上 下
57 / 60
なずみのホラー便 ※公開順

【R15】第51弾 ドス黒なずみ童話 ⑥ ~どこかで聞いたような設定の血まみれの鍵~

しおりを挟む
 本作は一言でいうなら、”童話『青髭』をベースとした超能力バトルもどき”でしょう。


 主人公は、ブランシュという名前の若くて美しい娘。
 彼女には、アンヌお姉さんという姉が1人、そして本作に名前は登場しないも兄も2人いる。
 そんな彼女が、連続殺人鬼の疑いが濃ゆいなんてもんじゃない”青髭様”に嫁ぐことになるのも、ほぼ原作通り。

 絶大なる不安と恐怖を抱えたまま、青髭様へと嫁いだブランシュであったも、青髭様は異常な性癖を持っているわけでもなく、”ブランシュには”とても優しくて穏やかな方であったことにやや拍子抜けしてしまう。

 だが、やはり今までの五名の奥方様が全員行方不明になっているのは事実であった。
 それに、広いお屋敷と召使いの数が全く釣り合っていなかった。住み込みで働いているのは、クレマンティーヌという名前の”老婆”ただ一人であったのだから。
 さらに言うなら、時折、獣の雄叫びのような声がどこからか聞こえてくることまでも……

 そうこうしているうちに、お約束の展開とばかりに青髭様がお屋敷を留守にする日がやってきた。
「ブランシュ、私が留守の間、姉たちや友人をこの屋敷に招いても楽しんでもらって構わない。私はお前にこの屋敷内の部屋の鍵を預けておく。ただし、この小さな鍵の部屋――北側の二階の開かずの部屋――だけは中をのぞくことも、入ってみることもならない。私はそれだけは事前に忠告しておく」という、これもお約束な青髭様の言葉。

 ブランシュはその鍵のことを、お屋敷に遊びに来たアンヌお姉さんに話してしまう。
 アンヌお姉さんの目がキラリと光り、ブランシュが気が付いた時、アンヌお姉さんとともに北側の二階の開かずの部屋の扉の前に立っていた。

 その開かずの部屋には、歴代の奥方様のすでに白骨化した屍が壁にズラリと並んで吊るされていたのはなく……部屋の中には”あまりに写実的でエロティックな絵”が溢れんばかりで、ゴミだらけ汚れたベッドで爆睡している年齢不詳な青髭の男がいたのだ!
 ブランシュとアンヌお姉さんは、目を覚ました青髭の男に襲い掛かられ、慌てて逃げ出す。

 この青髭の男は、青髭様の唯一の息子であり、名前をエミリアンといった。
 そして、エミリアンを産んだ母は”老婆にしか見えない”召使いのクレマンティーヌだった。そのうえ、クレマンティーヌは青髭様の一番目の奥様であったことまで判明。

 一番目の奥様は行方不明となったのではなく、ずっとこの屋敷の中にいた。引きこもりで凶暴な息子を持つ苦労とストレスは、クレマンティーヌを30才以上も老け込ませてしまっていた。

 さらに――
 青髭様の息子・エミリアンは、クレヤボヤンス(千里眼)とソートグラフィー(念写)の力を併せ持つ、世にも稀な超能力者でもあった。
 彼の部屋の中にあった”あまりに写実的でエロティックな絵”――”目に見えたものを、そのまま紙にパッと写した”としか思えないあれらの絵は、あらゆる男女の実際の閨での秘め事を鮮やかに、吐息まで聞こえてくるかのような臨場感までをもしっかり写し出したものだ。
 千里眼で覗き見をしたうえに、念写でそれらを保存までしているエミリアンは、まさに超異常性癖者。

 やめときゃいいのに、アンヌお姉さんはあの”念写絵”を少しばかり拝借しようと考えた。あれらの被写体となっていた高貴な方々への強請を企んで、エミリアンの部屋へと忍び込み、窃盗を行おうと……
 案の定、エミリアンに見つかり、ドスドスズドドドドと屋敷内を追いかけまわされたうえ、”反撃の隙すらなく”、ボコボコにされるアンヌお姉さん。

 アンヌお姉さんの悲鳴を聞いて駆け付けたブランシュもクレマンティーヌも、エミリアンを止めようとするが無理であった。
 ブランシュは花瓶だけでなく、重たい甲冑などにも”手を触れることなく次々に持ち上げ、エミリアンへと飛ばした”も、ほぼダメージゼロ。

 ”お願い! お兄さんたち、助けに来てぇぇ!!”と、心から願ったブランシュの元に、2人のお兄さんは廊下の向こうから”すぐに”駆けつけてくれた。
 お兄さんたちが”すぐに”駆けつけてきてくれたのはうれしいが、これはあまりにも早過ぎる。

 そう、エミリアンも超能力者なら、その力の種類こそ違えど、ブランシュたちも全員超能力者であった。
 ブランシュとアンヌお姉さんは、サイコキネシス(念力)。2人のお兄さんは、そらくどちらかがテレパシー(精神感応)、どちらかがテレポーション(瞬間移動)の力の保有者であった。
※ 物語終盤で明記するが、彼女たち4人には血の繋がりは一滴もない。全員超能力者であるという稀有な繋がりによって、家族となっていた。

 エミリアンは自分より腕力の弱い女(アンヌお姉さん)はボコボコにしたのに、立派な大人の男であるお兄さん2人の登場にビビり逃げ出す。
 その時、エミリアンとアンヌお姉さんの足がなかなかに激しく絡み合い、バランスを崩した2人は階段を転げ落ちていき、ほぼ同時に首の骨を折り死亡。


 帰宅した青髭様によって、”形ばかりの事情聴取”が行われる。
 唯一の実子が亡くなったというのに、青髭様の表情はどこかすっきりと、まるで長年背負ってきた重い荷物をやっと下ろしたかのようなものであった。

 さらに青髭様は、親としての役割をただ一人で懸命に果たそうとしていたクレマンティーヌの長年の苦しみを労おうとする気もなく、息子の不出来具合は全て母親である彼女のせいだと思っており、これを機にとお屋敷から追い出そうとしていた。

 人でなしな彼の言葉を聞いた、ブランシュの心は、完全に凍りついてしまう。凍りついてしまった心は、もう動くことはない。
 やはり青髭様は青髭様であった。妻たちの”心を”残酷に殺す青髭様だと……


 その後、ブランシュは2人のお兄さん、クレマンティーヌとともに、アンヌお姉さんとエミリアンを弔う。
 エミリアンの性犯罪の証拠品――性交中の念写絵――も全て焼却した。

 青髭屋敷の”新たな主”となったブランシュ。
 だが、青髭様はまだお屋敷の中にいた。
 ブランシュがそのサイコキネシスの力によって引きちぎった、それはそれは重たいシャンデリアの下敷きとなったまま……
 


⇒【R15】ドス黒なずみ童話 ⑥ ~どこかで聞いたような設定の血まみれの鍵~【なずみのホラー便 第51弾】
(公開日:2019年12月26日)


★作者コメント★
 本作ならびに『【R18】野をかき分け、火を付けよ【なずみのホラー便 第50弾】』は、2019年10月末締め切りの新潮社様の「第19回 女による女のためのR-18文学賞」に応募して、”一次選考を通過しなかった”作品です。

 同賞には今回、初挑戦でした。
 応募した(書き上げた)順番は、①『野をかき分け、火を付けよ』 ②『ブッシュドノエル殺人事件』 ③本作(応募時のタイトルは『青髭屋敷の秘密』)でした。

 一番最後に書き上げたということもあり、私の中では本作が一番達成感があったというか、わずかながら自信があったのですが……実際に一次選考を通過したのは「応募した3作の中では主人公もストーリーも地味目だし……」と思っていた『ブッシュドノエル殺人事件』でありました。
 賞の傾向、それに書き手の目と読み手の方々の目ではやはり評価が異なるのだと、今回実際に学ぶことができました。

 思い返してみれば、公募には数えるほどしか出したことがありませんでした。
 来年の目標の一つは「もっと公募に応募して、場慣れする」ということですね。


 さて、最後となりましたがこのページをご覧の皆様、本年は大変お世話になりました。
 来年もよろしくお願い申し上げます。
 近況ボードにて、改めて年末年始のご挨拶をする予定ですが、取り急ぎ本ページにてもご挨拶させていただきました。
しおりを挟む

処理中です...