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第2章 劣等生
26話 大富豪の廃墟
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カツ……カツ……
三人で階段を上がっていく。
「あ、たった今、逆空間へ入ったわ」
「本当!? 凄い! それにしても、糸くんはどうやってこの入り口を見つけたの?」
「木にぶつかって気を失っている間に夢で見ました」
「へえ。不思議なこともあるもんだね」
カツ……カツ……
「お! 扉だ!」
階段の先には、公衆トイレの掃除用具入れのような汚い扉があった。
ガチャ……
その表現は正しく、扉の先はトイレだった。
様式トイレの三つの扉の横に今の扉がある。
そして、すりガラスの窓からは、光が照らされている。
「凄い! 私達、館に入れたよ!」
「ところどころ錆びれてるし、蜘蛛の巣も張られていることも考えると、人は住んでいなさそうね」
トイレを出ると、廊下がある。
廊下の窓には昼下がりの森の景色がはっきりと広がっている。
「ここは高次元世界について研究していた研究者の館。何か異世界の手がかりがあるはずだよ!」
適当に歩いていると、食堂に着いた。
12人席の、大きなテーブル。
そして皿やグラスなどが並べられた食器棚が大富豪感を漂わせる。
「あの、どうして愛さんはここに研究者が住んでいたことを知っているんですか?」
「その研究者の本を読んだからだよ。私はこれまで高次元世界についての色んな本を読んだけど、大抵は推測とか未完成なことをつらつら書いているだけだった。でも、学校の図書館の奥底に眠っていた一冊の本だけは違った。学術的な数式は一切書かれていなかったけど、その全てを理解しているかのような矛盾のない文章からは、世界を探究する魅力が伝わってきたんだ。私はね、その本があったから異世界を目指したいと考えるようになったんだよ。筆者は【筑紫 霊峰】。消息不明、年齢不詳、出版した本もたった一つのみ。唯一の手掛かりは、この山奥にある今は廃墟となった館で思考実験を行っていた、と本に書かれていただけ」
「それならきっと、その人の居室に何か実験ノートのようなものがあるかもしれないわね」
食堂を後にし、居室を探す。
キッチン、ダイニングと色々周った後、居室のような扉を見つけた。
「あ、ここじゃありませんか?」
開けた扉の先にはベッドと机、そしてメイド服がかけられていた。
「メ、メイド服!? まさかその研究者にはこんな趣味が……!」
「違うよ、きっと雇われていたメイドさんの居室だと思う。これだけの大きな館だし、メイドさんの一人や二人、雇っていても不思議じゃないよ」
愛さんと菊音さんは次の部屋を見て回っている。
「で、ですよね……。ん?」
メイドさんの机に手帳のようなものが置いてある。
「これは……日記だ……」
裏を見ると、名前の欄に【佐倉 遥花】と書かれている。
3年分をつけられる日記のようだ。
日付の空欄に数字を書きこんでカウントしている。
1ページ目。
『1年目4月13日:今日からこのお屋敷で働かせていただくことになりました! 同期の友達もいないし、住み込みで心の内を叫ぶこともできなそうなので、日記で私の心を晒すことにしました! 保管は大切にしないとね(笑)
2年目4月13日:日記を見ると、今日が丁度一年目だったんだね。まあ、雇われて一年なんて、誰も別にお祝いとかはしないよね。今日はお仕事で主様に怒られてしまって少しナイーブです。もう寝ます、おやすみなさい。
3年目4月13日: 』
このように、ページをめくっていくと、毎日のように2年分の日記がつけられていた。
そして、2年目に書かれていた最後の日。
『1年目2月20日:今日トイレの掃除をしているとき、大きな大きな蜘蛛が出ました。叫んでしまったけど、なんとか追い払いました。私偉い!
2年目2月20日:ご主人様はまだ帰ってきません。使用人が次々と辞める中、最後まで尽くし続け、帰りを待っていた私でさえも捨てたそうです。今日で私もこの館を出ます。でも、ささやかな復讐として、この館にある金目の物と、ご主人様が大切にされていた『あれ』は貰っていきますね。さようなら、ご主人様。いつかあなたに私の心内が届くように、この日記はここに置いていきます。
3年目2月20日: 』
そこには、佐倉遥花というメイドの奇妙な2年間が綴られていた。
しかし、〇年目という書き方なため、具体的に何年前の出来事なのかは分からない。
「おーい、糸くん何してるのー!」
「あ、すみません! 今行きます」
俺は日記帳を机に戻し、佐倉さんの居室を後にした。
「糸くん、見つけたよ。筑紫霊峰の居室だ」
その部屋は、この館の主の居室とは思えないほど狭く、とても散らかっていた。
「凄い数のノート……。それに、中身はとても読めないわ。まるで書きなぐりね」
「その上、内容も難しい……。ここで見て覚えるのは無理そうだね。いただいちゃおう!」
「えっ!?」
「いいでしょ、ここは廃墟なんだし。ゴミダメから拾ったと思えば大丈夫!」
「私はノーコメントね」
愛さんはせっせとリュックにノートを詰めていく。
こうして今日の探検は終了した。
陽が沈みかけている夕方、この館の出口から出て振り向くと、そこには館は無かった。
やはり、入る時は崖の穴から入らないといけないらしい。
夜のバスに揺られながら、チューベローズへと帰った。
この帰り道、俺はなぜか佐倉遥花というメイドのことが頭から離れないでいた。
別にメイドフェチじゃないのに。
三人で階段を上がっていく。
「あ、たった今、逆空間へ入ったわ」
「本当!? 凄い! それにしても、糸くんはどうやってこの入り口を見つけたの?」
「木にぶつかって気を失っている間に夢で見ました」
「へえ。不思議なこともあるもんだね」
カツ……カツ……
「お! 扉だ!」
階段の先には、公衆トイレの掃除用具入れのような汚い扉があった。
ガチャ……
その表現は正しく、扉の先はトイレだった。
様式トイレの三つの扉の横に今の扉がある。
そして、すりガラスの窓からは、光が照らされている。
「凄い! 私達、館に入れたよ!」
「ところどころ錆びれてるし、蜘蛛の巣も張られていることも考えると、人は住んでいなさそうね」
トイレを出ると、廊下がある。
廊下の窓には昼下がりの森の景色がはっきりと広がっている。
「ここは高次元世界について研究していた研究者の館。何か異世界の手がかりがあるはずだよ!」
適当に歩いていると、食堂に着いた。
12人席の、大きなテーブル。
そして皿やグラスなどが並べられた食器棚が大富豪感を漂わせる。
「あの、どうして愛さんはここに研究者が住んでいたことを知っているんですか?」
「その研究者の本を読んだからだよ。私はこれまで高次元世界についての色んな本を読んだけど、大抵は推測とか未完成なことをつらつら書いているだけだった。でも、学校の図書館の奥底に眠っていた一冊の本だけは違った。学術的な数式は一切書かれていなかったけど、その全てを理解しているかのような矛盾のない文章からは、世界を探究する魅力が伝わってきたんだ。私はね、その本があったから異世界を目指したいと考えるようになったんだよ。筆者は【筑紫 霊峰】。消息不明、年齢不詳、出版した本もたった一つのみ。唯一の手掛かりは、この山奥にある今は廃墟となった館で思考実験を行っていた、と本に書かれていただけ」
「それならきっと、その人の居室に何か実験ノートのようなものがあるかもしれないわね」
食堂を後にし、居室を探す。
キッチン、ダイニングと色々周った後、居室のような扉を見つけた。
「あ、ここじゃありませんか?」
開けた扉の先にはベッドと机、そしてメイド服がかけられていた。
「メ、メイド服!? まさかその研究者にはこんな趣味が……!」
「違うよ、きっと雇われていたメイドさんの居室だと思う。これだけの大きな館だし、メイドさんの一人や二人、雇っていても不思議じゃないよ」
愛さんと菊音さんは次の部屋を見て回っている。
「で、ですよね……。ん?」
メイドさんの机に手帳のようなものが置いてある。
「これは……日記だ……」
裏を見ると、名前の欄に【佐倉 遥花】と書かれている。
3年分をつけられる日記のようだ。
日付の空欄に数字を書きこんでカウントしている。
1ページ目。
『1年目4月13日:今日からこのお屋敷で働かせていただくことになりました! 同期の友達もいないし、住み込みで心の内を叫ぶこともできなそうなので、日記で私の心を晒すことにしました! 保管は大切にしないとね(笑)
2年目4月13日:日記を見ると、今日が丁度一年目だったんだね。まあ、雇われて一年なんて、誰も別にお祝いとかはしないよね。今日はお仕事で主様に怒られてしまって少しナイーブです。もう寝ます、おやすみなさい。
3年目4月13日: 』
このように、ページをめくっていくと、毎日のように2年分の日記がつけられていた。
そして、2年目に書かれていた最後の日。
『1年目2月20日:今日トイレの掃除をしているとき、大きな大きな蜘蛛が出ました。叫んでしまったけど、なんとか追い払いました。私偉い!
2年目2月20日:ご主人様はまだ帰ってきません。使用人が次々と辞める中、最後まで尽くし続け、帰りを待っていた私でさえも捨てたそうです。今日で私もこの館を出ます。でも、ささやかな復讐として、この館にある金目の物と、ご主人様が大切にされていた『あれ』は貰っていきますね。さようなら、ご主人様。いつかあなたに私の心内が届くように、この日記はここに置いていきます。
3年目2月20日: 』
そこには、佐倉遥花というメイドの奇妙な2年間が綴られていた。
しかし、〇年目という書き方なため、具体的に何年前の出来事なのかは分からない。
「おーい、糸くん何してるのー!」
「あ、すみません! 今行きます」
俺は日記帳を机に戻し、佐倉さんの居室を後にした。
「糸くん、見つけたよ。筑紫霊峰の居室だ」
その部屋は、この館の主の居室とは思えないほど狭く、とても散らかっていた。
「凄い数のノート……。それに、中身はとても読めないわ。まるで書きなぐりね」
「その上、内容も難しい……。ここで見て覚えるのは無理そうだね。いただいちゃおう!」
「えっ!?」
「いいでしょ、ここは廃墟なんだし。ゴミダメから拾ったと思えば大丈夫!」
「私はノーコメントね」
愛さんはせっせとリュックにノートを詰めていく。
こうして今日の探検は終了した。
陽が沈みかけている夕方、この館の出口から出て振り向くと、そこには館は無かった。
やはり、入る時は崖の穴から入らないといけないらしい。
夜のバスに揺られながら、チューベローズへと帰った。
この帰り道、俺はなぜか佐倉遥花というメイドのことが頭から離れないでいた。
別にメイドフェチじゃないのに。
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