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第1章 入学前
11話 悪夢
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夜中の激しい雨は上がっているが、空は曇に覆われている。
そんな風景がバスの窓に流れる。
楽しいおでかけ……のはずが、雪夜もフィアスも異様に静かだった。
「そういえば、学校っていつからだっけ。まだ案内が届いてないよね」
なんとか話題を切り開く。
「それなら青月館のロビーに掲示されておりましたわ。明後日に入学式ですわよ」
「なんだって、赤砂寮にはまだ貼り出されてないんだけど……」
こんなところにも寮の格差が。
「学校か~。毎日登校するの、面倒くさいなあ」
「俺は小学校を途中退学した以来だからちょっと楽しみかな。フィアスは学校に通ってた記憶ないんでしょ?」
「うん。でも、面倒くさい」
フィアスがぷいっと窓を向く。
やっぱりフィアスのぐーたらは体調のせいだけではないような。
◇◇◇
『まもなく水仙道駅前に到着します。お降りの方は忘れものに注意してお降りください』
水仙道駅に来るのは、高次元世界に初めて来た日以来。
相変わらずたくさんの人が行きかっている。
そして、最先端ではあるものの、科学技術がモリモリ露出した近未来的な街ではない。新しいのに、骨董とした雰囲気を漂わせる街。
「ここにいると、なんか魔法を使えそうな気分になるね」
なんて言葉を挟みながら、雪夜の様子を伺う。
雪夜のまとう漆黒の闇は、まるで少しの刺激で爆発してしまう爆弾のように危うい。
リフレッシュしてくれたらいいけど、とにかく刺激しないように行動しなくては。
「こっちには魚屋、肉屋、八百屋。あっちには服屋、靴屋、散髪屋があるみたいだよ」
魚屋のオモテでは、見たことのない魚が売られている。
「『マッチョバス』だって。やたらとムキムキしているけど、美味しいのかな」
服屋には『スタイルが良く見える服』が置いてあった。
見た目や色合いによる錯覚を利用しているわけではなく、【空間の次元】をうまく使ってそう見せているらしい。
「あそこのコーナーは本屋、時計屋、そして……あれは何屋だろう」
その店にはたくさんの棒が並べられていた。
「いらっしゃい。お兄ちゃん、高次元世界は初めてかい?」
その店の店員さんに話しかけられた。
雪夜とフィアスは違う店を見ている。
「ええ、来て間もないです」
「なるほどな。ここは杖屋だ」
「つえ? それは何に使うものなんですか?」
「色々だよ。ある時は日常生活に。ある時はスポーツに。そしてある時は体の支えに」
「最新型の松葉杖ってことですか?」
「はは、冗談冗談。モノには次元を組み込むことができるんだが、それに最も適した形状をしているのが杖さ。次元と関わるための補助みたいなもんだ。今では一人一本は持ってるぞ」
「あれ? 杖ってもしかして……」
俺はカバンから心乃さんから貰った緑色の棒を取り出して見せた。
「兄ちゃん!? それ、一体どこで手に入れたんだ!?」
「貰いました」
「【生命の次元】のマナが溢れてやがる……! しかも、純粋で綺麗なマナだ……。それ、売ったら1000万円はくだらないぜ」
「い、1000万!?」
俺は心乃さんからとんでもないお宝を貰っていたようだ。
「あの、マナってなんですか?」
「マナは高次元世界で生きてるだけで生物の身体に溜まっていく、次元に作用するポイントみたいなものだ。まだそれが何なのかは解明されていないが、モノに次元を埋め込むときに必要だから価値があるんだ。そして、マナは人それぞれ違っていて、作用する次元も、強さも違う。俺はそこそこ強いマナなら見ることができるんだが、ここまで強いマナは初めて見たぞ……」
きっと、この杖には心乃さんのマナが込められているんだ。心乃さんは【生命の次元】の超能力者だから、【生命の次元】の力を強く持ったマナを持っているんだろう。
「テメエいい加減にしろやァ!! 何回言わせんのじゃゴラァ!!」
「も……申し訳ございません……!!」
近くで怒鳴り声が聞こえた。
仕事中の上司と部下のようだ。
上司からは、イライラの黒い闇がムンムン出ている。
部下からは、怯えるような悲しい闇がモワモワ出ている。
道から、子供が二人話しながらアイスを持って走ってきた。
すると目の前の大男に気づかずぶつかり、アイスを服につけてしまった。
大男は凄い形相で子供を睨みつけている。
黒い闇に覆われていて、今にも子供を蹴り飛ばしそうだ。
「ちょっ……」
パリンッ!!
駆け寄ろうとした瞬間、大きな音がした。
「な、なんだ!? 向こうからガラスが割れる音が!!」
音のする方へ走って行くと、そこは宝石店。
そして、マスクをかぶった黒ずくめの男が二人。
「強盗か!?」
この短時間の間に、嫌な出来事がいくつも起こった。
それなりの都会だし、こういうことは日常茶飯事なのかもしれない。
しかし、よく見ると黒ずくめの男達は窓ガラスを割ってしまったことを店員さんに謝っていた。
店員さんも和やかな雰囲気でそれを許している。
「う……嘘だろ……」
「まあミスは誰にでもあるしな。次の仕事行くで」
「は……はいっ……!!」
あれだけキレていた上司も、部下を慰めている。
「ほらよ、アイスクリームだぜ」
「あ……ありがとうございます……!!」
なんとアイスをぶつけられた大男は、子供たちに新しいアイスを買っていた。
あっちもこっちも、先程までの不穏な感じはすべて消えたのだ。
「なんか、優しい世界だな。はは」
この時、なぜ気を抜いたのだろう。
さっきまで覆われていた、人々の黒い闇がさっぱりと消えているじゃないか。
振り向いたその一瞬、飛び込んできた視界は地獄だった。
人が倒れ、建物は壊れ、茶色く濁った光景。
そして、さっきまでとは考えられないほどの暗黒が広がっている。
フィアスも、血を流して倒れていた。
「な……なにが」
ザシュッ!!!!
ここで俺の意識は無くなった。多分死んだ。
最後に目に映ったのは、暗黒の中心にいた我を失った雪夜だった。
そんな風景がバスの窓に流れる。
楽しいおでかけ……のはずが、雪夜もフィアスも異様に静かだった。
「そういえば、学校っていつからだっけ。まだ案内が届いてないよね」
なんとか話題を切り開く。
「それなら青月館のロビーに掲示されておりましたわ。明後日に入学式ですわよ」
「なんだって、赤砂寮にはまだ貼り出されてないんだけど……」
こんなところにも寮の格差が。
「学校か~。毎日登校するの、面倒くさいなあ」
「俺は小学校を途中退学した以来だからちょっと楽しみかな。フィアスは学校に通ってた記憶ないんでしょ?」
「うん。でも、面倒くさい」
フィアスがぷいっと窓を向く。
やっぱりフィアスのぐーたらは体調のせいだけではないような。
◇◇◇
『まもなく水仙道駅前に到着します。お降りの方は忘れものに注意してお降りください』
水仙道駅に来るのは、高次元世界に初めて来た日以来。
相変わらずたくさんの人が行きかっている。
そして、最先端ではあるものの、科学技術がモリモリ露出した近未来的な街ではない。新しいのに、骨董とした雰囲気を漂わせる街。
「ここにいると、なんか魔法を使えそうな気分になるね」
なんて言葉を挟みながら、雪夜の様子を伺う。
雪夜のまとう漆黒の闇は、まるで少しの刺激で爆発してしまう爆弾のように危うい。
リフレッシュしてくれたらいいけど、とにかく刺激しないように行動しなくては。
「こっちには魚屋、肉屋、八百屋。あっちには服屋、靴屋、散髪屋があるみたいだよ」
魚屋のオモテでは、見たことのない魚が売られている。
「『マッチョバス』だって。やたらとムキムキしているけど、美味しいのかな」
服屋には『スタイルが良く見える服』が置いてあった。
見た目や色合いによる錯覚を利用しているわけではなく、【空間の次元】をうまく使ってそう見せているらしい。
「あそこのコーナーは本屋、時計屋、そして……あれは何屋だろう」
その店にはたくさんの棒が並べられていた。
「いらっしゃい。お兄ちゃん、高次元世界は初めてかい?」
その店の店員さんに話しかけられた。
雪夜とフィアスは違う店を見ている。
「ええ、来て間もないです」
「なるほどな。ここは杖屋だ」
「つえ? それは何に使うものなんですか?」
「色々だよ。ある時は日常生活に。ある時はスポーツに。そしてある時は体の支えに」
「最新型の松葉杖ってことですか?」
「はは、冗談冗談。モノには次元を組み込むことができるんだが、それに最も適した形状をしているのが杖さ。次元と関わるための補助みたいなもんだ。今では一人一本は持ってるぞ」
「あれ? 杖ってもしかして……」
俺はカバンから心乃さんから貰った緑色の棒を取り出して見せた。
「兄ちゃん!? それ、一体どこで手に入れたんだ!?」
「貰いました」
「【生命の次元】のマナが溢れてやがる……! しかも、純粋で綺麗なマナだ……。それ、売ったら1000万円はくだらないぜ」
「い、1000万!?」
俺は心乃さんからとんでもないお宝を貰っていたようだ。
「あの、マナってなんですか?」
「マナは高次元世界で生きてるだけで生物の身体に溜まっていく、次元に作用するポイントみたいなものだ。まだそれが何なのかは解明されていないが、モノに次元を埋め込むときに必要だから価値があるんだ。そして、マナは人それぞれ違っていて、作用する次元も、強さも違う。俺はそこそこ強いマナなら見ることができるんだが、ここまで強いマナは初めて見たぞ……」
きっと、この杖には心乃さんのマナが込められているんだ。心乃さんは【生命の次元】の超能力者だから、【生命の次元】の力を強く持ったマナを持っているんだろう。
「テメエいい加減にしろやァ!! 何回言わせんのじゃゴラァ!!」
「も……申し訳ございません……!!」
近くで怒鳴り声が聞こえた。
仕事中の上司と部下のようだ。
上司からは、イライラの黒い闇がムンムン出ている。
部下からは、怯えるような悲しい闇がモワモワ出ている。
道から、子供が二人話しながらアイスを持って走ってきた。
すると目の前の大男に気づかずぶつかり、アイスを服につけてしまった。
大男は凄い形相で子供を睨みつけている。
黒い闇に覆われていて、今にも子供を蹴り飛ばしそうだ。
「ちょっ……」
パリンッ!!
駆け寄ろうとした瞬間、大きな音がした。
「な、なんだ!? 向こうからガラスが割れる音が!!」
音のする方へ走って行くと、そこは宝石店。
そして、マスクをかぶった黒ずくめの男が二人。
「強盗か!?」
この短時間の間に、嫌な出来事がいくつも起こった。
それなりの都会だし、こういうことは日常茶飯事なのかもしれない。
しかし、よく見ると黒ずくめの男達は窓ガラスを割ってしまったことを店員さんに謝っていた。
店員さんも和やかな雰囲気でそれを許している。
「う……嘘だろ……」
「まあミスは誰にでもあるしな。次の仕事行くで」
「は……はいっ……!!」
あれだけキレていた上司も、部下を慰めている。
「ほらよ、アイスクリームだぜ」
「あ……ありがとうございます……!!」
なんとアイスをぶつけられた大男は、子供たちに新しいアイスを買っていた。
あっちもこっちも、先程までの不穏な感じはすべて消えたのだ。
「なんか、優しい世界だな。はは」
この時、なぜ気を抜いたのだろう。
さっきまで覆われていた、人々の黒い闇がさっぱりと消えているじゃないか。
振り向いたその一瞬、飛び込んできた視界は地獄だった。
人が倒れ、建物は壊れ、茶色く濁った光景。
そして、さっきまでとは考えられないほどの暗黒が広がっている。
フィアスも、血を流して倒れていた。
「な……なにが」
ザシュッ!!!!
ここで俺の意識は無くなった。多分死んだ。
最後に目に映ったのは、暗黒の中心にいた我を失った雪夜だった。
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