正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?

エポレジ

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第1章 入学前

13話 杖

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「ぎゃあああああああああああっ!!!!」

 前回と同じように叫んで飛び起きる。

「また死んだ……」

 とりあえず現実ではなかったことにホッと胸を撫でおろす。
 目からは涙が溢れており、布団は汗だくだくだ。

「今日……どうしようかな……」

 窓に映る空にはすでに太陽が昇っている。
 時計は7時21分を指していて、もう眠る時間ではない。

 フィアスのところへ行くべきだろうか。
 このままでは殺されに行くようなものだけど……。

「……なんで今回は、雪夜の豹変があんなに早かったんだろう」

 前回との違いで思い当たるのは、雪夜の部屋へいくときにフィアスを連れて行かなかったことと、野菜炒めではなく肉じゃがを作ったことくらいだ。

「肉じゃがは呪いの料理か何かなのかよ……」

 今の俺は心の底から怯えている。
 次はもっと早くに殺されてしまう気がして。

 ガチャ

「おはよう。そんなに青ざめて、また例の夢を見たの?」

 赤砂寮は壁が薄いから、叫ぶと隣の苺には丸聞こえのようだ。

「ああ……。今度はなすすべもなく殺された」

「突破口が見つからないなら、アンタ今日はもう家から一歩も出ない方がいいんじゃない?」

 もちろんそうしたい。
 でも、フィアスが青月館にいてほっておけないし、それでは何も進歩しない。

「……3回やり直せて、それでまた死んだら多分それは運命なのかもね」

「アンタバカじゃないの!? 逃れられる術があるかもしれないのに、運命なんて言葉に甘えて諦めてんじゃないわよ!」

 苺はまっすぐこちらを見て怒鳴った。

 確かに、俺は未来を知っている。
 知っているからこそ辿り着く突破口があるはずだ。

「ごめん、苺の言う通りだ」

「……フン」

 バタン

 苺は部屋に戻っていった。

 俺だって死にたくない。でも、このまま赤砂寮に隠れているわけにもいかない。たとえ雪夜を止められなかったとしても、せめてフィアスだけは救わないと……。

 俺は覚悟を決めて、青月館のフィアスの部屋へと向かった。


 ◇◇◇


 徹夜明けのように、変な汗をかきながらぬかるんだ田舎道を行き、少しずつ、恐怖の青月館へ近づいていく。

 ピンポーン

 ガチャ

「糸~昨日なんで来てくれなかったのさ。もうお腹ペコペコだよ~……って、どうしたの!?」

「え……なにが……?」

「ちょっと中に入って!」

 バタン

「どうしたんだフィアス、俺の顔に何かついてるか?」

「違う! どうしてそんなに黒くなってんの!」

 もちろん日焼けとかそういうわけではない。

「黒く……はっ!!」

 少し意識すると一目瞭然だった。
 いつのまにか、俺の体から、雪夜に負けないくらい暗黒の闇が充満していたのだ。

 どうして前回に気づかなかったんだろう。

「落ち着いて。その黒いものが何を意味しているかまだ私には分からない。でもね、なんとなく予想はつく。きっと糸の心が抉られるような何かがあったんだね」

 いつものベッドでゴロゴロしているフィアスさんとは違う。
 真剣なフィアスの表情に、少し心が救われたような気がした。

「俺は……雪夜に殺されたんだ……」

 俺はこれまでに体験したことをフィアスに話した。
 無意識のうちに、溢れる色んな感情をさらけ出しながら。

「……それは辛かったね」

 フィアスは疑うことなく話を聞いてくれた。

「今の話を聞く限り、おそらく雪夜は他人の闇を吸い取ってしまうんだね。一度目は、街の人々の闇を吸い取ってしまって豹変した」

「でもそれだったら二度目の説明がつかないんだ。二度目は周りに人なんて……」

「いたじゃない。人が」

「いや……俺以外には誰も…………あっ!!」

「そう、一回目の夢で殺されたことによって生じた糸の闇だよ。殺されるという絶望、恐怖を強く体が感じてしまったことで、雪夜を豹変させるのに十分な量の闇を持ってしまった」

「ということは……」

「うん、今の糸が雪夜に会いでもしたら……あれ……糸の体から闇が薄くなってる……?」

「あれ、本当だ。フィアスに話して気が楽になったってことか……?」

「ちがう。人の心の底に住みついた絶望がそんな簡単に消えるわけがないよ。それもあれだけの闇を……。あれ、天井から感じていた闇も消えたような」

「……フィアス……玄関の方から……」

 先程までは上の階から感じていた途方もなく黒い闇が、玄関の向こう側から感じる。

「ま……まさか……!!」

 コンコン……コンコン……
 ……ピンポンピンポンピンポンピンポン!!!!

「ゆ……雪夜だ!!!!!」

「この感じ、やばいよ! 逃げよう!!! 窓から!!!」

 バンッ!!!!!

「…………」

 雪夜がドアを打ち破ると、フィアスの部屋には誰もおらず、開かれた窓しかなかった。
 原型を留めていないぬいぐるみを片手に、無表情でただその虚無の中に立っていた。



「はあ……はあ……っ!!」

 青月館からだいぶ離れたところまで走ってきた。

「糸、どうする?」

「杖だ。杖があればあの雪夜とやりあえるかもしれない!俺の杖はあるけど、バスで街へ行って、フィアスの杖を買いに行こう!」

 運の良いことに、バス停に着くとすぐに水仙道行きのバスが到着した。

 恐怖のあまり、バスの中でもずっと後ろを警戒する。
 車内では一言も会話を交わさず、バスは水仙道駅に到着した。

「フィアス、あっちだ!」

 マッチョバスが売っている魚屋などには目をくれず、杖屋へ直行した。

「おやじ! 4万円で買える一番良い杖をいくつか持ってきてくれ!」

 俺達二人の手持ちからして、4万円が限界だ。

「あいらっしゃい! ん? お嬢ちゃん、白くてめちゃくちゃ綺麗なマナを持ってるな。もしかして、超能力者か?」

「おやじ!! 早く!!」

「ああ、すまねえ! ちょっと待ってな!」

 おやじは4本の杖を持ってきた。
 フィアスはそれらをじっと見つめ、一つ選んで手に持った。
 その時、フィアスの周りの空気が変わったのを感じた。

「4万円の杖を持っただけでこの雰囲気とは。やはりお嬢ちゃん、ただものじゃねえな」

 俺たちは杖を買い、チューベローズへ戻ることにした。
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