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なずみのホラー便 ※公開順
第40弾 ドス黒なずみ童話 ① ~どこかで聞いたような設定の娘とのお喋り~
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『白雪姫』をベースとした嫌すぎる物語。
本作の主人公は、林檎売りのおばあさん。
このおばあさんであるが、”シルバー人材センター”より派遣された、純然たるおばあさん(ちなみに独身で身寄りもない)である。誰かさんの変装などではない。
おばあさんは、飛び込み営業に行った家の中から顔を出した娘の美しさ――”純白の肌はまるで穢れなき雪のごとく透き通り、真紅の唇は生命の息吹のごとく艶やかに潤い、漆黒の髪は磨き抜かれた黒檀のごとく輝きを放っている”という、まるでどこぞの姫様かと思うほどの娘の超絶美しさに心臓が止まりそうになる。
この美しい娘は、林檎を全て買ってくれるだけでなく、「私と一緒に楽しくお喋りしましょうよ」とおばあさんに懇願してくる。
娘の可愛さにほだされて、ついつい、家の中へと足を踏み入れてしまったおばあさん。
しかし、今度は家の中の”惨状”に心臓が止まりそうになる。
なぜなら……娘に招き入れられた家の中は”超絶汚部屋”であったのだから!
食べたら食べっぱなし。
脱いだら脱ぎっぱなし。
もちろん、コバエやゴキブリ、その他もろもろの虫ともしっかり同居中。
娘は、相当に重度の片付けられない女であった。
しかも、それだけではない。
娘と少しばかり言葉を交わすうちに、「世にも美しいこの娘は、空気を読む力や思いやり、衛生観念や人との距離感に分配されるべき”力”を、神様が全部、顔面に集中させて造ってしまった、世にも残念な娘」だと、おばあさんは確信せざるを得なかった。
おばあさんは、娘とのお喋りを適当に切り上げて、おぞましいにも程がある汚部屋から脱出しようと考えていた。
けれども……
「それでね、おばあさん」から始まる、娘のお喋りはなかなか終わらなかった。
娘は、際限なく喋り続ける。
山もなく、オチもなく、意味もない話を。
やっと話が終わったかと思えば、少し前に聞いたのと同じ話をまた話し始める。
ノンストップお喋り。
外ではついに、カラスがカアカア鳴きだし始めた。
「私は”本当に”帰りたいんだ、早く林檎のお金を払っとくれ」と娘に懇願するおばあさん。
お金が置いてあるという奥の部屋へと、おばあさんは案内される。
しかし!
奥の部屋へとおばあさんが足を踏み入れた瞬間、 ”この世のものとも思えぬほどの凄まじい悪臭”が届けられた!
鼻を押さえたおばあさんの背中を、娘がドンと突き飛ばす。
さらに娘は、”外側から”部屋の鍵をかけ、おばあさんを監禁!
さらに、それだけではなかった。
この部屋には、すでに”先客”がいた。
ウジ虫にクチャクチャとたかられた先客が……
面影から推測するに、”シルバー人材センター”の同僚であった、いつの間にかいなくなってしまっていた”腰紐売りと櫛売り担当のばあさん”の2人だ。
ウジ虫が得意気にクチャクチャとたかっている死体は、他にもまだ7体もあった。
娘が一緒に暮らしていると言っていた7人の森の小人たちだ。
首に紐をかけて縊死したと思われる小人もいれば、何やらフォークらしきもので両耳の鼓膜を貫いて死んだと思われる小人もいた。
娘は超汚部屋とマシンガントークという嫌すぎるコラボによって、 小人たちをノイローゼにさせて自殺に追い込んだり、泣き喚きながら逃げ出した小人の”首に腕を回して捕まえて”縊り殺していた。
けれども、扉の外にいる娘は言う。
「殺した? 殺したってどういうこと? だって、人間って、死んでも生き返るんでしょ? ほら、この地方に語り継がれている伝説の『白雪姫』のお話、おばあさんも知ってるでしょ? 毒林檎を食べさせられて死んじゃった白雪姫だけど、王子様のキスで目を覚ましたのよ」と……
娘は、人間の生死に対する認識や倫理までもがグチャグチャな人殺しのサイコ娘であった。
おばあさんは「私が勤務中に姿を消したことを”シルバー人材センター”の経営者や他の同僚たちは、絶対に不審に思うさ! すぐに私をここまで探しにきてくれるさ!」と叫ぶ。
しかし……
おばあさん自身、自分が生きていくことに精一杯で”いつの間にかいなくなってしまった”腰紐売りと櫛売り担当のばあさんの2人のことも、仕事が嫌もしくは体力的にきつくなって、バックレただけだって思っていた。
”シルバー人材センター”も、おばあさん自身も、行方不明となった2人のばあさんたちの行方を本気で探そうとはしなかった。
ということは、おばあさんが――”林檎売り担当のばあさん”がいつの間にかいなくなってしまったとしても、”シルバー人材センター”も誰も本気になって探してはくれないということである!
おぞましい監禁部屋の”死した先客たち”の肉を貪るウジ虫たちが際限なく奏で続ける音に、おばあさんの「誰か助けとくれ! 誰か私を探しにきとくれ!! 誰か、あの娘に”毒林檎”でも喰わせてこの世から駆除しとくれえええ!!!」と叫びが重なり合い、いろいろ嫌すぎるこの物語は幕を閉じる。
⇒【ややホラー風味な】ドス黒なずみ童話 ① ~どこかで聞いたような設定の娘とのお喋り~【ショートショート第40弾】
(公開日:2019年6月17日)
★作者コメント★
異世界ものブームに続き、なずみ智子の中では童話ブームがやってきました。
全部で5本予定の『ドス黒なずみ童話』ですが、2019年7月5日現在、3本まで公開中です。
童話パロディは、一から物語を組み立てて調理していくのとは、また違った楽しさがありますね。
⇒2本目
【ややホラー風味な】ドス黒なずみ童話 ② ~どこかで聞いたような設定の娘の眠り~【ショートショート第41弾】
⇒3本目
【ややホラー風味な】ドス黒なずみ童話 ③ ~どこかで聞いたような設定の兄妹たちのお使い~【ショートショート第42弾】
本作の主人公は、林檎売りのおばあさん。
このおばあさんであるが、”シルバー人材センター”より派遣された、純然たるおばあさん(ちなみに独身で身寄りもない)である。誰かさんの変装などではない。
おばあさんは、飛び込み営業に行った家の中から顔を出した娘の美しさ――”純白の肌はまるで穢れなき雪のごとく透き通り、真紅の唇は生命の息吹のごとく艶やかに潤い、漆黒の髪は磨き抜かれた黒檀のごとく輝きを放っている”という、まるでどこぞの姫様かと思うほどの娘の超絶美しさに心臓が止まりそうになる。
この美しい娘は、林檎を全て買ってくれるだけでなく、「私と一緒に楽しくお喋りしましょうよ」とおばあさんに懇願してくる。
娘の可愛さにほだされて、ついつい、家の中へと足を踏み入れてしまったおばあさん。
しかし、今度は家の中の”惨状”に心臓が止まりそうになる。
なぜなら……娘に招き入れられた家の中は”超絶汚部屋”であったのだから!
食べたら食べっぱなし。
脱いだら脱ぎっぱなし。
もちろん、コバエやゴキブリ、その他もろもろの虫ともしっかり同居中。
娘は、相当に重度の片付けられない女であった。
しかも、それだけではない。
娘と少しばかり言葉を交わすうちに、「世にも美しいこの娘は、空気を読む力や思いやり、衛生観念や人との距離感に分配されるべき”力”を、神様が全部、顔面に集中させて造ってしまった、世にも残念な娘」だと、おばあさんは確信せざるを得なかった。
おばあさんは、娘とのお喋りを適当に切り上げて、おぞましいにも程がある汚部屋から脱出しようと考えていた。
けれども……
「それでね、おばあさん」から始まる、娘のお喋りはなかなか終わらなかった。
娘は、際限なく喋り続ける。
山もなく、オチもなく、意味もない話を。
やっと話が終わったかと思えば、少し前に聞いたのと同じ話をまた話し始める。
ノンストップお喋り。
外ではついに、カラスがカアカア鳴きだし始めた。
「私は”本当に”帰りたいんだ、早く林檎のお金を払っとくれ」と娘に懇願するおばあさん。
お金が置いてあるという奥の部屋へと、おばあさんは案内される。
しかし!
奥の部屋へとおばあさんが足を踏み入れた瞬間、 ”この世のものとも思えぬほどの凄まじい悪臭”が届けられた!
鼻を押さえたおばあさんの背中を、娘がドンと突き飛ばす。
さらに娘は、”外側から”部屋の鍵をかけ、おばあさんを監禁!
さらに、それだけではなかった。
この部屋には、すでに”先客”がいた。
ウジ虫にクチャクチャとたかられた先客が……
面影から推測するに、”シルバー人材センター”の同僚であった、いつの間にかいなくなってしまっていた”腰紐売りと櫛売り担当のばあさん”の2人だ。
ウジ虫が得意気にクチャクチャとたかっている死体は、他にもまだ7体もあった。
娘が一緒に暮らしていると言っていた7人の森の小人たちだ。
首に紐をかけて縊死したと思われる小人もいれば、何やらフォークらしきもので両耳の鼓膜を貫いて死んだと思われる小人もいた。
娘は超汚部屋とマシンガントークという嫌すぎるコラボによって、 小人たちをノイローゼにさせて自殺に追い込んだり、泣き喚きながら逃げ出した小人の”首に腕を回して捕まえて”縊り殺していた。
けれども、扉の外にいる娘は言う。
「殺した? 殺したってどういうこと? だって、人間って、死んでも生き返るんでしょ? ほら、この地方に語り継がれている伝説の『白雪姫』のお話、おばあさんも知ってるでしょ? 毒林檎を食べさせられて死んじゃった白雪姫だけど、王子様のキスで目を覚ましたのよ」と……
娘は、人間の生死に対する認識や倫理までもがグチャグチャな人殺しのサイコ娘であった。
おばあさんは「私が勤務中に姿を消したことを”シルバー人材センター”の経営者や他の同僚たちは、絶対に不審に思うさ! すぐに私をここまで探しにきてくれるさ!」と叫ぶ。
しかし……
おばあさん自身、自分が生きていくことに精一杯で”いつの間にかいなくなってしまった”腰紐売りと櫛売り担当のばあさんの2人のことも、仕事が嫌もしくは体力的にきつくなって、バックレただけだって思っていた。
”シルバー人材センター”も、おばあさん自身も、行方不明となった2人のばあさんたちの行方を本気で探そうとはしなかった。
ということは、おばあさんが――”林檎売り担当のばあさん”がいつの間にかいなくなってしまったとしても、”シルバー人材センター”も誰も本気になって探してはくれないということである!
おぞましい監禁部屋の”死した先客たち”の肉を貪るウジ虫たちが際限なく奏で続ける音に、おばあさんの「誰か助けとくれ! 誰か私を探しにきとくれ!! 誰か、あの娘に”毒林檎”でも喰わせてこの世から駆除しとくれえええ!!!」と叫びが重なり合い、いろいろ嫌すぎるこの物語は幕を閉じる。
⇒【ややホラー風味な】ドス黒なずみ童話 ① ~どこかで聞いたような設定の娘とのお喋り~【ショートショート第40弾】
(公開日:2019年6月17日)
★作者コメント★
異世界ものブームに続き、なずみ智子の中では童話ブームがやってきました。
全部で5本予定の『ドス黒なずみ童話』ですが、2019年7月5日現在、3本まで公開中です。
童話パロディは、一から物語を組み立てて調理していくのとは、また違った楽しさがありますね。
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【ややホラー風味な】ドス黒なずみ童話 ② ~どこかで聞いたような設定の娘の眠り~【ショートショート第41弾】
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