「彼が分かってくれなかったら……あなたの中から逃げ出そうとし続けたなら、あのお話の中の”山みたいに”彼を飲み込むべきよ。そう、あなたのお腹の中にね。そうすればあなたたちは今まで通り一緒にいられるわ。だから……やっちゃえ!」by鳥
と、思いっきり殺人教唆。
⇒【ややホラー風味な】彼らのマザー【ショートショート第38弾】
(公開日:2019年5月18日)
★作者コメント★
本作は、「【月1更新】2019年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ!」のEpisode4をつくるにあたって引き当てた5枚のルノルマン・カード「35 錨」「12 鳥」「21 山」「4 家」「1 騎手」を元にした、当初のプロットです。
Episode4につきましては、別の”おまぬけ”なプロットが閃きましたため、本作はホラー風味なショートショートとして、活用することにしました。
家や大切にしている物に心が宿ったらうれしいですが、いつかは別れがやってくるんですよね。(このことは物だけじゃなくて、人との関係にも言えることですけど)
私自身、今住んでいる家とはもうすぐ10年の付き合いとなりますので、飲み込まれないよう注意いたします。
”いらない!”って、ペッと吐き出されてしまう可能性もありますけどね。
※口調より、鳥はおそらく雌だと思われる。そして、鳥は”あなた”に話しかけており、この”あなた”が本作のオチに大いに関係する。
鳥は、昔話を――彼女の先祖が見ていた話を、”あなた”へと向かって語り始める。
※※※
時代ならびに国は不明であるも、兄は14才、弟は13才の2人の兄弟を軸として昔話が始まる。
この兄弟は、”彼らのマザー”とともに山の麓で暮らしていた。
彼らのマザーは、兄弟が凍え死んだり、飢え死にすることのないよう、また夜も安心して眠れるようにと、日々尽力していたらしい。
そんなある日、国の本土より騎士団の一行が船に乗って、騎士の微募のためにやってきた。
兄弟は騎士となるために、本土へと渡ることを決意する。
しかし、マザーに猛反対されるであろうことは予測できたし、そもそも”マザーは自由に動くことができない”から、マザーには何も言わずにこの地を発とうと考えていた。
けれども、彼らのマザーは、兄弟が自分の元を離れようとしていることを知っていた。
※ちなみに、マザーにこのことを告げ口したのは鳥たちであると、物語終盤で判明もする。
出立前夜、マザーは兄弟を問い詰めたうえに、相当な癇癪を起こし、家の中の物を”裏切者の兄弟に向かって”手あたり次第に投げつけた。
兄弟は、痛む体を支えあい、外へと向かって飛び出す。
”マザーの内から逃れることができた”彼らは、”マザーの心を引き裂く言葉”を吐いてしまった。
「お兄ちゃん! やっぱり、本来、”心を持つはずのない物”が心なんて持っちゃいけなかったんだよ!」by弟
「そうだ! マザーは……マザーは”家”なんだから! 人間が暮らすために建てられた家が、心を持つなんてあってはならないことだ!」by兄
そう、”彼らのマザー”とは”彼ら兄弟が住む家”であった。
両親を早くに亡くした兄弟たちは、自らの母親代わりの存在を求めてか、幼い頃から”家”へと話しかけていた。 その結果、マザーは彼らの呼びかけに応えて、彼らの母親代わりになろうとしたという……
兄弟の言葉に心を切り裂かれたマザーの慟哭が山に響き渡り、マザーは自らを燃え上がらせて自殺した。
しかし、兄弟たちは気づいていなかったけど、マザーとともに彼らを見守っていた存在がいた……というよりも、ずっとそこに”在った”のだ。
それは、雄大の自然な一部である山だ。
焼身自殺をした”彼らのマザー”は、その山に生えている木によって造られていた。つまり、山は”マザーの母親”にあたる。
山は、自分の子供であるマザーを死なせた兄弟に――”自分たち”がずっと見守ってやっていたというのに恩知らずにもほどがある兄弟に怒り狂い、泣きながら町へと逃げる兄弟と燃え続けるマザーをも言葉通り、”自分の内部へと飲み込んだ”。
自分の内部で、兄弟と愛しいマザーを永遠に一緒にいさせたいという気持ちゆえの行動だったのかもしれない……
※※※
と、ここでひとまず、鳥の口から語られた兄弟と彼らのマザーについての昔話は終わる。
そして、語り手であるこの鳥が話しかけていた”あなた”とは、彼らのマザーと同じく”家”であったことが判明する。
この家も心を持っていた。そして、おそらく性別は女である”家”は、自分が39年も見守り続けた男性が40才を目前に電撃結婚することに心を痛めていた。
電撃結婚だけではなく、婚約者の女に「この家は古いから、私は住みたくないわ。ここを売って、綺麗なマンションで新婚生活を始めましょうよ」なんて言われたから、家を出ようと(自分から離れていこうと)している状況にあったのだ。
鳥は家を煽る。
煽りまくる。
「私はあなたこそ、彼の”真のパートナー”だと思ってるわ。」や「マザーはその名の通り母として兄弟を守っていたけど、あなたは糟糠の妻のごとく彼を影ながら支えていた。39年間、”何も言わずに”ずっと彼を支え続けていた。だから、あんなぽっと出の人間の女になんか、負けちゃだめよ」などなど。
さらに、そのうえ――
「彼が分かってくれなかったら……あなたの中から逃げ出そうとし続けたなら、あのお話の中の”山みたいに”彼を飲み込むべきよ。そう、あなたのお腹の中にね。そうすればあなたたちは今まで通り一緒にいられるわ。だから……やっちゃえ!」by鳥
と、思いっきり殺人教唆。
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(公開日:2019年5月18日)
★作者コメント★
本作は、「【月1更新】2019年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ!」のEpisode4をつくるにあたって引き当てた5枚のルノルマン・カード「35 錨」「12 鳥」「21 山」「4 家」「1 騎手」を元にした、当初のプロットです。
Episode4につきましては、別の”おまぬけ”なプロットが閃きましたため、本作はホラー風味なショートショートとして、活用することにしました。
家や大切にしている物に心が宿ったらうれしいですが、いつかは別れがやってくるんですよね。(このことは物だけじゃなくて、人との関係にも言えることですけど)
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